エチルヘキシルトリアゾンの基本情報・配合目的・安全性

エチルヘキシルトリアゾン

化粧品表示名 エチルヘキシルトリアゾン
医薬部外品表示名 2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]-1,3,5-トリアジン
部外品表示簡略名 トリスエチルヘキシルオキシカルボニルアニリノトリアジン
INCI名 Ethylhexyl Triazone
配合目的 紫外線防御

1. 基本情報

1.1. 定義

トリアジン誘導体の一種であり、以下の化学式で表される複素環式化合物です[1]

エチルヘキシルトリアゾン

1.2. 物性・性状

エチルヘキシルトリアゾンの物性・性状は(∗1)

∗1 極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。

状態 極大吸収波長(nm) 溶解性
粉末 314(UVB領域) 油性成分に可溶

このように報告されています[2a][3a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • UVB吸収による紫外線防御効果

主にこれらの目的で、日焼け止め製品、化粧下地製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. UVB吸収による紫外線防御効果

UVB吸収による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。

紫外線とは、以下の図表のように、

紫外線の分類

紫外線の分類 略称 波長領域(nm)
長波長紫外線 UVA 320-400
中波長紫外線 UVB 290-320
短波長紫外線 UVC 190-290

太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、

紫外線波長領域とオゾン層の関係

300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[4a][5][6a]

UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、

  UVB UVA
皮膚到達度 表皮まで 真皮まで
皮膚
外観
変化
単回
曝露
一過性の炎症(紅斑)
遅延黒化(紅斑消退後)
一過性の即時黒化
UVBによる紅斑の増強
一過性の紅斑(大量曝露時)
反復
曝露
持続型黒化の増強 光老化皮膚の形成
皮膚
内部
変化
単回
曝露
表皮細胞の損傷
DNAの損傷
メラニン産生の促進
活性酸素(・O2)の生成
活性酸素(NO)の促進
活性酸素(1O2)の生成
反復
曝露
メラノサイトの増殖 真皮細胞外マトリックスの変性

皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[4b][6b][7a][8a]

UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗2)[4c][6c][8b]

∗2 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。

また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[6d][7b]

一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[7c][8c]

また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗3)[4d][6e]

∗3 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。

このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。

エチルヘキシルトリアゾンは、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗4)

∗4 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。

エチルヘキシルトリアゾンの紫外線吸収スペクトル

UVB領域である314nmに吸収極大を示すUVB吸収能を有しており、その吸収効果は非常に高く、また光安定性も高く、油性成分に溶解することから[2b][3b]、UVB吸収による紫外線防御目的で日焼け止め製品、化粧下地製品などに汎用されています。

3. 混合原料としての配合目的

エチルヘキシルトリアゾンは、混合原料が開発されており、エチルヘキシルトリアゾンと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 NIKKOL ニコファイン UV
構成成分 PEG-60水添ヒマシ油メトキシケイヒ酸エチルヘキシルイソステアリン酸ソルビタンジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルDPGエチルヘキシルトリアゾンBGトコフェロールクエン酸クエン酸NaBHT
特徴 約20%の難溶性紫外線吸収剤を安定に配合したナノエマルションベース

4. 配合量範囲

2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]-1,3,5-トリアジンは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量 その他
薬用石けんシャンプーリンス等除毛剤 3.0 紫外線吸収剤の合計は10以下とする
育毛剤 3.0
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 3.0
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 配合不可

また、エチルヘキシルトリアゾンは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり(∗5)、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

∗5 ポジティブリストにおいては成分名「2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]-1,3,5-トリアジン」と記載されています。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 5.0
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 5.0
粘膜に使用されることがある化粧品 配合不可

5. 安全性評価

エチルヘキシルトリアゾンの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし(データなし)
  • 光感作性:ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

European Chemicals Agencyの安全性データ[9a]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの皮膚に50%エチルヘキシルトリアゾン水溶液を4時間半閉塞パッチ適用し、OECD404テストガイドラインに基づいてパッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれのウサギにも皮膚刺激はみられず、この試験物質はこの試験条件下において皮膚刺激剤ではなかった
  • [動物試験] 20匹のモルモットに40-60%エチルヘキシルトリアゾンを含むオリーブ油を対象にOECD406テストガイドラインに基づいてmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの動物も皮膚反応を示さず、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

European Chemicals Agencyの安全性データ[9b]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に100%エチルヘキシルトリアゾンを適用し、OECD405テストガイドラインに基づいて適用後に眼刺激性を評価したところ、1時間で2匹に明瞭な発赤がみられたが、1日後および2日後にそれぞれの発赤は消失した

このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

ただし、試験データは濃度100%のみであり、実際の製品においては配合上限5%以内に定められていることから、濃度5%以下における試験データが必要であると考えられます。

5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

ポジティブリストに収載されており、光安定性が高く、20年以上の使用実績がある中で重大な光刺激および光感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「エチルヘキシルトリアゾン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,227.
  2. abcBASF SE(2011)「Uvinul T 150」UV Filters Technical Information,6-7.
  3. abDSM Nutritional Products AG(2020)「PARSOL EHT」Fact Sheet.
  4. abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
  5. 磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
  6. abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
  7. abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
  8. abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
  9. abEuropean Chemicals Agency(2022)「Tris(2-ethylhexyl)-4,4′,4”-(1,3,5-triazine-2,4,6-triyltriimino)tribenzoate」, 2022年5月1日アクセス.

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