ベヘナミドプロピルジメチルアミンとは…成分効果と毒性を解説


・ベヘナミドプロピルジメチルアミン
化学構造的に炭素数22の高級脂肪酸であるベヘン酸とジアミンを縮合したアミド基をもつ第三級アミドアミンであり、アミン塩型の脂肪酸アミドアミン塩に分類される分子量424.7の陽イオン界面活性剤(カチオン界面活性剤)です(文献2:2019)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でヘアコンディショナー、ヘアトリートメントなどに使用されています。
帯電防止
帯電防止に関しては、まず前提知識として帯電防止について解説します。
水道水やシャンプーは一般的に弱酸性(pH5-6)であることから、ぬれた毛髪の表面はマイナスに帯電しており、一方で陽イオン界面活性剤は以下の図のように、
親水基部分がプラスの荷電をもっている構造であることから、親水基部分がマイナスに帯電した毛髪表面に静電的に吸着します。
そして、疎水基(親油基)部分は外側を向くため、毛髪表面が親油基で覆われることでなめらかになり、その結果として静電気の発生をおさえ(帯電防止)、すすぎや乾燥後の摩擦を低減し、毛髪のくし通りがよくなります(文献3:1990;文献4:2010)。
ベヘナミドプロピルジメチルアミンは、非常に長いアルキル鎖でありながら、酸で中和することで優れた水溶性を示し、毛髪コンディショニング効果を発揮するため(文献5:2006;文献6:2010)、炭素数16-22の高級アルコール(∗1)と併用してヘアコンディショナー、ヘアトリートメントなどに使用されています。
∗1 高級アルコールとして主にセタノール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコールまたはべヘニルアルコールのいずれかまたは複数が併用されます。
高級アルコールは、陽イオン界面活性剤と水との組み合わせによりゲル構造を形成し、効率よく毛髪に吸着し、塗布からすすぎにかけての毛髪のからみを効果的に除去し、滑らかさを増す役割を果たします(文献4:2010)。
また第三級アミドアミンに分類される陽イオン界面活性剤であることから、一般的にベヘントリモニウムクロリドなどの第四級アンモニウム塩型より低刺激性であることが知られています(文献5:2006)。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2012-2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ベヘナミドプロピルジメチルアミンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 28名の被検者に3%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むヘアコンディショナーを2週間毎日使用してもらったところ、いずれの被検者も皮膚刺激およびその他有害な皮膚反応を示さなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2009)
- [ヒト試験] 28名の被検者に0.3%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むシャンプーを2週間毎日使用してもらったところ、いずれの被検者も皮膚刺激およびその他有害な皮膚反応を示さなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2009)
- [ヒト試験] 106名の被検者に0.3%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むシャンプー製剤の1%水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作およびその他有害な皮膚反応を示さなかった(TKL Research Inc,2009)
- [ヒト試験] 103名の被検者に0.3%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むシャンプー製剤の1%水溶液0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作およびその他有害な皮膚反応を示さなかった(TKL Research Inc,2011)
- [ヒト試験] 102名の被検者に4%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むヘアマスク0.2mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応は観察されなかった(Clinical Research Laboratories Inc,2010)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されていることから、化粧品配合量および通常使用下において、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に0.3%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むシャンプーの10%水溶液を処理したところ、非刺激性または最小限の眼刺激性と予測された(MatTek Corporation,2012)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に0.3%ベヘナミドプロピルジメチルアミンを含むシャンプーの10%水溶液を処理したところ、非刺激性または最小限の眼刺激性と予測された(MatTek Corporation,2012)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、0.3%濃度で非刺激-最小限の眼刺激(∗2)と報告されているため、眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
∗2 in vitro試験においてシャンプーを10%水溶液に希釈して処理しているのは、ヘアコンディショナー製品などでは水で洗い流して使用され、眼に入る場合は水で希釈された状態であることを想定したているためです。
∗∗∗
ベヘナミドプロピルジメチルアミンは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
∗∗∗
参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2019)「Safety Assessment of Fatty Acid Amidopropyl Dimethylamines as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(38)(1_Suppl),39S-69S.
- “Pubchem”(2019)「Behenamidopropyl dimethylamine」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Behenamidopropyl-dimethylamine> 2019年12月14日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「ヘアリンスの主剤とその作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,456-460.
- 鐵 真希男(2010)「コンディショナーの配合成分と製剤」化学と教育(58)(11),536-537.
- 日光ケミカルズ(2006)「脂肪酸アミドアミン塩」新化粧品原料ハンドブックⅠ,199.
- M. Minguet, et al(2010)「Behenamidopropyl Dimethylamine: unique behaviour in solution and in hair care formulations」International Jpurnal of Cosmetic Science(32)(4),246-257.