ステアルトリモニウムクロリドとは…成分効果と毒性を解説


・ステアルトリモニウムクロリド
[医薬部外品表示名]
・塩化ステアリルトリメチルアンモニウム
化学構造的に炭素数18のアルキル基をもつ塩化アルキルトリメチルアンモニウムであり、第四級アンモニウム塩型のモノアルキル型四級アンモニウム塩に分類される分子量348の陽イオン界面活性剤(カチオン界面活性剤)です(文献3:2019)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的でヘアコンディショナー、ヘアトリートメント、ヘアケア製品に汎用されています。
帯電防止
帯電防止に関しては、まず前提知識として帯電防止について解説します。
水道水やシャンプーは一般的に弱酸性(pH5-6)であることから、ぬれた毛髪の表面はマイナスに帯電しており、一方で陽イオン界面活性剤は以下の図のように、
親水基部分がプラスの荷電をもっている構造であることから、親水基部分がマイナスに帯電した毛髪表面に静電的に吸着します。
そして、疎水基(親油基)部分は外側を向くため、毛髪表面が親油基で覆われることでなめらかになり、その結果として静電気の発生をおさえ(帯電防止)、すすぎや乾燥後の摩擦を低減し、毛髪のくし通りがよくなります(文献4:1990;文献5:2010)。
ステアルトリモニウムクロリドは、代表的な陽イオン界面活性剤のひとつであり、帯電防止目的で炭素数16-18の高級アルコール(∗1)と併用してヘアコンディショナー、ヘアトリートメントなどに汎用されています。
∗1 高級アルコールとして主にセタノール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコールまたはべヘニルアルコールのいずれかまたは複数が併用されます。
高級アルコールは、陽イオン界面活性剤と水との組み合わせによりゲル構造を形成し、効率よく毛髪に吸着し、塗布からすすぎにかけての毛髪のからみを効果的に除去し、滑らかさを増す役割を果たします(文献5:2010)。
一般的に陽イオン界面活性剤と高級アルコールの配合比率は1:3から1:10の範囲であることから、成分表示名称一覧には高級アルコールが先に、陽イオン界面活性剤が後に記載されます。
またステアルトリモニウムクロリドは、溶剤として水、エタノールまたはイソプロパノールで溶かし込んだものが原料であることが多いため、ステアルトリモニウムクロリドが配合されている場合は、成分表示名称にエタノールまたはイソプロパノールが記載されている可能性が考えられます。
混合原料としてのステアルトリモニウムクロリド
ステアルトリモニウムクロリドは、高級アルコールをはじめほかの油性成分と混合することで相乗的なコンディショニング効果を発揮することが知られており、ステアルトリモニウムクロリドと以下の成分が併用されている場合は、混合系原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | DN-RコンクVP |
---|---|
構成成分 | BG、イソプロパノール、オリーブ果実油(∗2)、コカミドMEA、ステアルトリモニウムクロリド、セタノール、水添パーム油、水 |
特徴 | 油脂やワックスと併用することでトリートメント効果を調整したヘアリンス、ヘアコンディショナー用基剤 |
∗2 オリーブ果実油は「オリーブ油」と表記されることもあります。
原料名 | NIKKOL NET-SG-60C |
---|---|
構成成分 | ステアルトリモニウムクロリド、PG、グリセリン、ジメチコン、シクロメチコン、水 |
特徴 | 高重合シリコーンおよび環状シリコーンを配合した乳化物であり、毛髪用ツヤ出し剤、ヘアリンス、ヘアトリートメント用コンディショニング剤 |
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2009-2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
ステアルトリモニウムクロリドの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1970年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:0.448%濃度以下または濃度に関わらず3分以下の曝露においてほとんどなし
- 眼刺激性:4%濃度以下において最小限-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、ヘアケア製品のみに配合されることから、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] 4匹のウサギの剃毛した皮膚に79.2%ステアルトリモニウムクロリドを、3匹には3分間、残りの1匹には1時間半閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、1時間適用したウサギは22日まで中程度の紅斑が観察されたが、3分間適用した群では皮膚反応は観察されなかった。これらの結果からこの試験物質は1時間の曝露では刺激剤であり、3分間の曝露では刺激剤ではないと結論付けられた(Scientific Committee on Cosmetic Products,2006)
- [動物試験] 3匹のウサギの剃毛した皮膚に0.448%および4.48%ステアルトリモニウムクロリド溶液0.5mLを4時間半閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、4.48%濃度では72時間まで中程度の紅斑および軽度の浮腫が観察された。0.448%濃度では1匹に48時間まで軽度の紅斑が観察されたが浮腫は観察されなかった。これらの結果からこの試験物質は4.48%濃度で軽度の刺激剤であり、0.448%で非刺激剤であると結論付けられた(Scientific Committee on Cosmetic Products,2006)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、79.2%の高濃度でも3分間の曝露では非刺激であり、また0.448%および4.48%で非刺激および軽度の刺激が報告されていることから、0.448%濃度以下または濃度に関わらず3分以下の曝露において皮膚刺激性はほとんどなく、4.48%濃度以上または3分以上の中長時間曝露においては軽度-中程度の皮膚刺激を引き起こす可能性が考えられます。
ただし、ステアルトリモニウムクロリドはヘアケア製品のみに配合されることから、化粧品配合量およびヘアケア製品としての通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
眼刺激性について
- [in vitro試験] 畜牛の眼球から摘出した角膜を用いて、角膜表面に0.75%ステアルトリモニウムクロリドを含むヘアコンディショニング製剤を処理した後、角膜の濁度ならびに透過性の変化量を定量的に測定したところ(BCOP法)、軽度の眼刺激性があると予測された(Anonymous,2007)
- [動物試験] 3匹のウサギの眼に0.448%ステアルトリモニウムクロリド水溶液0.1mLを点眼し、眼刺激性を評価したところ、角膜混濁および虹彩は観察されなかったが、結膜炎は7日目まで観察された。腫れは48時間まで観察され、2匹は72時間まで続いた。すべての眼刺激反応は14日目までにすべて消失した。これらの結果から0.448%ステアルトリモニウムクロリド水溶液は一過性の結膜刺激を誘発すると結論付けられた(OS Kwon et al,2004)
日光ケミカルズの安全性データ(文献2:2018)によると、
- [動物試験] ウサギの眼に25%および1.25%ステアルトリモニウムクロリド水溶液0.1mLを点眼し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、25%濃度において眼刺激スコアは1,2および7日後でそれぞれ33.5,37.8および73.8であり、1.25%濃度において1,2および7日後でそれぞれ14.7,10.7および0であった
- [動物試験] ウサギの眼に2%ステアルトリモニウムクロリド水溶液0.1mLを点眼し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、眼刺激スコアは1,2および7日後でそれぞれ7.3,4.0および0であった
- [動物試験] ウサギの眼に4%ステアルトリモニウムクロリド水溶液0.1mLを点眼し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、眼刺激スコアは1および2日後でそれぞれ28.3および24.0であった
と記載されています。
試験データをみるかぎり、4%濃度以下において最小限-軽度の眼刺激が報告されているため、4%濃度以下において眼刺激性は最小限-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
また、濃度が低ければ低いほど刺激性も低下する傾向がみられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [動物試験] 20匹のモルモットにステアルトリモニウムクロリドを対象にBuehler法に基づいた皮膚感作性試験を実施した。誘導期間において4%ステアルトリモニウムクロリド溶液を15日にわたって6時間閉塞パッチ適用し、2週間の休息期間を設けた後に1%ステアルトリモニウムクロリド溶液を用いて未処理部位にチャレンジパッチを適用したところ、チャレンジ期間において臨床的に有意な皮膚反応は観察されなかった。この結果からこの試験物質は、この試験条件下において皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Scientific Committee on Cosmetic Products,2006)
- [動物試験] 10匹のモルモットにステアルトリモニウムクロリドを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではないと結論付けられた(Scientific Committee on Cosmetic Products,2006)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されていることから、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
∗∗∗
ステアルトリモニウムクロリドは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
∗∗∗
参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(2012)「Safety Assessment of Trimoniums as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(6 Suppl),296S-341S.
- 日光ケミカルズ株式会社(2018)「NIKKOL CA-2450」安全データシート.
- “Pubchem”(2019)「Docosyltrimethylammonium chloride」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Docosyltrimethylammonium-chloride> 2019年12月11日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「ヘアリンスの主剤とその作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,456-460.
- 鐵 真希男(2010)「コンディショナーの配合成分と製剤」化学と教育(58)(11),536-537.