セテアリルグルコシドとは…成分効果と毒性を解説


・セテアリルグルコシド
化学構造的に炭素数16-18の高級アルコール混合物であるセテアリルアルコールとグルコースオリゴマー(∗1)のエーテル化物であり、多価アルコール縮合型(∗2)のアルキルグリコシド(∗3)に分類される非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です。
∗1 オリゴマーとは、比較的少数のモノマー(単量体)が結合した重合体のことであり、デシルグルコシドを構成するグルコースオリゴマーは、いくつかのグルコースが結合した重合体を指します。
∗2 グルコースは単糖であり、糖は多価アルコールの最初の酸化生成物であることから、非イオン界面活性剤の分類においては多価アルコール関連物質として多価アルコールに分類し、ここでは多価アルコール縮合型としています。
∗3 アルキルポリグリコシドとも呼ばれます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、アイケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、ヘアケア製品、シート&マスク製品などに使用されています。
乳化
乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。
乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献3:1990)。
そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献3:1990)。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、
HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値だけで一義的に界面活性剤の性質が定まるわけではありませんが、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献4:2015)。
セテアリルグルコシドの特性は、
HLB | 作用 | 分散・溶解性 |
---|---|---|
13.0 | O/W型乳化 | 透明溶液 |
このように報告されており(文献5:2016)、O/W型乳化剤(親水性界面活性剤)として主にアイケアクリーム、フェイスクリーム、乳液、ボディクリーム、ハンドクリーム、クレンジング、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、マスク製品などに使用されています。
混合乳化剤としてのセテアリルグルコシド
セテアリルグルコシドは、他の原料および/または乳化剤と混合することで混合系の特徴を有した原料として配合されることがあり、セテアリルグルコシドと以下の成分が併用されている場合は、混合系乳化剤として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | MONTANOV 68 MB |
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構成成分 | セテアリルアルコール、セテアリルグルコシド |
特徴 | あらゆる油性成分を安定に乳化し、かつ液晶乳化によりラメラを形成し経時安定性に優れた保湿性の高いリッチな質感のクリームを調製できるO/W型乳化剤 |
原料名 | EmulsiPure Argan |
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構成成分 | アルガニアスピノサ核油、セテアリルグルコシド、ステアリン酸グリセリル |
特徴 | アルガンオイル由来の成分で構成された天然系O/W型乳化剤 |
原料名 | EmulsiPure Olive |
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構成成分 | オリーブ果実油(∗4)、セテアリルグルコシド、ステアリン酸グリセリル |
特徴 | オリーブ油由来の成分で構成された天然系O/W型乳化剤 |
∗4 オリーブ果実油は「オリーブ油」と表記されることもあります。
原料名 | EmulsiPure Cherry Coffee |
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構成成分 | アラビアコーヒーノキ種子油、セテアリルグルコシド、ステアリン酸グリセリル |
特徴 | チェリーコーヒーオイル由来の成分で構成された天然系O/W型乳化剤 |
原料名 | EmulsiPure Green Coffee |
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構成成分 | アラビアコーヒーノキ種子油、セテアリルグルコシド、ステアリン酸グリセリル |
特徴 | グリーンコーヒーオイル由来の成分で構成された天然系O/W型乳化剤 |
原料名 | EmulsiPure Sunflower |
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構成成分 | ヒマワリ種子油、セテアリルグルコシド、ステアリン酸グリセリル |
特徴 | ひまわり油由来の成分で構成された天然系O/W型乳化剤 |
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2011年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
セテアリルグルコシドの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 10年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-最小限
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- タンパク変性:低い
- 皮膚アミノ酸および脂質溶出性:低い
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 50名の被検者に5%C16-C18グルコシド水溶液20μLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間における皮膚刺激スコアは0.03であり、チャレンジ期間において皮膚反応を示した被検者はいなかった(C. Garcia et al,2010)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。
タンパク質変性について
アルキルグリコシドは、非イオン界面活性剤ではあるものの洗浄剤に応用されており、化粧品における洗浄剤の対象である毛髪や皮膚の最外層はケラチンタンパク質であるため、これらタンパク質に対するアルキルグリコシド類の影響は重要です。
花王のタンパク質変性試験データによると、
水溶性タンパク質であるミオグロビンを用いてラウレス硫酸Na水溶液および各アルキルグリコシド水溶液を添加し、UV吸収量によってタンパク質量を測定したところ、ラウレス硫酸Na添加時ではUV吸収が減少し、タンパク変性が起きていることが確認されたが、アルキルグリコシド水溶液の添加では変化しないことが確認された。
このように報告されており(文献2:1993)、アルキルグリコシドはタンパク質変性に対して影響が少ないことが認められています。
この結果は、陰イオン界面活性剤が静電気的および疎水的な相互作用によってタンパク質に結合するのに対して、非イオン界面活性剤は疎水的相互作用および水素結合による結合であるため、結合エネルギーとしてタンパク質変性させるポテンシャルは、陰イオン界面活性剤のほうが高いためと考えられています(文献2:1993)。
皮膚のアミノ酸および脂質溶出について
ラウリル硫酸Naなどに代表されるAS系は、皮膚の角質層において水分要素である天然保湿因子やバリア機能を構築しているコレステロール、また皮脂腺由来のスクワレンなどを多く溶出することが知られており、皮膚のアミノ酸や脂質を溶出する洗浄剤の連用はバリア機能の低下や皮膚の乾燥による落屑などにつながる可能性が高まることから、健常な皮膚構成成分の溶出性の低い洗浄剤を使用することが重要であると考えられています。
1993年に花王によって報告されたラウリルグルコシドによる皮膚からのアミノ酸、脂質溶出の影響検証によると、
アミノ酸溶出量はラウリン酸Naが、脂質溶出量はラウレス硫酸Naが最も高い値を示した。
一方で、非イオン界面活性剤でありアルキルグリコシドであるラウリルグルコシドはどちらも陰イオン界面活性剤よりも溶出量は低く、また同じアルキルグリコシドであるデシルグルコシドよりもさらに低い値を示した。
このように報告されており(文献2:1993)、デシルグルコシドおよびラウリルグルコシドと類似したアルキルグリコシドであるセテアリルグルコシドは、皮膚からのアミノ酸および脂質類の溶出量が非常に低いと考えられます。
また、アルキルグリコシドは皮膚への吸着性も低いことが確認されています(文献2:1993)。
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セテアリルグルコシドは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2013)「Safety Assessment of Decyl Glucoside and Other Alkyl Glucosides as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(5 suppl),22S-48S.
- 亀谷 潤, 他(1993)「糖系非イオン性界面活性剤アルキルサッカライドの特性とシャンプーへの応用」日本化粧品技術者会誌(27)(3),255-266.
- 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
- Evonik Nutrition & Care GmbH(2016)「TEGO Care CG 90」技術資料.