ヤシ脂肪酸Kとは…成分効果と毒性を解説

洗浄 起泡
ヤシ脂肪酸K
[化粧品成分表示名称]
・ヤシ脂肪酸K

[医薬部外品表示名称]
・ヤシ油脂肪酸カリウム液

ヤシ科植物ココヤシ(学名:Cocos nucifera)の果実(ココナッツ)から得られるヤシ油のカリウム塩(脂肪酸アルカリ金属塩)であり、セッケン(Soap)(∗1)に分類される陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です。

∗1 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、化学分野では界面活性剤を「セッケン」、製品を「せっけん」と表現する決まりになっています。それらを考慮し、ここでは界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。

ヤシ油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、

脂肪酸名 脂肪酸の種類 炭素数:二重結合数 比率(%)
オレイン酸 不飽和脂肪酸 C18:1 6.9
リノール酸 不飽和脂肪酸 C18:2 0.2
カプロン酸 飽和脂肪酸 C6:0 0.4
カプリル酸 飽和脂肪酸 C8:0 7.7
カプリン酸 飽和脂肪酸 C10:0 6.2
ラウリン酸 飽和脂肪酸 C12:0 47.0
ミリスチン酸 飽和脂肪酸 C14:0 18.0
パルミチン酸 飽和脂肪酸 C16:0 9.5
ステアリン酸 飽和脂肪酸 C18:0 2.9

このような種類と比率で構成されていることから(文献2:1990)、ヤシ脂肪酸Kは主にラウリン酸およびミリスチン酸のカリウム塩を主体としたセッケンであると考えられます。

セッケンの製造法には、

  • ケン化法:油脂 + 水酸化Naまたは水酸化K → 油脂脂肪酸Naまたは油脂脂肪酸K + グリセリン
  • 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化Naまたは水酸化K → 高級脂肪酸Naまたは高級脂肪酸K + 水

この2種類があり、またケン化または中和に用いるアルカリは水酸化Na水酸化Kでは、

  • 水酸化Naを用いてケン化または中和する場合:固形石鹸
  • 水酸化Kを用いてケン化または中和する場合:液体石鹸

このように明確な違いがあり(文献3:1979)、ヤシ脂肪酸Kは油脂であるヤシ油 + 水酸化Kのケン化法によって得られることから、一般に液体石鹸として利用されます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、洗顔料、ボディ&ハンドソープ製品、クレンジング製品などに使用されています。

起泡・選択洗浄

起泡および選択洗浄に関しては、セッケンは洗浄力および起泡力を有していることが知られていますが、脂肪酸カリウム塩(カリウムセッケン)は脂肪酸ナトリウム塩(ナトリウムセッケン)より溶解性が高く、起泡性に優れていることが知られています(文献4:1958)

また、30℃および40℃での各脂肪酸における0.5%濃度の脂肪酸カリウム塩(カリウムセッケン)の起泡力および泡持続性は、

  脂肪酸名 起泡性 泡持続性
30℃ 40℃ 30℃ 40℃
飽和脂肪酸 ラウリン酸
ミリスチン酸
パルミチン酸
ステアリン酸
不飽和脂肪酸 オレイン酸

このような傾向が明らかにされており(文献5:1989)、ラウリン酸およびミリスチン酸のカリウム塩を主体としたヤシ脂肪酸Kは、30℃および40℃付近の両方で安定した起泡力および泡持続力を発現すると考えられます。

ただし、製品に配合されるヤシ脂肪酸Kはほかの界面活性剤との相乗効果を考慮した処方設計されていることも多く、製品における洗浄力や起泡性はこれらの総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します(文献6:1993)

次に、ヤシ脂肪酸Kは主に皮膚洗浄製品に使用されますが、皮膚洗浄製品の場合、過剰な皮脂や汚れを洗浄することは必要ですが、一方で皮膚の恒常性を保持するための角質細胞間脂質などまで洗い流してしまうことは望ましいことではありません。

このような背景から、とくに洗顔においては皮膚のつっぱり感や肌荒れを回避するために、皮膚の恒常性に必要な物質を極力洗い流さない選択洗浄性(∗2)が重要であり、顔におけるヤシ脂肪酸Kの選択洗浄性とは、皮膚の向上性を保つために重要な因子である角層細胞由来脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルを残存させ(∗3)、皮脂由来脂質であるスクワレンを汚れとともに洗浄することを意味します。

∗2 選択洗浄性とは、ある物質はよく洗い流すが、ある物質は洗い流さず残すという洗浄剤の性質のことです。

∗3 角質細胞間脂質であるコレステロールおよびコレステロールエステルの残存は皮膚の乾燥や肌荒れを防ぐための重要な因子であると考えられています。

1989年にポーラ化成工業によって報告された各脂肪酸カリウム塩(カリウムセッケン)の選択洗浄性検証によると、

皮脂由来スクワレンと角層細胞由来脂質であるコレステロールエステルおよびコレステロールの比率が72:14:14の豚皮のモデル皮脂を0.5%濃度の各脂肪酸カリウム塩(カリウムセッケン)洗浄液300mLで30分間洗浄し、水洗いを比較として、30分後の豚皮に残存した皮脂組成を検討したところ、以下のグラフのように、

30分洗浄後のブタ皮の皮膚組成比率の変化

水洗いでは、親水性の高いコレステロールが除去され、コレステロール比率の減少を示した。

また、ラウリン酸Kはスクワレンを十分に洗浄し、コレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。

さらに、複数の脂肪酸カリウム塩を組み合わせた処方系においても同様の選択洗浄性がみられ、とくにパルミチン酸Kおよびステアリン酸Kを組み合わせたものがスクワレン除去率が高く、

  • ラウリン酸K、ミリスチン酸K
  • ミリスチン酸K、パルミチン酸K、ステアリン酸K
  • パルミチン酸K、ステアリン酸K

これらのいずれの組み合わせにおいてもコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献7:1989)、ラウリン酸およびミリスチン酸のカリウム塩を主体としたヤシ脂肪酸Kは、十分なスクワレン洗浄力とコレステロールエステルおよびコレステロールを残す選択洗浄性を有していると考えられます。

非極性油のスクワレンは、親油基が大きい(炭素鎖が長い)界面活性剤のほうが親和力が高いため、親油基が大きい(炭素鎖が長い)パルミチン酸Kおよびステアリン酸Kに十分な洗浄性が示されたと考えられますが、ラウリン酸Kの場合は親油基が最も小さい(炭素鎖が短い)ものの、水への溶解性が比較的高く、また油剤への洗浄性も比較的高いことから、スクワレンに対する十分な洗浄性を示したと考えられます(文献7:1989)

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2007-2008年および2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ヤシ脂肪酸Kの配合製品数と配合量の調査結果(2007-2008年および2010年)

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ヤシ脂肪酸Kの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヤシ脂肪酸Kの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、セッケンを構成する脂肪酸塩のひとつとして50年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらないことから、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般的に皮膚刺激はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず(∗4)データ不足のため詳細は不明です。

∗4 古い試験データはたくさんありますが、試験方法自体古く、試験データと実際の使用における関連性が不確かなデータが多かったため、現段階では記載できるデータはみつかっていません。現在採用されている試験規格に基づいた試験データがみつかり次第追補します。

脂肪酸アルカリ塩の皮膚刺激性に関しては、

ラウリン酸(C₁₂) ← ミリスチン酸(C₁₄) ← パルミチン酸(C₁₆) ← ステアリン酸(C₁₈)

この順に皮膚刺激が強いことが知られており、また脂肪酸ナトリウム塩より脂肪酸カリウム塩のほうが刺激性が強く(文献8:1939)、脂肪酸塩の中ではラウリン酸カリウム塩が最もスティンギング(∗5)が強いと報告されています(文献9:1998)

∗5 スティンギングとは、チクチクと刺すような主観的な刺激感のことです。

ただし、一般に洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、セッケンが皮膚に与える影響は極めて少ないことが明らかにされています(文献10:1972)

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2017)によると、

  • [ヒト試験] 健常な皮膚を有する40人の被検者および皮膚炎を有する480人の患者に5%ヤシ脂肪酸K水溶液を対象に皮膚感作性試験を実施したところ、5人に陽性反応が観察された(C. L. Burnett et al,2011)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、520人の被検者のうち5人に感作反応が報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます(∗6)

∗6 皮膚感作反応を示したのが健常な皮膚を有する被検者なのか皮膚炎を有する患者のみなのか詳細文献がみあたらなかったため、皮膚炎を有する場合のみに感作反応を示す傾向があるのかどうかは不明です。

∗∗∗

ヤシ脂肪酸Kは界面活性剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:界面活性剤

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Plant-Derived Fatty Acid Oils」International Journal of Toxicology(36)(Supplement3),51S-129S.
  2. 日本油化学協会(1990)「植物油脂の脂肪酸組成」油脂化学便覧 改訂3版,104-110.
  3. 小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301.
  4. Luis Mauri, 他(1958)「起ホウ力の評価」油化学(27)(5),104-106.
  5. 大矢 勝, 他(1989)「衣類の泡沫洗浄に関する研究」繊維製品消費科学(30)(2),87-93.
  6. 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
  7. 橋本 文章, 他(1989)「界面活性剤の皮膚への吸着性と洗顔料による選択洗浄性」日本化粧品技術者会誌(23)(2),126-133.
  8. L. D. Edwards(1939)「The pharmacology of SOAPS」Journal of the American Pharmaceutical Association(28)(4),209-215.
  9. 奥村 秀信(1998)「皮膚刺激感(痛み)について」日皮協ジャーナル(39),78-82.
  10. 岩本 行信(1972)「セッケン」油化学(21)(10),699-704.

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