ヤシ脂肪酸スクロースとは…成分効果と毒性を解説

乳化
ヤシ脂肪酸スクロース
[化粧品成分表示名称]
・ヤシ脂肪酸スクロース

[医薬部外品表示名称]
・ヤシ油脂肪酸ショ糖エステル

ヤシ科植物ココヤシ(学名:Cocos nucifera)の果実(ココナッツ)から得られるヤシ脂肪酸を疎水基(親油基)とし、二糖(∗1)の一種であり、8個の水酸基(ヒドロキシ基)をもつスクロースを親水基としたモノエステル(∗2)であり、多価アルコールエステル型(∗3)のショ糖脂肪酸エステルに分類される分子量524.6の非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です(文献2:2019)

∗1 二糖は糖の一種であり、単糖が2個グリコシド結合した2量体です。複数の分子結合がまとまって機能する複合体を多量体といい、二糖の場合、2個の単糖がまとまって(結合して)機能しているため2量体として働きます。

∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。

∗3 糖は多価アルコールの最初の酸化生成物であり、厳密には多価アルコールと分けて分類されますが、非イオン界面活性剤においては多価アルコールの一種として多価アルコールエステル型に分類されているため、それらにならって多価アルコールエステル型に分類しています。

ヤシ油の脂肪酸組成は、抽出方法や天然成分のため国や地域および時期によって変化がありますが、主に、

脂肪酸名 脂肪酸の種類 炭素数:二重結合数 比率(%)
オレイン酸 不飽和脂肪酸 C18:1 6.9
リノール酸 不飽和脂肪酸 C18:2 0.2
カプロン酸 飽和脂肪酸 C6:0 0.4
カプリル酸 飽和脂肪酸 C8:0 7.7
カプリン酸 飽和脂肪酸 C10:0 6.2
ラウリン酸 飽和脂肪酸 C12:0 47.0
ミリスチン酸 飽和脂肪酸 C14:0 18.0
パルミチン酸 飽和脂肪酸 C16:0 9.5
ステアリン酸 飽和脂肪酸 C18:0 2.9

このような種類と比率で構成されており(文献1:1990)、ラウリン酸を主体とした脂肪酸であると考えられます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、乳化系スキンケア化粧品、リップ系メイクアップ化粧品、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、洗浄製品などに使用されています。

乳化

乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。

乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献2:1990)

そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献2:1990)

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、

界面活性剤のHLB値とその作用、分散・溶解の挙動

HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献3:2015)

ヤシ脂肪酸スクロースの特性は、

HLB 作用 分散・溶解性
15 O/W型乳化 透明溶液

このように報告されており(文献8:2010)、O/W型乳化剤(親水性界面活性剤)として、主に乳化系スキンケア化粧品、リップ系メイクアップ化粧品、メイクアップ化粧品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、洗浄製品などに使用されています。

一般にショ糖脂肪酸エステルは、水酸基8個を有しており、他の多価アルコールと比較して強い親水基を有するため、O/W型乳化に最も適していると考えられ(文献4:1974)、また温度変化の影響を受けにくいのが特徴です(文献5:1996)

他の特徴として、乳化力自体は高くはないものの、食品添加物および医薬品添加物にも認可されている安全性の高さがあり(文献6:1970)、その安全性の高さから乳化系スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品、クレンジング製品などに使用されています。

ショ糖脂肪酸エステルを用いた処方としては、グリセリンにショ糖脂肪酸エステルを混合すると増粘し、このグリセリンとショ糖脂肪酸エステル混合系に油性成分を添加することにより、さらに粘度が増大し、透明なゲルが形成され、このゲルにさらに油性成分の添加量を増やしていくことで自己乳化性を示し、そこに水を加えることで微細なO/W型エマルションが得られることが知られています(文献7:2001)

この処方で得られるO/Wエマルションは、ショ糖脂肪酸エステル単体より優れた乳化力を発揮するため、グリセリン、ショ糖脂肪酸エステルおよび油性成分が併用されている場合(∗4)は、透明ゲル化処方またはO/W型乳化処方である可能性が考えられます。

∗4 ショ糖脂肪酸エステルおよび油性成分は複数使用されることもあります。ヤシ脂肪酸スクロースと併用されるショ糖脂肪酸エステルはラウリン酸スクロースであることが多いです。

液晶乳化

液晶乳化に関しては、まず前提知識として液晶および液晶乳化について解説します。

液晶とは、固体である結晶の分子配列の秩序を維持しながら液体としての流動性を示すものをいい、また液晶乳化とは、界面活性剤が形成する液晶中に分散相(O/Wエマルションでは油相)を分散・保持させて微細な乳化粒子を形成することをいいます(文献11:2012;文献12:2015)

ヤシ脂肪酸スクロースは、ステアリン酸ソルビタンとの混合系において、水相に多重層ラメラ液晶構造のゲルネットワークを形成する液晶乳化剤となり、その結果として乳化安定性の向上、油性基剤の展延性(∗5)の向上、保湿効果などが報告されています(文献10:2012)

∗5 展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことを指します。

ラメラ液晶構造とは、以下の角質層の構造および細胞間脂質におけるラメラ構造図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

角質層の構造

細胞間脂質におけるラメラ構造

皮膚の角質層は、角質と細胞間脂質で構成されており、これらがバランスすることで皮膚の水分を保つ保水機能と皮膚の水分の蒸散を防ぎ、なおかつ外部からの刺激や有害物質から皮膚を防御するバリア機能を維持しています。

この細胞間脂質は、主にセラミドコレステロール、遊離脂肪酸などで構成されていますが、これらの脂質が角質細胞間に層状のラメラ液晶構造を形成することにより、バリア機能を有すると考えられています。

ヤシ脂肪酸スクロースとステアリン酸ソルビタンの混合物は、水相にラメラ液晶構造を形成することから、皮膚親和性が高く、皮膚表面に塗布した場合に皮膚の水分蒸散を抑制し、皮膚表面で水分を保持する保湿の働きが考えられます。

このような報告から、化粧品成分表示一覧においてヤシ脂肪酸スクロースとステアリン酸ソルビタンが併用されている場合は、O/W型の液晶乳化剤として配合されている可能性があると考えられます。

効果・作用についての補足

乳化に関しては、ヤシ脂肪酸スクロースとイソステアリン酸ソルビタンを併用した原料が主にリップ製品に使用されていますが、イソステアリン酸はステアリン酸の異性体(∗6)であることから、ステアリン酸ソルビタンと同様に液晶乳化として働く可能性が考えられますが、技術資料に乳化に関する記載がないため(文献9:2009)、わかりしだい追補します。

∗6 異性体とは、元素の構成は同じでも原子の結合関係が異なる分子のことです。

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ヤシ脂肪酸スクロースの配合製品数と配合量の調査結果(2016年)

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ヤシ脂肪酸スクロースの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヤシ脂肪酸スクロースの現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

医薬品添加物規格2018および医薬部外品原料規格2006に収載されており、またショ糖脂肪酸エステルは食品添加物および医薬品添加物としても承認されており、古くから低刺激性および安全性の高さが知られている中で、重大な皮膚刺激性および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

∗∗∗

ヤシ脂肪酸スクロースは界面活性剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:界面活性剤

∗∗∗

文献一覧:

  1. 日本油化学協会(1990)「植物油脂の脂肪酸組成」油脂化学便覧 改訂3版,104-110.
  2. 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  3. 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
  4. 石束 哲男, 他(1974)「ショ糖脂肪酸エステルのO/W型乳化安定能におよぼす脂肪酸残基の種類とエステル化度の影響」栄養と食糧(27)(9),455-459.
  5. 兼井 典子, 他(1996)「ショ糖脂肪酸モノエステル-水系の相挙動」日本油化学会誌(45)(9),849-855.
  6. 広田 博(1970)「多価アルコールエステル型」化粧品のための油脂・界面活性剤,120-125.
  7. 橋本 悟(2001)「スキンケア化粧品における最近の油性原料及び乳化剤とその展望」オレオサイエンス(1)(3),237-246.
  8. CLODA(2010)「Crodesta SL40」Personal Care Product Guide.
  9. CLODA(2009)「Volulip」技術資料.
  10. クローダジャパン株式会社(2012)「Arlacel 2121」技術資料.
  11. 鈴木 敏幸(2012)「乳化の基礎と今後の潮流」オレオサイエンス(12)(8),311-319.
  12. 野々村 美宗(2015)「液滴をできるだけ小さくするには」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,76-80.

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