ステアリン酸ソルビタンとは…成分効果と毒性を解説


・ステアリン酸ソルビタン
[医薬部外品表示名称]
・モノステアリン酸ソルビタン
化学構造的に炭素数18の高級脂肪酸であるステアリン酸を疎水基(親油基)とし、多価アルコール(∗1)の一種であり、4個のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつソルビタン(∗2)を親水基としたモノエステル(∗3)であり、多価アルコールエステル型のソルビタン脂肪酸エステルに分類される分子量430.6の非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です(文献2:2019)。
∗1 多価アルコールとは、2個以上のヒドロキシ基(水酸基:-OH)をもつアルコールを指し、水酸基の影響で非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール:エチルアルコール)は一価アルコールであり、多価アルコールと一価アルコールは別の物質です。二価以上を多価アルコールといい、ソルビタンは四価アルコールです。
∗2 ソルビタンとは、ソルビトールの脱水反応により得られる無水ソルビトールであり、水酸基を4個もつ四価アルコールですが、実際にソルビトールを脱水反応させると、反応する水酸基の位置によっていろいろな異性体ができることから、一般的にソルビタンと呼ばれる化合物は各種ソルビタンの混合物であり、単一の化合物ではありません。
∗3 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、シート&マスク製品、ネイル製品などに使用されています。
乳化
乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。
乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献3:1990)。
そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献3:1990)。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、
HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値だけで一義的に界面活性剤の性質が定まるわけではありませんが、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献4:2015)。
ステアリン酸ソルビタンの特性は、
HLB | 作用 | 分散・溶解性 |
---|---|---|
4.7 | W/O型乳化 | わずかに分散 |
このように報告されています(文献5:-;文献6:-)。
ステアリン酸ソルビタンは、W/O型乳化剤(親油性界面活性剤)ですが、一般的にソルビタン脂肪酸エステルは単独で乳化剤として用いることはほとんどなく、他のO/W乳化剤(親水性乳化剤)と組み合わせてO/W型乳化剤・乳化安定剤として使用されます(文献7:1970)。
混合乳化剤としてのステアリン酸ソルビタン
ステアリン酸ソルビタンは、他の乳化剤と混合することで混合系の特徴を有した原料として配合されることがあり、ステアリン酸ソルビタンと以下の成分が併用されている場合は、混合系乳化剤として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NIKKOL MGS-TGV | HLB | 4.0 |
---|---|---|---|
構成成分 | ステアリン酸グリセリル、ステアリン酸、ステアリン酸ソルビタン、ジオレス-8リン酸Na | ||
特徴 | 酸性安定型モノグリセリドの親油性乳化剤 |
原料名 | SP ARLACEL 2121 MBAL | HLB | 6.0 |
---|---|---|---|
構成成分 | ステアリン酸ソルビタン、ヤシ脂肪酸スクロース | ||
特徴 | 連続した水相中で多重層ラメラ液晶構造を形成し、水相にゲルネットワークを形成する自己乳化系O/W型乳化剤であり、乳化安定性の向上、優れた展延性、なめらかで軽い感触を付与 |
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1981-1998年および2014年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ステアリン酸ソルビタンの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1950年代からの使用実績
- 皮膚一次刺激性:ほとんどなし-軽度
- 皮膚累積刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性:ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 205名の被検者に2%ステアリン酸ソルビタンを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において10名の被検者に軽度の紅斑、2名の被検者に中程度の紅斑がみられたが、これらは臨床的に重要ではないとみなされた。いずれの被検者も感作反応は示さなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 108名の被検者に2%ステアリン酸ソルビタンを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において1名の被検者に紅斑がみられたが、他の被検者に皮膚反応はなかった。チャレンジパッチにおいては3名の被検者に紅斑がみられたが、試験内での許容範囲であり、この製品は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [ヒト試験] 107名の被検者に4%ステアリン酸ソルビタンを含む製品を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、いずれの被検者も試験期間において皮膚反応はなく、この製品は皮膚刺激剤ではなく、皮膚感作剤である可能性は極めて低いと結論づけられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1973)
- [ヒト試験] 13名の被検者に2%ステアリン酸ソルビタンを含む製品を対象に21日間累積皮膚刺激性試験を閉塞パッチにて実施し、総合累積皮膚刺激スコアを0-630のスケールで評価したところ、総合累積皮膚刺激スコアは30.77であり、この化合物は軽度の累積皮膚刺激剤と考えられた(Hill Top Research,1981)
- [ヒト試験] 13名の被検者に4%ステアリン酸ソルビタンを含む製品を対象に21日間累積皮膚刺激性試験を閉塞パッチにて実施し、総合累積皮膚刺激スコアを0-630のスケールで評価したところ、総合累積皮膚刺激スコアは15.38であり、この化合物は軽度の累積皮膚刺激剤と考えられた(Hill Top Research,1981)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、皮膚感作性はなしと報告されており、また皮膚一次刺激性および皮膚累積刺激性は非刺激-軽度と報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられますが、皮膚一次刺激性および皮膚累積刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に30%ステアリン酸ソルビタン水溶液0.03mLを点眼し、3匹は眼をすすぎ、6匹は眼をすすがず、眼刺激性を7日目まで評価したところ、いずれのウサギも眼刺激は観察されなかった(J. F. Treon,1963)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に4%ステアリン酸ソルビタンを含むクリーム製剤0.004mLを適用し、眼はすすがず、眼刺激性を7日目まで評価したところ、わずかな角膜刺激が観察されたが48時間以内に解消した(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激-わずかな眼刺激性が報告されているため、眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
光毒性および光感作性について
- [ヒト試験] 10名の被検者の背中2箇所に2%ステアリン酸ソルビタンを含む製品5μL/c㎡を適用し、処置部位の1つと未処置部位にUVライトを照射し、照射24および48時間後に試験部位を評価したところ、いずれの被検者も皮膚反応は観察されず、この製品は光毒性ではなかった(Leo Winter Association,1979)
- [ヒト試験] 27名の被検者に2%ステアリン酸ソルビタンを含む製品を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、チャレンジパッチにおいていずれの被検者も皮膚反応は観察されず、この製品は光感作剤ではなかった(Leo Winter Association,1979)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
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ステアリン酸ソルビタンは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(1985)「Final Report on the Safety Assessment of Sorbitan Stearate, Sorbitan Laurate, Sorbitan Sesquioleate, Sorbitan Oleate, Sorbitan Tristearate, Sorbitan Palmitate, and Sorbitan Trioleate」Journal of the American College of Toxicology(4)(3),65-121.
- “Pubchem”(2019)「Sorbitan stearate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Sorbitan-stearate> 2019年10月22日アクセス.
- 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
- 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL SS-10V」技術資料.
- 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL SS-10MV」技術資料.
- 広田 博(1970)「多価アルコールエステル型」化粧品のための油脂・界面活性剤,120-125.