オレイン酸の基本情報・配合目的・安全性

オレイン酸

化粧品表示名 オレイン酸
医薬部外品表示名 オレイン酸
INCI名 Oleic Acid
配合目的 洗浄エモリエント安定化(未分類) など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される、炭素数と二重結合の数が18:1で構成された高級脂肪酸(直鎖不飽和脂肪酸)です[1]

オレイン酸

1.2. 物性

オレイン酸の物性は、

融点(℃) 沸点(℃) 溶解性
10-16 215(5mmHg) 水に不溶、エタノールやエーテルに易溶

このように報告されています[2][3a]

1.3. 分布

オレイン酸は、自然界においてトリグリセリド(∗1)として動植物油一般に含まれますが、とくに牛脂、オリーブ果実油コメヌカ油ツバキ種子油、トール油などに大量に存在しています[3b][4]

∗1 「グリセリド(glyceride)」とは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物の総称であり、とりわけグリセリンに3つの脂肪酸が結合した「トリグリセリド(triglyceride)」が多くを占めますが、ほかにもグリセリンに1つの脂肪酸が結合した「モノグリセリド(monoglyceride)」やグリセリンに2つの脂肪酸が結合した「ジグリセリド(diglyceride)」もわずかながら存在します。グリセリンに結合する脂肪酸には多くの種類があり、油脂の種類によって脂肪酸の種類や割合が異なります。

1.4. 化粧品以外の主な用途

オレイン酸の化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
医薬品 基剤、分散、溶剤、懸濁・懸濁化目的の医薬品添加剤として経口剤、静脈内注射、外用剤、吸入剤などに用いられています[5]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • セッケン合成による洗浄作用
  • エモリエント効果
  • 結晶化防止

主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、洗顔料、ボディソープ製品、洗顔石鹸、スキンケア製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品など様々な製品に使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. セッケン合成による洗浄作用

2.1.1. ナトリウムセッケン合成による選択洗浄作用

ナトリウムセッケン合成による洗浄作用に関しては、まず前提知識としてナトリウムセッケン合成およびナトリウムセッケンの化粧品表示の種類について解説します。

セッケン(∗2)は、広義においては高級脂肪酸の塩の総称、狭義においては洗浄を主目的とする水溶性のアルカリ金属塩を指し、身体の洗浄に最も古くから使用されていることが知られています[6a][7]

∗2 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、ここではわかりやすさを考慮して界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。

ナトリウムセッケンを合成する代表的な工程としては、

セッケン製造の反応式

この2種類があり[6b][8a]、オレイン酸は高級脂肪酸であることから中和法によるセッケン合成に用いられ、また中和に用いるアルカリを水酸化Naにすることでナトリウムセッケン(固形石鹸)が得られます[9a]

セッケン製造の反応式の中では、中和法によって合成されるセッケンを「高級脂肪酸Na」と記載していますが、中和法で得られるオレイン酸のナトリウムセッケンが化粧品成分一覧に表示される場合は、以下のように、

アルカリ剤の種類 化粧品成分表示方法
水酸化Na オレイン酸、水酸化Na
オレイン酸Na
石ケン素地

これら3つのいずれかの表示方法で表示されるため(∗3)、セッケン合成(洗浄基剤)目的で「オレイン酸」が化粧品成分一覧に表示されている場合は、水酸化Naが一緒に表示されます。

∗3 ここではわかりやすさを重視してオレイン酸単独で表示していますが、実際にはセッケンは複数の高級脂肪酸の混合系であるため、複数の高級脂肪酸または高級脂肪酸Naが表示されます。ただし、石ケン素地は複数の高級脂肪酸をまとめて石ケン素地単独で表示されます。

オレイン酸のナトリウム塩の洗浄力および起泡力については、以下の表のように、

脂肪酸名 洗浄力
(温水)
洗浄力
(冷水)
起泡性 泡持続性
飽和脂肪酸 ラウリン酸
ミリスチン酸
パルミチン酸
ステアリン酸
不飽和脂肪酸 オレイン酸

このような傾向が明らかにされており[10]、実際にすすぎに使用する38℃付近ではミリスチン酸とほぼ同等の洗浄力であると報告されています[11a]

オレイン酸はステアリン酸と同じく炭素数18ですが、ステアリン酸が38℃付近では水に溶けにくく、洗浄力が低いのに対してオレイン酸は洗浄力が高いという違いがあります。

この違いは、ステアリン酸が二重結合をもたないのに対して、オレイン酸は分子の真ん中に二重結合を1つもち、二重結合は弱いながらも親水基の仲間であるため、水にもよく溶け、洗浄力を発揮するというメカニズムに起因しています[12]

また、各ナトリウムセッケンに等量のオレイン酸を配合することで単体では起泡力の低いパルミチン酸およびステアリン酸の起泡力を著しく増大することが報告されています[11b]

このような背景から、実際の洗浄系製品には複数のナトリウムセッケンが混合されており、総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します[13a]

2.1.2. カリウムセッケン合成による選択洗浄作用

カリウムセッケン合成による選択洗浄作用に関しては、まず前提知識としてカリウムセッケン合成およびカリウムセッケンの化粧品表示の種類について解説します。

カリウムセッケンを合成する代表的な工程としては、

セッケン製造の反応式

この2種類があり[6b][8b]、オレイン酸は高級脂肪酸であることから中和法によるセッケン合成に用いられ、また中和に用いるアルカリを水酸化Kにすることでカリウムセッケン(液体石鹸)が得られます[9b]

セッケン製造の反応式の中では、中和法によって合成されるセッケンを「高級脂肪酸K」と記載していますが、中和法で得られるオレイン酸のカリウムセッケンが化粧品成分一覧に表示される場合は、以下のように、

アルカリ剤の種類 化粧品成分表示方法
水酸化K オレイン酸、水酸化K
オレイン酸K
カリ石ケン素地

これら3つのいずれかの表示方法で表示されるため、セッケン合成(洗浄基剤)目的で「オレイン酸」が化粧品成分一覧に表示されている場合は、水酸化Kが一緒に表示されます。

次に、カリウムセッケンの洗浄力および起泡力については、ナトリウムセッケンと比較して溶解性が高く、起泡性に優れていることが知られており[14]、30℃および40℃での各脂肪酸濃度0.5%のカリウム塩(カリウムセッケン)の起泡力および泡持続性は、以下の表のように、

  脂肪酸名 起泡性 泡持続性
30℃ 40℃ 30℃ 40℃
飽和脂肪酸 ラウリン酸
ミリスチン酸
パルミチン酸
ステアリン酸
不飽和脂肪酸 オレイン酸

このような傾向が明らかにされており[15]、オレイン酸は40℃および30℃付近の両方でミリスチン酸と同等の優れた起泡力および泡持続性が知られています。

ただし、実際の洗浄系製品には複数のカリウムセッケンが配合されており、また洗浄力や起泡力を増強する成分なども配合されていることが考えられ、総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します[13b]

カリウムセッケンは主に洗顔料に使用されますが、洗顔においては酸敗した皮脂や汚れを洗浄することが必要である一方で、皮膚の恒常性を保持するための角層細胞間脂質まで洗い流してしまうことは防止する必要があります。

このような背景から、皮膚のつっぱり感や肌荒れを回避するために、皮膚の恒常性に必要な物質を極力洗い流さない選択洗浄性(∗4)が重要であり、顔におけるカリウムセッケンの選択洗浄性とは、皮膚の向上性を保つために重要な因子である角層細胞由来脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルを残存させ、皮脂由来脂質であるスクワレンを汚れとともに洗浄することを意味します。

∗4 選択洗浄性とは、ある物質はよく洗い流すが、ある物質は洗い流さず残すという洗浄剤の性質のことです。

1989年にポーラ化成工業によって報告された各カリウムセッケンの選択洗浄性検証によると、

– 皮脂溶解性試験 –

選択洗浄性について比較するために、皮脂腺由来スクワレンと角層細胞由来脂質であるコレステロールエステルおよびコレステロールを指標として、スクワレン、コレステロールエステルおよびコレステロールの比率が72:14:14のモデル皮脂を0.5%濃度の各カリウムセッケン洗浄液300mLで30分間洗浄し、水洗いを比較として、30分後の残存した皮脂組成を検討したところ、以下のグラフのように、

洗浄30分後のモデル皮脂組成比率の変化

水だけで洗顔した場合では、コレステロールエステルの比率が増加し、コレステロールの比率が減少した。

この結果は、指標とした3成分の中では最も親水性の高いコレステロールが洗浄されやすいものと考えられる。

各脂肪酸カリウム塩で洗浄した結果、パルミチンK、ステアリン酸Kおよびラウリン酸Kの順でスクワレンを十分に洗浄しコレステロールエステルとコレステロールを残す選択洗浄性を示した。

また、オレイン酸Kも他の脂肪酸カリウム塩ほどではないものの、スクワレンを洗浄しコレステロールエステルとコレステロールを残す選択洗浄性を示した。

このような検証結果が明らかにされており[16a]、オレイン酸Kは他の脂肪酸カリウム塩ほどではないものの、スクワレン洗浄力とコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性が認められています。

2.1.3. セッケン合成による洗浄作用の補足

ナトリウムセッケン(固形セッケン)やカリウムセッケン(液体セッケン)のほかに、ナトリウムセッケンにカリウムセッケンを添加することで、水に対する溶けやすさや泡立ちを改良したカリ含有ナトリウムセッケンがあり、パルミチン酸を含むカリ含有セッケンが化粧品成分一覧に表示される場合は、以下のように、

アルカリ剤の種類 化粧品成分表示方法
水酸化Na + 水酸化K オレイン酸、水酸化Na、水酸化K
オレイン酸Na、オレイン酸K
カリ含有石ケン素地

これら3つのいずれかの表示方法で表示されるため、オレイン酸と水酸化Naおよび水酸化Kが一緒に表示されている場合は、カリ含有ナトリウムセッケンとしての配合である可能性が考えられます。

2.2. エモリエント効果

エモリエント効果に関しては、オレイン酸は皮膚親和性が高く、閉塞性により皮膚の水分蒸発を抑え、その結果として皮膚や毛髪に柔軟性や滑らかさを付与するエモリエント性を有していることから[17][18][19]、各種クリーム、乳液、ヘアケア製品などに使用されています。

2.3. 結晶化防止

結晶化防止に関しては、クリームに含まれるステアリン酸の結晶化防止目的でクリーム系スキンケア製品に使用されています[20]

3. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2006年および2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗5)

∗5 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

オレイン酸の配合製品数と配合量の比較調査結果(2006年および2016-2019年)

4. 安全性評価

オレイン酸の現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性(すすぎなし):ほとんどなし-軽度
  • 眼刺激性(すすぎあり):ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

4.1. 皮膚刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[21a]によると、

  • [ヒト試験] 20名および21名の被検者グループに市販品のオレイン酸30%を単一閉塞パッチ適用し、適用後に皮膚刺激性をPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)0.0-8.0のスケールで評価したところ、PIIは0.05および0.19で、この試験物質は本質的に非刺激剤であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1972)
  • [ヒト試験] 15名の被検者に6%オレイン酸を含む2つのマスカラ調剤を毎日23時間21日間連続で閉塞パッチ適用したところ、累積刺激スコアは最大945のうち204および212で、この試験物質は軽度の累積刺激があると考えられた(Hill Top Research,1974)
  • [ヒト試験] 10名の被検者に5%オレイン酸を含む調剤を毎日23時間21日間連続で閉塞パッチ適用したところ、累積刺激スコアは最大630のうち95で、おそらく軽度の累積刺激があると考えられた(Hill Top Research,1982)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚一時刺激はないものの、軽度の累積刺激が報告されているため、一般に皮膚一時刺激性はほとんどなく、皮膚累積刺激性は非刺激-軽度の累積刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

セッケンの皮膚刺激性に関しては、

ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← オレイン酸(C₁₈) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)

この順に皮膚刺激が強いことが知られており、またナトリウムセッケンよりカリウムセッケンのほうが刺激性が強く[22]、セッケンの中ではラウリン酸カリウムセッケンが最もスティンギング(∗6)が強いと報告されています[23]

∗6 スティンギングとは、チクチクと刺すような主観的な刺激感のことです。

ただし、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています[24]

4.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[21b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギを用いてオレイン酸(濃度不明)を対象に眼刺激性試験を実施したところ、24時間後で眼刺激性スコア最大110のうち2、48および72時間後は1であり、この試験物質は非刺激剤であった(International Bio-Research-U.S,1974)
  • [動物試験] 6匹のウサギの眼に5%オレイン酸を含むクリーム製剤を14日間毎日点眼し、眼はすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、1週間の間ずっと軽度の結膜炎が続いた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
  • [動物試験] 3匹のウサギ2群の眼に3%オレイン酸を含むマスカラ製剤を点眼し、1群は眼をすすぎ、もう1群は眼をすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、非洗眼群でGrade1の角膜紅斑が観察されたが2日以内に消失した(Leberco Laboratories,1984)
  • [動物試験] 3匹のウサギ2群の眼に2%オレイン酸を含むマスカラ製剤を点眼し、1群は眼をすすぎ、もう1群は眼をすすがず、点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Leberco Laboratories,1982)

このように記載されており、試験データをみるかぎり洗眼群で眼刺激なし、非洗眼群で軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は眼をすすいだ場合でほとんどなく、眼をすすがなかった場合で非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

4.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[21c]によると、

  • [ヒト試験] 153名の被検者に5%オレイン酸を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘発期間において1-3名の被検者に微弱な反応がみられ、チャレンジ期間において1名の被検者にわずかな反応がみられた(HTR,1983)
  • [ヒト試験] 205名の被検者に2%オレイン酸を含むマスカラ調剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(UCLA,1985)
  • [ヒト試験] 14名の被検者に2%オレイン酸を含むマスカラ調剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、チャレンジパッチにおいて1名の被検者に不明瞭な皮膚反応がみられた(H.I. Maibach,1982)
  • [ヒト試験] 23名の被検者に6%オレイン酸を含むマスカラを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1974)

このように記載されており、試験データをみるかぎりほとんど共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

4.4. 光感作性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[21d]によると、

  • [ヒト試験] 25名の被検者に5.08%オレイン酸を含むチーク製剤を対象に光感作性試験を実施したところ、いずれの被検者も光感作反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1983)
  • [ヒト試験] 25名の被検者に1.5%オレイン酸を含むリキッドファンデーション製剤を対象に光感作性試験を実施したところ、いずれの被検者も光感作反応を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して光感作なしと報告されているため、一般に光感作性はほとんどないと考えられます。

4.5. 皮膚吸着性

皮膚吸着性に関しては、まず前提知識として脂肪酸セッケンが吸着した場合の皮膚への影響について解説します。

セッケンを含む洗顔料を使用した洗顔においては、カリウムセッケンが皮膚に吸着残留する量が増えるほど洗顔後につっぱり感やかさつき感を感じる傾向にあり、洗顔後のつっぱり感やかさつき感を防ぐためには、皮膚吸着の少ないカリウムセッケンを使用することが重要であると考えられます[25]

1999年にポーラ化成工業によって報告されたカリウムセッケンの皮膚吸着性検証によると、

皮脂由来スクワレンと角層細胞由来脂質であるコレステロールエステルおよびコレステロールの比率が72:14:14のモデル皮脂を濃度0.5%に調整した各カリウムセッケン洗浄液300mLで5分,15分および30分間洗浄し、30分後に残存した脂肪酸(洗浄に使用したものと同じ脂肪酸)の量を測定したところ、以下のグラフのように、

脂肪酸セッケンによる皮膚洗浄後に残存吸着した脂肪酸量の比較

ラウリン酸Kおよびミリスチン酸Kで洗浄した場合は、使用した脂肪酸と同じ脂肪酸量が洗浄時間とともに増加したことから、明らかに皮膚吸着を示していると考えられた。

一方で、パルミチン酸Kおよびステアリン酸Kは残存量が非常に少なく、洗浄時間とともに減少しており、皮膚吸着していないものと考えられた。

また、オレイン酸Kの場合は、残存量は比較的多いが洗浄時間とともに減少していることから、吸着の可能性は低いと考えられた。

このような検証結果が明らかにされてお[16b]、オレイン酸のカリウムセッケンは皮膚吸着性がほとんどないことが認められています。

5. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「オレイン酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,270.
  2. 大木 道則, 他(1989)「オレイン酸」化学大辞典,374.
  3. ab有機合成化学協会(1985)「オレイン酸」有機化合物辞典,192.
  4. 平野 二郎(1990)「脂肪酸の分類と発生源」新版 脂肪酸化学 第2版,41-49.
  5. 日本医薬品添加剤協会(2021)「オレイン酸」医薬品添加物事典2021,118-119.
  6. ab井出 袈裟市, 他(1990)「セッケン」新版 脂肪酸化学 第2版,106-129.
  7. 日光ケミカルズ株式会社(2006)「脂肪酸塩」新化粧品原料ハンドブックⅡ,174-176.
  8. ab藤井 徹也(1995)「石けんの科学」洗う -その文化と石けん・洗剤,31-39.
  9. ab小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301. DOI:10.20665/kagakukyouiku.27.5_297.
  10. 田村 健夫・廣田 博(2001)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
  11. ab林 静三郎, 他(1957)「洗浄力に寄与する要因の研究(第2報)」油化学(6)(4),208-213. DOI:10.5650/jos1956.6.208.
  12. 藤本 武彦(2007)「石けん」界面活性剤入門,77-79.
  13. ab宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774. DOI:10.5650/jos1956.42.768.
  14. Luis Mauri, 他(1958)「起ホウ力の評価」油化学(27)(5),104-106. DOI:10.5650/jos1956.7.104.
  15. 大矢 勝・皆川 基(1989)「衣類の泡沫洗浄に関する研究」繊維製品消費科学(30)(2),87-93. DOI:10.11419/senshoshi1960.30.87.
  16. 橋本 文章, 他(1989)「界面活性剤の皮膚への吸着性と洗顔料による選択洗浄性」日本化粧品技術者会誌(23)(2),126-133. DOI:10.5107/sccj.23.126.
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  20. 田村 健夫・廣田 博(2001)「高級脂肪酸」香粧品科学 理論と実際 第4版,112-116.
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  23. 奥村 秀信(1998)「皮膚刺激感(痛み)について」日皮協ジャーナル(39),78-82.
  24. 岩本 行信(1972)「セッケン」油化学(21)(10),699-704. DOI:10.5650/jos1956.21.699.
  25. 藤原 延規, 他(1992)「脂肪酸石鹸の皮膚吸着残留」日本化粧品技術者会誌(26)(2),107-112. DOI:10.5107/sccj.26.107.

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