ステアロイルグルタミン酸Naとは…成分効果と毒性を解説


・ステアロイルグルタミン酸Na
[医薬部外品表示名]
・N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム
化学構造的に炭素数18の高級脂肪酸であるステアリン酸の塩化物と酸性アミノ酸の一種であるグルタミン酸を縮合(∗1)して得られるステアロイルグルタミン酸のナトリウム塩であり、アミノ酸系界面活性剤のAG(Acyl Glutamate:アシルグルタミン酸塩)に分類される分子量435.6の陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です(文献3:2019)。
∗1 縮合(縮合反応)とは、同種または異種2分子から、水・アルコールなどの簡単な分子を分離することで新たに化合物をつくる反応のことです。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品などに使用されています。
乳化
乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。
乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献4:1990)。
そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献4:1990)。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、
HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値だけで一義的に界面活性剤の性質が定まるわけではありませんが、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献5:2015)。
ステアロイルグルタミン酸Naの特性は、
HLB | 作用 | 分散・溶解性 |
---|---|---|
20以上(∗2) | 親水性乳化 | 透明溶液 |
このように報告されています(文献7:2016;文献8:2018)。
∗2 非イオン界面活性剤のHLBは0-20の数値として表示することができますが、陰イオンおよび陽イオン界面活性剤は、一般的に単位質量あたりの親水基が非イオン界面活性剤よりもずっと大きく、いまのところHLBを計算する方法として汎用されているものがないため、20以上という数値となっています(文献6:2007)。
ステアロイルグルタミン酸Naは陰イオン界面活性剤ですが、脂肪酸鎖長の長いステアリン酸(炭素数18)をもっていることから洗浄性および起泡性は低いことが知られています(文献9:1985)。
また、電解質(∗3)と相性が良く、電解質を含む乳化物において乳化安定性が高いことから(文献7:2016)、主にビタミンC誘導体、アミノ酸類およびPCA類(∗4)といった電解質を含む製品の乳化剤として汎用されています。
∗3 電解質とは、水に溶けると電気を通す物質(イオン)のことであり、電解質をO/Wエマルション製剤に多量に配合すると、乳化粒子が凝集するため保存安定性が著しく損なわれることから、電解質を含む乳化には技術的考慮または電解質と相性の良い乳化剤が必要になります(文献10:2010)。
∗4 保湿成分であり、NMF成分であるPCA-Naが代表的なPCA類です。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2012-2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ステアロイルグルタミン酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1970年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] ウサギを用いて5%ステアロイルグルタミン酸Na溶液を対象にDraize法に基づいて24時間閉塞パッチテストを実施したところ、中程度の皮膚刺激性であった
BASFの安全性データ(文献2:2015)によると、
- [動物試験] ウサギを用いてステアロイルグルタミン酸Naを対象にOECD404テストガイドラインに基づいて皮膚刺激性試験を実施したところ、非刺激性であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、5%濃度において中程度の皮膚刺激性が報告されていますが、実際の使用濃度は0.2%-1.0%であることから、通常使用下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] ウサギを用いて5%ステアロイルグルタミン酸Na溶液を対象にDraize法に基づいて眼刺激性試験を実施したところ、軽度の眼刺激性であった
BASFの安全性データ(文献2:2015)によると、
- [動物試験] ウサギを用いてステアロイルグルタミン酸Naを対象にOECD405テストガイドラインに基づいて眼刺激性試験を実施したところ、刺激性であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して軽度の眼刺激性が報告されているため、軽度の眼刺激が起こる可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [動物試験] モルモットを用いてステアロイルグルタミン酸Naを対象にMaximization皮膚感作試験を実施したところ、陰性であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
ステアロイルグルタミン酸Naは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
∗∗∗
参考文献:
- 味の素株式会社(2010)「Amisoft HS-11P」Safety Data Sheet.
- BASF(2015)「Eumulgin SG」Safety Data Sheet.
- “Pubchem”(2019)「Sodium stearoyl glutamate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sodium-stearoyl-glutamate> 2019年9月9日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
- 藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水性と疎水性の関係(HLB)」界面活性剤入門,141-147.
- 味の素株式会社(2016)「Amisoft HS-11P」技術資料.
- BASF(2018)「Eumulgin SG」技術資料.
- 竹原 将博(1985)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(34)(11),964-972.
- 小澤 祐子, 他(2010)「電解質を配合した超低粘性O/Wエマルション製剤の開発」日本化粧品技術者会誌(44)(1),34-40.