フィチン酸とは…成分効果と毒性を解説

キレート 酸化防止 皮脂抑制
フィチン酸
[化粧品成分表示名称]
・フィチン酸

[医薬部外品表示名称]
・フィチン酸液

[慣用名]
・IP₆

化学構造的にイノシトールに6分子のリン酸基が結合した、水溶性のイノシトールヘキサリン酸エステルです。

フィチン酸は、植物の種子や茎、花粉などに0.2%-5.0%含まれており、リンの貯蔵形態と考えられています(文献3:1992)

フィチン酸の6個のリン酸基は、強力なキレート作用を有しており、酸化の原因となる金属類の酸化を遅らせたり、変色を防止ことから、食品や飲料の安定剤・酸化防止剤として使用されています(文献3:1967;文献4:1992)

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、洗浄製品、洗顔料&洗顔石鹸、ヘアケア製品、頭皮ケア製品などに使用されています(文献1:2018;文献7:2016)

製品自体のキレート作用

製品自体のキレート作用に関しては、まず前提知識として化粧品における金属イオンの働きおよびキレート作用について解説します。

金属イオンは、化粧品成分の酸化を促進し、変臭や変色の原因となったり、透明系の化粧品に濁りや沈殿を生じさせたりするなど、化粧品の品質劣化の原因となったり、また効能成分の作用を阻害することがあるため(文献2:2006)、製品中の金属イオンの働きを抑制(封鎖)する目的でキレート剤が配合されます。

フィチン酸の6個のリン酸基は、強力なキレート作用を有しており、カルシウム、鉄、銅などの陽イオンのキレート剤として配合されます(文献3:1967)

製品自体の酸化防止作用

製品自体の酸化防止作用に関しては、重金属類のキレート作用を有しているため、乳化物の酸化や変色の原因となる重金属類のキレートによる酸化防止目的で、乳液やクリームなどの乳化物に配合されます(文献5:1990;文献6:2012)

ただし、フィチン酸はそのままでは油脂に溶けないので、乳化物に配合される場合は、レシチンなどに混合して使用されます(文献6:2012)

皮脂腺細胞分化抑制による皮脂抑制作用

皮脂腺細胞分化抑制による皮脂抑制作用に関しては、まず前提知識として皮脂について解説します。

皮脂にはトリグリセリド、ワックスエステル、スクアレン、遊離脂肪酸が含まれており、また以下の毛穴の画像をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

体毛の構造図

皮脂は、未分化の皮脂腺細胞が分化した成熟皮脂腺細胞から分泌され、毛穴を通って皮膚表面に放出されて皮膚や体毛の表面に薄い膜状に広がり、物理的・化学的に皮膚や毛髪の保護や保湿の役割を果たしています。

皮脂産生には季節変動や日内変動のあることが知られており、また皮脂分泌量は環境温度や食事に影響されるといわれています。

また、思春期に皮脂分泌は亢進し(文献8:1979)、生理周期にともない皮脂量は変動することから(文献9:1973)、皮脂腺の活動はホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲン)に影響されると考えられています。

とくに思春期での皮脂量増加は女性よりも男性のほうが大きく、去勢した男性では脂漏を生じないことから種々のホルモンの中でも男性ホルモンであるアンドロゲンの影響が最も大きいといえます。

皮膚において過剰に皮脂が分泌されると、肌のベタつき、テカリ、毛穴の拡大、角栓などの原因となり、また毛穴が詰まると産生された皮脂が毛穴にたまり、この皮脂を餌とするアクネ菌(Propionibacterium acnes)の増殖によるニキビの原因となります(文献10:2016)

さらに過剰に分泌された皮脂が酸化されて過酸化脂質に変化すると、コラーゲンやエラスチンなど皮膚弾力繊維の損傷による老化を引き起こしたり、色素沈着も引き起こすことが知られています。

そういった背景から過剰な皮脂分泌を抑制することは、健常な皮膚の維持にとって重要であると考えられます。

2016年にマンダムおよび城西大学薬学部皮膚生理学研究室によって報告されたフィチン酸の皮脂への影響検証によると、

in vitro試験において、皮脂腺細胞分化誘導用培地に各濃度のフィチン酸を添加し、さらに正常ハムスター皮脂腺細胞を播種し、培養した被験細胞培養物の皮脂腺細胞分化抑制率を測定したところ、以下のグラフのように、

皮脂腺細胞分化に対する各濃度のフィチン酸への影響

フィチン酸は、濃度依存的に分化細胞数を抑制していることがわかった。

次に、ヒトにおけるフィチン酸の皮脂抑制効果を検討した。

女性被検者(30歳前後)の半顔にフィチン酸配合化粧水を1日2回6週間にわたって連用してもらい、左右の皮脂状態を測定したところ、以下のグラフのように、

フィチン酸配合化粧水の6週間連用による皮脂抑制への影響

フィチン酸配合化粧水の連用によって皮脂分泌を抑制する効果を確認した。

このような検証結果が明らかにされており(文献7:2016;文献11:2016)、フィチン酸に皮脂腺細胞分化抑制による皮脂抑制作用が認められています。

ただし、フィチン酸の皮脂抑制のメカニズムは、未分化の皮脂腺細胞から成熟皮脂腺細胞への分化を抑制することで皮脂分泌を抑制するというものですが、皮脂腺は皮膚の真皮層にあり、フィチン酸は水溶性であり分子量は約660であるため、一般的には皮膚に浸透しないと考えられます。

浸透性に関して不明なことから、試験データがみつかりしだい追補します。

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2017-2018年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を表しており、またリンスオフ製品というのは、洗い流し製品(シャンプー、洗顔料、クレンジングなど)を指します。

フィチン酸の使用製品数と濃度(2017-2018年)

スポンサーリンク

フィチン酸の安全性(刺激性・アレルギー)について

フィチン酸の現時点での安全性は、

  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:中程度
  • 皮膚感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、配合上限濃度以下および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2018)によると、

  • [ヒト試験] 21人の被検者に0.25%フィチン酸を含む製品を24時間閉塞パッチ適用したところ、いずれの被検者も皮膚刺激性を示さなかった(Anonymous,2010)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚刺激性なしと報告されているため、皮膚刺激性はほとんどないと考えられます。

眼刺激性について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2018)によると、

  • [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に50%フィチン酸を処理し、眼粘膜刺激性を評価したところ、眼刺激性は中程度と予測された(Consumer Product Testing Co,2004)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、中程度の眼刺激性が報告されているため、中程度の眼刺激性が起こる可能性があると考えられます。

皮膚感作性(アレルギー性)について

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ(文献1:2018)によると、

  • [ヒト試験] 110人の被検者に5%フィチン酸を含む保湿剤0.2gを対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を閉塞パッチにて実施したところ、誘導期間において48時間で1人の被検者に軽度の紅斑が観察されたが、この反応は96時間で消失した。いずれの被検者も遅延型接触感作の兆候はなかった(Hill Top Research Inc,1995)
  • [ヒト試験] 104人の被検者に1%フィチン酸を含む化粧製品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を半閉塞パッチにて実施したところ、チャレンジ期間において1人の被検者にほとんど知覚できない紅斑が観察されたが、皮膚感作性は陰性に分類された (Essex Testing Clinic Inc,2012)
  • [ヒト試験] 98人の被検者に1%フィチン酸を含む化粧品を対象にHRIPT(皮膚刺激&感作試験)を実施したところ、試験期間中に皮膚反応は観察されず、この製品の適用は皮膚刺激および皮膚感作と関連はないと結論付けられた (Essex Testing Clinic Inc,2011)
  • [ヒト試験] 25人の被検者に0.25%フィチン酸を含むフェイスゲルを対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、チャレンジパッチ適用48および72時間後でいずれの被検者もアレルギー性接触性皮膚感作の兆候を示さなかった (KGL Inc,2011)

と記載されています。

試験データをみるかぎり、共通して皮膚感作性なしと報告されているため、皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

∗∗∗

フィチン酸は安定化成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:安定化成分

∗∗∗

文献一覧:

  1. Cosmetic Ingredient Review(2018)「Safety Assessment of Polyol Phosphates as Used in Cosmetics」Final Report.
  2. 日光ケミカルズ(2006)「金属イオン封鎖剤」新化粧品原料ハンドブックⅠ,476-480.
  3. 木村 午朗(1967)「フィチン酸について」有機合成化学協会誌(25)(2),167-179.
  4. 早川 利郎, 他(1992)「フィチン酸の構造と機能」日本食品工業学会誌(39)(7),647-655.
  5. 田村 健夫, 他(1990)「酸化防止剤」香粧品科学 理論と実際 第4版,222-225.
  6. 鈴木 一成(2012)「フィチン酸」化粧品成分用語事典2012,437.
  7. 森 俊裕, 他(2016)「皮脂分泌抑制剤」特開2016-150916.
  8. M Nazzaro-Porro, et al(1979)「Effect of dicarboxylic acids on lentigo maligna.」The Journal of Investigative Dermatology(72)(6),296-305.
  9. J L Burton, et al(1973)「Sebum excretion in Parkinsonism」British Journal of Dermatology(88)(3),263-266.
  10. 冨田 秀太(2016)「マイクロバイオームとニキビ」日本香粧品学会誌(40)(2),97-102.
  11. 株式会社マンダム(2016)「マンダム、30歳代前後の女性の肌は性周期により変化し、高温期には一時的に劣化した状態に陥ることを発見 ~ライスミルク由来のフィチン酸が、肌の劣化を改善することを確認~」, <https://www.mandom.co.jp/release/pdf/2016112101.pdf> 2019年5月23日アクセス.

スポンサーリンク

TOPへ