ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの基本情報・配合目的・安全性

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル

化粧品表示名 ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル
医薬部外品表示名 2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル
INCI名 Diethylamino Hydroxybenzoyl Hexyl Benzoate
配合目的 紫外線防御退色防止

1. 基本情報

1.1. 定義

安息香酸誘導体の一種であり、以下の化学式で表される2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸のカルボキシ基(-COOH)にn-ヘキサノールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗1)したエステルです[1a]

∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸とアルコールのエステルにおいては、2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とn-ヘキサノールのヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル

1.2. 物性・性状

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの物性・性状は(∗2)

∗2 極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。

状態 極大吸収波長(nm) 溶解性
粉末または結晶を含むペースト 354(UVA領域) エタノール油性成分に可溶

このように報告されています[2a][3a][4a]

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • UVA吸収による紫外線防御効果
  • 退色防止

主にこれらの目的で、日焼け止め製品、化粧下地製品、メイクアップ製品、ネイル製品、香水などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. UVA吸収による紫外線防御効果

UVA吸収による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。

紫外線とは、以下の図表のように、

紫外線の分類

紫外線の分類 略称 波長領域(nm)
長波長紫外線 UVA 320-400
中波長紫外線 UVB 290-320
短波長紫外線 UVC 190-290

太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、

紫外線波長領域とオゾン層の関係

300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[5a][6][7a]

UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、

  UVB UVA
皮膚到達度 表皮まで 真皮まで
皮膚
外観
変化
単回
曝露
一過性の炎症(紅斑)
遅延黒化(紅斑消退後)
一過性の即時黒化
UVBによる紅斑の増強
一過性の紅斑(大量曝露時)
反復
曝露
持続型黒化の増強 光老化皮膚の形成
皮膚
内部
変化
単回
曝露
表皮細胞の損傷
DNAの損傷
メラニン産生の促進
活性酸素(・O2)の生成
活性酸素(NO)の促進
活性酸素(1O2)の生成
反復
曝露
メラノサイトの増殖 真皮細胞外マトリックスの変性

皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[5b][7b][8a][9a]

UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗3)[5c][7c][9b]

∗3 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。

また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[7d][8b]

一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[8c][9c]

また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗4)[5d][7e]

∗4 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。

このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルは、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗5)

∗5 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの紫外線吸収スペクトル

UVA領域である354nmに吸収極大を示すUVA吸収能を有しており、光安定性が高く、油性成分の溶解性にも優れていることから[2b][3b][4b]、UVA吸収による紫外線防御目的で日焼け止め製品、化粧下地製品、メイクアップ製品などに汎用されています。

2.2. 退色防止

退色防止に関しては、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルはUVAに吸収能をもち、エタノールや油性成分の溶解性に優れることから[2c]、紫外線曝露による色素の退色・変色、香料の変臭、高分子化合物の分解ならびに解重合、油脂類の酸化などを防ぎ、製造から使用を終えるまでの長期間にわたって化粧品の安定性を保つ目的で、ネイル製品、香水、メイクアップ製品などに汎用されています[1b][10]

3. 混合原料としての配合目的

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルは混合原料が開発されており、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Uvinul A Plus B
構成成分 ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルメトキシケイヒ酸エチルヘキシル
特徴 UVA波およびUVB波吸収剤を混合したブロードスペクトルの紫外線吸収剤
原料名 Uvinul QD
構成成分 ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルメトキシケイヒ酸エチルヘキシルビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン
特徴 UVA波およびUVB波吸収剤を混合したブロードスペクトルの紫外線吸収剤
原料名 Silasoma EP(S)
構成成分 ポリシリコーン-14、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル
特徴 UVA波およびUVB波吸収剤を90%内包したカプセルの水分散液
原料名 NIKKOL ニコファイン UV
構成成分 PEG-60水添ヒマシ油メトキシケイヒ酸エチルヘキシルイソステアリン酸ソルビタンジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルDPGエチルヘキシルトリアゾンBGトコフェロールクエン酸クエン酸NaBHT
特徴 約20%の難溶性紫外線吸収剤を安定に配合したナノエマルションベース

4. 配合量範囲

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルは配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり(∗6)、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

∗6 ポジティブリストにおいては成分名「2-[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル]安息香酸ヘキシルエステル」と記載されています。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 10
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 10
粘膜に使用されることがある化粧品 配合不可

5. 安全性評価

ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルの現時点での安全性は、

  • 2005年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[11a]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの皮膚に100%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを4時間半閉塞パッチ適用し、OECD404テストガイドラインに基づいてパッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験物質はこの試験条件下において皮膚刺激剤ではないと結論付けられた(C. Wiemann & J. Hellwig,2000)
  • [動物試験] 10匹のモルモットに5-25%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを含むオリーブ油を対象にOECD406テストガイドラインに基づいてmaximization皮膚感作性試験を実施したところ、いずれの動物も皮膚反応を示さず、この試験物質は皮膚感作剤ではないと結論付けられた(C. Wiemann & J. Hellwig,2000)

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[11b]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギの片眼に100%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを適用し、OECD405テストガイドラインに基づいて適用後に眼刺激性を評価したところ、わずかから中程度の結膜発赤が3匹にみられたが、これらの刺激反応は48時間以内にすべて消失した。この試験物質はこの試験条件下において一過性の眼刺激剤であると結論付けられた(C. Wiemann & J. Hellwig,2000)

このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

5.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[11c]によると、

  • [in vitro試験] ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを添加して培養した2つの3T3細胞を用いて、1つは非細胞毒性照射量を暴露し、もう一方は暗所に置き、24時間後に細胞生存率を評価する3T3 NRU光毒性試験を実施したところ、この試験物質は光刺激剤ではなかった(D. Wiemann et al,2001)
  • [動物試験] 5匹を1群としたモルモット4群のうち2群に10%ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルを含むオリーブ油を適用し、1群はオリーブ油のみ、残りの1群は無適用で、試験物質適用群のうち1群と何も適用していない群には適用後にUVBおよびUVAライトを照射し、照射1,4および24時間後に光刺激性を評価したところ、この試験物質は実質的に光刺激剤ではなかった。また誘導期間としてこれらの手順を8日間繰り返し、20日の休息期間を設けた29日目にチャレンジ適用およびUVBおよびUVAライトを照射し、照射後に光感作性を評価したところ、この試験物質は光感作剤ではなかった(X. Marciaux & P.O. Guillaumat,2001)

このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。

6. 参考文献

  1. ab日本化粧品工業連合会(2013)「ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,465.
  2. abc日光ケミカルズ株式会社(2006)「紫外線防御剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,445-457.
  3. ab本間 茂継(2014)「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」日本化粧品技術者会誌(48)(1),2-10. DOI:10.5107/sccj.48.2.
  4. abBASF AG(2008)「Uvinul A Plus」BeautyCare Ingredients.
  5. abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
  6. 磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
  7. abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
  8. abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
  9. abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
  10. 田村 健夫・廣田 博(2001)「安定剤としての紫外線吸収剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,235-237.
  11. abcScientific Committee on Consumer Safety(2008)「OPINION on Diethylamino hydroxybenzoyl hexyl benzoate」SCCS/1166/08.

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