ココイルグルタミン酸Naとは…成分効果と毒性を解説




・ココイルグルタミン酸Na
[医薬部外品表示名称]
・N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-グルタミン酸ナトリウム
化学構造的にヤシ油から得られる脂肪酸の塩化物と酸性アミノ酸の一種であるグルタミン酸を縮合(∗1)して得られるココイルグルタミン酸のナトリウム塩であり、アミノ酸系界面活性剤のAG(Acyl Glutamate:アシルグルタミン酸塩)に分類される陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)です。
∗1 縮合(縮合反応)とは、同種または異種2分子から、水・アルコールなどの簡単な分子を分離することで新たに化合物をつくる反応のことです。
ココイルグルタミン酸Naを構成するヤシ油の脂肪酸組成は、一例として、
脂肪酸名 | 脂肪酸の種類 | 炭素数:二重結合数 | 比率(%) |
---|---|---|---|
カプリル酸 | 飽和脂肪酸 | C8:0 | 3.3 |
カプリン酸 | 飽和脂肪酸 | C10:0 | 7.7 |
ラウリン酸 | 飽和脂肪酸 | C12:0 | 57.8 |
ミリスチン酸 | 飽和脂肪酸 | C14:0 | 18.1 |
パルミチン酸 | 飽和脂肪酸 | C16:0 | 8.7 |
ステアリン酸 | 飽和脂肪酸 | C18:0 | 3.6 |
このような種類と比率で構成されていることが報告されており(文献4:1975)、ココイルグルタミン酸Naはラウリン酸とミリスチン酸を主とした脂肪酸構成となっています。
アニオン界面活性剤であるココイルグルタミン酸Naの主な性質は(∗2)、
∗2 LGS:ラウロイルグルタミン酸Na、MGS:ミリストイルグルタミン酸Na、PGS:パルミトイルグルタミン酸Na、OGS:オレオイルグルタミン酸Na、CGT:ココイルグルタミン酸TEA
分子量(∗3) | cmc(mmol/L) | クラフト点(℃) | 生分解率(%)[14日後] |
---|---|---|---|
約359 | 10.6(LGS;40℃) 7.2(MGS;60℃) 5-6(PGS;60℃) 3.3(OGS;40℃) |
39(LGS) | 93.1(LGS) 93.4(CGT) |
∗3 一例であり、脂肪酸組成によって多少変化すると考えられます。
原料メーカーによって脂肪酸構成が異なるため、ココイルグルタミン酸Na単体の数値はみあたりませんが、cmcに関してはラウロイルグルタミン酸Naほど高くはないものの、ラウリン酸の比率が高いと考えられることから、ラウロイルグルタミン酸Naに近い性質であると考えられます(文献5:1989;文献6:1975;文献7:1977;文献8:1995)。
cmc、クラフト点および生分解率についてそれぞれ順に解説しますが、まず界面活性剤の基礎知識であるミセル形成およびcmcについて解説します。
界面活性剤は親水基(水溶性)と疎水基(油溶性)をもっており、水中における界面活性剤の現象として親水基部分は水に溶け込みますが、疎水基部分は安定しようとするために水のないところ(溶液の表面や容器の壁面)に逃げようとします。
ただし、表面には限りがあり、さらに界面活性剤の濃度を増やすと疎水基の逃げ場がなくなり、疎水基は水との反発をなるべく減らすために、以下の図のように、
疎水基同士で集合し、親水基を水側に向けてミセル(micelle:会合体)を形成し始めます。
この疎水基の逃げ場がなくなってミセルが形成され始める濃度のことを臨界ミセル濃度(cmc:critical micelle concentration)と定義しており、また界面活性剤はミセルを形成することで界面活性剤が有する様々な機能を発揮します。
次に、クラフト点とは、個々の界面活性剤に固有の急激に溶解し始める温度(クラフト温度)であり、界面活性剤の溶解度がcmcと等しくなる温度のことです。
界面活性剤は、クラフト温度以下の低温度では水に溶解しにくく、その濃度が臨界ミセル濃度以上であってもミセルを形成せず、界面活性剤の乳化・分散・起泡などの機能を発揮することができませんが、クラフト点を超えると水への溶解性が急激に増し、かつその濃度がcmcに達するとミセルを形成し、機能を発揮します(文献10:2015)。
最後に生分解率に関してですが、まず前提知識としてアニオン界面活性剤は洗浄剤として使用されることから、排水を通じて環境中に排泄されるため、開発・販売メーカーは環境に与える悪影響(毒性)についても考慮しておく必要があり、そういった点で生分解性が重要とされています。
生分解性とは、環境中の微生物・酵素の働きによって最終的に無害な物質まで分解される性質のことであり、一般的に60%以上のものは易分解性、40%以上は本質的に生分解可能な物質とみなされることから(文献9:1990)、60%以上であれば環境的に安全に使用できると考えられています。
ココイルグルタミン酸Naは、生分解性の点でラウリル硫酸Naと同程度の易分解性であることが確認されており、環境への影響は少ないことが知られています(文献6:1975)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、洗顔料&洗顔パウダー、シャンプー製品、ボディソープ製品、クレンジング製品、スキンケア化粧品などに使用されています。
起泡・洗浄
起泡・洗浄に関しては、陰イオン界面活性剤は洗浄力および起泡力を有しており、陰イオン界面活性の中でもアシルグルタミン酸塩(AG)は、毛髪のケラチンタンパクの等電点に近い弱酸性領域(pH5.0-6.5)であることから毛髪に対する親和性が高く、かつ硬水中でも優れた起泡性を示すことから広範囲に使用できるのが主な特徴です(文献8:1995;文献12:1990)。
1990年に資生堂によって報告された陰イオン界面活性剤の人工皮脂に対する洗浄性比較検証によると、
ラウロイルグルタミン酸Naは人工皮脂に対して他の陰イオン界面活性剤と同等または高い洗浄力をもつことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献12:1990)、ラウロイルグルタミン酸Naは皮脂に対する高い洗浄力が認められています(∗4)。
∗4 試験データはアシルグルタミン酸塩の代表としてラウロイルグルタミン酸Naで実施されていますが、アシルグルタミン酸塩全体の傾向として人工皮脂に対する洗浄性の高さが認められているということなので、少し洗浄力が低下することが考えられますが、ココイルグルタミン酸Naも同様の洗浄力であると考えられます。
また、味の素によって報告された各脂肪酸によるアシルグルタミン酸塩(0.25%濃度)の起泡力は、一例として以下の表のように、
高級脂肪酸の種類 | 起泡力(mm)[40℃,5分の値] | ||
---|---|---|---|
Na(ナトリウム) | TEA(トリエタノールアミン) | K(カリウム) | |
ヤシ油脂肪酸 | 240 | 210 | 245 |
ラウリン酸 | 219 | 201 | – |
それぞれの脂肪酸による5分での起泡力が報告されており(文献13:-)、ヤシ油脂肪酸は傾向としてラウリン酸よりも起泡力が高く、ココイルグルタミン酸Naは高い起泡力を有することが明らかにされています。
また、やや溶けやすく、泡のキメが大きいなどの問題点は残すものの、洗い上がり時独特のしっとり感を付与し、弱酸性であることもあって、一般にバリア機能の低下した皮膚または皮膚刺激を感じやすい皮膚を有する人にも安心して使用できることが知られています(文献14:1985)。
シャンプー製品に配合し使用する場合は髪にきしみ感が残ることが知られていますが、この問題はポリクオタニウム-10などカチオン化セルロースを併用することで解決できることが知られています(文献14:1985)。
乳化
乳化に関しては、乳液やクリームに0.1%-0.5%添加することで乳化安定剤として使用されることがあります(文献7:1977)。
実際の使用製品の種類や数および配合量は、海外の2012-2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
ココイルグルタミン酸Naの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 1973年ごろからの使用実績
- 皮膚刺激性:25%濃度以下においてほとんどなし
- 皮膚刺激性(皮膚炎を有する場合):ほとんどなし-わずか
- 眼刺激性:5%濃度においてほとんどなし-軽度以上
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性・光感作性:ほとんどなし
- タンパク変性:中程度(ただし詳細は解説を参照のこと)
- キューティクル剥離性:弱い
このような結果となっており、洗浄製品のような短時間の非連続使用として皮膚から完全に洗い流すように設計された製品において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)の肘屈曲部に10%活性ココイルグルタミン酸Naを対象に1日3回60秒間の洗浄を5日間連続で実施(Flex Wash Test)し、各洗浄の前および最後の洗浄の4時間後に皮膚刺激性を7段階(0,+,1,1+,2,2+,3)で評価したところ、非刺激性に分類された(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2010)
旭化成ファインケムの安全性試験データ(文献2:2016;文献3:2016)によると、
- [動物試験] モルモットに28%ココイルグルタミン酸Na水溶液を対象に皮膚刺激性試験をDraize法に基づいて実施したところ、弱い刺激物に分類された
- [動物試験] ウサギに25%ココイルグルタミン酸Na水溶液を対象に皮膚刺激性試験をDraize法に基づいて実施したところ、非刺激性に分類された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、10%濃度において非刺激と報告されているため、10%濃度以下において皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。
眼刺激性について
- [in vitro試験] 鶏卵の漿尿膜を用いて5%ココイルグルタミン酸Naを処理したところ(HET-CAM法)、重度の刺激性が予測された(T Schoenberg,2006)
旭化成ファインケムの安全性試験データ(文献2:2016;文献3:2016)によると、
- [動物試験] ウサギに5%ココイルグルタミン酸Na水溶液を対象に眼刺激性試験をDraize法に基づいて実施したところ、軽度の刺激性に分類された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、5%濃度においてin vitro試験(HET-CAM法)では重度の眼刺激性、動物試験では軽度の眼刺激性と報告されているため、5%濃度において軽度以上の眼刺激性が起こる可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)に5%活性ココイルグルタミン酸Naを対象に閉塞パッチ試験を実施したところ、いずれの被検者も感作反応を示さなかった(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2010)
旭化成ファインケムの安全性試験データ(文献2:2016;文献3:2016)によると、
- [動物試験] モルモットにココイルグルタミン酸Naを対象に皮膚感作性試験(Buehler法)を実施したところ、陰性に分類された
と記載されています。
試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
光毒性および光感作性について
- [ヒト試験] 被検者(人数不明)に0.1%-5%ココイルグルタミン酸Na水溶液を対象に光毒性および光感作性試験を実施したところ(詳細不明)、いずれの被検者も光毒性および光感作反応を示さなかった(Zschimmer & Schwarz Italiana Spa,2010)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、光毒性および光感作性なしと報告されているため、光毒性および光感作性はほとんどないと考えられます。
タンパク質変性について
界面活性剤が皮膚刺激性を発現するためには、角層バリアを障害する機能として角質タンパク変性能を有する必要があると考えられています。
1989年に資生堂によって報告された代表的な陰イオン界面活性剤のタンパク変性への影響検証によると、
ラウロイルグルタミン酸Naは、ラウリル硫酸Naほどではないが、中程度のタンパク変性作用を示した。
また、ASにオキシエチレンを付加したAESならびにアミド基を導入したAMTが低い変性率を示したことから、オキシエチレンの付加あるいはアミド基の導入がタンパク質との相互作用を弱める働きがあることが示唆された。
次に、タンパク質への吸着性を検討するために各界面活性剤水溶液20mLにケラチンパウダーおよびハイドパウダー(∗4)をそれぞれ0.4gおよび0.2g添加し、各界面活性剤のクラフト点以上である40℃にて5時間培養し、吸着量を測定したところ、以下のグラフのように、
∗4 ケラチンパウダーとは、毛髪に類似したタンパク質配合パウダーであり、ハイドパウダーは頭皮に類似したタンパク質配合パウダーです。
硫酸系のASおよびAESはかなりの吸着性がみられ、一方でAMTは他の界面活性剤に比べ吸着性が少ない中、ラウロイルグルタミン酸Naは毛髪への吸着は少ないものの、頭皮への吸着性は硫酸系と同等であることがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献5:1989)、ラウロイルグルタミン酸Naは中程度のタンパク変性作用が認められており、かつ頭皮タンパク質への吸着性が認められています(∗5)。
∗5 試験データはアシルグルタミン酸塩の代表としてラウロイルグルタミン酸Naで実施されていますが、アシルグルタミン酸塩全体の傾向として頭皮タンパク質への吸着性が認められているということなので、程度の差はあれどココイルグルタミン酸Naも同様であると考えられます。
ただし、コカミドプロピルベタインなどアミド基を有した両性界面活性剤を特定の比率で併用することで、陰イオン界面活性剤のタンパク質への吸着量が最小となり、毛髪および頭皮への刺激が緩和されることが知られており(文献11:2005)、両性界面活性剤が併用されている場合はタンパク質の吸着量を低下させる技術が採用されている可能性があると考えられます。
キューティクルへの影響について
毛髪の表面(一番外側)はキューティクルと呼ばれ、毛髪を保護する働きをしており、またキューティクルは層状に存在しており、以下の表のように、
キューティクルの枚数(層数) | 髪質 |
---|---|
2 – 3 | 柔らかい |
5 – 6 | 普通 |
8 – 10 | 硬い |
キューティクルの枚数(層数)が髪質に直接反映されます。
次に、以下の画像をみてもらうとわかるように、
健常時にはキューティクルが閉塞していて手触りもなめらかですが、損傷・ダメージを受けるとキューティクルが開き、手触りはギシギシ・パサパサといったものとなり、外観の美しさは損なわれることが知られています。
こういった背景から、陰イオン界面活性剤をシャンプー基剤として使用する場合、頭皮に対する影響としてキューティクルの剥離性を考慮する必要があると考えられます。
1989年に資生堂によって報告された代表的な陰イオン界面活性剤のキューティクルへの影響検証によると、
この被検者のキューティクル枚数は7-8枚であり、損傷処理後1および3時間後のキューティクル枚数を評価したところ、以下のグラフのように、
ラウリル硫酸Naはキューティクルの剥離性が強いが、AGやAMTといったアミノ酸系界面活性剤は剥離性が弱いことがわかった。
このような検証結果が明らかにされており(文献2:1989)、ラウロイルグルタミン酸Naはキューティクル剥離性が弱いことが認められています(∗6)。
∗6 試験データはアシルグルタミン酸塩の代表としてラウロイルグルタミン酸Naで実施されていますが、アシルグルタミン酸塩全体の傾向としてキューティクルの剥離性が弱いことが認められているということなので、程度の差はあれどココイルグルタミン酸Naも同様であると考えられます。
∗∗∗
ココイルグルタミン酸Naは界面活性剤にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:界面活性剤
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2017)「Safety Assessment of Amino Acid Alkyl Amides as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(36)(1),17S-56S.
- 旭化成ファインケム株式会社(2016)「アミノサーファクト ACDS-L」安全データシート.
- 旭化成ファインケム株式会社(2016)「アミノサーファクト ACDP-L」安全データシート.
- 吉田 良之助, 他(1975)「アミノ酸系洗浄剤の研究(第1報)」油化学(24)(9),595-599.
- 宮澤 清, 他(1989)「頭皮・頭髪用洗浄剤としてのアニオン界面活性剤の研究」油化学(38)(4),297-305.
- 吉田 良之助, 他(1975)「アミノ酸および脂肪酸を原料とする新しい界面活性剤について」有機合成化学協会誌(33)(9),671-678.
- 吉田 良之助, 他(1977)「新界面活性剤 N-アシルグルタマートの製造技術及び応用技術の開発と工業化」油化学(26)(12),747-753.
- 坂本 一民(1995)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(44)(4),256-265.
- 日本油化学協会(1990)「界面活性剤のエコロジー」油脂化学便覧 改訂3版,470-476.
- 野々村 美宗(2015)「界面活性剤の相挙動」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学,30-33.
- 永井 邦夫(2005)「低刺激性シャンプー基剤」三洋化成ニュース(430).
- 宮澤 清, 他(1990)「頭皮・頭髪用洗浄剤(シャンプー) としてのN-アシル-N-メチルタウリン(AMT)の開発と工業化」油化学(39)(11),925-930.
- 味の素株式会社(-)「アミソフト CS-11」技術資料.
- 竹原 将博(1985)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(34)(11),964-972.
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