オレフィン(C14-16)スルホン酸Naの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名 オレフィン(C14-16)スルホン酸Na
医薬部外品表示名 テトラデセンスルホン酸ナトリウム、テトラデセンスルホン酸ナトリウム液
部外品表示別名 α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
部外品表示簡略名 テトラデセンスルホン酸Na、テトラデセンスルホン酸Na液
INCI名 Sodium C14-16 Olefin Sulfonate
配合目的 洗浄 など

1. 基本情報

1.1. 定義

炭素数14-16(C14-16のα-オレフィン(∗1)をスルホン化したアルキルスルホン酸のナトリウム塩の混合物であり、α-オレフィンスルホン酸塩(Alpha Olefin Sulfonate:AOS)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]

∗1 オレフィン(Olefin)は、アルケン(alkene)とも呼ばれ、炭素間(C-C間)に二重結合を1つもつ不飽和炭化水素化合物の一種であり、二重結合をもつ場合は化学反応性(不安定性)が高くなりますが、α-オレフィンは二重結合が鎖の最初の炭素上にあるため、特に化学反応性が高いと報告されています[2a]

1.2. 物性・性状

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naの物性・性状は、

状態 白-淡黄色の結晶性粉末または無色-淡黄色の液体
cmc(mg/L) 301
クラフト点(℃)

このように報告されています[3a][4]

cmcおよびクラフト点についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。

界面活性剤は親水基と疎水基(親油基)をもち、界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込むものの、疎水基部分は安定しようとする性質があるため、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

陰イオン界面活性剤の構造図

界面活性剤の濃度変化と界面活性剤の挙動の関係

界面活性剤のごく薄い水溶液では、1個ずつ単分散状態で溶解し、空気と水との界面にはあまり界面活性剤が集まっていないので、空気と水とはほとんど直接に接触していることになり、表面張力はあまり下がらず、水に近い状態ですが、界面活性剤の濃度が増していくにつれて水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に集まり、空気と水とが直接接触する面積を減少させ、それに比例して表面張力も下がっていきます[5a]

表面があるうちは表面に集まりますが、表面には限りがあるので、さらに界面活性剤の濃度が増していくと疎水基の逃げ場がなくなり、水との反発をなるべく減らすために、界面活性剤はお互いの疎水基を互いに向け合いはじめ、親水基を水側に向けて球状のミセル(micelle:会合体)を形成し始めます[5b][6a]

この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することではじめて界面活性剤が有する様々な機能を発揮します(∗2)[6b]

∗2 cmc以上に界面活性剤の濃度を高めていくと、ミセルの数が増加し、次に棒状や板状のミセルとなり、それ以上の高濃度では液晶が形成されます。

次に、クラフト点とは個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)のことをいいます[7]

界面活性剤は、クラフト温度以下の条件では水にほとんど溶けず、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成しませんが、クラフト点以上の温度以上で水への溶解性が急激に高くなり、その上で臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度によりミセルを形成することでその機能を発揮します[8][9]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 洗浄作用

主にこれらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドソープ製品などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 洗浄作用

洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。

「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[10a]

洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

洗浄のメカニズム

まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗3)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[10b][11]

∗3 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。

アニオン界面活性剤においてα-オレフィンスルホン酸塩は、良好な耐硬水性と優れた起泡力および洗浄力を特徴とする界面活性剤であることが知られており[12]、オレフィン(C14-16)スルホン酸Naはラウレス硫酸Naと比較して皮膚や眼に対する刺激性が低く、起泡性、泡切れ性、泡粘性に優れることから[3b]、主にシャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、ハンドソープ製品などに汎用されています。

2021年にライオン・スペシャリティ・ケミカルズによって報告されたオレフィン(C14-16)スルホン酸Naの起泡性検証によると、

– 泡立ち性試験 –

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naとラウレス硫酸Na(酸化エチレン付加モル数2, 3)それぞれ濃度0.5%水溶液の泡高さおよび泡安定性をRoss&Miles法に基づいて40℃で測定したところ、以下のグラフのように、

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naの泡高さおよび泡安定性

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naは、ラウレス硫酸Naと同等の泡立ちを示したが、4分以後では泡高さが低下し、泡切れが早いことがわかった。

このような検証結果が明らかにされており[3c]、オレフィン(C14-16)スルホン酸Naの泡の性質はラウレス硫酸Naと同等の泡高さを示す一方で泡切れが早いことが明らかにされています。

3. 混合原料としての配合目的

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naは混合原料が開発されており、オレフィン(C14-16)スルホン酸Naと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 ColaDet EQ-154
構成成分 スルホコハク酸ラウリル2Naオレフィン(C14-16)スルホン酸Naラウラミドプロピルベタイン
特徴 洗顔パウダーなど粉状の特性を活かした処方に適した粉末タイプの混合活性剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1996年および2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗4)

∗4 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naの配合製品数と配合量の比較調査結果(1996年および2013年)

5. 安全性評価

オレフィン(C14-16)スルホン酸Naの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 30年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性(リーブオン製品の場合):濃度2%以下においてほとんどなし(ただし詳細は解説を参照のこと)
  • 皮膚刺激性(リンスオフ製品の場合):安全に使用できる
  • 眼刺激性:濃度1%以下においてほとんどなし、濃度5%以上で軽度-重度(ただし詳細は解説を参照のこと)
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 皮膚吸収性:非常に低い

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、

  • [動物試験] 動物を用いて20種類のAOSサンプル(炭素鎖の長さが異なり、場合によっては類似したもの)の一次刺激性をDraize法に基づいて評価したところ、結果は原料メーカーまたは研究ごとに異なることがわかった。たとえば10%オレフィン(C14-16)スルホン酸Naはある試験ではPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-8.0のスケール評価において6.2だったが、別のメーカーの原料では同じ濃度でわずか1.0であったことから、AOSの純度、生産方法、試験過程によって刺激性が異なる可能性があると報告された(Arthur D. Little Inc,1993)
  • [動物試験] ウサギの皮膚に0.5%または1.0%AOSを14日間の間に10回適用したところ、ウサギの皮膚に刺激性または皮膚疲労は生じなかった(Arthur D. Little Inc,1993)
  • [動物試験] ウサギの皮膚に1%オレフィン(C14-16)スルホン酸Na水溶液を28日間適用したところ、皮膚刺激性をはじめとする皮膚への影響はみられなかった(Arthur D. Little Inc,1993)
  • [ヒト試験] 被検者(人数不明)に1%および2%AOSを対象に24時間パッチテストを実施したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激はみられなかった(Arthur D. Little Inc,1993)
  • [ヒト試験] 88名の被検者に8%AOS水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者においても接触性感作反応は示されなかった。ただし、激しい刺激のためにチャレンジパッチは濃度4%で行われた(Ter Haar,1983)

このように、試験データをみるかぎり濃度2%以下においてほとんどなしと報告されているため、一般に濃度2%以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられますが、動物試験において報告されているように同じ濃度でもメーカーが異なると純度、生産方法、試験過程の影響で刺激性が異なるため、一概に結論付けられないことに留意する必要があります。

ただし、オレフィン(C14-16)スルホン酸Naは、実際的に主に洗い流し製品に使用されており、洗い流し製品に使用する場合においては安全に使用できると結論付けられています[2c]

皮膚感作性については、AOSに含まれるγ-スルトン不純物に皮膚感作性が報告されていますが、一般に製品に使用される場合は皮膚感作が起こらない低濃度にγ-スルトン不純物が制限されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2d]によると、

  • [動物試験] ウサギの眼に対して1%AOSは眼刺激剤ではなく、また5%AOSは軽度-重度の眼刺激があり、角膜壊死を引き起こした(Arthur D. Little Inc,1993)
  • [動物試験] 5%C14-19AOSは軽度の眼刺激剤である(Imori et al,1972)
  • [動物試験] ウサギの眼に対して濃度10-40%のAOSは中程度-重度の眼刺激があり、これは一般的な合意を得ている(Soap and Detergent Association,-)

このように、試験データをみるかぎり濃度1%以下においてほとんどなし、濃度5%以上において軽度以上の眼刺激が報告されているため、一般に濃度1%以下において眼刺激性はほとんどないと考えられますが、濃度5%以上においては濃度依存的に眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、オレフィン(C14-16)スルホン酸Naは、実際的に主に洗い流し製品に使用されており、洗い流し製品に使用する場合においては安全に使用できると結論付けられています[2e]

5.3. 皮膚吸収性および排泄

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2f]によると、

  • [動物試験] 健常な皮膚を有した3匹のラットの背部皮膚に0.2%AOS溶液0.5mLを24時間適用し、24時間後に皮膚吸収性を評価したところ、尿中に0.33%、胆汁中に0.08%および主要臓器に0.21%が検出され、適用された量の0.6%が皮膚に吸収されたと考えられた。また皮膚吸収は適用1.5時間でほとんど完了しており、尿と胆汁への排泄は適用後約3時間で最高濃度であった(Minegishi et al,1977)
  • [動物試験] 損傷した皮膚を有した3匹のラットの背部皮膚に0.2%AOS溶液0.5mLを30時間適用し、30時間後に皮膚吸収性を評価したところ、尿中に36.26%、胆汁中に1.83%および主要臓器に12.28%が検出され、適用された量の50%が皮膚に吸収されたと考えられた(Minegishi et al,1977)

このように、試験データをみるかぎり健常な皮膚において皮膚吸収は1%未満と報告されているため、一般に皮膚吸収性はほとんどないと考えられ、また皮膚吸収された用量も適切に排泄されると考えられます。

皮膚炎を有した皮膚においては、健常な皮膚より皮膚吸収性が顕著に高くなることが報告されていますが、洗浄製品は短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品であることから、皮膚炎を有した皮膚においても皮膚吸収性の影響はほとんどないと考えられ、また皮膚吸収された用量においては適切に排泄されると考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「オレフィン(C14-16)スルホン酸Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,285.
  2. abcdefF.A. Andersen(1998)「Final Report On the Safety Assessment of Sodium Alpha-Olefin Sulfonates」International Journal of Toxicology(17)(5_suppl),39-65. DOI:10.1177/109158189801700504.
  3. abcライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社(2021)「α-オレフィンスルホン酸塩」製品カタログ.
  4. Stepan Company(2012)「BIO-TERGE AS-40」Product Bulletin.
  5. ab藤本 武彦(2007)「界面活性剤の基本的な性質と作用」界面活性剤入門,14-26.
  6. ab鈴木 敏幸(2003)「臨界ミセル濃度」化粧品事典,846.
  7. 鈴木 敏幸(2003)「クラフト点」化粧品事典,427-428.
  8. 藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水基の種類と性質の関係」界面活性剤入門,147-152.
  9. 野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,30-33.
  10. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
  11. 鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
  12. 橋本 悟(2009)「アニオン界面活性剤」界面と界面活性剤 改訂第2版,42-47.

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