PEG-40水添ヒマシ油とは…成分効果と毒性を解説



・PEG-40水添ヒマシ油
[医薬部外品表示名称]
・ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油
化学構造的に水添ヒマシ油から得られる脂肪酸およびトリグリセリドに酸化エチレン(約40モル)を付加重合して得られるエーテルおよびエステル混合物であり、酸化エチレン縮合型のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油に分類される非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です。
一般的に化粧品に使用されているポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、
種類 | 平均酸化エチレン付加モル数 | HLB(∗1) |
---|---|---|
PEG-5水添ヒマシ油 | 5 | 親油性
↑ ↓ 親水性 |
PEG-10水添ヒマシ油 | 10 | |
PEG-20水添ヒマシ油 | 20 | |
PEG-30水添ヒマシ油 | 30 | |
PEG-40水添ヒマシ油 | 40 | |
PEG-50水添ヒマシ油 | 50 | |
PEG-60水添ヒマシ油 | 60 | |
PEG-80水添ヒマシ油 | 80 | |
PEG-100水添ヒマシ油 | 100 |
∗1 詳しくは後述しますが、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)は、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。同じ付加モル数であっても実際のHLB値は原料会社によって異なるため、ここでは付加モル数による親油・親水性の傾向のみを記載しています。
これらの種類があり、酸化エチレンの付加モル数が多いほど親水性が高くなるため、原料や製品の特性に合わせて最適なモル数のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が配合されています。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でスキンケア化粧品、ボディケア製品、シート&マスク製品、ボディソープ製品、シャンプー製品、ヘアケア製品、ヘアスタイリング製品、フレグランス製品など様々な製品に汎用されています。
乳化
乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。
乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献2:1990)。
そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献2:1990)。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、
HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値だけで一義的に界面活性剤の性質が定まるわけではありませんが、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献3:2015)。
PEG-40水添ヒマシ油の特性は、
HLB | 作用 | 分散・溶解性 |
---|---|---|
12.0 , 12.5 , 13.3 | O/W型乳化 | 透明分散物 – 透明溶液 |
このように報告されており(文献4:-;文献5:-;文献6:-)、O/W型乳化剤(親水性界面活性剤)として、主にスキンケア化粧品、ボディケア製品、シート&マスク製品、ボディソープ製品、シャンプー製品、ヘアケア製品、ヘアスタイリング製品、フレグランス製品などに使用されています。
可溶化
可溶化に関しては、香料や油溶性ビタミン(∗2)、植物エキスまたはペプチドなどを透明に溶かし込む可溶化剤として使用されています(文献4:-;文献5:-;文献6:-;文献7:1979)。
∗2 代表的な油溶性ビタミンとしては、ビタミンA(レチノール)、ビタミンC(アスコルビン酸)およびビタミンE(トコフェロール)の各誘導体があります。ビタミンCについてはビタミンC自体は水溶性ですが、誘導体としては油溶性のものがあります。
一般に、酸化エチレンのモル数の多い非イオン界面活性剤は極性の高い香料を可溶化しやすく、一方で酸化エチレンのモル数の少ない非イオン界面活性剤は極性の低い香料を可溶化しやすいことが明らかにされていることから(文献7:1979)、可溶化する香料または油溶性ビタミンなどに最適なポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が配合されます。
混合可溶化剤としてのPEG-40水添ヒマシ油
PEG-40水添ヒマシ油は、他の乳化剤・可溶化剤と混合することで混合系の特徴を有した原料として配合されることがあり、PEG-40水添ヒマシ油と以下の成分が併用されている場合は、混合系原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Specifeel Solplus | ||
---|---|---|---|
構成成分 | トリデセス-9、PEG-40水添ヒマシ油、ポリソルベート20 | ||
特徴・主な用途 | 3つの成分を相乗した低濃度で効果的な可溶化剤であり、可溶化能はポリソルベート20単体の140%、PEG-40水添ヒマシ油単体の120%に相当。水系製品へ高濃度の香料やオイル、油溶性防腐剤を可溶化 |
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1997年および2012年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
PEG-40水添ヒマシ油の安全性(刺激性・アレルギー)について
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 1970年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [ヒト試験] 20人の被検者に100%PEG-40水添ヒマシ油を対象にパッチテストを実施し、パッチ除去24および48時間後に皮膚反応を評価したところ、皮膚刺激の兆候は観察されなかった(University Clinic Eppendorf,1951-1954)
- [ヒト試験] 20人の被検者に0.25%PEG-40水添ヒマシ油を含む製剤を対象に24時間単一皮膚刺激性試験を実施し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、1人の被検者に軽度の刺激反応が観察された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1981)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] ウサギの片眼に100%および50%PEG-40水添ヒマシ油水溶液を点眼し、点眼24および48時間後に眼刺激性を評価したところ、両方の濃度において結膜に一過性のわずかな発赤がみられた(BASF,-)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.25%PEG-40水添ヒマシ油を含む製剤を点眼し、PII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0-110のスケールで評価したところ、PIIは1であり、一過性の眼刺激が観察されたが、すべての刺激は4日目までに消失した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 120人の被検者に0.05%PEG-40水添ヒマシ油を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間において5人の被検者にほとんど知覚できない紅斑が観察され、チャレンジ期間において2人の被検者に軽度の反応が観察された。チャレンジ期間に軽度の反応が観察された2人に再チャレンジパッチを適用したところ、1人は皮膚反応が観察されず、もう1人はとても弱い皮膚反応を示した。この反応は臨床的に重要ではなく、この製剤はアレルギー性感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
- [ヒト試験] 86人の被検者に0.25%PEG-40水添ヒマシ油を含む製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間において2人の被検者に最小限の皮膚刺激が観察されたが、チャレンジ期間において皮膚反応は観察されず、この製剤はアレルギー性感作剤ではないと結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
PEG-40水添ヒマシ油は界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(1997)「Final Report on the Safety Assessment of Peg-30,-33,-35,-36, ANd-40 Castor Oil and Peg-30 and-40 Hydrogenated Castor Oil」International Journal of Toxicology(16)(3),269-306.
- 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
- 日本エマルジョン株式会社(-)「EMALEX HC-40」技術資料.
- 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL HCO-40」技術資料.
- 日油株式会社(-)「ユニオックスHC-40」技術資料.
- 田川 正人, 他(1979)「非イオン界面活性剤によるリモネンの可溶化に及ぼすエタノールの影響」日本化粧品技術者会誌(13)(1),47-51.
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