ラウリン酸Naの基本情報・配合目的・安全性

ラウリン酸Na

化粧品表示名 ラウリン酸Na
INCI名 Sodium Laurate
配合目的 洗浄 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、ラウリン酸のナトリウム塩であり、セッケン(Soap)(∗1)に分類される陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です[1][2]

∗1 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、ここではわかりやすさを考慮して界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。

ラウリン酸Na

1.2. 歴史

石鹸の歴史は非常に古く、紀元前3000年頃にメソポタミア地方でシュメール文明を築いたシュメール人が残した文書の中に石鹸らしきものについて書かれた記述があることから、5,000年以上前から使われていたと考えられますが、記録としては紀元1世紀に古代ローマの博物学者であるプリニウスの「博物誌」の中で、

 石鹸は、堅脂と灰で、最上級品はブナの灰とヤギの堅脂でつくられ、濃いのと液になっているのと二種類ある 

プリニウス「プリニウス博物誌〈植物薬剤篇〉」,八坂書房,1994年,p1195より引用

と書かれているものが最古のものであるとされています[3a]

その後、8世紀頃には地中海沿岸のスペイン、イタリアでは脂肪としてオリーブ油が、アルカリとしてカリウムが使用されるようになり、12世紀以降は地中海沿岸諸国で手工業による石けん素地が、アルカリとして木の灰汁の代わりに海藻を焼いたもの(この灰汁の主成分はナトリウムであったといわれています)が使用されるといった経緯を経て、19世紀に工業的に大規模生産されるとともに石鹸が普及していったという歴史があります[3b]

日本においては、1543年にポルトガル船が種子島に漂着したときに鉄砲や金平糖とともにシャボンが持ち込まれたのが最初であったとされており、最も古い記録としては1596年(慶長元年)に博多の貿易商の神谷宗旦から伏見地震の見舞いに贈られたシャボンに対する石田三成の礼状が残されています[3c]

しかし、シャボンはそれから300年以上にわたって民間に普及せず(∗2)、1873年に横浜・磯子の堤磯右衛門によってはじめて製造販売された石鹸である「堤磯右ヱ門石鹸」が発売され、その後1887年には長瀬商店(現 花王)が、1891年には小林商店(現 ライオン)が創業したことなどにより、「石鹸」という単語に置き換わっていくとともに民間に広がっていったようです[3d]

∗2 原因のひとつとして石鹸がキリシタンのものとした忌避されていたと言われています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • ナトリウムセッケン合成による洗浄作用

主にこれらの目的で、洗顔石鹸、ボディ石鹸、ボディソープ製品、シャンプー製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. ナトリウムセッケン合成による洗浄作用

ナトリウムセッケン合成による洗浄作用に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケンの合成、洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。

セッケンは、広義においては高級脂肪酸の塩の総称、狭義においては洗浄を主目的とする水溶性のアルカリ金属塩を指し、身体の洗浄に最も古くから使用されていることが知られています[4a][5]

セッケンを合成する代表的な工程としては、

セッケン製造の反応式

この2種類があり[4b][6]、またケン化や中和に用いるアルカリは水酸化Na水酸化Kでは、

  • 水酸化Naを用いてケン化または中和する場合:ナトリウムセッケン(固形石鹸)
  • 水酸化Kを用いてケン化または中和する場合:カリウムセッケン(液体石鹸)

このように利用目的が異なり、ラウリン酸Naは高級脂肪酸であるラウリン酸 + 水酸化Naの中和法によって得られることから、一般に固形石鹸として用いられます[7a]

次に洗浄作用についてですが、まず「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[8a]

洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

洗浄のメカニズム

まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗3)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[8b][9]

∗3 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。

ラウリン酸のナトリウム塩の洗浄力および起泡力については、以下の表のように、

脂肪酸名 洗浄力
(温水)
洗浄力
(冷水)
起泡性 泡持続性
飽和脂肪酸 ラウリン酸
ミリスチン酸
パルミチン酸
ステアリン酸
不飽和脂肪酸 オレイン酸

このような傾向が明らかにされており[7b]、ラウリン酸は冷水および温水の両方で安定した洗浄力を有するとともに優れた起泡力が知られています。

また、1955年に日本油脂によって報告された飽和脂肪酸のナトリウムセッケンの起泡力検証によると、

– 泡立ち性試験 –

各飽和脂肪酸のナトリウムセッケンを水道水溶液(温度35℃)で0.25%濃度に希釈し、それぞれの起泡力をRoss&Miles法に基づいて測定したところ、以下の表のように、

飽和脂肪酸 炭素数 起泡力:泡の高さ(mm)
直後 5分後
ラウリン酸 C₁₂ 217 208
ミリスチン酸 C₁₄ 350 350
パルミチン酸 C₁₆ 37 32
ステアリン酸 C₁₈ 25 21

起泡力に最適な脂肪酸はC₁₂-C₁₄に存在し、他の炭素数ではかなり起泡力が低下していることがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[10]、ラウリン酸のナトリウムセッケンに起泡力が認められています。

ただし、実際の洗浄系製品には複数の脂肪酸ナトリウム塩が配合されており、また洗浄力や起泡力を増強する成分なども配合されていることが考えられ、総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します[11]

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ラウリン酸Naの配合製品数と配合量の比較調査結果(2016-2019年)

4. 安全性評価

ラウリン酸Naの現時点での安全性は、

  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

セッケンの皮膚刺激性に関しては、

ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)

この順に皮膚刺激が強いことが知られており、またナトリウムセッケンよりカリウムセッケンのほうが刺激性が強く[12]、セッケンの中ではラウリン酸カリウムセッケンが最もスティンギング(∗5)が強いと報告されています[13]

∗5 スティンギングとは、チクチクと刺すような主観的な刺激感のことです。

ただし、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています[14]

4.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4.3. 皮膚吸着性

皮膚吸着性に関しては、まず前提知識としてラウリン酸セッケンが吸着した場合の皮膚への影響について解説します。

ラウリン酸ナトリウムセッケンは、洗浄に用いる水にカルシウムイオンが存在する場合(∗6)、セッケンをすすぐ際に皮膚に吸着したラウリン酸イオンがカルシウムイオンと不溶性の塩を形成し、これが皮膚に吸着滞在することで皮膚に吸着残留することが明らかにされており[15a]、この吸着残留と洗顔後の皮膚つっぱり感や皮膚刺激、肌荒れに関連があることが示唆されています[16][17]

∗6 通常、水の中に溶けている炭酸カルシウムの含有量が60mg/L以下の水を「軟水」、60-120mg/Lの水を「中硬水」、120-180mg/Lの水を「硬水」、180mg/L以上の水を「超硬水」と定めており[18]、日本の水道水は軟水であることからカルシウムイオンの含有量は比較的少ないと考えられます。

この吸着残留量は、すすぎに用いる水のカルシウムイオン濃度に依存して増減することが確認されており、カルシウムイオンをほとんど含まない場合は、吸着残留もほとんどありません[15b]

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ラウリン酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1030.
  2. 藤本 武彦(2007)「アニオン界面活性剤」界面活性剤入門,75-111.
  3. abcd藤井 徹也(1995)「石けん小史」洗う -その文化と石けん・洗剤,19-31.
  4. ab井出 袈裟市, 他(1990)「セッケン」新版 脂肪酸化学 第2版,106-129.
  5. 日光ケミカルズ株式会社(2006)「脂肪酸塩」新化粧品原料ハンドブックⅡ,174-176.
  6. 藤井 徹也(1995)「石けんの科学」洗う -その文化と石けん・洗剤,31-39.
  7. ab田村 健夫・廣田 博(2001)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
  8. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
  9. 鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
  10. 難波 義郎, 他(1955)「洗浄力に寄与する要因の研究(第1報)」油脂化学協会誌(4)(5),238-244. DOI:10.5650/jos1952.4.238.
  11. 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774. DOI:10.5650/jos1956.42.768.
  12. Leroy D. Edwards(1939)「The pharmacology of SOAPS」Journal of the American Pharmaceutical Association(28)(4),209-215. DOI:10.1002/jps.3080280404.
  13. 奥村 秀信(1998)「皮膚刺激感(痛み)について」日皮協ジャーナル(39),78-82.
  14. 岩本 行信(1972)「セッケン」油化学(21)(10),699-704. DOI:10.5650/jos1956.21.699.
  15. ab藤原 延規, 他(1992)「脂肪酸石鹸の皮膚吸着残留」日本化粧品技術者会誌(26)(2),107-112. DOI:10.5107/sccj.26.107.
  16. Mitchell S. Wortzman, et al(1986)「Soap and detergent bar rinsability」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(37),89-97.
  17. G. Imokawa & Y. Mishima(1979)「Cumulative effect of surfactants on cutaneous horny layers: Adsorption onto human keratin layers in vivo」Contact Dermatitis(5)(6),357-366. DOI:10.1111/j.1600-0536.1979.tb04905.x.
  18. 食品安全委員会(2017)「カルシウム・マグネシウム等(硬度)」清涼飲料水評価書.

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