ラウロイルシルクアミノ酸Kの基本情報・配合目的・安全性

化粧品表示名 ラウロイルシルクアミノ酸K
INCI名 Potassium Lauroyl Silk Amino Acids
配合目的 洗浄ヘアコンディショニング

1. 基本情報

1.1. 定義

ラウリン酸とシルクアミノ酸(∗1)との縮合物のカリウム塩であり、ペプチド系界面活性剤のアシルペプチド塩に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]

∗1 シルクアミノ酸とは、シルクの完全加水分解によって得られるアミノ酸混合物であり、そのアミノ酸組成はグリシンが約40%、アラニンが約30%、セリン約10%を占めます。

1.2. 性状

ラウロイルシルクアミノ酸Kの性状は、

状態 無色-淡褐色の液体

このように報告されています[2a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 洗浄作用
  • 滑り性向上によるヘアコンディショニング作用

主にこれらの目的で、シャンプー製品、洗顔料、ボディソープ製品に使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 洗浄作用

洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。

「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[3a]

洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

洗浄のメカニズム

まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗2)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[3b][4]

∗2 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。

ラウロイルシルクアミノ酸Kは、皮膚に対して低刺激であり、中性からアルカリ領域で優れた起泡性を有し、各種界面活性剤と併用することにより他の界面活性剤の起泡性を向上させることから[2b]、主にシャンプー製品、洗顔料、ボディソープ製品に使用されています。

2006年に川研ファインケミカルによって報告されたラウロイルシルクアミノ酸Kの起泡性検証によると、

– 泡立ち性試験 –

ラウロイル加水分解シルクNa、ラウロイルシルクアミノ酸KおよびココイルグリシンKの起泡力を評価するために、それぞれを0.25%水溶液に調整し、40℃における各pHの5分後の泡高さをRoss&Miles法に基づいて測定したところ、以下の表のように、

ラウロイル加水分解シルクNaの起泡性

ラウロイルシルクアミノ酸Kは、pH7-9(中性からアルカリ領域)において優れた起泡性を有することが確認できた。

このような検証結果が明らかにされており[5]、ラウロイルシルクアミノ酸Kは中性からアルカリ領域において優れた泡立ちが認められています。

2.2. 滑り性向上によるヘアコンディショニング作用

滑り性向上によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識として毛髪の構造と毛髪ダメージとその原因について解説します。

毛髪の構造については、以下の毛髪構造図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

毛髪の構造

キューティクル(毛小皮)とよばれる5-10層で重なり合った平らかつうろこ状の構造からなる厚い保護外膜が表面を覆い、キューティクル内部は紡錘状細胞から成り繊維体質の大部分を占めるコルテックス(毛皮質)およびメデュラ(毛髄質)とよばれる多孔質部分で構成されています[6a]

また、細胞膜複合体(CMC:Cell Membrane Complex)がこの3つの構造を接着・結合しており、毛髪内部の水分保持や成分の浸透・拡散の主要通路としての役割を担っています[6b]

これら毛髪構造の中でキューティクルは、摩擦、引っ張り、曲げ、紫外線への曝露などの影響による物理的かつ化学的劣化に耐性をもち、その配列が見た目の美しさや感触特性となります[7a]

一方で、キューティクルはシャンプーや毎日の手入れなどの物理的要因、あるいはヘアアイロン、染毛・脱色、パーマなど化学的要因によるダメージに対して優れた耐性を有しているものの、以下の図をみてもらうとわかるように、

毛髪状態の違い

これらのダメージが重なり合い繰り返されるうちに劣化していき、最終的にキューティクルのめくれ上がりや毛髪繊維の弱化につながることが知られています[7b][8]

このような背景から、損傷したキューティクルを平らに寝かせてなめらかにすることやツヤを向上させることは、毛髪の外観や感触の改善において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2004年に川研ファインケミカルによって報告されたラウロイルシルクアミノ酸Kの毛髪の滑り性に対する影響検証によると、

– 毛髪滑り性評価試験 –

ラウロイルシルクアミノ酸Kの毛髪における滑り性を検証するために、ラウレス硫酸Na水溶液で洗浄した毛髪と、その後に10%ラウロイルシルクアミノ酸K水溶液に10分間浸漬し、水道水ですすいた後に12時間以上24℃、50%湿度で乾燥させた毛髪の動摩擦係数をそれぞれ摩擦感テスターで計測したところ、以下のグラフのように、

ラウロイルシルクアミノ酸Kの動摩擦係数

ラウロイルシルクアミノ酸Kは、乾燥後の毛髪の滑り性の向上が示された。

このような試験結果が明らかにされており[2c]、ラウロイルシルクアミノ酸Kに滑り性向上によるヘアコンディショニング作用が認められています。

3. 安全性評価

ラウロイルシルクアミノ酸Kの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性(つけっぱなしにする製品):濃度2%においてほとんどなし-軽度、濃度1%においてほとんどなし
  • 皮膚刺激性(洗い流しにする製品):安全に使用可能(データなし)
  • 眼刺激性(洗い流さない場合):濃度5%においてほとんどなし-中程度
  • 眼刺激性(洗い流す場合):濃度5%においてほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下の中で非刺激性になるよう配合される場合において一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

川研ファインケミカルの安全性データ[2d]によると、

  • [動物試験] モルモットの皮膚に5,2および1%ラウロイルシルクアミノ酸K水溶液を適用し、適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験製剤は濃度5%で中程度の、濃度2%で軽度の皮膚刺激剤に分類され、濃度1%では非刺激剤であった
  • [動物試験] モルモットの皮膚にラウロイルシルクアミノ酸Kを対象に皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった
  • [ヒト試験] 被検者(人数不明)にラウロイルシルクアミノ酸Kを対象に皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作反応はなく、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった

このように、試験データをみるかぎり濃度1%において非刺激、濃度2%において軽度の皮膚刺激、濃度5%において中程度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は濃度5%以下において非刺激-中程度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、ラウロイルシルクアミノ酸Kは主に洗い流しにする製品に使用されており、洗い流しにする製品においては実際に濃度がかなり薄くなること、濃度1%において皮膚刺激がほとんどないと報告されていること、現在の使用法および化粧品配合濃度において安全であると結論付けられていることから[9]、洗い流す製品においては安全に使用できると考えられます。

また、皮膚感作性については、試験データをみるかぎり皮膚感作なしと報告されており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないことから、一般にほとんどないと考えられます。

3.2. 眼刺激性

川研ファインケミカルの安全性データ[2e]によると、

  • [動物試験] ウサギ(数不明)の片眼に5%ラウロイルシルクアミノ酸K水溶液を点眼し、一部n眼はすすぎ、残りは眼をすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験製剤は非洗眼群において中程度の眼刺激剤であり、洗眼群において軽度の眼刺激剤であった

このように、試験データをみるかぎり濃度5%において非洗眼で非刺激-中程度の眼刺激が、洗眼で非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非洗眼で非刺激-中程度の眼刺激を引き起こす可能性があり、洗眼で非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「ラウロイルシルクアミノ酸K」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1058.
  2. abcde川研ファインケミカル株式会社(2004)「カワシルクS」Technical Data Sheet.
  3. ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
  4. 鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
  5. 川研ファインケミカル株式会社(2006)「カワシルク」Technical Data Sheet.
  6. abクラーレンス・R・ロビンス(2006)「毛形態学的構造および高次構造」毛髪の科学,1-68.
  7. abデール・H・ジョンソン(2011)「毛髪のコンディショニング」ヘアケアサイエンス入門,77-122.
  8. クラーレンス・R・ロビンス(2006)「シャンプー、髪の手入れ、ウェザリング(風化)による毛髪ダメージおよび繊維破断」毛髪の科学,293-328.
  9. L.C. Becker(2016)「Safety Assessment of Alkyl Taurate Amides and Taurate Salts as Used in Cosmetics(∗3)」, 2023年2月22日アクセス.
    ∗3 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。

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