ヤシ脂肪酸ソルビタンとは…成分効果と毒性を解説

乳化
ヤシ脂肪酸ソルビタン
[化粧品成分表示名称]
・ヤシ脂肪酸ソルビタン

[医薬部外品表示名称]
・ヤシ油脂肪酸ソルビタン

ヤシ科植物ココヤシ(学名:Cocos nucifera)の果実(ココナッツ)から得られるヤシ脂肪酸を疎水基(親油基)とし、多価アルコール(∗1)の一種であり、4個の水酸基(ヒドロキシ基)をもつソルビタン(∗2)を親水基としたモノエステル(∗3)であり、多価アルコールエステル型のソルビタン脂肪酸エステルに分類される非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です。

∗1 多価アルコールとは、非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール:エチルアルコール)は一価アルコールであり、多価アルコールと一価アルコールは別の物質です。二価以上を多価アルコールといい、ソルビタンは四価アルコールです。

∗2 ソルビタンとは、ソルビトールの脱水反応により得られる無水ソルビトールであり、水酸基を4個もつ四価アルコールですが、実際にソルビトールを脱水反応させると、反応する水酸基の位置によっていろいろな異性体ができることから、一般的にソルビタンと呼ばれる化合物は各種ソルビタンの混合物であり、単一の化合物ではありません。

∗3 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。

ヤシ油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、

脂肪酸名 脂肪酸の種類 炭素数:二重結合数 比率(%)
オレイン酸 不飽和脂肪酸 C18:1 6.9
リノール酸 不飽和脂肪酸 C18:2 0.2
カプロン酸 飽和脂肪酸 C6:0 0.4
カプリル酸 飽和脂肪酸 C8:0 7.7
カプリン酸 飽和脂肪酸 C10:0 6.2
ラウリン酸 飽和脂肪酸 C12:0 47.0
ミリスチン酸 飽和脂肪酸 C14:0 18.0
パルミチン酸 飽和脂肪酸 C16:0 9.5
ステアリン酸 飽和脂肪酸 C18:0 2.9

このような種類と比率で構成されており(文献2:1990)、ラウリン酸を主体とした脂肪酸であると考えられます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、メイクアップ化粧品、スキンケア化粧品、日焼け止め製品、ヘアケア製品、洗顔料などに使用されています。

乳化

乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。

乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献3:1990)

そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献3:1990)

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、

界面活性剤のHLB値とその作用、分散・溶解の挙動

HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献4:2015)

ヤシ脂肪酸ソルビタンの特性は、

HLB 作用 分散・溶解性
8.6 , 12.0 W/O型乳化 安定分散

このように報告されており(文献5:-;文献6:-)、ヤシ脂肪酸ソルビタンはHLBをみるかぎりではO/W型乳化剤と考えられますが、油相側の非イオン界面活性剤(親油性乳化剤)として主にスキンケア化粧品、日焼け止め製品、クレンジング製品、ヘアスタイリング製品などに使用されていると報告されています。

また、一般的にソルビタン脂肪酸エステルは単独で乳化剤として用いることはほとんどなく、他のO/W乳化剤(親水性乳化剤)と組み合わせてO/W型乳化剤・乳化安定剤として使用されます(文献7:1970)

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ヤシ脂肪酸ソルビタンの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヤシ脂肪酸ソルビタンの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

日光ケミカルズの安全性データ(文献1:2016)によると、

  • [ヒト試験] 50人の被検者に100%ヤシ脂肪酸ソルビタンを対象に閉塞パッチ試験を実施し、パッチ除去後に皮膚反応を評価したところ、いずれの被検者もこの試験物質に対して皮膚刺激反応を示さなかった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

日光ケミカルズの安全性データ(文献1:2016)によると、

  • [動物試験] ウサギの片眼にヤシ脂肪酸ソルビタン(濃度不明)を点眼し、眼刺激性を評価したところ、この試験物質は無刺激であった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬部外品原料規格2006に収載されており、10年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

∗∗∗

ヤシ脂肪酸ソルビタンは界面活性剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:界面活性剤

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文献一覧:

  1. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「NIKKOL SL-10」安全データシート.
  2. 日本油化学協会(1990)「植物油脂の脂肪酸組成」油脂化学便覧 改訂3版,104-110.
  3. 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  4. 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
  5. 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL SL-10」技術資料.
  6. 日本エマルジョン株式会社(-)「EMALEX SPC-100」技術資料.
  7. 広田 博(1970)「多価アルコールエステル型」化粧品のための油脂・界面活性剤,120-125.

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