パルミチン酸の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | パルミチン酸 |
---|---|
医薬部外品表示名 | パルミチン酸 |
INCI名 | Palmitic Acid |
配合目的 | 洗浄 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、炭素数と二重結合の数が16:0で構成された飽和脂肪酸(高級脂肪酸)です[1]。
1.2. 物性
パルミチン酸の物性は、
融点(℃) | 沸点(℃) | 溶解性 |
---|---|---|
63-64 | 360、215(15mmHg) | 水に不溶、熱エタノールに可溶、冷エタノールに難溶 |
このように報告されています[2]。
1.3. 分布
パルミチン酸は、自然界においてグリセリド(∗1)として動植物油一般に含まれますが、とくにパーム油、モクロウ、綿実油などに多く存在しています[3][4]。
∗1 「グリセリド(glyceride)」とは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物の総称であり、とりわけグリセリンに3つの脂肪酸が結合した「トリグリセリド(triglyceride)」が多くを占めますが、ほかにもグリセリンに1つの脂肪酸が結合した「モノグリセリド(monoglyceride)」やグリセリンに2つの脂肪酸が結合した「ジグリセリド(diglyceride)」もわずかながら存在します。グリセリンに結合する脂肪酸には多くの種類があり、油脂の種類によって脂肪酸の種類や割合が異なります。
1.4. 化粧品以外の主な用途
パルミチン酸の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
医薬品 | 粘稠目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[5]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- セッケン合成による洗浄作用
- セッケン合成による乳化
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、ボディソープ製品、洗顔石鹸、ボディ石鹸、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. セッケン合成による洗浄作用
2.1.1. ナトリウムセッケン合成による選択洗浄作用
ナトリウムセッケン合成による洗浄作用に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケン合成およびナトリウムセッケンの化粧品表示の種類について解説します。
セッケン(∗2)は、広義においては高級脂肪酸の塩の総称、狭義においては洗浄を主目的とする水溶性のアルカリ金属塩を指し、身体の洗浄に最も古くから使用されていることが知られています[6a][7]。
∗2 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、ここではわかりやすさを考慮して界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。
ナトリウムセッケンを合成する代表的な工程としては、
この2種類があり[6b][8a]、パルミチン酸は高級脂肪酸であることから中和法によるセッケン合成に用いられ、また中和に用いるアルカリを水酸化Naにすることでナトリウムセッケン(固形石鹸)が得られます[9a]。
セッケン製造の反応式の中では、中和法によって合成されるセッケンを「高級脂肪酸Na」と表記していますが、中和法で得られるパルミチン酸のナトリウムセッケンが化粧品成分一覧に表示される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化Na | パルミチン酸、水酸化Na |
パルミチン酸Na | |
石ケン素地 |
これら3つのいずれかの表示方法で表示されるため(∗3)、セッケン合成(洗浄基剤)目的で「パルミチン酸」が化粧品成分一覧に表示されている場合は、水酸化Naが一緒に表示されます。
∗3 ここではわかりやすさを重視してパルミチン酸単独で表示していますが、実際にはセッケンは複数の高級脂肪酸の混合系であるため、複数の高級脂肪酸または高級脂肪酸Naが表示されます。ただし、石ケン素地は複数の高級脂肪酸をまとめて石ケン素地単独で表示されます。
パルミチン酸のナトリウム塩の洗浄力および起泡力については、以下の表のように、
脂肪酸名 | 洗浄力 (温水) |
洗浄力 (冷水) |
起泡性 | 泡持続性 | |
---|---|---|---|---|---|
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | |
パルミチン酸 | ◎ | △ | △ | ◎ | |
ステアリン酸 | ◎ | ☓ | △ | ◎ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | △ | △ |
このような傾向が明らかにされており[10]、パルミチン酸など炭素数の多い脂肪酸は70-80℃の温度条件で洗浄力が最大化しますが、温度が低下するにつれて水に対する溶解度が低下しそれにともない洗浄力が低下するため[11]、実際にすすぎに使用する38℃付近ではラウリン酸やミリスチン酸と比較すると洗浄力が低くなることが知られています。
また、1955年に日本油脂によって報告された飽和脂肪酸のナトリウムセッケンの起泡力検証によると、
– 泡立ち性試験 –
各飽和脂肪酸のナトリウムセッケンを水道水溶液(温度35℃)で0.25%濃度に希釈し、それぞれの起泡力をRoss&Miles法に基づいて測定したところ、以下の表のように、
飽和脂肪酸 | 炭素数 | 起泡力:泡の高さ(mm) | |
---|---|---|---|
直後 | 5分後 | ||
ラウリン酸 | C₁₂ | 217 | 208 |
ミリスチン酸 | C₁₄ | 350 | 350 |
パルミチン酸 | C₁₆ | 37 | 32 |
ステアリン酸 | C₁₈ | 25 | 21 |
起泡力に最適な脂肪酸はC₁₂-C₁₄に存在し、他の炭素数ではかなり起泡力が低下していることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており[12]、パルミチン酸はラウリン酸やミリスチン酸と比較して微細な泡が得られるものの、起泡力はかなり低下することが認められています。
ただし、実際の洗浄系製品には複数のナトリウムセッケンが配合されており、また洗浄力や起泡力を増強する成分なども配合されていることが考えられ、総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します[13a]。
2.1.2. カリウムセッケン合成による選択洗浄作用
カリウムセッケン合成による選択洗浄作用に関しては、まず前提知識としてカリウムセッケン合成およびカリウムセッケンの化粧品表示の種類について解説します。
カリウムセッケンを合成する代表的な工程としては、
この2種類があり[6b][8b]、パルミチン酸は高級脂肪酸であることから中和法によるセッケン合成に用いられ、また中和に用いるアルカリを水酸化Kにすることでカリウムセッケン(液体石鹸)が得られます[9b]。
セッケン製造の反応式の中では、中和法によって合成されるセッケンを「高級脂肪酸K」と記載していますが、中和法で得られるパルミチン酸のカリウムセッケンが化粧品成分一覧に表示される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化K | パルミチン酸、水酸化K |
パルミチン酸K | |
カリ石ケン素地 |
これら3つのいずれかの表示方法で表示されるため、セッケン合成(洗浄基剤)目的で「パルミチン酸」が化粧品成分一覧に表示されている場合は、水酸化Kが一緒に表示されます。
次に、カリウムセッケンの洗浄力および起泡力については、ナトリウムセッケンと比較して溶解性が高く、起泡性に優れていることが知られており[14]、30℃および40℃での各脂肪酸濃度0.5%のカリウム塩(カリウムセッケン)の起泡力および泡持続性は、以下の表のように、
脂肪酸名 | 起泡性 | 泡持続性 | |||
---|---|---|---|---|---|
30℃ | 40℃ | 30℃ | 40℃ | ||
飽和脂肪酸 | ラウリン酸 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ミリスチン酸 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | |
パルミチン酸 | △ | ◎ | ○ | ○ | |
ステアリン酸 | ☓ | ☓ | ☓ | ☓ | |
不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | ◎ | ◎ | ○ | ○ |
このような傾向が明らかにされており[15]、パルミチン酸は40℃付近の温水では起泡力を発現しますが、30℃以下では起泡力をほとんど発揮しないことが知られています。
ただし、実際の洗浄系製品には複数のカリウムセッケンが配合されており、また洗浄力や起泡力を増強する成分なども配合されていることが考えられ、総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します[13b]。
カリウムセッケンは主に洗顔料に使用されますが、洗顔においては酸敗した皮脂や汚れを洗浄することが必要である一方で、皮膚の恒常性を保持するための角層細胞間脂質まで洗い流してしまうことは防止する必要があります。
このような背景から、皮膚のつっぱり感や肌荒れを回避するために、皮膚の恒常性に必要な物質を極力洗い流さない選択洗浄性(∗4)が重要であり、顔におけるカリウムセッケンの選択洗浄性とは、皮膚の向上性を保つために重要な因子である角層細胞由来脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルを残存させ、皮脂由来脂質であるスクワレンを汚れとともに洗浄することを意味します。
∗4 選択洗浄性とは、ある物質はよく洗い流すが、ある物質は洗い流さず残すという洗浄剤の性質のことです。
1989年にポーラ化成工業によって報告された各カリウムセッケンの選択洗浄性検証によると、
– 皮脂溶解性試験 –
選択洗浄性について比較するために、皮脂腺由来スクワレンと角層細胞由来脂質であるコレステロールエステルおよびコレステロールを指標として、スクワレン、コレステロールエステルおよびコレステロールの比率が72:14:14のモデル皮脂を0.5%濃度の各カリウムセッケン洗浄液300mLで30分間洗浄し、水洗いを比較として、30分後の残存した皮脂組成を検討したところ、以下のグラフのように、
水だけで洗顔した場合では、コレステロールエステルの比率が増加し、コレステロールの比率が減少した。
この結果は、指標とした3成分の中では最も親水性の高いコレステロールが洗浄されやすいものと考えられる。
各脂肪酸カリウム塩で洗浄した結果、パルミチンK、ステアリン酸Kおよびラウリン酸Kの順でスクワレンを十分に洗浄しコレステロールエステルとコレステロールを残す選択洗浄性を示した。
選択洗浄性が明らかに認められた脂肪酸セッケンは、ラウリン酸Kを除き、比較的炭素鎖の長い脂肪酸K(C16およびC18)であった。
この結果は、スクワレンのように極性のより低い油剤類に対しては親油基の大きい界面活性剤のほうが親和力が高いために選択洗浄性を示したものと考えられた。
さらに、複数のカリウムセッケンを組み合わせた処方系においても同様の選択洗浄性がみられ、とくにパルミチン酸カリウムセッケンおよびステアリン酸カリウムセッケンを組み合わせたものがスクワレン除去率が高く、
- ラウリン酸K、ミリスチン酸K
- ミリスチン酸K、パルミチン酸K、ステアリン酸K
- パルミチン酸K、ステアリン酸K
これらのいずれの組み合わせにおいてもコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。
このような検証結果が明らかにされており[16]、パルミチン酸Kは優れたスクワレン洗浄力とコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性が認められています。
2.1.3. セッケン合成による洗浄作用の補足
ナトリウムセッケン(固形セッケン)やカリウムセッケン(液体セッケン)のほかに、ナトリウムセッケンにカリウムセッケンを添加することで、水に対する溶けやすさや泡立ちを改良したカリ含有ナトリウムセッケンがあり、パルミチン酸を含むカリ含有セッケンが化粧品成分一覧に表示される場合は、以下のように、
アルカリ剤の種類 | 化粧品成分表示方法 |
---|---|
水酸化Na + 水酸化K | パルミチン酸、水酸化Na、水酸化K |
パルミチン酸Na、パルミチン酸K | |
カリ含有石ケン素地 |
これら3つのいずれかの表示方法で表示されるため、パルミチン酸と水酸化Naおよび水酸化Kが一緒に表示されている場合は、カリ含有ナトリウムセッケンとしての配合である可能性が考えられます。
3. 混合原料としての配合目的
パルミチン酸は混合原料が開発されており、パルミチン酸と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | MPS脂肪酸 |
---|---|
構成成分 | ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸 |
特徴 | セッケン基剤、油性基剤、乳化剤 |
原料名 | PROLIPID 141 |
---|---|
構成成分 | ステアリン酸グリセリル、ベヘニルアルコール、パルミチン酸、ステアリン酸、レシチン、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セタノール |
特徴 | ラメラ液晶構造を構築することができるО/W型乳化剤 |
原料名 | ANPHIMETIC S MB |
---|---|
構成成分 | レシチン、(C12-16)アルコール、パルミチン酸 |
特徴 | ラメラ構造を構築することができるО/W型乳化剤 |
原料名 | ANPHIMETIC H MB |
---|---|
構成成分 | 水添レシチン、(C12-16)アルコール、パルミチン酸 |
特徴 | ラメラ構造を構築することができるО/W型乳化剤 |
原料名 | SEPIFEEL ONE |
---|---|
構成成分 | パルミトイルグルタミン酸Mg、パルミトイルサルコシンNa、パルミトイルプロリン、パルミチン酸 |
特徴 | 3種のアシル化アミノ酸を含み、優れた無機紛体分散性をもつ感触向上剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2006年および2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)。
∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[17a]によると、
- [ヒト試験] 101名の被検者に2.2%パルミチン酸を含むシェービングクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を開放パッチおよび閉塞パッチにて実施したところ、3名の被検者の閉塞パッチ部位に紅斑がみられたが、他の被検者においては皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
- [ヒト試験] 52名の被検者に2.2%パルミチン酸を含むシェービングクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を開放パッチおよび閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
このように記載されており、試験データをみるかぎり濃度2.2%以下において皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に濃度2.2%以下において皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
試験データは濃度2.2%以下しかみあたらない一方で、パルミチン酸は濃度21%までの配合製品の存在が確認されていますが、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともパルミチン酸の安全性を裏付けていると考えられます。
セッケンの皮膚刺激性に関しては、
ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)
この順に皮膚刺激が強いことが知られており、またナトリウムセッケンよりカリウムセッケンのほうが刺激性が強く[18]、セッケンの中ではラウリン酸カリウムセッケンが最もスティンギング(∗6)が強いと報告されています[19]。
∗6 スティンギングとは、チクチクと刺すような主観的な刺激感のことです。
ただし、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています[20]。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[17b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に市販品のパルミチン酸を適用し、適用後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(International Bio-Research-U.S,1974)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に19.4%パルミチン酸を含む製剤を点眼し、点眼後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、点眼1日後で眼刺激スコアは1、2日後で6、3日後で1、4日後で0であった。眼刺激の種類としては角膜、虹彩、結膜に軽度の刺激がみられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1985)
- [動物試験] 6匹のウサギの眼に4.4%パルミチン酸を含む製剤を点眼し、点眼後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 6匹のウサギに2.2%パルミチン酸を含む製剤を点眼し、点眼後にDraize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、洗浄製品に用いられる(眼をすすぐことが想定される製品)場合は、眼刺激の度合いは小さくなる傾向があります。
5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[17c]によると、
- [ヒト試験] 101名の被検者に2.2%パルミチン酸を含むシェービングクリーム製剤を対象に光刺激性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を開放パッチおよび閉塞パッチにて実施したところ、1名の被検者の閉塞パッチ部位に光刺激反応がみられたが、他の被検者においては光刺激反応はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
- [ヒト試験] 52名の被検者に2.2%パルミチン酸を含むシェービングクリーム製剤を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を開放パッチおよび閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も開放パッチおよび閉塞パッチともに光感作反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
このように記載されており、試験データをみるかぎり1名の被検者を除いて光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5.4. 皮膚吸着性
皮膚吸着性に関しては、まず前提知識として脂肪酸セッケンが吸着した場合の皮膚への影響について解説します。
セッケンを含む洗顔料を使用した洗顔においては、カリウムセッケンが皮膚に吸着残留する量が増えるほど洗顔後につっぱり感やかさつき感を感じる傾向にあり、洗顔後のつっぱり感やかさつき感を防ぐためには、皮膚吸着の少ないカリウムセッケンを使用することが重要であると考えられます[21]。
1999年にポーラ化成工業によって報告されたカリウムセッケンの皮膚吸着性検証によると、
ラウリン酸およびミリスチン酸で洗浄した場合は、使用した脂肪酸と同じ脂肪酸量が洗浄時間とともに増加したことから、明らかに皮膚吸着を示していると考えられた。
一方で、パルミチン酸およびステアリン酸は残存量が非常に少なく、洗浄時間とともに減少しており、皮膚吸着していないものと考えられた。
このような検証結果が明らかにされており[22]、パルミチン酸のカリウムセッケンは皮膚吸着性がほとんどないことが認められています。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「パルミチン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,773.
- ⌃大木 道則, 他(1989)「パルミチン酸」化学大辞典,1805-1806.
- ⌃平野 二郎(1990)「脂肪酸の分類と発生源」新版 脂肪酸化学 第2版,41-49.
- ⌃c有機合成化学協会(1985)「パルミチン酸」有機化合物辞典,704.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「パルミチン酸」医薬品添加物事典2021,475-476.
- ⌃ab井出 袈裟市, 他(1990)「セッケン」新版 脂肪酸化学 第2版,106-129.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「脂肪酸塩」新化粧品原料ハンドブックⅡ,174-176.
- ⌃ab藤井 徹也(1995)「石けんの科学」洗う -その文化と石けん・洗剤,31-39.
- ⌃ab小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301. DOI:10.20665/kagakukyouiku.27.5_297.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
- ⌃中垣 正幸(1965)「界面化学 (応用篇). Ⅳ.」油化学(14)(2),72-78. DOI:10.5650/jos1956.14.72.
- ⌃難波 義郎, 他(1955)「洗浄力に寄与する要因の研究(第1報)」油脂化学協会誌(4)(5),238-244. DOI:10.5650/jos1952.4.238.
- ⌃ab宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774. DOI:10.5650/jos1956.42.768.
- ⌃Luis Mauri, 他(1958)「起ホウ力の評価」油化学(27)(5),104-106. DOI:10.5650/jos1956.7.104.
- ⌃大矢 勝・皆川 基(1989)「衣類の泡沫洗浄に関する研究」繊維製品消費科学(30)(2),87-93. DOI:10.11419/senshoshi1960.30.87.
- ⌃橋本 文章, 他(1989)「界面活性剤の皮膚への吸着性と洗顔料による選択洗浄性」日本化粧品技術者会誌(23)(2),126-133. DOI:10.5107/sccj.23.126.
- ⌃abcR.L. Elder(1987)「Final Report on the Safety Assessment of Oleic Acid, Laurie Acid, Palmitic Acid, Myristic Acid, and Stearic Acid」Journal of the American College of Toxicology(6)(3),321-401. DOI:10.3109/10915818709098563.
- ⌃Leroy D. Edwards(1939)「The pharmacology of SOAPS」Journal of the American Pharmaceutical Association(28)(4),209-215. DOI:10.1002/jps.3080280404.
- ⌃奥村 秀信(1998)「皮膚刺激感(痛み)について」日皮協ジャーナル(39),78-82.
- ⌃岩本 行信(1972)「セッケン」油化学(21)(10),699-704. DOI:10.5650/jos1956.21.699.
- ⌃藤原 延規, 他(1992)「脂肪酸石鹸の皮膚吸着残留」日本化粧品技術者会誌(26)(2),107-112. DOI:10.5107/sccj.26.107.
- ⌃酒井 裕二(1999)「理想的な洗顏料の開発」日本化粧品技術者会誌(33)(2),109-118. DOI:10.5107/sccj.33.2_109.