ラウリルベタインとは…成分効果と毒性を解説





・ラウリルベタイン
[医薬部外品表示名称]
・ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン
化学構造的に炭素数12の高級脂肪酸であるラウリン酸のジメチルアミンをベタイン化して得られる、アミノ酢酸ベタイン型に分類される分子量271.44の両性界面活性剤です(文献2:2019)。
両性界面活性剤はpHによって異なるイオン性を示しますが、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤の酸性および塩基性領域における性質は、以下の表のように、
アミノ酸型 | ベタイン型 | ||
---|---|---|---|
アミノ酢酸ベタイン型 | スルホベタイン型 | ||
酸性領域(等電点以下) | 陽イオン界面活性剤 | 陽イオン界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
塩基性領域(等電点以上) | 陰イオン界面活性剤 | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
中性領域(等電点) | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
一般的な両性界面活性剤とは異なり、カチオン部が四級アンモニウム塩の構造であることから、等電点(∗1)以上(塩基性領域)で陰イオン界面活性剤ではなく、両性界面活性剤の性質を示し、等電点以下の酸性領域では四級アンモニウム型陽イオン界面活性剤の性質を示すのが特徴です(文献3:2006)。
∗1 等電点とは、両性界面活性剤のようなアニオンになる官能基とカチオンになる官能基の両方を持つ化合物において、ちょうどアニオン性とカチオン性とがバランスする点であり、電離後の化合物全体の電荷平均が0となるpHのことです。
また、等電点に近いpH領域でも水によく溶け、幅広いpHで安定性が高く、低温でも安定性が高いのも特徴です(文献3:2006;文献9:2012)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、シャンプー製品、洗顔料、ボディソープ製品などに使用されています。
陰イオン界面活性剤との併用による起泡・洗浄
陰イオン界面活性剤との併用による起泡・洗浄に関しては、ラウリルベタインは水によく溶け、幅広いpHで安定性が高く、低温でも安定であり、洗浄性および起泡性を有していますが、一般に単独で配合されることはなく、陰イオン界面活性剤と併用することによって洗浄性の増大、キメの細かいクリーミィな泡質および泡安定性の向上が報告されていることから(文献4:1993;文献5:2002;文献6:2009)、陰イオン界面活性剤と併用して洗浄製品に使用されています。
2009年に川研ファインケミカルによって公開された技術情報によると、
ラウリン酸をもつベタイン型両性界面活性剤は、起泡直後はいずれも同様の起泡力を有していたが、ラウリルベタインは、泡持続性がほとんどないことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献6:2009)、ラウリルベタインは泡持続性はほとんどないものの平均的な起泡力が認められています。
陰イオン界面活性剤の増粘
陰イオン界面活性剤の増粘に関しては、弱酸性領域においてはアニオン界面活性剤と中性塩を形成することが知られていますが、この中性塩を形成するpHで粘度が最大となり、陰イオン界面活性剤水溶液の良好な増粘剤として機能することから、増粘目的でアニオン界面活性剤と併用されます(文献3:2006)。
強陰イオン界面活性剤の刺激緩和作用
強陰イオン界面活性剤の刺激緩和作用に関しては、ラウリル硫酸Naやオレフィン(C14-16)スルホン酸Naなど比較的皮膚刺激性が高い陰イオン界面活性剤と併用することで、エネルギー効果によりタンパク質への吸着量が最小となり、その結果として陰イオン界面活性剤による皮膚や毛髪への刺激性を低下・緩和させることが知られており、多くの処方において陰イオン界面活性剤と一緒に配合されます(文献5:2002)。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ラウリルベタインの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-重度
- 眼刺激性:10%濃度において眼刺激を引き起こす可能性あり
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 19名の被検者に0.1%活性ラウリルベタインを30時間開放パッチ適用したところ、いずれの被検者も皮膚反応は観察されなかった(European Chemicals Agency,2013)
- [ヒト試験] 7名の被検者に1%および10%活性ラウリルベタイン溶液を24時間閉塞パッチ適用したところ、10%濃度において1名の被検者に強い紅斑、4名に中程度の紅斑および2名に軽度の紅斑が観察された。1%濃度においては5名の被検者に強い紅斑、1名に中程度の紅斑および1名に軽度の紅斑が観察された(European Chemicals Agency,2013)
- [ヒト試験] 20名の被検者に0.1%活性ラウリルベタイン溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において6日目に1つの強い皮膚反応、7日目において別の被検者に軽度の皮膚反応が観察された。チャレンジ期間においてはパッチ除去後すぐには皮膚反応は観察されず、4日後に1つの強い皮膚反応、1つの中程度の皮膚反応および2つの軽度の皮膚反応が観察されたが、これらの反応は感作反応ではなく、一次刺激反応であると結論付けられた(European Chemicals Agency,2013)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作の報告はありませんが、皮膚刺激性に関しては非刺激-重度まで報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられますが、皮膚刺激性は非刺激-重度の皮膚刺激性が起こる可能性があると考えられます。
ただし、皮膚刺激性に関しては、一般的にラウリルベタインは低刺激性の両性界面活性剤と記載されることが多く(文献3:2006;文献5:2002;文献7:1979;文献8:-)、低刺激性洗浄剤やベビー用シャンプー基剤としても使用されてきていることから(文献3:2006;文献5:2002)、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、皮膚刺激性は低いと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼に10%ラウリルベタイン水溶液を点眼し、眼はすすがず、OECD405テストガイドラインに基づいて眼刺激性を評価したところ、眼刺激性であった(European Chemicals Agency,2013)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、眼刺激性が報告されているため、10%濃度において眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
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ラウリルベタインは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2018)「Safety Assessment of Alkyl Betaines as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(37)(1_suppl),28S-46S.
- “Pubchem”(2019)「2-(Dodecyldimethylammonio)acetate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/2-_Dodecyldimethylammonio_acetate> 2019年9月14日アクセス.
- 日光ケミカルズ(2006)「両性界面活性剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,207-215.
- 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
- 刈米 孝夫(2002)「界面活性剤の開発」界面活性剤の応用技術,1-41.
- 川研ファインケミカル株式会社(2009)「ソフタゾリン LSB」技術資料.
- 松永 佳世子, 他(1979)「改良型シャンプー, リンスのパッチテストと使用テスト」皮膚(21)(3),235-240.
- 日光ケミカルズ(-)「NIKKOL AM-301」製品カタログ,51-52.
- 鈴木 一成(2012)「ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン」化粧品成分用語事典2012,504.