ステアリン酸グリセリルとは…成分効果と毒性を解説

乳化
ステアリン酸グリセリル
[化粧品成分表示名称]
・ステアリン酸グリセリル

[医薬部外品表示名称]
・親油型モノステアリン酸グリセリル

化学構造的に炭素数18の高級脂肪酸であるステアリン酸を疎水基(親油基)とし、多価アルコール(∗1)の一種であり、3個の水酸基(ヒドロキシ基)をもつグリセリンを親水基としたモノエステル(∗2)であり、多価アルコールエステル型のグリセリン脂肪酸エステルに分類される分子量358.6の非イオン界面活性剤(ノニオン界面活性剤)です(文献3:2019)

∗1 多価アルコールとは、非常に高い吸湿性と保水性をもっているため化粧品に最も汎用されている保湿剤です。名称に「アルコール」がついているので勘違いしやすいですが、一般的なアルコール(エタノール:エチルアルコール)は一価アルコールであり、多価アルコールと一価アルコールは別の物質です。二価以上を多価アルコールといい、グリセリンは三価アルコールです。

∗2 モノエステルとは分子内に1基のエステル結合をもつエステルであり、通常はギリシャ語で「1」を意味する「モノ(mono)」が省略され「エステル結合」や「エステル」とだけ記載されます。2基のエステル結合の場合はギリシャ語で「2」を意味する「ジ(di)」をつけてジエステルと記載されます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、日焼け止め製品、洗顔料、洗浄製品、ヘアスタイリングなど様々な製品に汎用されています。

乳化

乳化に関しては、まず前提知識として乳化とエマルションについて解説します。

乳化とは、1つの液体にそれと溶け合わない別の液体を微細な粒子の状態に均一に分散させることをいいます(文献4:1990)

そして、乳化の結果として生成された分散系溶液をエマルションといい、基本的な化粧品用エマルションとして、以下の図のように、

エマルションの基本構造

水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散している水中油滴型(O/W型:Oil in Water type)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散している油中水滴型(W/O型:Water in Oil type)があります(文献4:1990)

身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。

また、界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す指標としてはHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水親油バランス)が用いられることが多く、以下の図のように、

界面活性剤のHLB値とその作用、分散・溶解の挙動

HLB値は、0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなり、また界面活性剤が水中に分散するためには3以上、溶解するためには10以上が要求されることが知られており、HLB値だけで一義的に界面活性剤の性質が定まるわけではありませんが、HLB値によってその界面活性剤の性質や用途もある程度決定されます(文献5:2015)

ステアリン酸グリセリルの特性は、

HLB 作用 分散・溶解性
3.0 , 3.5 , 4.0  5.0 , 6.0 親油性乳化 , W/O型乳化 分散しない – わずかに分散

このように報告されています(文献9:-;文献10:-;文献11:-;文献12:-;文献13:-)

ただし、ステアリン酸グリセリルはW/O型乳化剤(親油性界面活性剤)であるものの、一般的に他のO/W型乳化剤(親水性乳化剤)と組み合わせてHLBや乳化安定性を調整し、混合系O/W型乳化剤として汎用されています(文献6:1990;文献7:1970)

ステアリン酸グリセリルは、乳化力に優れ、O/W型エマルションの粘性を上げる働きをする一方で、結晶性が強く、粘性の経時的変化を起こしやすい特徴・課題を抱えていますが、ステアリン酸PGを併用・混合することで結晶化しにくくなる処方が知られており、ステアリン酸PGが併用されている場合はステアリン酸グリセリルの結晶化抑制処方である可能性が考えられます(文献8:2006)

混合乳化剤としてのステアリン酸グリセリル

ステアリン酸グリセリルは、他の乳化剤と混合することで混合系の特徴を有した原料として配合されることがあり、ステアリン酸グリセリルと以下の成分が併用されている場合は、混合系乳化剤として配合されている可能性が考えられます。

原料名 CERASYNT Q HLB
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸K
特徴・主な用途 O/W型基本乳化剤
原料名 CERASYNT WM HLB
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリルアルコールラウリル硫酸Na
特徴・主な用途 O/W型基本乳化剤
原料名 CERASYNT 945 HLB
構成成分 ステアリン酸グリセリルラウレス-23
特徴・主な用途 O/W型基本乳化剤
原料名 GELOT 64 CG HLB 10.0
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸PEG-75
特徴・主な用途 クリーム用O/W型乳化剤・乳化安定化剤
原料名 TEFOSE 2561 CG HLB 10.0
構成成分 ステアリン酸PEG-6、ステアリン酸グリセリルセテス-20ステアレス-20
特徴・主な用途 クリームまたは乳液用O/W型乳化剤
原料名 TEFOSE HC HLB 10.5
構成成分 セタノールステアリン酸グリセリルセテス-20ステアレス-20
特徴・主な用途 ヘアケア用O/W型乳化剤
原料名 EMULIUM DELTA MB HLB 9.0
構成成分 セタノールステアリン酸グリセリルステアリン酸PEG-75セテス-20ステアレス-20
特徴・主な用途 液晶構造を形成し比較的乳化が難しい活性成分の乳化に適したO/W型乳化剤
原料名 EMULIUM KAPPA 2 HLB 11.0
構成成分 (キャンデリラ/ホホバ/コメヌカ)ポリグリセリル-3エステルズ、ステアリン酸グリセリルセテアリルアルコ-ルステアロイルラクチレートNa
特徴・主な用途 独特なクッション性に富み、リッチでクリーミーな感触をもつ保湿効果に優れたPEGフリーのO/W型乳化剤
原料名 NIKKOL MGS-DEXV HLB 5.5
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸グリセリル(SE)、ステアリン酸PEG-10
特徴・主な用途 自己乳化型親油性乳化剤
原料名 NIKKOL MGS-TGLV HLB 2.0
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸、ステアリン酸グリコール、トリセテス-5リン酸
特徴・主な用途 酸性安定型モノグリセリドの親油性乳化剤
原料名 NIKKOL MGS-TGV HLB 4.0
構成成分 ステアリン酸グリセリルステアリン酸ステアリン酸ソルビタン、ジオレス-8リン酸Na
特徴・主な用途 酸性安定型モノグリセリドの親油性乳化剤
原料名 NIKKOL ニコムルス LC
構成成分 ベヘニルアルコールステアリルアルコール、PEG-20フィトステリル、セタノールフィトステロールズステアリン酸グリセリル水添レシチントリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
特徴・主な用途 皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤
原料名 NIKKOL ニコムルス LC-EF
構成成分 ベヘニルアルコールステアリルアルコールフィトステロールズステアリン酸グリセリルミリスチン酸ポリグリセリル-10水添レシチントリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
特徴・主な用途 皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤
原料名 PROLIPID 141
構成成分 ステアリン酸グリセリルベヘニルアルコールパルミチン酸ステアリン酸レシチン、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコールセタノール
特徴・主な用途 皮膚上で細胞間脂質と類似の安定なラメラ型液晶構造を形成しバリア機能を発揮する複合O/W型乳化剤

実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1976年および2014-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

ステアリン酸グリセリルの配合製品数と配合量の調査結果(1976年および2014-2015年)

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ステアリン酸グリセリルの安全性(刺激性・アレルギー)について

ステアリン酸グリセリルの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚一時刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚累積刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性:ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1982;文献2:2015)によると、

  • [ヒト試験] 20人の被検者7グループ(合計140人)に100%ステアリン酸グリセリルを対象に単一24時間閉塞パッチを適用し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0-4のスケールで評価したところ、6人の被検者に刺激反応が観察され、そのうち最も高いPIIは2であり、最大刺激反応でも軽度の皮膚刺激であると結論づけられた(Avon Products,1973)
  • [ヒト試験] 20人の被検者に13.8%ステアリン酸グリセリルを含む美容液を単一閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0-4のスケールで評価したところ、PIIは0.03であり、最小限の皮膚刺激に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
  • [ヒト試験] 20人の被検者に5%ステアリン酸グリセリルを含むクリームを単一閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にPII(Primary Irritation Index:皮膚一次刺激性指数)を0-4のスケールで評価したところ、PIIは0.3であり、軽度の皮膚刺激に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
  • [ヒト試験] 14人の被検者に12.5%ステアリン酸グリセリルを含むクリームを対象に21日間累積皮膚刺激性試験を閉塞パッチにて実施したところ、試験を通じて5人の被検者に最小限または明瞭な紅斑がみられたが、この試験物質は本質的に非刺激であると結論付けられた(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
  • [ヒト試験] 9人の被検者に5%ステアリン酸グリセリルを含むクリームを対象に21日間累積皮膚刺激性試験を閉塞パッチにて実施し、累積皮膚刺激スコアを0-756のスケールで評価したところ、累積刺激スコアは48であった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
  • [ヒト試験] 20人の被検者に5%ステアリン酸グリセリルを含むミネラルオイルと水の乳化物50μLを48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去24時間後に皮膚反応を評価したところ、処置部位と未処置部位の間に違いはみられなかった(E Barany et al,2000)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1982)によると、

  • [動物試験] 9匹のウサギの片眼に100%ステアリン酸グリセリルを適用し、眼はすすぎ、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、1時間後および1,2,3,4および5日目で眼刺激スコアはすべて0であり、非刺激性に分類された(Leberco Labs,1976)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%ステアリン酸グリセリルを適用し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、1,2および3日目で眼刺激スコアはすべて0であり、非刺激性に分類された(Hill Top Research,1968)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に50%ステアリン酸グリセリルを含むコーンオイルを適用し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、1,2,3,4および5日目で眼刺激スコアはそれぞれ6,3,1,0および0であり、軽度の眼刺激性に分類された(Avon Products,1980)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に20%ステアリン酸グリセリルを含むコーンオイルを適用し、眼はすすがず、Draize法に基づいて眼刺激スコアを0-110のスケールで評価したところ、1,2,3,4および5日目で眼刺激スコアはそれぞれ1,1,1,0および0であり、最小限の眼刺激性に分類された(Avon Products,1980)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、非刺激-軽度の眼刺激性が報告されているため、眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激性を引き起こす可能性があると考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1982;文献2:2015)によると、

  • [ヒト試験] 61人の被検者に20%ステアリン酸グリセリルを含む軟膏を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、この試験物質は皮膚感作を誘発しないと結論付けられた(Avon Products,1976)
  • [ヒト試験] 1,206人の被検者に20%ステアリン酸グリセリルを含む軟膏を3日間毎日閉塞パッチ適用したところ、いずれの被検者もアレルギー性接触性皮膚炎の兆候はみられなかった(M Hannuksela et al,1976)
  • [ヒト試験] 19人の被検者に2%ステアリン酸グリセリルを含むフェイスクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も重要な皮膚刺激および皮膚感作反応はみられなかった(Food and Drug Research Labs,1978)
  • [ヒト試験] 52人の被検者に5%ステアリン酸グリセリルを含むクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において31人の被検者に最小限の紅斑がみられたが、チャレンジ期間においてはいずれの被検者も感作反応の兆候はみられなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)

– 個別事例 –

  • [個別事例] ボディローションの腕への使用により皮膚炎を生じた女性にボディローションの各成分のパッチテストを実施したところ、20%ステアリン酸グリセリルを含む軟膏で+の陽性反応がみられた。20人の被検者に同様のパッチテストを実施したところ、いずれの被検者も皮膚反応はみられなかった(de Groot AC et al,1988)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

光毒性および光感作性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:1982)によると、

  • [ヒト試験] 19人の被検者に2%ステアリン酸グリセリルを含む日焼けローション0.2mLを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にFYBLブラックライト(4,400μW/c㎡)を10-12cmの距離で15分間照射し、照射24,48および168時間後に皮膚反応を評価したところ、光毒性の兆候はみられなかった(Food and Drug Research Labs,1978)
  • [ヒト試験] 19人の被検者に2%ステアリン酸グリセリルを含むフェイスクリームを対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も光接触性皮膚炎を誘発しなかった(Food and Drug Research Labs,1978)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

ステアリン酸グリセリルは界面活性剤にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:界面活性剤

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(1982)「Final Report on the Safety Assessment of Glyceryl Stearate and Glyceryl Stearate/SE」Journal of the American College of Toxicology(1)(4),169-192.
  2. Cosmetic Ingredient Review(2015)「Safety Assessment of Monoglyceryl Monoesters as Used in Cosmetics」Final Amended Report.
  3. “Pubchem”(2019)「Glyceryl monostearate」, <https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Glyceryl-monostearate> 2019年10月17日アクセス.
  4. 田村 健夫, 他(1990)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
  5. 野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,35-39.
  6. 田村 健夫, 他(1990)「多価アルコールエステル型」香粧品科学 理論と実際 第4版,140-143.
  7. 広田 博(1970)「多価アルコールエステル型」化粧品のための油脂・界面活性剤,120-125.
  8. 日光ケミカルズ(2006)「グリセリン脂肪酸エステル」新化粧品原料ハンドブックⅠ,232-234.
  9. 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL MGS-BV2」技術資料.
  10. 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL MGS-F50V」技術資料.
  11. 日光ケミカルズ株式会社(-)「NIKKOL MGS-AV」技術資料.
  12. 日本エマルジョン株式会社(-)「EMALEX GMS-F」技術資料.
  13. 日本エマルジョン株式会社(-)「EMALEX GMS-B」技術資料.

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