ステアリン酸Naとは…成分効果と毒性を解説

洗浄 起泡 乳化
ステアリン酸Na
[化粧品成分表示名称]
・ステアリン酸Na

[医薬部外品表示名称]
・ステアリン酸ナトリウム、石けん用素地

化学構造的に炭素数18の高級脂肪酸であるステアリン酸のナトリウム塩(高級脂肪酸アルカリ金属塩)であり、セッケン(Soap)(∗1)に分類される分子量306.5の陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です(文献2:2019)

∗1 セッケンには、「セッケン」「石けん」「せっけん」「石鹸」など4種の表記法があり、これらの用語には界面活性剤を意味する場合と界面活性剤を主剤とした製品を意味する場合がありますが、化学分野では界面活性剤を「セッケン」、製品を「せっけん」と表現する決まりになっています。それらを考慮し、ここでは界面活性剤を「セッケン」、セッケンを主剤とした製品を「石鹸」と記載しています。

セッケンの歴史は非常に古く、紀元前3000年頃のメソポタミア地方の出土品にセッケンらしきものの記録があるといわれていますが、工業的に大規模生産されるようになったのは1800年代であり、セッケンが普及したのもこの頃です(文献3:1979)

セッケンの製造法には、

  • ケン化法:油脂 + 水酸化Naまたは水酸化K → 油脂脂肪酸Naまたは油脂脂肪酸K + グリセリン
  • 中和法:高級脂肪酸 + 水酸化Naまたは水酸化K → 高級脂肪酸Naまたは高級脂肪酸K + 水

この2種類があり、またケン化または中和に用いるアルカリは水酸化Na水酸化Kでは、

  • 水酸化Naを用いてケン化または中和する場合:固形石鹸
  • 水酸化Kを用いてケン化または中和する場合:液体石鹸

このように利用目的が異なり(文献3:1979)、ステアリン酸Naは高級脂肪酸であるステアリン酸 + 水酸化Naの中和法によって得られることから、一般に固形石鹸として利用されます。

高級脂肪酸ナトリウム塩は油脂から得られるものを使用しており、一般に油脂の主体となる3種類以上の高級脂肪酸が配合されるため、成分表示一覧には3種類以上の高級脂肪酸ナトリウム塩が記載されることが多く、ステアリン酸Naを含む脂肪酸ナトリウム塩の脂肪酸はヤシ油などから得られるため、ステアリン酸Naが配合される場合は一緒にラウリン酸Naおよびミリスチン酸Naをはじめとして、パルミチン酸Naオレイン酸Naのいずれかまたは複数が併用されると考えられます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、洗顔石鹸、ボディ石鹸、スキンケア化粧品、メイクアップ化粧品などに使用されています。

起泡・洗浄

起泡・洗浄に関しては、セッケンは洗浄力および起泡力を有しており、各脂肪酸における洗浄力および起泡力は、

脂肪酸名 洗浄力
(温水)
洗浄力
(冷水)
起泡性 泡持続性
飽和脂肪酸 ラウリン酸
ミリスチン酸
パルミチン酸
ステアリン酸
不飽和脂肪酸 オレイン酸

このような傾向が明らかにされており(文献4:1990)、ステアリン酸Naなどの炭素数の多い脂肪酸は70-80℃の温度条件で洗浄力が最大化しますが、温度が低下するにつれて水に対する溶解度が低下し(文献7:1965)、それにともない洗浄力が低下するため、実際にすすぎに使用する38℃付近ではラウリン酸Naやミリスチン酸Naと比較すると洗浄力が低くなることが知られています。

次に、1955年に日本油脂によって報告された飽和脂肪酸のナトリウムセッケンの起泡力検証によると、

各飽和脂肪酸のナトリウムセッケンを水道水溶液(温度35℃)で0.25%濃度に希釈し、それぞれの起泡力をRoss&Miles法に基づいて測定したところ、以下の表のように、

飽和脂肪酸 炭素数 起泡力:泡の高さ(mm)
直後 5分後
ラウリン酸 C₁₂ 217 208
ミリスチン酸 C₁₄ 350 350
パルミチン酸 C₁₆ 37 32
ステアリン酸 C₁₈ 25 21

起泡力に最適な脂肪酸はC₁₂-C₁₄に存在し、他の炭素数ではかなり起泡力が低下していることがわかった。

このような検証結果が明らかにされており(文献5:1955)、ステアリン酸Naはラウリン酸Naやミリスチン酸Naと比較して微細な泡が得られるものの、温度が低下するにつれて水に対する溶解度が低下し(文献7:1965)、それにともない起泡力が低下するため、35℃付近では起泡力はかなり低下することが知られています。

ただし、市販の洗浄製品には使用されている脂肪酸ナトリウム塩は複数の混合物であることから、配合されている脂肪酸ナトリウム塩の総合的な洗浄力、起泡性および泡持続性を示します(文献6:1993)

乳化

乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。

乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献9:1990)

そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献9:1990)

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

現在、一般的に乳化に使用される界面活性剤は非イオン界面活性剤ですが、1950年代以降非イオン界面活性剤が発達するまでは、化粧品用エマルションの乳化剤として陰イオン系のステアリン酸セッケンなどが主として使用されてきました(文献8:1969)

ステアリン酸セッケンは、様々な油性成分を乳化し、またO/Wエマルションを生成するための乳化剤として優れており、さらにセッケン乳化によって生成したエマルションは安定性が高く、ある程度の硬度をもちながらさっぱりした感触を付与するという特徴から、非イオン界面活性剤が発達した今日でもある程度の硬度とさっぱりした感触を目的に使用されています(文献8:1969)

ただし、ステアリン酸セッケンを乳化剤としたエマルションは温度によって硬度が変化しやすく、また経日変化が大きいことから、ステアリン酸セッケンの欠点を補うために非イオン界面活性剤と併用する処方が用いられていることが多いです(文献8:1969)

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2003年および2016-2019年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ステアリン酸Naの配合製品数と配合量の調査結果(2003年および2016-2019年)

スポンサーリンク

ステアリン酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について

ステアリン酸Naの現時点での安全性は、

  • 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 100年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:7%濃度以下においてほとんどなし-中程度
  • 眼刺激性:25%濃度以下において軽度-中程度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1990)によると、

  • [ヒト試験] 20人の被検者に0.5%ステアリン酸Na水溶液を対象に24時間閉塞パッチ適用したところ、4人の被検者は最小限-中程度の紅斑を示し、残りの16人は皮膚刺激を示さなかった。この試験物質は許容しうる典型的なセッケン反応であった(Avon Products,1973)
  • [ヒト試験] 212人の被検者に7%ステアリン酸Naを含むスティック型デオドラント製品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、誘導期間において61人に紅斑反応(59人がわずか、1人が中程度および1人が重度の反応)が観察され、チャレンジ期間においては24時間で7人にわずかな紅斑が観察されたが、72時間ですべて消失した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
  • [ヒト試験] 10人の被検者に0.1%-0.25%ステアリン酸Naを含む入浴石鹸水溶液を対象に21日間累積皮膚刺激性試験を実施したところ、いずれの被検者も最小限の紅斑反応を示した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
  • [ヒト試験] 100人の被検者に0.3%-0.75%ステアリン酸Naを含む入浴石鹸水溶液を対象に21日間累積皮膚刺激性試験を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作性の兆候を示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、多くの被検者に最小限-中程度の紅斑が報告されているため、7%濃度以下において最小限-中程度の皮膚刺激性を引き起こす可能性があると考えられます。

また、皮膚感作性の報告はないため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1990)によると、

  • [動物試験] 5匹のウサギの片眼に7%ステアリン酸Naを含むスティック型デオドラント製剤を適用し、眼はすすぎ、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、1時間後および1,2,3,4および7日目で眼刺激スコアはそれぞれ29,27,21,16,13および7であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
  • [動物試験] 5匹のウサギの片眼に7%ステアリン酸Naを含むスティック型デオドラント製剤を適用し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、1時間後および1,2,3,4および7日目で眼刺激スコアはそれぞれ29,31,24,21,15および8であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
  • [動物試験] ウサギの片眼に10%-25%ステアリン酸Naを含む入浴石鹸を適用し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、軽度の眼刺激性に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、7%-25%濃度の範囲で軽度-中程度の眼刺激性が報告されているため、25%濃度以下において軽度-中程度の眼刺激性を引き起こす可能性があると考えられます。

∗∗∗

ステアリン酸Naは界面活性剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:界面活性剤

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(1990)「Final Report of the Safety Assessment of Lithium Stearate, Aluminum Distearate, Aluminum Stearate, Aluminum Tristearate, Ammonium Stearate, Calcium Stearate, Magnesium Stearate, Potassium Stearate, Sodium Stearate, and Zinc Stearate」Journal of the American College of Toxicology(1)(2),143-177.
  2. “Pubchem”(2019)「Sodium stearate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sodium-stearate> 2019年9月25日アクセス.
  3. 小野 正宏(1979)「身のまわりの化学”セッケンおよびシャンプー”」化学教育(27)(5),297-301.
  4. 田村 健夫, 他(1990)「石けん」香粧品科学 理論と実際 第4版,336-348.
  5. 難波 義郎, 他(1955)「洗浄力に寄与する要因の研究(第1報)」油脂化学協会誌(4)(5),238-244.
  6. 宮澤 清(1993)「化粧せっけん及びヘアシャンプーの泡立ちとソフト感」油化学(42)(10),768-774.
  7. 中垣 正幸(1965)「界面化学 (応用篇). IV.」油化学(14)(2),72-78.
  8. 光井 武夫(1969)「化粧品における応用」油化学(18)(9),521-529.
  9. 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.

スポンサーリンク

TOPへ