オクトクリレンの基本情報・配合目的・安全性

オクトクリレン

化粧品表示名称 オクトクリレン
化粧品国際的表示名称(INCI名) Octocrylene
配合目的 紫外線防御退色防止安定化(未分類)

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表される2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸のカルボキシ基(-COOH)に2-エチルヘキシルアルコールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗1)したエステルです[1a]

∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸とアルコールのエステルにおいては、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸のカルボキシ基(-COOH)の「OH」と2-エチルヘキシルアルコールのヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシル基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。

オクトクリレン

1.2. 物性・性状

オクトクリレンの物性・性状は(∗2)

∗2 極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。

状態 極大吸収波長(nm) 溶解性
液体 303.5(UVB領域) 水に不溶、エタノール、植物油に可溶

このように報告されています[2a][3a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • UVB吸収による紫外線防御効果
  • 退色防止
  • 紫外線吸収剤の光安定化

主にこれらの目的で、日焼け止め製品、化粧下地製品、メイクアップ製品、ネイル製品、香水などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. UVB吸収による紫外線防御効果

UVB吸収による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。

紫外線とは、以下の図表のように、

紫外線の分類

紫外線の分類 略称 波長領域(nm)
長波長紫外線 UVA 320-400
中波長紫外線 UVB 290-320
短波長紫外線 UVC 190-290

太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、

紫外線波長領域とオゾン層の関係

300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[4a][5][6a]

UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、

  UVB UVA
皮膚到達度 表皮まで 真皮まで
皮膚
外観
変化
単回
曝露
一過性の炎症(紅斑)
遅延黒化(紅斑消退後)
一過性の即時黒化
UVBによる紅斑の増強
一過性の紅斑(大量曝露時)
反復
曝露
持続型黒化の増強 光老化皮膚の形成
皮膚
内部
変化
単回
曝露
表皮細胞の損傷
DNAの損傷
メラニン産生の促進
活性酸素(・O2)の生成
活性酸素(NO)の促進
活性酸素(1O2)の生成
反復
曝露
メラノサイトの増殖 真皮細胞外マトリックスの変性

皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[4b][6b][7a][8a]

UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗3)[4c][6c][8b]

∗3 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。

また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[6d][7b]

一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[7c][8c]

また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗4)[4d][6e]

∗4 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。

このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。

オクトクリレンは、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗5)

∗5 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。

オクトクリレンの紫外線吸収スペクトル

UVB領域である303.5nmに吸収極大を示すUVB吸収能を有しており(∗6)、溶解性にも優れていることから[2b][3b]、UVB吸収による紫外線防御目的で日焼け止め製品、化粧下地製品、メイクアップ製品などに汎用されています。

∗6 吸収スペクトル図をみてもらうとわかるように、吸収極大はUVB領域ですが、UVBよりのUVAも高い吸光度を示すことから、UVBからUVAを吸収する紫外線吸収剤と解説されることもあります。

2.2. 退色防止

退色防止に関しては、オクトクリレンはUVBに吸収能をもち、エタノールや油性成分の溶解性に優れることから[2c][3c]、紫外線曝露による色素の退色・変色、香料の変臭、高分子化合物の分解ならびに解重合、油脂類の酸化などを防ぎ、製造から使用を終えるまでの長期間にわたって化粧品の安定性を保つ目的で、ネイル製品、香水、メイクアップ製品などに汎用されています[1b][9]

2.3. 紫外線吸収剤の光安定化

紫外線吸収剤の光安定化に関しては、オクトクリレンは光安定性に課題のあるt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンと併用することにより、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの分解を抑制し、光安定性を向上させることから[10]、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンと併用されている場合は、UVB吸収だけでなくt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンの光安定性向上を兼ねている可能性が考えられます。

3. 混合原料としての配合目的

オクトクリレンは、混合原料が開発されており、オクトクリレンと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 AvoCap
構成成分 t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンオクトクリレン酢酸セルロース
特徴 紫外線吸収剤のべたつきをなくし、光感作リスクを低減するt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンおよびオクトクリレン内包マイクロカプセル
原料名 Eusolex UV-Pearls OB-S
構成成分 オクトクリレンt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンソルビトールシリカフェノキシエタノールPVPクロルフェネシンEDTA-2Na
特徴 t-ブチルメトキシジベンゾイルメタンとオクトクリレンをマイクロカプセル技術で内包し、水に分散させた紫外線ケア原料
原料名 パルソール GUARD
構成成分 オクトクリレンホモサレートt-ブチルメトキシジベンゾイルメタントコフェロールヒマワリ種子油
特徴 幅広いUV吸収スペクトルをもつ透明製品向け退色・変色防止剤

4. 配合量範囲

オクトクリレンは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり(∗7)、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

∗7 ポジティブリストにおいては成分名「2-シアノ-3,3-ジフェニルプロパ-2-エン酸2-エチルヘキシルエステル(別名オクトクリレン)」と記載されています。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 10
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 10
粘膜に使用されることがある化粧品 10

5. 安全性評価

オクトクリレンの現時点での安全性は、

  • 2001年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

ただし、医療用鎮痛消炎剤であるケトプロフェン使用者は、共感作によって光過敏症を発症しやすくなることから、これらの併用を避けることが推奨されています。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性

European Chemicals Agencyの安全性データ[11a]によると、

  • [動物試験] 4匹のウサギの擦過した皮膚に1,10,25,50および100%オクトクリレン溶液を4時間半閉塞パッチ適用し、OECD404テストガイドラインに基づいてパッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はこの試験条件下において皮膚刺激剤ではなかった

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

European Chemicals Agencyの安全性データ[11b]によると、

  • [動物試験] 4匹のウサギの片眼に100%オクトクリレン0.1mLを点眼し、OECD405テストガイドラインに基づいて点眼後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった

このように記載されており、試験データをみるかぎり眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

5.3. 皮膚感作性(アレルギー性)

European Chemicals Agency、エアランゲン・ニュルンベルク大学および皮膚科情報ネットワーク(IVDK)の安全性・臨床試験データ[11c][12a]によると、

  • [動物試験] モルモットを用いてオクトクリレンを対象にOECD406テストガイドラインに基づいてMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった(ECHA,2021)

– 皮膚炎を有する場合 –

  • [ヒト試験] 2015年1月から2016年3月までの間になんらかの皮膚炎を有する2,577名の患者に10%オクトクリレンを含むワセリンを対象にパッチテストを実施したところ、5名に疑わしい反応が、2名に弱い陽性反応がみられた。2名の陽性反応のうち1名はアトピー性湿疹を有していた(Wolfgang Uter et al,2017)

このように記載されており、試験データをみるかぎり2例を除き共通して皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

また、ドイツにおいては2006年から2009年までに調査した462の日焼け止め製品のうち268製品にオクトクリレンが使用されているなど一般的に使用されているにもかかわらず、オクトクリレンに対する接触アレルギーはごくまれであると報告されていることからもオクトクリレンの安全性を裏付けていると考えられます[12b]

ただし、皮膚炎を有する場合はごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。

5.4. 光感作性

オクトクリレンそのものに光感作性はほとんどないとされていますが、非ステロイド性医療用経皮鎮痛消炎剤であるケトプロフェン外用剤が広く使用されている欧州においてオクトクリレンでも光感作反応を示す共感作反応の事例がいくつか報告されています[13a][14]

このような状況から、国内においてケトプロフェン外用薬の光過敏症の報告は少ないものの、現在は一般用ケトプロフェン外用薬では、オクトクリレンを含有する製品との併用を行わないことについて注意喚起が記載されており[13b]、ケトプロフェン使用者はオクトクリレンを含有する製品を避けることが推奨されます。

6. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「オクトクリレン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,256.
  2. abc本間 茂継(2014)「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」日本化粧品技術者会誌(48)(1),2-10. DOI:10.5107/sccj.48.2.
  3. abcDSM Nutritional Products Ltd.(2015)「PARSOL 340」Product Data Sheet.
  4. abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
  5. 磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
  6. abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
  7. abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
  8. abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
  9. 田村 健夫・廣田 博(2001)「安定剤としての紫外線吸収剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,235-237.
  10. 井下 美緒(2014)「紫外線防御剤を用いた製剤化技術の開発」日本化粧品技術者会誌(48)(3),169-176. DOI:10.5107/sccj.48.169.
  11. abcEuropean Chemicals Agency(2021)「Octocrilene」, 2022年4月11日アクセス.
  12. abWolfgang Uter, et al(2017)「Is octocrylene a frequent contact allergen?」Contact Dermatitis(77)(2),127-128. DOI:10.1111/cod.12761.
  13. ab医薬品医療機器総合機構(2011)「ケトプロフェン外用剤による光線過敏症に係る安全対策について」医薬品・医療機器等安全性情報(276),3-8.
  14. Scientific Committee on Consumer Safety(2021)「OPINION on Octocrylene」SCCS/1627/21.

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