ムクロジ果皮エキス(ムクロジエキス)とは…成分効果と毒性を解説




・ムクロジ果皮エキス、ムクロジエキス
[医薬部外品表示名]
・ムクロジエキス
ムクロジ科植物ムクロジ(学名:Sapindus mukorossi 英名:Indian soapberry)の果皮から水、エタノール、BG、またはこれらの混液で抽出して得られる抽出物(植物エキス)です。
ムクロジ(無患子)は、日本(本州中部以南、四国および九州)からインドのアジア地域の暖地に分布し、日本においては古来から石鹸が一般に普及する明治時代までムクロジに含まれるサポニンを洗浄剤として用いてきた歴史があり、現在でも山林に自生するほか人家、寺、神社などで栽培されています(文献1:-;文献2:2003;文献3:2018)。
ムクロジ果皮エキスは天然成分であることから、地域、時期、抽出方法によって成分組成に差異があると推察されますが、その成分組成は主に、
分類 | 成分名称 | |
---|---|---|
テルペノイド | トリテルペンサポニン | サピンドシドA,B、ムクロジサポニンE,G |
トリテルペン | ヘデラゲニン |
これらの成分で構成されていることが報告されています(文献1:-;文献4:1983)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、シャンプー製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、メイクリムーバー製品、スキンケア製品、頭皮ケア製品などに使用されています。
起泡
起泡に関しては、ムクロジ果皮エキスは主成分としてトリテルペンサポニンであるサピンドシドやムクロジサポニンを含有しており(文献1:-;文献4:1983)、サポニン(saponin)は両親媒性(∗1)であり、振り混ぜるとセッケンと同様に泡立つ性質を示すことから(文献5:1969;文献6:2016)、主に天然成分・植物成分や肌への優しさをコンセプトとしたシャンプー製品、洗顔料、ボディソープ製品などの洗浄製品に使用されます(文献7:2020)。
∗1 両親媒性とは、親水性と親油性の両方を有している性質のことです。
2004年に一丸ファルコスによって報告されたムクロジ果皮エキスの泡に対する影響検証によると、
5分間の振とう後に起泡性を「A:泡立ちが多く起こり、泡の状態で30秒以上持続」「B:泡立ちが多く起こり、泡の状態で10秒以上30秒未満持続」「C:泡立ちが起こるが、泡の状態がすぐに消失」「D:泡立ちが起きない」の4段階の判定基準に従って評価したところ、以下の表のように、
試料 | 起泡性および泡持続性 |
---|---|
ムクロジ果皮エキス30%エタノール溶液 | A |
ムクロジ果皮エキス(30%エタノール抽出)は、良好な起泡性および泡持続性を有することが確認された。
このような試験結果が明らかにされており(文献8:2004)、ムクロジ果皮エキスに起泡作用が認められています。
乳化
乳化に関しては、ムクロジ果皮エキスは主成分としてトリテルペンサポニンであるサピンドシドやムクロジサポニンを含有しており(文献1:-;文献4:1983)、サポニン(saponin)は両親媒性であり、穏やかな乳化作用を示すことから、乳化補助目的で乳液、クリーム製品、クレンジング製品、メイクリムーバー製品などに用いられます(文献7:2020)。
マラセチア菌生育阻害による抗フケ作用
マラセチア菌生育阻害による抗フケ作用に関しては、まず前提知識としてフケが発生するメカニズムおよびフケの原因菌について解説します。
フケ(頭垢)とは、表皮細胞の角化現象(ターンオーバー)により頭皮の角質から剥がれ落ちた角片に、皮脂や汗、ホコリが混じったものであり、皮膚の新陳代謝から生じる角片(垢)と同じですが、年齢的に皮脂の分泌が盛んになる20歳前後に最も多くなり、フケに含まれる皮脂の割合によって「乾性」と「湿性」に分類されます(文献9:2002)。
フケが増殖する原因としては、頭皮の常在菌に分解された皮脂分解物が酸化した過酸化脂質による頭皮を刺激、強い界面活性剤やアルカリ石鹸による刺激により表皮細胞の代謝(分裂)を促進し、その結果として剥がれ落ちる角片が増え、フケが異常に目立ってくるフケ症(∗2)となると考えられています(文献9:2002;文献10:2006)。
∗2 フケ症の多くは脂漏をともなうことから湿性フケであり、その重症化した症状が脂漏性皮膚炎と理解されています。
フケ症に関与する頭皮常在菌としては、真菌の一種であるピチロスポルム・オバーレ(Pityrosporum ovale:P.ovale)が広く知られていましたが、1996年以降はピチロスポルム・オバーレとピチロスポルム・オルビクラーレ(Pityrosporum orbiculare:P.orbiculare)との統一菌種としてマラセチア・フルフル(Malassezia furfur:M.furfur)と命名されたことから、現在はマラセチア菌として知られています(文献10:2006;文献11:2012)。
このような背景から、マラセチア菌の増殖を抑制することは、フケの発生抑制に重要であると考えられます。
1989年に丸善製薬によって報告されたマラセチア菌およびヒト頭皮フケに対するムクロジ果皮エキスの影響検証によると、
試料 | 抽出溶媒 | 最小阻止濃度(μg/mL) |
---|---|---|
ムクロジ果皮エキス30%エタノール溶液 | 50%エタノール | 250 |
ムクロジ果皮エキス(50%エタノール抽出)は、250μg/mLという微量で菌の増殖を阻止することが確認された。
次に、フケの多い13名の男性被検者に0.5%ムクロジ果皮エキス(50%エタノール抽出)配合ヘアトニックを1日1回1ヶ月にわたって頭髪に塗布してもらい、7日目、14日目および30日目にフケの状態について「有効」「やや有効」「変化なし」の3段階で評価したところ、以下の表のように、
試料 | 使用日数(日) | フケ抑制効果 | ||
---|---|---|---|---|
有効 | やや有効 | 無効 | ||
ムクロジ果皮エキス配合ヘアトニック | 7 | 5 | 7 | 0 |
14 | 8 | 5 | 0 | |
30 | 11 | 2 | 0 |
0.5%ムクロジ果皮エキス配合ヘアトニックの塗布により、すべての被検者にフケに対する改善効果が確認された。
このような検証結果が報告されており(文献12:1989)、ムクロジ果皮エキスにマラセチア菌生育阻害による抗フケ作用が認められています。
複合植物エキスとしてのムクロジ果皮エキス
ムクロジ果皮エキスは、他の植物エキスとあらかじめ混合された複合原料があり、ムクロジ果皮エキスと以下の成分が併用されている場合は、複合植物エキス原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | フォームラバージ |
---|---|
構成成分 | グリチルリチン酸2K、キラヤ樹皮エキス、ムクロジ果皮エキス、BG、水 |
特徴 | 古来より洗浄剤として使用されてきた2種類の植物にグリチルリチン酸ジカリウムを併用することにより洗浄における泡立ち作用、泡切れ作用および皮膚常在菌等に対する静菌作用の相乗効果を得る目的で設計された複合原料 |
ムクロジ果皮エキスの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 3匹のウサギの剪毛した背部に乾燥固形分濃度1%ムクロジ果皮エキス水溶液を塗布し、塗布24,48および72時間後に紅斑および浮腫を指標として一次刺激性を評価したところ、いずれのウサギも紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚一次刺激性に関して問題がないものと判断された
- [動物試験] 3匹のモルモットの剪毛した側腹部に乾燥固形分濃度1%ムクロジ果皮エキス水溶液0.5mLを1日1回週5回、2週にわたって塗布し、各塗布日および最終塗布日の翌日に紅斑および浮腫を指標として皮膚刺激性を評価したところ、いずれのモルモットも2週間にわたって紅斑および浮腫を認めず、この試験物質は皮膚累積刺激性に関して問題がないものと判断された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬部外品原料規格2021に収載されており、30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
– 皮膚炎を有する場合 –
池田回生病院皮膚科の症例報告(文献14:2000)によると、
- [個別事例] 接触皮膚炎の既往歴のある33歳女性患者が、化粧品を変更した2日目から顔面に一部落屑をともなう瘙痒性紅斑を認めたことから使用していた化粧品をパッチテストしたところ、使用していたフェイスパウダーとパフに陽性を示したため、成分パッチテストを実施した。その結果、オクテニルコハク酸デンプンAlとムクロジエキスに陽性を示した。さらに濃度希釈パッチテストを施行したところ、0.2%-10%濃度で陽性を示した。また健常な皮膚を有する15名の被検者にオクテニルコハク酸デンプンAlとムクロジエキスを対象にパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も陰性であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、個別事例として1例、陽性反応が報告されているため、皮膚炎を有する場合においてごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。
∗∗∗
ムクロジ果皮エキスは界面活性剤、抗菌成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- “熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース”(-)「ムクロジ」, <http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003677.php> 2021年4月14日アクセス.
- 渡辺 利幸(2003)「衣料用洗剤の発展と今後の展望」オレオサイエンス(3)(7),339-345.
- 柿澤 恭史(2018)「洗浄料とその作用」日本香粧品学会誌(42)(4),270-279.
- H. Kimata, et al(1983)「Saponins of Pericarps of Sapindus mukurossi GAERTN. and Solubilization of Monodesmosides by Bisdesmosides」Chemical and Pharmaceutical Bulletin(31)(6),1998-2005.
- 前島 雅子, 他(1969)「サポニンの起泡力と洗浄力」家政学雑誌(20)(7),499-502.
- 鷲津 かの子, 他(2016)「天然サポニンの起泡性と人工汚染布の洗浄効果」一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集(68),82.
- 宇山 侊男, 他(2020)「ムクロジ果皮エキス」化粧品成分ガイド 第7版,146.
- 一丸ファルコス株式会社(2004)「起泡剤又は化粧料組成物」特開2004-115410.
- 朝田 康夫(2002)「フケの種類と手入れは」美容皮膚科学事典,394-400.
- クラーレンス・R・ロビンス(2006)「フケ、頭皮フレーキングおよび頭皮ケア」毛髪の科学 第4版,328-334.
- 清 佳浩(2012)「マラセチア関連疾患」Medical Mycology Journal(53)(2),97-102.
- 丸善製薬株式会社(1989)「頭髪化粧料」特開平01-068307.
- 一丸ファルコス株式会社(2003)「メイラード反応阻害剤」特開2003-212770.
- 西井 貴美子, 他(2000)「植物成分配合のフェイスパウダーによるアレルギー性接触皮膚炎」皮膚(42)(2),143-147.