ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインとは…成分効果と毒性を解説






・ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン
化学構造的に炭素数12の高級脂肪酸であるラウリン酸とジメチルプロピレンジアミンからラウラミドプロピルジメチルアミンを合成し、それをスルホン化して得られる、スルホベタイン型に分類される分子量422.6の両性界面活性剤です(文献3:2019)。
両性界面活性剤はpHによって異なるイオン性を示しますが、スルホベタイン型両性界面活性剤の酸性および塩基性領域における性質は、以下の表のように、
アミノ酸型 | ベタイン型 | ||
---|---|---|---|
アミノ酢酸ベタイン型 | スルホベタイン型 | ||
酸性領域(等電点以下)(∗1) | 陽イオン界面活性剤 | 陽イオン界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
塩基性領域(等電点以上) | 陰イオン界面活性剤 | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
中性領域(等電点) | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 | 両性界面活性剤 |
∗1 等電点とは、両性界面活性剤のようなアニオンになる官能基とカチオンになる官能基の両方を持つ化合物において、ちょうどアニオン性とカチオン性とがバランスする点であり、電離後の化合物全体の電荷平均が0となるpHのことです。
強酸と強塩基の組み合わせであり、いかなるpH領域においても水素イオンの授受は行われず、酸性領域または塩基性領域であってもアニオン性またはカチオン性を示さず、いずれも両性界面活性剤の性質を示すのが特徴です(文献4:2006)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料&洗顔石鹸などに使用されています。
陰イオン界面活性剤との併用による起泡・洗浄
陰イオン界面活性剤との併用による起泡・洗浄に関しては、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインは洗浄性および起泡性を有しており、またきしみ感の抑制効果を有していますが、一般に単独で配合されることはなく、陰イオン界面活性剤と併用することによって洗浄性の増大、キメの細かいクリーミィな泡質および泡安定性の向上が報告されていることから(文献2:2009;文献5:1993;文献6:2002)、陰イオン界面活性剤と併用して洗浄製品に使用されています。
2009年に川研ファインケミカルによって公開された技術情報によると、
ラウリン酸をもつベタイン型両性界面活性剤は、いずれも同様の起泡力を有していたが、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインは、泡持続力の点で有意に高いことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献2:2009)、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインに起泡力および泡持続性が認められています。
また、ラウリル硫酸Naなどアルキル硫酸塩の泡安定性を向上させる効果はラウラミドプロピルベタインなどアミノ酢酸ベタイン型の両性界面活性剤よりも優れていることが報告されています(文献4:2006)。
陰イオン界面活性剤の増粘
陰イオン界面活性剤の増粘に関しては、陰イオン界面活性剤に配合することにより高い増粘性を示すことから、アニオン界面活性剤と併用されます(文献2:2009)。
強陰イオン界面活性剤の刺激緩和作用
強陰イオン界面活性剤の刺激緩和作用に関しては、ラウリル硫酸Naやオレフィン(C14-16)スルホン酸Naなど比較的皮膚刺激性が高い陰イオン界面活性剤と併用することで、エネルギー効果によりタンパク質への吸着量が最小となり、その結果として陰イオン界面活性剤による皮膚や毛髪への刺激性を低下・緩和させることが知られており、多くの処方において陰イオン界面活性剤と一緒に配合されます(文献6:2002)。
染色毛髪の退色抑制作用
染色毛髪の退色抑制作用に関しては、染色毛髪の色落ちを低減する効果を有していることから、染毛製品、カラートリートメントなどに配合されます(文献2:2009)。
ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 15年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:5%濃度以下においてほとんどなし-軽度
- 皮膚累積刺激性:30%濃度以下においてほとんどなし
- 眼刺激性:軽度-中程度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 54名の被検者に5.04%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを含む製剤水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も皮膚刺激および皮膚感作を示さなかった(European Chemicals Agency,2017)
川研ファインケミカルの安全性データ(文献2:2009)によると、
- [動物試験] ウサギを用いて1%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを対象に皮膚一次刺激性試験を実施したところ、非刺激物に分類された
- [動物試験] ウサギを用いて2%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを対象に皮膚一次刺激性試験を実施したところ、軽度の刺激物に分類された
- [動物試験] ウサギを用いて30%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを対象に皮膚累積刺激性試験を実施したところ、累積刺激性なしと結論付けられた
- [動物試験] モルモットを用いてラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを対象に皮膚感作性試験を実施したところ、陰性であった
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)にラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを対象に皮膚パッチテストを実施したところ、陰性であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に0.8%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン水溶液を処理し、眼粘膜刺激性を評価したところ、軽度の眼刺激性が予測された(Consumer Product Testing Co,2017)
- [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて0.525%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン水溶液を処理したところ(HET-CAM法)、中程度の眼刺激性が予測された(European Chemicals Agency,2017)
川研ファインケミカルの安全性データ(文献2:2009)によると、
- [動物試験] ウサギを用いて2%ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインを対象に眼刺激性試験を実施したところ、軽度の刺激物に分類された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、軽度-中程度の眼刺激性の予測が報告されているため、軽度-中程度の眼刺激が起こる可能性があると考えられます。
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ラウラミドプロピルヒドロキシスルタインは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2018)「Safety Assessment of Alkyl Sultaines as Used in Cosmetics」Final Report.
- 川研ファインケミカル株式会社(2009)「ソフタゾリン LSB」技術資料.
- “Pubchem”(2019)「Softazoline LSB-R」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Softazoline-LSB-R> 2019年9月13日アクセス.
- 日光ケミカルズ(2006)「両性界面活性剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,207-215..
- 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
- 刈米 孝夫(2002)「界面活性剤の開発」界面活性剤の応用技術,1-41.