ラウロアンホ酢酸Naとは…成分効果と毒性を解説






・ラウロアンホ酢酸Na
[医薬部外品表示名]
・N-ラウロイル-N’-カルボキシメチル-N’-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム液
化学構造的に炭素数12の高級脂肪酸であるラウリン酸とアミノエチルエタノールアミンからアルキルイミダゾリンを合成しカルボキシメチル化して得られる、アミノ酸型のグリシン型(∗1)に分類される分子量349.5の両性界面活性剤です(文献1:2019)。
∗1 ラウロアンホ酢酸Naは、化学反応過程において主生成物の構造が特定されず、イミダゾリン型(イミダゾリニウムベタイン)として扱われていましたが、1990年代に主生成物がグリシン型両性界面活性剤であることが確認され、それ以降はグリシン型に分類されています。ただし、現在でもイミダゾリン型に分類している資料も多いです。
両性界面活性剤はpHによって異なるイオン性を示しますが、アミノ酸型のグリシン型両性界面活性剤の酸性および塩基性領域における性質は、以下の表のように、
アミノ酸型 | ベタイン型 | ||
---|---|---|---|
アミノ酢酸ベタイン型 | スルホベタイン型 | ||
酸性領域(等電点以下) | 陽イオン界面活性剤 | 陽イオン界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
塩基性領域(等電点以上) | 陰イオン界面活性剤 | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
中性領域(等電点付近) | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
等電点(∗2)以上(塩基性領域)で陰イオン界面活性剤の性質を示し、等電点付近では両性界面活性剤の性質を示し、等電点以下の酸性領域では陽イオン界面活性剤の性質を示すのが特徴です(文献2:2006)。
∗2 等電点とは、両性界面活性剤のようなアニオンになる官能基とカチオンになる官能基の両方を持つ化合物において、ちょうどアニオン性とカチオン性とがバランスする点であり、電離後の化合物全体の電荷平均が0となるpHのことです。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料&洗顔石鹸などに使用されています。
陰イオン界面活性剤との併用による起泡・洗浄
陰イオン界面活性剤との併用による起泡・洗浄に関しては、ラウロアンホ酢酸Naはコカミドプロピルベタインと同程度の洗浄性および起泡性を有しており、耐硬水性も有していますが、一般に単独で配合されることはなく、陰イオン界面活性剤との相互作用によって表面張力低下能、湿潤、浸透力および起泡力が増大することが知られており(文献2:2006;文献3:1993;文献4:2016)、陰イオン界面活性剤と併用して洗浄製品に使用されています。
非イオン界面活性剤の可溶化
非イオン界面活性剤の可溶化に関しては、ラウロアンホ酢酸Naは非イオン界面活性剤との相互作用により強アルカリ中に非イオン界面活性剤を透明に可溶化させる効果に優れていることが知られており(文献2:2006)、非イオン界面活性剤と併用して処方されます。
刺激緩和作用
刺激緩和作用に関しては、皮膚のpHに近い領域(弱酸性領域)でpH緩衝効果をもつため、アルカリまたは酸性物質の刺激から皮膚を保護する機能が知られています(文献2:2006)。
また、陰イオン界面活性剤の刺激を緩和する効果に優れていることから、陰イオン界面活性剤と一緒に配合されます(文献2:2006)。
コアセルベート生成によるヘアコンディショニング作用
コアセルベート生成によるヘアコンディショニング作用に関しては、まず前提知識としてコアセルベートについて解説します。
シャンプーの主剤である陰イオン界面活性剤は、コカミドプロピルベタインなどの両性界面活性剤およびグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドなどのカチオン化高分子との相互作用により、シャンプー希釈時にある濃度領域においてコアセルベーションと呼ばれる、溶質が均一に分散した状態から部分的に溶質が集合し溶質の多い領域と極めて少ない領域に分離する現象を起こすことが知られています(文献6:2015)。
このコアセルベーションによって分離した溶質の多い領域は、洗浄機能とコンディショニング機能をもつ複合体でコアセルベートと呼ばれており、コアセルベートはシリコーンや油性成分を取り込み、それらが毛髪表面に吸着することで、すすぎ時に毛髪へ滑らかさを付与し、コンディショニング効果を発現することが報告されています(文献6:2015;文献7:2004)。
実際のシャンプー剤においては、シャンプー塗布後の泡立て時には洗浄作用が発現し、その後、汚れをすすぎ流す過程で陰イオン界面活性剤の濃度が低下し希釈されることでコアセルベートが生成され、生成されたコアセルベートが毛髪に吸着し、コンディショニング効果が発現するように設計されています(文献8:2018;文献9:1989)。
コアセルベートは、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤およびカチオン化高分子の3成分によって生成されますが(∗3)、両性界面活性剤はコカミドプロピルベタイン単体で配合するより、コカミドプロピルベタインとラウロアンホ酢酸Naを併用することで、コアセルベート生成量がさらに増加することが報告されています(文献5:2014)。
∗3 コアセルベートは、陰イオン界面活性剤およびカチオン化高分子の相互作用のみで生成されますが、両性界面活性剤を加えた3分子の相互作用とすることでコアセルベート生成量が増えることが広く知られており、製品においてはこの3種類を併用することが一般的です。
このような背景から、陰イオン界面活性剤、カチオン化高分子、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤およびグリシン型両性界面活性剤が併用されている場合は、コアセルベート生成によるヘアコンディショニング作用を目的とした処方の可能性が考えられます。
ラウロアンホ酢酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1960年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2021に収載されており、また化学構造的にココアンホ酢酸Naに類似しており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
∗∗∗
ラウロアンホ酢酸Naは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
∗∗∗
参考文献:
- “Pubchem”(2019)「Sodium lauroamphoacetate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sodium-lauroamphoacetate> 2019年9月17日アクセス.
- 日光ケミカルズ(2006)「両性界面活性剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,207-215.
- 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
- 株式会社ファンケル(2016)「皮膚洗浄用組成物」特開2016-188182.
- 川研ファインケミカル株式会社(2014)「ソフタゾリンLHL」技術資料.
- 日油株式会社(2015)「毛髪洗浄剤組成物」特開2015-205834.
- 樋渡 佳子, 他(2004)「カチオン性高分子と界面活性剤のコアセルベートに関する研究」日本化粧品技術者会誌(38)(3),211-219.
- 江連 美佳子(2018)「美しい髪をめざして-香粧品ができること-」日本香粧品学会誌(42)(1),15-20.
- 奥村 丈夫, 他(1989)「頭髪化粧品と毛髪」色材協会誌(62)(10),615-623.