水酸化Na(水酸化ナトリウム)とは…成分効果と毒性を解説

pH調整
水酸化Na
[化粧品成分表示名称]
・水酸化Na

[医薬部外品表示名称]
・水酸化ナトリウム

苛性ソーダと呼ばれる強塩基性(強アルカリ性)を示す水溶性のナトリウム水酸化物です。

もともとナトリウムは、ドイツ語では「Natrium」と呼ばれ、英語では「Sodium」と呼ばれていますが、日本にはドイツ語から輸入されたため一般的にはナトリウムの名称が用いられます。

元素記号は、ドイツ語から用いられ「Na」と表記されますが、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)が定めたIUPAC名では英語のSodiumが採用されており、日本では理化学分野においてはNatrium(ナトリウム)が使用され、医薬学、栄養学、工業分野においてはSodium(ソジウム:ソディウム)が使用されます。

ナトリウムが他の物質と結合してナトリウム化合物になると英語および医薬学、栄養学、工業分野ではSoda(ソーダ)と呼びます。

こういった背景からナトリウム、ソディウム、ソーダの名称が混在しています。

水酸化Naは、常温ではナトリウムイオンと水酸化物イオンからなるイオン結晶であり、水中では完全に電離し、水酸化物イオンを放出するため、強いアルカリ性を示します。

1955年に厚生労働省によって毒物及び劇物取締法として、水酸化ナトリウム及びこれを含有する製剤(水酸化ナトリウム5%以下を含有するものを除く)で液体状のものを毒物・劇物と定めています(文献2:1955)

化粧品においては、一般的に含有濃度は1%以下であり、またpH調整剤として中和反応により弱アルカリ性に調整されているため、市販製品に配合されている水酸化Naは毒物・劇物ではなく、安全性に問題はありません。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、洗浄製品、洗顔料&洗顔石鹸、日焼け止め製品、シート&マスク製品、ネイル製品などに使用されています(文献1:2015)

ケン化または中和反応によるセッケン合成作用

ケン化または中和反応によるセッケン合成作用に関しては、まず前提知識としてセッケン合成メカニズムおよびセッケンの種類について解説します。

セッケンは、以下のように、

高級脂肪酸または油脂 + アルカリ塩

弱酸性を示す高級脂肪酸または油脂とアルカリ塩を反応させることで合成しますが(∗1)、アルカリ塩の種類によってセッケンのタイプが以下のように分類されます。

∗1 高級脂肪酸とアルカリ塩の反応によってセッケンを合成する方法を中和法、油脂とアルカリ塩の反応によってセッケンを合成する方法をケン化法といいます。

石鹸の種類 アルカリ塩 状態 pH
ナトリウム石鹸 水酸化ナトリウム(強塩基) 個体 弱アルカリ性
カリウム石鹸 水酸化カリウム(強塩基) 液体 弱アルカリ性
トリエタノールアミン石鹸 トリエタノールアミン(弱塩基) 液体 中性
アルギニン石鹸(アミノ酸石鹸) L-アルギニン(弱塩基) 液体 中性

一般的に固形石けんを合成する目的で水酸化Naが、液体石けんを合成する目的で水酸化Kが用いられ、これらで合成された石けんは「純石けん」と呼ばれ、pH9.5-10.5の弱アルカリ性を示し、水に溶けやすく高い洗浄力を有します。

1961年にアメリカのマサチューセッツ総合病院によって報告されたラウリン酸ナトリウムの皮膚浸透とpHの関係検証によると、

pH8.5以下の低pHでは界面活性剤の皮膚浸透による角質層内脂質溶解が起こりやすく、pH11以上の高pHではアルカリによるタンパク質変性(皮膚角質層の障害)を起こす可能性がある。

ただし、現在、家庭で使用されている洗浄液でpHが10.5を超えることはほとんどない。

また、事実上pH9.5-10.5の間のみこれらの作用は起こらなかった。

皮膚のこの一連の反応は、皮膚が有するアルカリ中和能とアルカリ値が高いほど皮膚浸透性が低下する性質によって説明できる。

このような検証結果が明らかにされており(文献6:1961)、つまり、皮膚にほとんど浸透せず、なおかつタンパク質変性が起こらないpH値が9.5-10.5であると結論付けられていることから、水酸化Naを反応させた純石けんは、安全性に問題ない物質であると考えられます。

また、アルカリ塩の違いによる洗浄力への影響は、1977年に金沢大学および大阪市立大学によって報告された脂肪酸塩の種類が洗浄におよぼす影響検証によると、

脂肪酸としてパルミチン酸またはオレイン酸に水酸化Na、水酸化KおよびTEAを反応させた石けん0.01M/ℓを用いて、卵白で汚染された布を40℃および80℃で30分間洗浄した場合の洗浄効果を評価したところ、以下のグラフのように、

脂肪酸塩の塩の種類が未変性卵白汚染布の洗浄効果におよぼす影響

脂肪酸塩の塩の種類が未変性卵白汚染布の洗浄効果におよぼす影響

卵白汚染布の洗浄においては、脂肪酸の種類による著しい差異は認められず、またTEAを反応させた石けんと比較すると、水酸化Naおよび水酸化Kを反応させた石けんではいずれも高い洗浄効率を示した。

次に牛乳で汚染された布の洗浄の場合は、以下のグラフのように、

脂肪酸塩の塩の種類が熱変性牛乳汚染布の洗浄効果におよぼす影響

脂肪酸塩の塩の種類が熱変性牛乳汚染布の洗浄効果におよぼす影響

卵白汚染布の場合と同様に、脂肪酸の種類による著しい差異は認められず、中温洗浄(40℃)では塩の間に明確な差異は認められないが、高温洗浄(80℃)ではTEAと比較して水酸化Naおよび水酸化Kの洗浄効果が高いことが認められた。

このような検証結果が明らかにされており(文献3:1977)、汚染物によって差はあるものの、総合的に水酸化Naで反応させた石けんの洗浄効果が高いことが認められています。

中和反応による増粘作用

中和反応による増粘作用に関しては、アルカリ剤で中和させて増粘するタイプの水溶性高分子であるカルボマー(アクリレーツ/アクリル酸(C10-30))クロスポリマーなどにアルカリ中和剤として処方することで増粘させ、乳化安定性を高めます(文献5:1990;文献6:2015)

pH調整による緩衝

pH調整による緩衝に関しては、まず前提知識として緩衝溶液(Buffer Solution)について解説します。

緩衝溶液とは、外からの作用に対して、その影響を和らげようとする性質をもつ溶液であり、つまりある程度の酸または塩基(アルカリ)の添加あるいは除去または希釈(∗2)にかかわらず、ほぼ一定のpHを維持する作用を有する溶液のことです(文献7:1998-1999)

∗2 溶液を薄めることです。

たとえば人間の皮膚は弱酸性であり、入浴などで中性または弱アルカリに傾いたとしてもすぐに弱酸性に保たれますが、これは緩衝作用が働いているためです。

化粧品においては、pHが変動してしまうと効果を発揮しなくなる成分や品質の安定性が保てなくなる成分などが含まれており、化粧品の内容物がpH変動要因である大気中の物質に触れたり、人体の細菌類に触れても品質を保つ(pHを保つ)ために、酸性成分との組み合わせによる塩基性成分として水酸化Naが使用されることがあります(文献8:2012)

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2014-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

水酸化Naの配合状況調査結果(2014-2015年)

スポンサーリンク

水酸化Naの安全性(刺激性・アレルギー)について

水酸化Naの現時点での安全性は、

  • 医療上汎用性があり有効性および安全性の基準を満たした成分が収載される日本薬局方に収載
  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 50年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:濃度依存的に皮膚刺激あり
  • 皮膚刺激性(製品に配合された場合またはけん化・中和した場合):ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:濃度依存的に眼刺激性あり。2%濃度で重度結膜刺激あり
  • 眼刺激性(製品に配合された場合またはけん化・中和した場合):詳細不明
  • 皮膚感作性:ほとんどなし

これらの結果から、化粧品配合量および化粧品・製品における通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

水酸化Naは強塩基性を示すことから、単一では5%濃度以上で毒物・劇物に定められていますが、化粧品などの製品に配合される場合は、けん化・中和反応を通じて弱アルカリ性に処方されているため、刺激性および毒性はなくなり、安全に使用できるようになります。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2015)によると、

  • [ヒト試験] 30人の被検者に0.5%水酸化Na0.2mLを15および30分および1,2,3および4時間Webrilパッドを含むチャンバーに含ませて適用したところ、皮膚を刺激し、皮膚反応レベルが強いため、最大曝露時間は1時間に制限された(M York et al,1996)
  • [ヒト試験] 16人の被検者に2%水酸化Na蒸留水を12mmのFinnチャンバーで適用し、1時間後にパッチ除去したところ、24および96時間後のビジュアルメディシンスコア(1-3)は1で弱い皮膚反応あった(T Agner and J Serup,1988)
  • [ヒト試験] 健康な被検者(人数不明)に5%濃度までの水酸化Na水溶液を12mmのFinnチャンバーで適用し、1時間後にパッチ除去したところ、24および96時間後のビジュアルメディシンスコア(1-3)は1で弱い皮膚反応あった(T Agner and J Serup,1987)
  • [ヒト試験] 19人の被検者に0.5mol/l水酸化Na50μlを30分1日2回4日間にわたってFinnチャンバーおよび解放パッチ適用し、30分の適用後10mlの水ですすぎ乾燥させたところ、3日目にTEWL値(経表皮水分蒸散量)が増加し反応が高刺激に及んだので中止された(J W Fluhr et al,2004)

と記載されています。

試験データは水酸化Na自体のものであり、水酸化Naは強塩基性であるため、そのまま皮膚に塗布した場合、強い皮膚刺激を伴います。

一方で、化粧品・製品に配合されている水酸化Naは中和反応にて弱塩基性(弱アルカリ性)となっており、古くからの使用実績もあるため、化粧品配合下および通常使用下において、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2015)によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの結膜嚢に1.0および2.0%水酸化Na水溶液0.1mLを注入し、4,24,48,72および96時間後に観察したところ、2.0%濃度では中等の角膜刺激を引き起こし(スコア最大4のうち2)、4時間と96時間の間で重度の結膜刺激がみられた。1.0%濃度では2.0%濃度より影響は少なかった(G A Jacobs,1992)
  • [動物試験] 3匹のウサギ3グループに0.5%水酸化Na水溶液を0.01,0.03および0.1mL注入し、他の3匹のウサギ4グループには10%水酸化Na水溶液を0.003,0.01,0.05,1.0および0.1mL注入し、眼をすすがずに1時間および1,2,3,4,7,14および21日後に眼刺激性を評価したところ、0.5%濃度ではわずかな眼刺激性が、10%濃度では腐食性がみられた。0.5%濃度では0.01~0.1mLにおいて角膜に影響がなく、グレード1の虹彩炎が⅔のウサギに観察されたが1日目までには消失していた。10%濃度では0.05および0.1mLにおいて眼に改善できないほどの影響があった(European Chemicals Agency,2015)
  • [動物試験] 7匹のウサギの結膜嚢に0.004,0.04,0.2,0.4および1.2%水酸化Na蒸留水を点眼し、1,2,3,4,7および3-4日ごとに21日目まで観察したところ、0.004-0.2%までは非刺激性で、0.4%では軽度の眼刺激性、1.2%では腐食性であった(R L Morgan et al,1987)

と記載されています。

試験データは水酸化Na自体のものであり、水酸化Naは強塩基性であるため、そのまま眼に点眼した場合、強い眼刺激を伴います。

一方で、化粧品・製品に配合されている水酸化Naは中和反応にて弱塩基性(弱アルカリ性)となっていますが、けん化物・中和物としての水酸化Naの安全性データはみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2015)によると、

  • [ヒト試験] 15人の男性被検者に0.63-1.0%水酸化Naを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施した(チャレンジパッチは0.125%濃度)ところ、いずれの被検者も皮膚感作性は示さなかった。また皮膚刺激性は濃度と相関関係にあった(K B Park,1995)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

水酸化Naは安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2015)「Safety Assessment of Inorganic Hydroxides as Used in Cosmetics」Final Report.
  2. 厚生労働省(1955)毒物及び劇物取締法施行令 政令第二百六十一号 別表第二(第四十二条関係).
  3. 所 康子, 他(1977)「石けんによるたん白質汚れの洗浄に関する研究」繊維製品消費科学(18)(6),224-229.
  4. I H Blank, et al(1961)「Penetration of Anionic Surfactants into Skin: Ⅲ. Penetration from Buffered Sodium Laurate Solutions」Journal of Investigative Dermatology(37)(6),485-488.
  5. 田村 健夫, 他(1990)「高分子化合物」香粧品科学 理論と実際 第4版,147-153.
  6. 宇山 光男, 他(2015)「水酸化Na」化粧品成分ガイド 第6版,174-175.
  7. 西山 成二, 他(1998-1999)「緩衝溶液についての一考察 -緩衝溶液および混合緩衝溶液の緩衝作用-」順天堂医学(44),S1-S6.
  8. 鈴木 一成(2012)「水酸化ナトリウム」化粧品成分用語事典2012,634-635.

スポンサーリンク

TOPへ