トリエトキシカプリリルシランの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | トリエトキシカプリリルシラン |
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INCI名 | Triethoxycaprylylsilane |
配合目的 | 表面改質 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される3個のエトキシ基(-OCH2CH3)と1個のオクチル基(-C8H17)でSi置換されたシロキサンエーテル(∗1)です[1][2a]。
∗1 シロキサン(siloxane)とは、ケイ素(元素記号:Si)と酸素(元素記号:O)を骨格とする化合物で、Si-O-Si結合(シロキサン結合)を持つものの総称です。
1.2. 物性・性状
トリエトキシカプリリルシランの物性・性状は(∗2)(∗3)、
∗2 比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み(水より重い)、1より小さければ水に浮くことを意味します。
∗3 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例として水は1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。
状態 | 粘度 25℃(mm2/s) | 比重(25℃) | 屈折率(25℃) |
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液体 | 2 | 0.875 | 1.417 |
2. 化粧品としての配合目的
- 粉体の表面改質
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、コンシーラー製品、ネイル製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 粉体の表面改質
粉体の表面改質に関しては、トリエトキシカプリリルシランは高い撥水性(∗4)を有しており、親水性の粉体表面をトリエトキシカプリリルシランで被覆することによって疎水性および撥水性を付与し、その結果として油性成分との親和性を高めたり、粉体同士の凝集(∗5)を防ぎ化粧持ちの持続効果を高める目的でメイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、コンシーラー製品、ネイル製品などに汎用されています[3b][4b]。
∗4 撥水性(はっすいせい)とは水をはじく性質のことです。
∗5 凝集とは、分散していた粒子や溶けたりしていたもの(溶質)が、集まって固まる現象のことです。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗6)。
∗6 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:わずかな眼刺激を引き起こす可能性あり
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に100%トリエトキシカプリリルシラン0.1mLを点眼し、眼はすすがず、Draize法に基づいて点眼1,24,48および72時間後に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、1時間後で最大眼刺激スコアは12.33であり、72時間で0であった。この試験物質はわずかな眼刺激剤に分類された(Organization for Economic Cooperation and Development,2010)
- [動物試験] 3匹のウサギの片眼にトリエトキシカプリリルシラン0.1mLを点眼し、眼はすすがず、OECD405テストガイドラインに基づいて眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、眼刺激スコアは2.0であり、この試験物質はわずかな眼刺激剤であった(Organization for Economic Cooperation and Development,2010)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通してわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性はわずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
ただし、試験データは濃度100%のみであり、実際の製品においては濃度2.6%以下であることから、濃度2.6%以下における試験データが必要であると考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「トリエトキシカプリリルシラン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,689-690.
- ⌃abW.F. Bergfeld, et al(2016)「Safety Assessment of Alkoxyl Alkyl Silanes as Used in Cosmetics(∗7)」, 2022年5月4日アクセス.
∗7 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。 - ⌃ab信越化学工業株式会社(2018)「粉体処理剤」化粧品用シリコーン,38-39.
- ⌃abダウ・東レ株式会社(2021)「XIAMETER OFS-6341 Silane」Technical Data Sheet.