ステアロイルグルタミン酸2Naの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ステアロイルグルタミン酸2Na |
---|---|
医薬部外品表示名 | N-ステアロイル-L-グルタミン酸二ナトリウム |
部外品表示簡略名 | ステアロイルグルタミン酸2Na |
INCI名 | Disodium Stearoyl Glutamate |
配合目的 | 表面改質、乳化 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるステアリン酸とグルタミン酸との縮合物の二ナトリウム塩であり、アミノ酸系界面活性剤のアシルグルタミン酸塩(Acyl Glutamate:AG)に分類される陰イオン性界面活性剤(アニオン性界面活性剤)です[1][2a]。
1.2. 性状
ステアロイルグルタミン酸2Naの性状は、
状態 | 白-淡黄色の粉末 |
---|
2. 化粧品としての配合目的
- 粉体の表面改質
- 親水性乳化
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ネイル製品、コンシーラー製品などに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 粉体の表面改質
粉体の表面改質に関しては、体質顔料や着色顔料の表面にステアロイルグルタミン酸2Naを処理することにより、顔料がオイル基剤やシリコーン基剤に再凝集(∗1)することなく分散しやすくなることから、粉体同士の凝集を防ぎ分散性および分散安定性を高める目的でメイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ネイル製品、コンシーラー製品などに汎用されています[4]。
∗1 凝集とは、分散していた粒子や溶けたりしていたもの(溶質)が、集まって固まる現象のことです。
2.2. 親水性乳化
親水性乳化に関しては、まず前提知識として乳化、エマルションおよびHLBについて解説します。
乳化とは、互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)となり他方の液体中に均一に分散されることをいいます[5][6]。
そして、油と水のように互いに溶け合わない2種の液体の一方が微細な液滴(乳化粒子)として他の液体中に分散している乳化物をエマルション(emulsion)といい[7]、基本的なエマルションとして、以下の図のように、
水を外部相とし、その中に油が微細粒子状に分散しているO/W型(Oil in Water type:水中油滴型)と、それとは逆に油を外部相とし、その中に水が微細粒子状に分散しているW/O型(Water in Oil type:油中水滴型)があります[8]。
身近にあるO/W型エマルションとしては、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどがあり、一方でW/O型エマルションとしてはバター、マーガリンなどがあります。
次に、界面活性剤のように分子内に水になじむ部分と油になじむ部分を併せもつ両親媒性分子は、どちらかといえば水になじみやすいものとどちらかといえば油になじみやすいものがあり、このわずかな親和性の違いが界面活性剤の挙動を劇的に変えることが知られています[9][10a]。
このような背景から、界面活性剤の水と油へのなじみやすさの程度を示す指標としてHLB(hydrophile-lipophile-balance:親水性-親油性バランス)が提案・提唱されており、以下の図のように、
HLB「7」を基準とし、「7」以上でどちらかといえば親水性を、「7」以下でどちらかといえば親油性を示すことが予想され、またHLB8-18の界面活性剤はO/W型エマルションを、HLB3.5-6の界面活性剤はW/O型エマルションを形成することが知られていることから、界面活性剤型乳化剤の作用を知る上で有用であると考えられています[10b]。
ステアロイルグルタミン酸2Naは陰イオン性界面活性剤ですが、脂肪酸鎖長の長いステアリン酸(炭素数18:C18)をもつことから、洗浄力および起泡力の低さが知られており[11]、その一方で乳化剤としての特徴は、
乳化の種類 | HLB |
---|---|
O/W型乳化 | 20以上(∗2) |
このように報告されており、親水性乳化剤としてメイクアップ製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、ネイル製品、コンシーラー製品などに汎用されています[3b]。
∗2 非イオン性界面活性剤のHLBは0-20の間にありますが、陰イオンおよび陽イオン性界面活性剤は、一般的に単位質量あたりの親水基が非イオン界面活性剤よりもずっと大きく、また親水基の種類によって単位質量あたりの親水性の大きさが異なるため、いまのところHLBを計算する方法がなく、20以上の数値で表されます[12]。
3. 混合原料としての配合目的
ステアロイルグルタミン酸2Naは混合原料が開発されており、ステアロイルグルタミン酸2Naと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | NAI Series |
---|---|
構成成分 (顔料) |
酸化鉄または酸化チタン |
構成成分 (その他) |
ステアロイルグルタミン酸2Na、水酸化Al |
特徴 | 強い疎水性、肌への親和性、持続性、乳液中の安定性に優れ、 オイルやシリコンに分散しやすく、しっとりとした感触を付与するアミノ酸処理顔料 |
原料名 | NHS Series |
---|---|
構成成分 (顔料) |
酸化鉄または酸化チタン |
構成成分 (その他) |
セバシン酸イソステアリル、ステアロイルグルタミン酸2Na、水酸化Al |
特徴 | 非常に高い肌への親和性を有し、分散しやすく、油の吸収が少なく、パウダーの凝集性を強化し、クリーミーでしっとりした感触を付与する表面処理顔料 |
原料名 | ACT Series |
---|---|
構成成分 (顔料) |
酸化鉄または酸化チタン |
構成成分 (その他) |
ステアロイルグルタミン酸2Na、ジミリスチン酸Al、トリエトキシカプリリルシラン |
特徴 | 疎水性が高く、ロングラスティングで自然なカバー力、オイルへの分散性、発色性に優れた表面処理顔料 |
原料名 | Gransperse Series |
---|---|
構成成分 (顔料) |
酸化鉄または酸化チタン |
構成成分 (その他) |
(カプリル酸/カプリン酸)ヤシアルキル、ポリリシノレイン酸ポリグリセリル-6、ポリヒドロキシステアリン酸、(ジリノール酸/ブタンジオール)コポリマー、ステアロイルグルタミン酸2Na、(ヒマシ油/IPDI)コポリマー |
特徴 | 表面処理した顔料の分散剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:濃度6%以下においてほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
試験データはみあたりませんが、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらず、現在の使用法および化粧品配合濃度において安全であると結論付けられていることから[13]、一般に濃度6%以下において安全に使用できると考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ステアロイルグルタミン酸2Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,576.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社, 他(1991)「N-ステアロイル-L-グルタミン酸二ナトリウム」化粧品原料辞典,251-252.
- ⌃abAjinomoto Co., Inc.(-)「Amisoft」Product Catalog.
- ⌃Miyoshi Europe, S.A.S.(2021)「NAI」Product Sheet.
- ⌃薬科学大辞典編集委員会(2013)「乳化」薬科学大辞典 第5版,1150.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「乳化」化粧品事典,638-639.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「エマルション」化粧品事典,356.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「乳化作用」香粧品科学 理論と実際 第4版,270-273.
- ⌃鈴木 敏幸(2003)「親水性-親油性バランス」化粧品事典,531.
- ⌃ab野々村 美宗(2015)「親水性・親油性バランス」化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学 -基礎から応用まで,35-39.
- ⌃竹原 将博(1985)「アミノ酸系界面活性剤」油化学(34)(11),964-972. DOI:10.5650/jos1956.34.964.
- ⌃藤本 武彦(2007)「界面活性剤の親水性と疎水性の関係(HLB)」界面活性剤入門,141-147.
- ⌃M.M. Fiume, et al(2013)「Safety Assessment of Decyl Glucoside and Other Alkyl Glucosides as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(32)(5_suppl),22S-48S. DOI:10.1177/1091581813497764.