ラウレス硫酸アンモニウムの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ラウレス硫酸アンモニウム |
---|---|
医薬部外品表示名 | ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム液 |
部外品表示簡略名 | POEラウリルエーテル硫酸アンモニウム液 |
INCI名 | Ammonium Laureth Sulfate |
配合目的 | 洗浄 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるラウリルアルコールのポリエチレングリコールエーテルと硫酸のエステルのアンモニウム塩であり、アルキルエーテル硫酸エステル塩(Alkyl Ether Sulfate:AES)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1]。
1.2. 物性・性状
ラウレス硫酸アンモニウムに付加しているポリエチレングリコール(酸化エチレン)の付加モル数は定義としては1-4個であり、付加モル数(重合度)によって物性が異なりますが、その物性・性状は、
酸化エチレン 付加モル数 |
性状 | cmc (mg/L) |
クラフト点 (℃) |
---|---|---|---|
1 | 無色-淡黄色の液体 | – | – |
2 | – | – | |
3 | 102 | – | |
4 | – | – |
cmcおよびクラフト点についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。
界面活性剤は親水基と疎水基(親油基)をもち、界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込むものの、疎水基部分は安定しようとする性質があるため、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
界面活性剤のごく薄い水溶液では、1個ずつ単分散状態で溶解し、空気と水との界面にはあまり界面活性剤が集まっていないので、空気と水とはほとんど直接に接触していることになり、表面張力はあまり下がらず、水に近い状態ですが、界面活性剤の濃度が増していくにつれて水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に集まり、空気と水とが直接接触する面積を減少させ、それに比例して表面張力も下がっていきます[4a]。
表面があるうちは表面に集まりますが、表面には限りがあるので、さらに界面活性剤の濃度が増していくと疎水基の逃げ場がなくなり、水との反発をなるべく減らすために、界面活性剤はお互いの疎水基を互いに向け合いはじめ、親水基を水側に向けて球状のミセル(micelle:会合体)を形成し始めます[4b][5a]。
この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度を臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することではじめて界面活性剤が有する様々な機能を発揮します(∗1)[5b]。
∗1 cmc以上に界面活性剤の濃度を高めていくと、ミセルの数が増加し、次に棒状や板状のミセルとなり、それ以上の高濃度では液晶が形成されます。
次に、クラフト点とは個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)のことをいいます[6]。
界面活性剤は、クラフト温度以下の条件では水にほとんど溶けず、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成しませんが、クラフト点以上の温度以上で水への溶解性が急激に高くなり、その上で臨界ミセル濃度(cmc)以上の濃度によりミセルを形成することでその機能を発揮します[7][8]。
2. 化粧品としての配合目的
- 洗浄作用
主にこれらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 洗浄作用
洗浄作用に関しては、前提知識として洗浄作用および洗浄のメカニズムについて解説します。
「汚れる」ということは、汚れが固体表面へ付着することであり、汚れを除去するためには汚れの付着エネルギー以上のエネルギーを外部から加える必要があることが知られています[9a]。
洗浄作用とは、この付着エネルギーを最小にして、汚れを取り除きやすくして汚れを再付着しにくくすることをいい、具体的な洗浄作用のメカニズムについては以下の洗浄のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
まず汚れおよび固体表面が洗浄液でぬれ、次に汚れおよび固体表面に界面活性剤が吸着し、そして汚れがローリングアップ(∗2)、乳化、可溶化によって分散・溶解し、最後に再付着しないようにすすぐことで除去されるといった一連の過程になります[9b][10]。
∗2 液体汚れが油滴となって固体表面から離脱する現象のことです。
アニオン界面活性剤の中でもアルキル鎖が炭素数12-14の直鎖構造をもつ界面活性剤の起泡性が優れていることが知られていますが、ラウレス硫酸アンモニウムは炭素数12(C12)の直鎖構造をもつラウリルアルコールに1-4個のポリエチレングリコールを付加させた上で硫酸エステル塩にした陰イオン性界面活性剤であり、低pH(酸性側)に適し、耐硬水性や水への溶解性に優れ、かつ良好な起泡性を示すことから[2b][3b][11a]、主にシャンプー製品、ボディソープ製品などに使用されています。
アルキル硫酸エステル塩であるラウリル硫酸アンモニウムとの違いは、ラウレス硫酸アンモニウムはラウリル硫酸アンモニウムにポリエエチレングリコールが付加されたもの(ポリエチレングリコール鎖が加わったもの)であり、ポリエチレングリコール付加モル数が増えるほど、水溶性が向上するとともに硬水中でも起泡性が大きくなり、また皮膚刺激性が低減されるという特徴も加わることが知られています[11b][12]。
ラウレス硫酸塩の性質は、以下の表をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
付加モル数 | 起泡力(c㎥) 濃度:0.1g/L 温度:70℃ |
洗浄力(白度) 濃度:0.5g/L 温度:40℃ |
---|---|---|
1 | 150 | 51 |
2 | 215 | 45 |
3 | 240 | 26 |
ポリエチレングリコールの付加数が多いほど起泡力が増す一方で洗浄力は低下していくことが明らかにされています[13]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2007-2008年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-中程度(ただし詳細は解説を参照のこと)
- 眼刺激性(洗い流さない場合):濃度依存的に軽度-重度
- 眼刺激性(洗い流す場合):ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14a]によると、
- [ヒト試験] 94名の被検者に0.23%ラウレス硫酸アンモニウムを含むバブルバス水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、刺激性接触性皮膚炎の可能性は最小限であることが示された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 20名の被検者に0.28%ラウレス硫酸アンモニウムを含むバブルバス水溶液を対象に24時間単回皮膚刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、20名のうち11名は皮膚への影響はみられなかった。20名のうち4名は淡い均一の紅斑がみられ、別の4名は適用範囲を覆う明瞭なピンク色の均一な紅斑および浮腫がみられ、残りの1名は丘疹をともなう著しく赤い紅斑を示した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [ヒト試験] 68名の被検者に0.11%ラウレス硫酸アンモニウムを含むバブルバス水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において最初の適用後には本質的に刺激反応はみられなかったが、繰り返す中で68名のうち11名(16%)は中程度の刺激反応を示した。いずれの被検者も皮膚感作の兆候は示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 12名の被検者に0.11%ラウレス硫酸アンモニウムを含むバブルバス製剤を対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、この試験物質は紅斑および丘疹を引き起こしたことから、軽度-中程度の累積刺激性を有する可能性が示唆された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように、試験データをみるかぎり皮膚につけっぱなしにする製品の場合、非刺激-中程度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-中程度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、ラウレス硫酸アンモニウムは洗い流し製品にのみ使用されており、この使用下において安全に使用できると結論付けられています。
皮膚感作性については、試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に7.5%ラウレス硫酸アンモニウム溶液0.1mLを滴下し、眼はすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアはそれぞれ15.7,11.8,4.7,1.2および0を示し、この試験物質は一過性の軽度の眼刺激を示した(Consumer Product Testing Co,1976)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に7.5%ラウレス硫酸アンモニウム溶液0.1mLを滴下し、眼はすすがず、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアはそれぞれ15.5,8.5,7.3,2.1および0を示し、この試験物質は軽度の眼刺激を示した(Consumer Product Testing Co,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に25%ラウレス硫酸アンモニウム溶液0.1mLを滴下し、眼はすすがず、Draize法に基づいて1,2,3および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3および7日目の眼刺激スコアはそれぞれ25.1,23.3,24.7および21.5を示し、この試験物質は重度の眼刺激を示した(Food and Drug Research Labs,1976)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に26%ラウレス硫酸アンモニウム溶液0.1mLを滴下し、2秒間眼をすすぎ、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアはそれぞれ2,1.3,1.3,0.6および0.3を示し、この試験物質はわずかな角膜刺激を示した(Hazelton Labs,1973)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に26%ラウレス硫酸アンモニウム溶液0.1mLを滴下し、4秒間眼をすすぎ、Draize法に基づいて1,2,3,4および7日目に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1,2,3,4および7日目の眼刺激スコアはそれぞれ3.3,2,0.6,0.6および0を示し、この試験物質は一過性のわずかな刺激を示した(Hazelton Labs,1973)
このように記載試験データをみるかぎり濃度7.5-26.0%の範囲で濃度依存的に軽度-重度の眼刺激が報告されていますが、眼をすすいだ場合においては濃度26%でも一過性のわずかな眼刺激であり、一般に眼刺激性は洗い流さない場合で濃度依存的に軽度-重度の眼刺激を、洗い流す場合で非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、ラウレス硫酸アンモニウムは洗い流し製品にのみ使用されており、一般に非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性に留まると考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[14c]によると、
- [ヒト試験] 25名の被検者に0.11%ラウレス硫酸アンモニウムを含むバブルバス0.5mLを対象に23時間閉塞パッチを5日間連続で適用し、3日目からパッチ除去後に試験部位に30分間直接日光を照射したところ、6名に中程度の一過性の刺激反応がみられたが、この刺激反応は日光を照射していない部位でもみられたため、この刺激反応は光刺激によるものではないと判断された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように、試験データをみるかぎり光刺激なしと報告されているため、光毒性(光刺激性)はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ラウレス硫酸アンモニウム」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1050.
- ⌃abMiwon Commercial Co., Ltd.(2015)「MICOKIN」Personal Care Ingredients,1.
- ⌃abStepan Company(2010)「STEOL CA-330」Product Bulletin.
- ⌃ab藤本 武彦(2007)「界面活性剤の基本的な性質と作用」界面活性剤入門,14-26.
- ⌃ab鈴木 敏幸(2003)「臨界ミセル濃度」化粧品事典,846.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「クラフト点」化粧品事典,427-428.
- ⌃藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水基の種類と性質の関係」界面活性剤入門,147-152.
- ⌃野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,30-33.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「洗浄のメカニズム」新化粧品原料ハンドブックⅡ,631-635.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「洗浄剤」化粧品事典,567.
- ⌃ab藤本 武彦(2007)「高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩」界面活性剤入門,101-102.
- ⌃野々村 美宗(2015)「アニオン界面活性剤」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,43-48.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2006)「アルキルエーテル硫酸エステル塩」新化粧品原料ハンドブックⅠ,191-193.
- ⌃abcR.L. Elder(1983)「Final Report on the Safety Assessment of Sodium Laureth Sulfate and Ammonium Laureth Sulfate」Journal of the American College of Toxicology(2)(5),1-34. DOI:10.3109/10915818309140713.