ココイル加水分解コラーゲンKとは…成分効果と毒性を解説





・ココイル加水分解コラーゲンK
[医薬部外品表示名]
・ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲンカリウム、ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲンカリウム液
化学構造的にヤシ油から得られる脂肪酸の塩化物と、加水分解コラーゲン(∗1)を縮合(∗2)して得られるココイル加水分解コラーゲンのカリウム塩であり、ペプチド系界面活性剤に分類される(∗3)陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です。
∗1 コラーゲンは、豚由来または魚麟由来です。
∗2 縮合(縮合反応)とは、同種または異種2分子から、水・アルコールなどの簡単な分子を分離することで新たに化合物をつくる反応のことです。
∗3 ペプチドはタンパク質の加水分解物であり、アミノ酸から構成されているため、アミノ酸系界面活性剤のAP(Acyl Peptide:アシルペプチド)と分類することもありますが、アミノ酸系界面活性剤の分類にペプチド系を含むことは一般的ではなく、また理解の混乱につながることが懸念されたため、ここではアミノ酸系とペプチド系を分けて分類しています。
ココイル加水分解コラーゲンKを構成するヤシ油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
カプリル酸 | 飽和脂肪酸 | C8:0 | 3.3 |
カプリン酸 | 飽和脂肪酸 | C10:0 | 7.7 |
ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 57.8 |
ミリスチン酸 | 飽和脂肪酸 | C14:0 | 18.1 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 8.7 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 3.6 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており(文献2:1975)、ラウリン酸とミリスチン酸を主とした脂肪酸構成となっています。
また、加水分解コラーゲンに使用される豚由来および魚鱗由来コラーゲンのアミノ酸比率は、一例として、
アミノ酸名 | 魚鱗由来コラーゲン(%) | 豚皮由来コラーゲン(%) |
---|---|---|
グリシン | 31.0-32.6 | 33.0 |
アラニン | 11.3-12.0 | 11.2 |
セリン | 3.2-4.1 | 3.6 |
トレオニン | 2.1-3.0 | 1.8 |
システイン | 0.4-0.5 | – |
メチオニン | 1.1-1.4 | 0.4 |
バリン | 2.0-2.3 | 2.6 |
ロイシン | 1.5-2.3 | 2.4 |
イソロイシン | 0.9-1.1 | 0.9 |
フェニルアラニン | 1.3-1.5 | 1.4 |
チロシン | 0.9-1.0 | 0.3 |
プロリン | 10.5-13.0 | 13.1 |
ヒドロキシプロリン | 8.5-9.3 | 9.1 |
リシン | 2.3 | 2.6 |
ヒスチジン | 1.1-1.8 | 0.4 |
アルギニン | 4.5 | 4.8 |
アスパラギン酸 | 4.0-4.5 | 33.0 |
グルタミン酸 | 6.9-7.8 | 7.2 |
このように報告されており(文献6:2007)、魚鱗由来と豚皮由来コラーゲンのアミノ酸組成に有意な違いがないことが明らかにされています。
陰イオン界面活性剤であるココイル加水分解コラーゲンKの主な性質は、
分子量 | cmc(mmol/L) | クラフト点(℃) | 生分解率(%) |
---|---|---|---|
500-600 | – | – | – |
このように報告されています(文献3:2017)。
cmc、クラフト点および生分解率についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。
界面活性剤は親水基(水溶性)と疎水基(油溶性)をもっており、水中における界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込みますが、疎水基部分は安定しようとするために水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に逃げようとします。
ただし、表面には限りがあり、さらに界面活性剤の濃度を増やすと疎水基の逃げ場がなくなり、疎水基は水との反発をなるべく減らすために、以下の図のように、
疎水基同士で集合し、親水基を水側に向けてミセル(micelle:会合体)を形成し始めます。
この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度のことを臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することで界面活性剤が有する様々な機能を発揮します。
次に、クラフト点とは、個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)であり、界面活性剤の溶解度がcmcと等しくなる温度のことです。
界面活性剤は、クラフト温度以下の低温度では水に溶解しにくく、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成せず、界面活性剤の乳化・分散・起泡などの機能を発揮することができませんが、クラフト点を超えると水への溶解性が急激に増し、かつその濃度がcmcに達するとミセルを形成し、機能を発揮します(文献5:2015)。
最後に生分解率に関してですが、まず前提知識としてアニオン界面活性剤は洗浄剤として使用されることから、排水を通じて環境中に排泄されるため、開発・販売メーカーは環境に与える悪影響(毒性)についても考慮しておく必要があり、そういった点で生分解性が重要とされています。
生分解性とは、環境中の微生物・酵素の働きによって最終的に無害な物質まで分解される性質のことであり、一般的に60%以上のものは易分解性、40%以上は本質的に生分解可能な物質とみなされることから(文献4:1990)、60%以上であれば環境的に安全に使用できると考えられています。
ココイル加水分解コラーゲンKは、具体的な生分解率はみあたりませんが、加水分解コラーゲンおよびヤシ油脂肪酸などは有機物であることから生分解性の点で易分解性であると考えられ、環境への影響は少ないと推察されます。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、シャンプー製品、ボディソープ製品、洗顔料、スキンケア製品、シート&マスク製品などに使用されています。
起泡・洗浄
起泡・洗浄に関しては、陰イオン界面活性剤は洗浄力および起泡力を有していますが、ペプチド系陰イオン界面活性剤はきめ細やかな泡立ちが得られるものの比較的脱脂力が弱いことが知られています(文献7:1985;文献8:2012)。
ただし、耐硬水性であり、水によく溶け、洗髪後の毛髪に対する保護、湿潤および柔軟作用などのヘアコンディショニング効果を有していることから、シャンプー助剤として使用されています(文献7:1985;文献8:2012)。
ヘアコンディショニング作用
ヘアコンディショニング作用に関しては、2002年に成和化成が公開した技術情報によると、
評価基準は、最良のものを2点、2番目に良いものを1点とし、悪いものを0点として平均値を算出したところ、以下の表のように、
主剤 | ツヤ | 潤い感 | なめらかさ | 櫛通り性 |
---|---|---|---|---|
ココイル加水分解コラーゲンK(魚類) | 1.6 | 1.5 | 1.7 | 1.6 |
ココイル加水分解コラーゲンK(牛皮) | 1.4 | 1.5 | 1.3 | 1.4 |
ラウレス硫酸Na | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
ココイル加水分解コラーゲンKは、ラウレス硫酸Naと比較して有意に処理後毛髪のツヤ、潤い感、なめらかさおよび櫛通り性の効果を付与することが明らかであり、またその効果は牛皮由来よりも魚類由来のほうが高い効果を付与することがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献9:2002)、ココイル加水分解コラーゲンKにヘアコンディショニング作用が認められています。
コラーゲン産生促進による抗老化作用
コラーゲン産生促進による抗老化作用に関しては、まず前提知識として皮膚におけるコラーゲンの役割を解説します。
以下の皮膚の構造図をみてもらうとわかるように、
コラーゲンは、真皮において線維芽細胞から合成され、水分を多量に保持したヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのムコ多糖類(グリコサミノグルカン)を維持・保護・支持し、内部にたっぷりと水分を抱えながら皮膚のハリを支える膠質状の性質を持つ枠組みとして規則的に配列しています(文献11:2002)。
ただし、加齢や過剰な紫外線によってコラーゲンの産生量が低減することで、その働きが衰えてくることが知られており、コラーゲン産生を促進することはハリのある若々しい肌および健常な肌を維持するために重要であると考えられています。
2018年に成和化成が公開した技術情報によると、
その結果、0.003%ココイル加水分解コラーゲンKを含む乳液の塗布面が優れていると答えた人数は、10名のうちハリが9名、弾力が7名およびかさつきの少なさが9名であり、ココイル加水分解コラーゲンKは皮膚に対してコラーゲン産生促進効果を有しているものと考えられた。
このような検証結果が明らかにされており(文献10:2018)、ココイル加水分解コラーゲンKにコラーゲン産生促進による抗老化作用が認められています。
ただし、皮膚浸透度および皮膚内でのコラーゲン産生促進の作用メカニズムが明らかにされておらず、さらなる検証が必要であると考えられます。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の1983年および2001-2002年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
ココイル加水分解コラーゲンKの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 1940年代からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:50%濃度以下においてほとんどなし-軽度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし-ごくまれに起こる可能性あり
- 光毒性:ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし-ごくまれに起こる可能性あり
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 33名の被検者に2%および20%ココイル加水分解コラーゲンKを対象に24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去24,48および72時間後に皮膚刺激性を評価したところ、皮膚反応を示さなかった(Tokyo Medical and Dental University,1971)
- [ヒト試験] 50名の被検者に10%ココイル加水分解コラーゲンKを対象に24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去24,48および72時間後に皮膚刺激性を評価したところ、皮膚反応を示さなかった(Municipal Clinics of Dortmund,1977)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に10%ココイル加水分解コラーゲンKを点眼し、Draize法に基づいて点眼1,2および8時間後および7日目まで眼刺激スコア(0-110)を評価したところ、1,2,8,24,48および72時間後でそれぞれ7.33,9.33,9.33,3.00,0.67および0.00であり、最小限の眼刺激性に分類された(International Bio-Research Laboratories,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に10%ココイル加水分解コラーゲンKを点眼し、Draize法に基づいて点眼1,2および8時間後および7日目まで眼刺激スコア(0-110)を評価したところ、1,2,8,24および48時間後でそれぞれ6.33,8.00,5.67,0.67および0.00であり、最小限の眼刺激性に分類された(International Bio-Research Laboratories,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に25%ココイル加水分解コラーゲンK溶液を点眼し、Draize法に基づいて点眼1,2および8時間後および7日目まで眼刺激スコア(0-110)を評価したところ、1,2,8,24および48時間後でそれぞれ12.00,14.33,10.67,2.33および0.00であり、軽度の眼刺激性に分類された(International Bio-Research Laboratories,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に25%ココイル加水分解コラーゲンK溶液を点眼し、Draize法に基づいて点眼1,2および8時間後および7日目まで眼刺激スコア(0-110)を評価したところ、1,2,8,24,48および72時間後でそれぞれ17.33,18.67,16.00,10.67,0.67および0.00であり、軽度の眼刺激性に分類された(International Bio-Research Laboratories,1977)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に50%ココイル加水分解コラーゲンK溶液を点眼し、Draize法に基づいて点眼1,2および8時間後および7日目まで眼刺激スコア(0-110)を評価したところ、1,2,8,24,48,72および96時間後でそれぞれ11.33,14.33,14.67,4.83,4.33,1.17および0.00であり、軽度の眼刺激性に分類された(International Bio-Research Laboratories,1977)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、4%濃度において最小限の眼刺激性と報告されているため、4%濃度において最小限の眼刺激性が起こる可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 多くの被検者に2%ココイル加水分解コラーゲンKを含む石鹸溶液を対象に皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの被検者も皮膚感作の兆候はなかった(A. Nilzen,1965)
- [ヒト試験] 168名の被検者に10%ココイル加水分解コラーゲンK水溶液0.1mLを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、チャレンジパッチにて5名の被検者に重要な紅斑が観察されたため、この5名の被検者に再チャレンジパッチを実施したところ、2名の被検者は接触性皮膚感作を誘発した(Food and Drug Research Labs,1982)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、ごくまれに皮膚感作反応が報告されているため、皮膚感作性はほとんどありませんが、ごくまれに接触性皮膚感作が起こる可能性があると考えられます。
光毒性について
- [ヒト試験] HRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施した168名の中からランダムに選んだ28名の被検者に1%ココイル加水分解コラーゲンK水溶液0.1mLを対象に光毒性試験および光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、1名の被検者は光感作を誘発したと報告され、この被検者は皮膚感作も誘発していた(Food and Drug Research Labs,1982)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、ごくまれに光感作反応が報告されているため、光感作性はほとんどありませんが、ごくまれに光感作が起こる可能性があると考えられます。
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ココイル加水分解コラーゲンKは界面活性剤、抗老化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
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参考文献:
- Cosmetic Ingredient Review(1983)「Final Report on the Safety Assessment of Potassium-Coco-Hydrolyzed Animal Protein and Triethanolamine-Coco-Hydrolyzed Animal Protein」Journal of the American College of Toxicology(2)(7),75-86.
- 吉田 良之助, 他(1975)「アミノ酸系洗浄剤の研究(第1報)」油化学(24)(9),595-599.
- 株式会社成和化成(2017)「Promois Collagen」製品カタログ,4-5.
- 日本油化学協会(1990)「界面活性剤のエコロジー」油脂化学便覧 改訂3版,470-476.
- 野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,30-33.
- 株式会社成和化成(2007)「魚鱗由来加水分解コラーゲン」特開2007-326869.
- 竹原 将博(1985)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(34)(11),964-972.
- 鈴木 一成(2012)「ヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲンカリウム」化粧品成分用語事典2012,492.
- 株式会社成和化成(2002)「毛髪化粧料」特開2002-226330.
- 株式会社成和化成(2018)「コラーゲン産生促進剤および該コラーゲン産生促進剤を含有する皮膚化粧料」特開2018-012655.
- 朝田 康夫(2002)「真皮の構造は」美容皮膚科学事典,30.