ポリシリコーン-15の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ポリシリコーン-15 |
---|---|
INCI名 | Polysilicone-15 |
配合目的 | 紫外線防御 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される鎖長約60のシリコーンを骨格にもち、骨格であるジメチコンのメチル基(-CH3)の約7.5%をDiethyl 4-propynyloxybenzalmalonateで置換したポリシリコーン誘導体です[1][2a]。
1.2. 物性・性状
ポリシリコーン-15の物性・性状は(∗1)、
∗1 極大吸収波長とは、人体に影響を及ぼす紫外線波長であるUVB-UVAの波長領域(290-400nm)の中で最も吸収する波長のことをいいます。
状態 | 極大吸収波長(nm) | 溶解性 |
---|---|---|
液体 | 312(UVB領域) | 中極性の有機溶媒に可溶 |
Diethyl 4-propynyloxybenzalmalonateは紫外線吸収能をもつため、ジメチコンのメチル基(-CH3)の一部をDiethyl 4-propynyloxybenzalmalonateに置き換えることによって紫外線吸収能を有したシリコーンとなっています[4a]。
2. 化粧品としての配合目的
- UVB吸収による紫外線防御効果
主にこれらの目的で、日焼け止め製品、化粧下地製品、リップケア製品、アウトバストリートメント製品などに使用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. UVB吸収による紫外線防御効果
UVB吸収による紫外線防御効果に関しては、まず前提知識として紫外線(ultraviolet:UV)および紫外線の皮膚への影響について解説します。
紫外線とは、以下の図表のように、
紫外線の分類 | 略称 | 波長領域(nm) |
---|---|---|
長波長紫外線 | UVA | 320-400 |
中波長紫外線 | UVB | 290-320 |
短波長紫外線 | UVC | 190-290 |
太陽による光の波長のうち可視光線よりも波長の短いものを指し、生物学的な作用によって3種類に分類されていますが、以下の図が示すように、
300nm以下の波長のものは成層圏のオゾン層に吸収されるため、地上に到達するのは波長領域300-400nm、つまりUVBの一部(300-320nm)とUVAのみであり、人体に作用するのはUVBおよびUVAであることが知られています[5a][6][7a]。
UVBおよびUVAによるヒト皮膚に対する障害は、以下の表のように、
UVB | UVA | ||
---|---|---|---|
皮膚到達度 | 表皮まで | 真皮まで | |
皮膚 外観 変化 |
単回 曝露 |
一過性の炎症(紅斑) 遅延黒化(紅斑消退後) |
一過性の即時黒化 UVBによる紅斑の増強 一過性の紅斑(大量曝露時) |
反復 曝露 |
持続型黒化の増強 | 光老化皮膚の形成 | |
皮膚 内部 変化 |
単回 曝露 |
表皮細胞の損傷 DNAの損傷 メラニン産生の促進 活性酸素(・O2–)の生成 活性酸素(NO)の促進 |
活性酸素(1O2)の生成 |
反復 曝露 |
メラノサイトの増殖 | 真皮細胞外マトリックスの変性 |
皮膚外観および皮膚内部のそれぞれで、主にこれらの変化が報告されています[5b][7b][8a][9a]。
UVBは、単回曝露時の即時的な皮膚反応としていわゆる「日焼け」とよばれる紅斑や浮腫のような炎症反応を引き起こすことが知られており、この炎症が紫外線曝露24時間をピークとして消退したあとに(紫外線曝露から3日後に)各メラノサイト活性化因子の分泌が亢進し、メラノサイトがそれらを受け取ることでメラノサイト内でメラニン産生が促進され、遅延型黒化を引き起こします(∗2)[5c][7c][9b]。
∗2 紫外線曝露による、炎症のメカニズムについては抗炎症成分カテゴリで、メラニン産生促進による黒化のメカニズムについては美白成分カテゴリでそれぞれ解説しているので併せて参照してください。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応としてメラノサイトの増殖によってメラニン量が増加することによる皮膚の持続的な黒化や部分的な色素沈着があります[7d][8b]。
一方で、UVAは単回曝露時の即時的な皮膚反応として、曝露した直後に皮膚が黒化する即時黒化を引き起こしますが、この即時黒化反応は2-3時間で消失する一時的な皮膚の外観変化であり、メラニンの生成促進によって引き起こされたものではなく、皮膚にすでに存在している淡色のメラニン(還元メラニン)の光酸化によるものであると考えられています[8c][9c]。
また、反復曝露(長期間の曝露)による主な皮膚反応として真皮に存在する細胞外マトリックスの変性による皮膚の老化(ハリや弾力の低下)が促進されることが知られています(∗3)[5d][7e]。
∗3 皮膚の老化(光老化)のメカニズムについては、抗老化成分カテゴリで解説しているので、併せて参照してください。
このような背景から、過剰なUVBおよびUVAの曝露から皮膚を保護することは、健常な皮膚の維持や光老化の予防という点で重要であると考えられています。
ポリシリコーン-15は、以下の紫外線吸収スペクトル図をみてもらうとわかりやすいと思いますが(∗4)、
∗4 吸光度(absorbance:abs)とは、溶液に吸収される光の量のことを指し、Lambert-Beerの法則を用いた場合、光透過率100%の吸光度0.0、31.6%の吸光度0.5、10%の吸光度1.0、1%の吸光度2.0となり、吸光度が大きいほど光透過率は低くなります。ただし、濃度依存的に吸光度は高くなるため、吸光度はあくまでもスペクトルを示すための参考値です。
UVB領域である312nmに吸収極大を示すUVB吸収能を有しており、また紫外線吸収剤をポリマー化(高分子化)することにより経皮吸収を抑え、安全性を向上させているといった特徴から[3b][4b]、UVB吸収による紫外線防御目的で日焼け止め製品、化粧下地製品、リップケア製品、アウトバストリートメント製品などに使用されています。
ポリシリコーン-15は、構造的に1分子中の紫外線吸収基の比率が約7.5%と小さいため、紫外線分光光度計でその吸収強度を測定すると、一般的に用いられているUVB吸収剤であるメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと比較して約25%程度の吸収強度しか示しませんが、紫外線吸収基が比較的均一な間隔で結合しているため、濃度5%程度までは実際的にメトキシケイヒ酸エチルヘキシルと同程度の紫外線防御効果を発揮することが報告されています[4c]。
また、紫外線吸収基が均一に結合しているため、他の紫外線散乱剤や紫外線吸収剤と併用した場合にそれらを比較的ムラなく均一に取り込むとともにUVフィルターの均一膜を形成し、より効率よく紫外線を防御することができることから、主に他の紫外線防御剤と組み合わせて使用されています[10]。
3. 配合量範囲
ポリシリコーン-15は配合制限成分リスト(ポジティブリスト)収載成分であり(∗5)、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。
∗5 ポジティブリストにおいては成分名「ジメチコジエチルベンザルマロネート」と記載されています。
種類 | 最大配合量(g/100g) |
---|---|
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの | 10.0 |
粘膜に使用されることがある化粧品 | 10.0 |
4. 安全性評価
- 2005年からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データおよび荏原病院皮膚科と久岡皮膚科クリニックの臨床試験データ[11a][12]によると、
- [ヒト試験] 92名の被検者に10%ポリシリコーン-15を含むミネラルオイルを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても有害な皮膚反応はみられず、この試験製剤はこの試験条件下において皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Weissenberger,2006)
– 個別事例 –
- [個別事例] 65歳の女性は2014年6月ごろより顔に紅斑が出現しステロイド外用で軽快したが2015年4月ごろより再度紅斑が出現した。軽快と再燃を繰り返すことから2015年6月に初診を受けた。化粧品による接触皮膚炎の疑いから患者持参の化粧品11種類のパッチテストを実施したところ、UVプロテクターでICDRG判定基準1+の陽性を示したため、UVプロテクターの含有成分を用いてパッチテストしたところ、ポリシリコーン-15に2+の陽性を示した。この結果からポリシリコーン-15によるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。ポリシリコーン-15未配合のUVプロテクターの使用に変えたところ、症状は軽快した(平塚 理沙 他,2017)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
ただし、1例の個別事例が報告されているため、ごくまれに皮膚感作を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Scientific Committee on Consumer Safetyの安全性データ[11b]によると、
- [動物試験] 10匹のモルモットの各部位に25,50,75および100%ポリシリコーン-15水溶液を適用し、適用後にUVAを照射した。照射24,48および72時間後に光刺激性を評価したところ、いずれの動物においてもいかなる皮膚反応もみられず、この試験物質は光刺激剤ではなかった(Silicones Environmental Health and Safety Council,2001)
- [ヒト試験] 30名の被検者に10%ポリシリコーン-15を含むシクロメチコンとジメチコンコポリオールの混合物を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)をUVAの照射にて実施したところ、この試験物質はこの試験条件下において光感作剤ではなかった(H. Westenfelder,2006)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ポリシリコーン-15」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,920.
- ⌃abDSM Nutritional Products Ltd.(2015)「PARSOL SLX」Product Information.
- ⌃abS. Daly, et al(2016)「Chemistry of Sunscreens」Principles and Practice of Photoprotection,159-178. DOI:10.1007/978-3-319-29382-0_10.
- ⌃ab藤岡 賢大(2007)「最近の化粧品用途紫外線吸収剤」オレオサイエンス(7)(9),357-362. DOI:10.5650/oleoscience.7.357.
- ⌃abcd正木 仁(2003)「紫外線」化粧品事典,500-502.
- ⌃磯貝 理恵子・山田 秀和(2021)「太陽光線と皮膚:マクロの変化」臨床光皮膚科学,16-22.
- ⌃abcde錦織 千佳子(2009)「紫外線と光防御」美容皮膚科学 改定2版,31-39.
- ⌃abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「紫外線障害予防剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,586-594.
- ⌃abc富田 靖(2009)「メラニンと色素異常」美容皮膚科学 改定2版,22-30.
- ⌃本間 茂継(2014)「化粧品開発に用いられる紫外線防御素材」日本化粧品技術者会誌(48)(1),2-10. DOI:10.5107/sccj.48.2.
- ⌃abScientific Committee on Consumer Safety(2010)「OPINION ON Polysilicone-15」SCCS/1346/10.
- ⌃平塚 理沙, 他(2017)「紫外線吸収剤ポリシリコーン-15による接触皮膚炎」皮膚病診療(39)(7),723-726. DOI:10.24733/J01268.2017304601.