フェルラ酸の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | フェルラ酸 |
---|---|
医薬部外品表示名 | フェルラ酸 |
INCI名 | Ferulic Acid |
配合目的 | 紫外線防御、退色防止 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるケイ皮酸の3位にメトキシ基(CH3O-)が、4位にヒドロキシ基(-OH)が結合したケイ皮酸誘導体です[1a]。
1.2. 物性・性状
フェルラ酸の物性・性状は(∗1)、
∗1 極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。
状態 | 極大吸収波長(nm) | 溶解性 |
---|---|---|
結晶性粉末 | 322(UVA領域) | 熱水、アルコール、エーテルに易溶 |
1.3. 分布
フェルラ酸は、主に米、小麦、野菜類、柑橘類などの植物類の種子細胞や細胞壁を形成するリグニンの前駆体として、多くの植物体の器官に広く存在しています[3b]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
フェルラ酸の化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
食品 | 酸化防止作用があるため、酸化防止剤として用いられています[4b]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- UVBおよびUVA吸収による紫外線防御効果
- 退色防止
主にこれらの目的で、スキンケア製品、化粧下地製品、日焼け止め製品、クレンジング製品、洗顔料、ハンドケア製品、ボディケア製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品など様々な製品に使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. UVBおよびUVA吸収による紫外線防御効果
UVBおよびUVA吸収による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
紫外線とは、以下の図表のように、
紫外線の分類 | 略称 | 波長領域(nm) |
---|---|---|
長波長紫外線 | UVA | 320-400 |
中波長紫外線 | UVB | 290-320 |
短波長紫外線 | UVC | 190-290 |
太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、
300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[5a][6][7a]。
UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、
UVB | UVA | ||
---|---|---|---|
皮膚到達度 | 表皮まで | 真皮まで | |
皮膚 外観 変化 |
単回 曝露 |
一過性の炎症(紅斑) 遅延黒化(紅斑消退後) |
一過性の即時黒化 UVBによる紅斑の増強 一過性の紅斑(大量曝露時) |
反復 曝露 |
持続型黒化の増強 | 光老化皮膚の形成 | |
皮膚 内部 変化 |
単回 曝露 |
表皮細胞の損傷 DNAの損傷 メラニン産生の促進 活性酸素(・O2–)の生成 活性酸素(NO)の促進 |
活性酸素(1O2)の生成 |
反復 曝露 |
メラノサイトの増殖 | 真皮細胞外マトリックスの変性 |
皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[5b][7b][8a][9a]。
UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗2)[5c][7c][9b]。
∗2 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[7d][8b]。
一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[8c][9c]。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗3)[5d][7e]。
∗3 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。
このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。
フェルラ酸は、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗4)、
∗4 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。
UVA領域である322nmに吸収極大を示すUVA吸収能を有しており、またUVB領域においても優れた吸収能を示すことから[3c]、UVBおよびUVA吸収による紫外線防御目的で化粧下地製品、日焼け止め製品、ファンデーション製品などに使用されています。
実際の紫外線吸収能について濃度3%において代表的なUVB吸収剤であるメトキシケイ皮酸エチルヘキシルとSPF(∗5)を濃度3%で比較したところ、SPFはフェルラ酸で6.44、メトキシケイ皮酸エチルヘキシルで7.09であり[3d]、フェルラ酸に優れたUVB吸収能が認められています。
∗5 SPFとは、紫外線による紅斑(一過性に皮膚が赤くなる現象)をどの程度防止できるかを示す目安の数値であり、紫外線による紅斑はUVBにより生じることからUVBの紫外線防御能を表す数値ともいえます。
フェルラ酸の紫外線吸収メカニズムについては、フェノキシラジカルを触媒する結果として一連のフリーラジカル生成反応を止めることによる抗酸化作用であると報告されています[3e]。
2.2. 退色防止
退色防止に関しては、フェルラ酸はUVBおよびUVAに吸収能をもち、熱水やエタノールに溶解することから[2a]、紫外線曝露による色素の退色・変色、香料の変臭、高分子化合物の分解ならびに解重合、油脂類の酸化などを防ぎ、製造から使用を終えるまでの長期間にわたって化粧品の安定性を保つ目的で、様々な製品に使用されています[1b]。
3. 混合原料としての配合目的
フェルラ酸は、混合原料が開発されており、フェルラ酸と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | Phytopresome FA |
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構成成分 | 水添レシチン、フェルラ酸、フィトステロールズ |
特徴 | 皮膚に対して保湿効果・バリア機能向上効果を発揮するフェルラ酸含有リポソーム液 |
原料名 | Phytopresome FA-OR |
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構成成分 | 水添レシチン、フェルラ酸、オリザノール |
特徴 | 皮膚に対して保湿効果・バリア機能向上効果を発揮するフェルラ酸・オリザノール含有リポソーム液 |
4. 配合量範囲
フェルラ酸は配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
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粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 配合不可 |
5. 安全性評価
- 食品添加物の既存添加物リストに収載
- 15年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
食品添加物の既存添加物リストに収載されており、2001年には紫外線吸収剤として承認されていることから、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられます。
また、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともフェルラ酸の安全性を裏付けていると考えられます。
5.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
6. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「フェルラ酸」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,836.
- ⌃ab日光ケミカルズ株式会社(2006)「紫外線防御剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,445-457.
- ⌃abcde築野 卓夫, 他(2002)「フェルラ酸の紫外線吸収剤としての化粧品への応用」Fragrance Journal(30)(7),68-71.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「フェルラ酸」食品添加物事典 新訂第二版,298-299.
- ⌃abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
- ⌃磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
- ⌃abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
- ⌃abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.