ベヘン酸グリセリルとは…成分効果と毒性を解説

乳化
ベヘン酸グリセリル
[化粧品成分表示名称]
・ベヘン酸グリセリル

[医薬部外品表示名称]
・グリセリン脂肪酸エステル

化学構造的に炭素数22の高級脂肪酸であるベヘン酸を疎水基(親油基)とし、多価アルコール(∗1)の一種であり、3個の水酸基(ヒドロキシ基)をもつグリセリンを親水基としたモノエステル(∗2)であり、多価アルコールエステル型のグリセリン脂肪酸エステルに分類される分子量414.7の非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です(文献2:2019)

∗1 多価アルコールとは、非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール:エチルアルコール)は一価アルコールであり、多価アルコールと一価アルコールは別の物質です。二価以上を多価アルコールといい、グリセリンは三価アルコールです。

∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、メイクアップ化粧品、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品などに使用されています。

乳化

乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。

乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献3:1990)

そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献3:1990)

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、

界面活性剤のHLB値とその作用、分散・溶解の挙動

HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献4:2015)

ベヘン酸グリセリルの特性は、

HLB 作用 分散・溶解性
3.4 W/O型乳化 わずかに分散

このように報告されています(文献5:2018)

ベヘン酸グリセリルは、W/O型乳化剤(親油性界面活性剤)ですが、他のO/W乳化剤(親水性乳化剤)と組み合わせることでO/W型乳化安定剤として使用されます。

また、O/W型エマルションにベヘン酸グリセリルとオクタステアリン酸ポリグリセリル-6を併用する処方で、耐水性および厚み・コクのある感触を付与し、乳化安定性を向上させることが報告されています(文献6:2015)

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1998-1999年および2014-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ベヘン酸グリセリルの配合製品数と配合量の調査結果(1998-1999年および2014-2015年)

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ベヘン酸グリセリルの安全性(刺激性・アレルギー)について

ベヘン酸グリセリルの現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2015)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの無傷および擦過した皮膚に100%ベヘン酸グリセリル0.5mLを4時間半閉塞パッチ適用し、パッチ除去7日目まで皮膚反応を観察したところ、24時間で1匹にわずかな紅斑がみられたが、この試験物質は非刺激性に分類された(European Chemical Agency,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、非刺激と報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2015)によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に100%ベヘン酸グリセリル0.1mLを適用し、眼はすすがず、眼刺激性を評価したところ、点眼1時間ですべてのウサギにわずかな流涙がみられたが、他に影響はみられず、非刺激剤に分類された(European Chemical Agency,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、眼刺激性なしと報告されているため、眼刺激性はほとんどないと考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2015)によると、

  • [ヒト試験] 93人の被検者に100%ベヘン酸グリセリル0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(European Chemical Agency,2013)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

ベヘン酸グリセリルは界面活性剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:界面活性剤

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2015)「Safety Assessment of Monoglyceryl Monoesters as Used in Cosmetics」Final Amended Report.
  2. “Pubchem”(2019)「Glyceryl behenate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Glyceryl-behenate> 2019年10月20日アクセス.
  3. 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  4. 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
  5. 太陽化学株式会社(2018)「サンソフト No.8100-C」油剤、その他素材カタログ.
  6. 太陽化学株式会社(2015)「植物性乳化剤製剤 TAISET 50-C」技術資料.

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