リン酸2Naとは…成分効果と毒性を解説



・リン酸2Na
[医薬部外品表示名称]
・リン酸一水素ナトリウム
化学構造的にリン酸水素イオン(HPO4²⁻)と2個のナトリウムイオン(2Na⁺)から成る、化学式Na2HPO4で表される式量141.96のリン酸二ナトリウム塩です(文献2:1994)。
主な用途として、食品分野においてpH調整剤として使用されています(文献1:2016)。
化粧品に配合される場合は、
これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、シート&マスク製品、アウトバストリートメント製品、シャンプー製品、洗顔料など様々な製品に配合されています。
塩基性によるpH調整
塩基性によるpH調整に関しては、まず前提知識として塩基性について解説します。
塩基性とは、酸と反応する性質のことであり、水溶液に限ってはアルカリ性と同義です(∗1)。
∗1 リン酸2Naは塩基性の物質ですが、そのままの粉末をリトマス紙につけても変化がなく、水に溶かしてリン酸2Na水溶液とすることで、イオンのはたらきで水溶液がアルカリ性になるということです。
リン酸2Na溶液のpHは8.0-11.0の弱塩基であり、酸を中和するマイルドなpH調整剤として使用されています。
pH調整による緩衝
pH調整による緩衝に関しては、まず前提知識として緩衝溶液(Buffer Solution)について解説します。
緩衝溶液とは、外からの作用に対して、その影響を和らげようとする性質をもつ溶液であり、つまりある程度の酸または塩基(アルカリ)の添加あるいは除去または希釈(∗2)にかかわらず、ほぼ一定のpHを維持する作用を有する溶液のことです(文献3:1998-1999)。
∗2 溶液を薄めることです。
たとえば人間の皮膚は弱酸性であり、入浴などで中性に傾いたとしてもすぐに弱酸性に保たれますが、これは緩衝作用が働いているためです。
化粧品においては、pHが変動してしまうと効果を発揮しなくなる成分や品質の安定性が保てなくなる成分などが含まれており、化粧品の内容物がpH変動要因である大気中の物質に触れたり、人体の細菌類に触れても品質を保つ(pHを保つ)ために、代表的な緩衝剤のひとつとしてリン酸Na(酸性)とリン酸2Na(塩基性)との組み合わせが使用されています(文献4:2017)。
生体にはもともとかなりのリン酸が含まれており、生体に影響を与えにくいことから、古くから使用されている代表的な緩衝剤です。
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2015-2016年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
リン酸2Naの安全性(刺激性・アレルギー)について
- 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
- 30年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-最小限
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
皮膚刺激性について
- [動物試験] ウサギの無傷の皮膚にリン酸2Naを24時間閉塞パッチ適用したところ、この試験物質は無傷の皮膚において軽度の皮膚刺激を示した(M.L. Weiner et al,2001)
- [動物試験] ウサギの無傷の皮膚にリン酸Naを24時間閉塞パッチ適用したところ、この試験物質はウサギの無傷の皮膚に刺激を示さなかった(M.L. Weiner et al,2001)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激-軽度の皮膚刺激が報告されているため、一般に皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
眼刺激性について
- [動物試験] ウサギの眼にリン酸2Naを点眼し、Draize法に基づいて眼刺激性を評価したところ、洗眼した場合では24時間で実質的に非刺激であり、非洗眼の場合では最小限の眼刺激を示した(M.L. Weiner et al,2001)
- [動物試験] ウサギの眼にリン酸2Naを点眼し、眼刺激性を評価したところ、この試験物質は最小限の眼刺激剤であった(C.C. Willhite et al,2013)
と記載されています。
試験データをみるかぎり、非刺激-最小限の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-最小限の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
皮膚感作性(アレルギー性)について
医薬品および食品添加物としても古くから使用実績があり、化粧品としても30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
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リン酸2Naは安定化成分にカテゴライズされています。
成分一覧は以下からお読みください。
参考:安定化成分
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文献一覧:
- Cosmetic Ingredient Review(2016)「Safety Assessment of Phosphoric Acid and Its Salts as Used in Cosmetics」Final Report.
- 大木 道則, 他(1994)「リン酸水素二ナトリウム」化学辞典,1536
- 西山 成二, 他(1998-1999)「緩衝溶液についての一考察 -緩衝溶液および混合緩衝溶液の緩衝作用-」順天堂医学(44),S1-S6.
- 加藤 太一郎(2017)「緩衝液のイロハ」生物工学会誌(95)(8),476-479.
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