トリオレイン酸ソルビタンとは…成分効果と毒性を解説


・トリオレイン酸ソルビタン
[医薬部外品表示名称]
・トリオレイン酸ソルビタン
化学構造的に炭素数18の高級脂肪酸であるオレイン酸を疎水基(親油基)とし、多価アルコール(∗1)の一種であり、4個のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつソルビタン(∗2)を親水基としたトリエステル(∗3)であり、多価アルコールエステル型のソルビタン脂肪酸エステルに分類される分子量957.5の非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です(文献2:2019)。
∗1 多価アルコールとは、2個以上のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつアルコールを指し、水酸基の影響で非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール:エチルアルコール)は一価アルコールであり、多価アルコールと一価アルコールは別の物質です。二価以上を多価アルコールといい、ソルビタンは四価アルコールです。
∗2 ソルビタンとは、ソルビトールの脱水反応により得られる無水ソルビトールであり、水酸基を4個もつ四価アルコールですが、実際にソルビトールを脱水反応させると、反応する水酸基の位置によっていろいろな異性体ができることから、一般的にソルビタンと呼ばれる化合物は各種ソルビタンの混合物であり、単一の化合物ではありません。
∗3 「トリ(tri)」はギリシャ語で「3」を意味し、トリエステルとは3基のエステル結合であり、ソルビタンにオレイン酸が3つ結合した構成となります。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、メイクアップ化粧品、スキンケア化粧品、ヘアケア製品、ネイル製品などに使用されています。
乳化
乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。
乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献3:1990)。
そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献3:1990)。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、
HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値だけで一義的に界面活性剤の性質が定まるわけではありませんが、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献4:2015)。
トリオレイン酸ソルビタンの特性は、
HLB | 作用 | 分散・溶解性 |
---|---|---|
2.0 | W/O型乳化 | 分散しない |
このように報告されており(文献5:-;文献6:-)、W/O型乳化剤(親油性界面活性剤)として、主にメイクアップ化粧品、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品などに使用されています。
ただし、単独では分散性および乳化力は低く、一般的に他の乳化剤と組み合わせて油相の調整剤・乳化剤として使用されます(文献7:1970)。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1981-1998年および2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
トリオレイン酸ソルビタンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 210人の被検者に5%トリオレイン酸ソルビタンを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において1人の被検者に紅斑および丘疹が観察され、2回目のチャレンジパッチにおいて1人の被検者に同様の反応が観察されたが、他の被検者は皮膚反応を示さず、この製品は強い皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Leo Winter Associates,1978)
- [ヒト試験] 11人の被検者に5%トリオレイン酸ソルビタンを含むクリームを対象に21日間累積刺激性試験を実施し、累積刺激スコアを0-630のスケールで評価したところ、累積刺激スコアは72であり、この製品はわずかな皮膚刺激剤に分類された(Hill Top Research,1978)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激性および皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、皮膚累積刺激性はわずかな刺激性が報告されているため、皮膚累積刺激性は非刺激-わずかな累積刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に5%トリオレイン酸ソルビタンを含むローション0.05mLを点眼し、眼をすすがず、眼刺激性を評価したところ、2匹のウサギにわずかな刺激がみられたが、48時間以内に解消した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激-わずかな刺激が報告されているため、眼刺激性は非刺激-わずかな刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
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トリオレイン酸ソルビタンは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(1985)「Final Report on the Safety Assessment of Sorbitan Stearate, Sorbitan Laurate, Sorbitan Sesquioleate, Sorbitan Oleate, Sorbitan Tristearate, Sorbitan Palmitate, and Sorbitan Trioleate」Journal of the American College of Toxicology(4)(3),65-121.
- “Pubchem”(2019)「Sorbitan trioleate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sorbitan-trioleate> 2019年10月25日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
- 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL SO-30V」技術資料.
- CRODA(-)「Span 85」技術資料.
- 広田 博(1970)「多価アルコールエステル型」化粧品のための油脂・界面活性剤,120-125.
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