ヒノキチオールとは…成分効果と毒性を解説

防腐 抗掻痒
ヒノキチオール
[化粧品成分表示名称]
・ヒノキチオール

[医薬部外品表示名称]
・ヒノキチオール

ヒノキ科植物タイワンヒノキ(学名:Chamaecyparis obtusa var. formosana)または青森ヒバ(学名:Thujopsis dolabrata var. hondae)の木部や根部を水蒸気蒸留して得られる油分から分離・精製して得られる非ベンゼン系芳香族化合物(七員環炭素化合物)であり、トロポロン誘導体(∗1)です。

∗1 化学構造的にトロポン(非ベンゼン系芳香族化合物)の2位にヒドロキシ基(水酸基)をもつものをトロポロン(トロポン誘導体)といいます。

1936年に当時の台北帝国大学(現 国立台湾大学)において台湾ヒノキ(学名:Chamaecyparis taiwanensis)の精油を研究していた日本の化学者である野副鉄男らによって初めてヒノキチオールが単離され、世界で初めて炭素7個が環状結合した非ベンゼン系芳香族化合物を有した天然物であることが明らかにされました(文献6:1936;文献7:1944)(∗2)

∗2 当時は芳香族化合物といえば炭素6個が環状結合したベンゼンが一般的でした。

ヒノキチオールは、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトルを有することが知られていますが、一方で光分解性および金属に対して強い腐食性を有していることも知られています。

光分解性に関しては、5,000ルクス(∗3)の蛍光灯照射条件においてヒノキチオールはおよそ6時間で完全に分解することが報告されており、これに対してヒノキチオール塩および金属錯体の場合では、カルシウム塩で約3日、ナトリウム塩で約8日間、亜鉛塩では約14日間、銅塩では90日と、いずれも大きく耐光性が向上し、かつ抗菌性をほとんど損なわないことも知られています(文献9:1998)

∗3 ルクスは照度を表しますが、目安として百貨店売り場:500-700ルクス、パチンコ店内:1,000ルクス、曇天午前10時太陽光:25,000ルクス、晴天午後3時太陽光:35,000ルクスです(文献10:-)。

ただし、市販製品の場合、一般的に3年以上の防腐・殺菌作用が必要であり、それを考慮するとヒノキチオール、ヒノキチオール塩および金属錯体では光安定性が弱く、そのまま配合すると速やかに光分解するため、配合には処方技術が必要であると考えられます。

化粧品に配合される場合は、

これらの目的で、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ化粧品、頭皮ケア製品、洗浄製品などに使用されています。

製品自体の抗菌・防腐作用

製品自体の抗菌・防腐作用に関しては、1993年に青森県工業試験場樹木抽出成分開発指導チームによって報告されたヒノキチオールの抗菌活性検証によると、

通常の培地を用いたin vitro試験において、化粧品の腐敗でよく見受けられる微生物に対するヒノキチオールのMIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)を検討したところ、以下のグラフのように、

微生物 MIC
(μg/mL) (%)
枯草菌(グラム陽性桿菌)
Bacilus subtilis ATCC 6633
50 0.005
黄色ブドウ球菌(グラム陽性球菌)
Staphylococcus aureus ATCC 6538
100 0.010
大腸菌(グラム陰性桿菌)
Escherichia coli ATCC 8739
100 0.010
肺炎桿菌(グラム陰性桿菌)
Klebsiella pneumoniae ATCC 8308
100 0.010
緑膿菌(グラム陰性桿菌)
Pseudomonas aeruginosa ATCC 27853
200 0.020

ヒノキチオールは、広い範囲の抗菌活性を示した。

このような検証結果が明らかにされており(文献8:1993)、ヒノキチオールに製品自体の抗菌・防腐作用が認められています。

防腐目的で配合されている場合は、配合量が微量であると考えられるため、成分表示一覧の最後のほうに表示されていると推測されます。

アトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌育成阻害による抗瘙痒作用

アトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌育成阻害による抗瘙痒作用に関しては、まず前提知識としてアトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌の影響について解説します。

アトピー性皮膚炎由来黄色ブドウ球菌をヒトに接種すると、紅斑・浮腫の発生とともに強い瘙痒(かゆみ)が引き起こされることが報告されており(文献11:1985)、また成人型アトピー性皮膚炎患者に細菌ワクチン治療を行うと皮表の細菌数が減少し、皮疹および瘙痒が改善すると報告されていることから(文献12:1990)、アトピー性皮膚炎由来黄色ブドウ球菌の存在が瘙痒の憎悪因子である可能性が示唆されています。

このような背景から黄色ブドウ球菌の生育を阻害することはアトピー性皮膚炎の瘙痒を抑制するのに効果的である可能性があります。

1994年に岡山大学医学部皮膚科によって報告されたヒノキチオールのアトピー性皮膚炎に対する使用試験によると、

アトピー性皮膚炎を有する33人の患者に0.1%,0.2%および1.0%ヒノキチオール配合軟膏を1日2回、6-14日間単純塗布し、瘙痒を自己申告による0-4の5段階(∗4)で評価してもらったところ、以下の表のように、

∗4 0:ほとんどあるいはまったくかゆみを感じない、1:時にむずむずするが、掻かなくても我慢できる、2:時に手がゆき、軽く掻く程度で一応おさまりあまり気にならない、3:かなり痒く、人前でも掻く。かゆみのためにイライラし、たえず掻いている、4:いてもたってもおれないかゆみ。掻いてもおさまらず、ますます痒くなり仕事も勉強も手に付かない

使用前 使用後 人数
4 2≧ 8
3≦ 8
3 1≧ 8
2≦ 9

ヒノキチオール軟膏外用後、瘙痒が外用前に比べ50%以下となった場合を有効例、それ以外を無効例とすると33例のうち16例(48.5%)が有効例となった。

これら16例のうち13例において、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌数が外用前と比較して1/10以下となっていた。

一方で、無効例のうち外用前に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を検出した15例では、2例が黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌数が外用前と比較して1/10以下になったのみであった。

このような検証結果が明らかにされており(文献5:1996)、ヒノキチオールにアトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌育成阻害による抗瘙痒作用が認められています。

化粧品においては、リーブオン製品(∗5)は配合量0.1%上限ですが、試験内では0.1%濃度においても0.2%および1.0%と同程度の改善率が示されているため、化粧品においても0.1%配合の場合、同程度の改善率が期待できると考えられます。

∗5 リーブオン製品とは、スキンケア製品やメイク製品など付けっ放しの製品のことです。

また、ヒノキチオール軟膏の外用試験においてもブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌数が減少とともに瘙痒が減少する症例がみられることから、ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の存在が瘙痒の憎悪因子である可能性が示唆されます。

しかし一方で、ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌数がヒノキチオール軟膏外用後に著しく減少しても瘙痒は不変な症例やブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を検出しない症例でも瘙痒を認め、ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が瘙痒に無関係であると考えられる症例もみられたことから、0.1%濃度以上のヒノキチオール配合製品の適用でもかゆみの改善効果が現れないケースも考えられます。

ヒノキチオールはポジティブリストであり、化粧品に配合する場合は以下の配合範囲内においてのみ使用されます。

種類 最大配合量(g/100g)
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流すもの 配合上限なし
粘膜に使用されることがない化粧品のうち洗い流さないもの 0.10
粘膜に使用されることがある化粧品 0.050

また、ヒノキチオールは医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 上限なし
育毛剤 0.10
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 0.10
薬用口唇類 0.050
薬用歯みがき類 0.050
浴用剤 0.10

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ヒノキチオールの安全性(刺激性・アレルギー)について

ヒノキチオールの現時点での安全性は、

  • 外原規2006規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2006に収載
  • 10年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 皮膚刺激性(アレルギー性皮膚炎を有する場合):ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性皮膚炎を有する場合):ほとんどなし-ごくまれに起こる可能性あり

このような結果となっており、配合上限濃度以下および通常使用下において、一般的に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

皮膚刺激性

– 皮膚炎を有する場合 –

岡山大学医学部皮膚科の臨床データ(文献5:1996)によると、

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有する15人の患者に、0.05%および0.005%ヒノキチオール(台湾ヒノキ由来)、0.1%,0.05%および0.005%ヒノキチオール(青森ヒバ由来:アルコール溶解)または0.1%,0.05%および0.005%ヒノキチオール(青森ヒバ由来:ポリソルベート80溶解)をFinn Chamberを用いてパッチテストし、皮膚刺激性を評価したところ、ヒノキチオール(台湾ヒノキ由来)は0.05%および0.005%にて48時間後でそれぞれ16.6および6.6、72時間後は6.6および3.3であった。ヒノキチオール(青森ヒバ由来:アルコール溶解)は0.1%,0.05%および0.005%にて48時間後では6.6,3.3および10、72時間後では3.3,3.3および0であった。一方でヒノキチオール(青森ヒバ由来:ポリソルベート80溶解)は0.1%,0.05%および0.005%にて48時間および72時間後ですべて0であった

東北大学大学院医学系研究科内科の臨床データ(文献14:2002)によると、

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有する20人の患者にヒノキチオールを含む保湿クリームを2週間にわたって1日2回適用し、7,および14日に皮膚反応を評価したところ、皮膚刺激は認められなかった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、ほとんど皮膚刺激性なしと報告されているため、一般的に皮膚炎を有する場合、皮膚刺激性はほとんどない-最小限と考えられます。

眼刺激性について

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚感作性(アレルギー性)について

– 健常皮膚を有する場合 –

フレグランスマテリアル研究所の安全性データ(文献1:1979)によると、

  • [ヒト試験] 25人のボランティアにヒバ油(ヒノキチオール含む)を対象にmaximization皮膚感作試験が実施されたが、いずれのボランティアにおいても皮膚感作性は認められなかった

と記載されています。

試験データはヒバ油(ヒノキチオール含む)のものですが、皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に健常な皮膚において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

– 皮膚炎を有する場合 –

岡山大学医学部皮膚科の臨床データ(文献3:1994)によると、

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有する32人の患者に0.1%,0.2%または1.0%ヒノキチオールを含む軟膏を1日2回、6-14日にわたって単純塗布し、皮膚反応を観察したところ、試験期間中に皮膚炎が悪化した例や接触性皮膚炎を起こした症例はみられなかった

東北大学大学院医学系研究科内科の臨床データ(文献14:2002)によると、

  • [ヒト試験] アトピー性皮膚炎を有する20人の患者にヒノキチオールを含む保湿クリームを2週間にわたって1日2回適用し、7,および14日に皮膚反応を評価したところ、皮膚感作は認められなかった

大阪市立環境科学研究所の安全性データ(文献4:2000)によると、

  • [動物試験] ヒバ油の主要な感作原因物質がヒノキチオールかどうかを検討するためにヒバ油に陽性反応を示したモルモットにヒノキチオールを塗布したところ、いずれのモルモットにおいても感作反応は認められなかった

– 個別事例 –

東京都共済組合青山病院皮膚科の臨床データ(文献2:1997)によると、

  • [個別事例] アレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎の既往歴がある男性(62歳)は、約2年前から育毛剤を使用しているが、初診(1994年2月)の2-3ヶ月前からフケが多くなり、頭部にかゆみも出現したため受診。使用していた育毛剤はICDRG基準において閉塞パッチおよび開放パッチともに陽性だったため、成分についてパッチテストした。その結果、ヒノキチオールは72時間で5%濃度が++、1%-0.05%が+?であった。1ヶ月後に再度成分パッチテストしたところ、同様の反応が再現された。使用していた育毛剤へのヒノキチオールの配合濃度は約0.05%であった
  • [個別事例] アレルギー性鼻炎治療中およびアトピー性皮膚炎を有する男性(51歳)は、20年来ヘアリキッドやヘアトニックを使用しており、約2年前から育毛剤を愛用しているが、初診(1993年11月)の1ヶ月前からかゆみが強くなり、頭皮が発赤してきたため受診。パッチテストを実施したところ、使用していたヘアリキッドおよびヘアトニックは陰性であったが、育毛剤のみ48,72時間および7日間で++であったため、成分についてパッチテストした。その結果、ヒノキチオールは72時間で5%-0.5%濃度が++であった

と記載されています。

試験データをみるかぎり、皮膚感作性なしと報告されているため、一般的に皮膚炎を有する場合において皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

ただし、個別臨床データとしてアトピー性皮膚炎を有する場合に皮膚感作が2例報告されているため、アレルギー性皮膚炎を有する場合、まれに皮膚感作が起こる可能性があると考えられます。

安全性についての捕捉

ヒノキチオールには、催奇形性として妊娠マウスに560-1,000mg/kgを妊娠9日に1回経口投与したとき口唇口蓋裂、短尾、四肢減形成、多合指を誘発することが報告されていますが(文献13:1999)、化粧品においては安全性の観点から配合上限が定められており、数十年の使用実績の中で催奇形性の報告もないことから催奇形性の懸念はないと考えられます。

∗∗∗

ヒノキチオールは安定化成分、抗炎症成分にカテゴライズされています。

成分一覧は以下からお読みください。

参考:安定化成分 抗炎症成分

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文献一覧:

  1. D L J Opdyke(1979)「Monographs on fragrance raw materials:Hiba wood oil」Food and cosmetics toxicology(17),817.
  2. 細野 久美子, 他(1997)「育毛剤中のヒノキチオールとパントテニルエチルエーテルによる接触皮膚炎の2例」皮膚(39)(1),42-47.
  3. 秋山 尚範, 他(1994)「アトピー性皮膚炎に対する自家製ヒノキチオール軟膏の使用経験」CHEMOTHERAPY(42)(10),1202-1211.
  4. 野田 勉, 他(2000)「抗菌剤ヒバ油の安全性試験 1.皮膚感作性試験」生活衛生(44)(1),13-19.
  5. 十字 文子, 他(1996)「ヒノキチオール(青森ヒバ由来)のアトピー性皮膚炎に対する安全性について」アレルギー(45)(8-9),902.
  6. T nozoe(1936)「Uber die Farbstoffe Im Holzteile des “Hinoki” Baumes. I. Hinokitin and Hinoktiol」Bulletin of the Chemical Society of Japan(11)(3),295-298.
  7. 野副 鐵男, 他(1944)「ヒノキチオールの構造に就て」藥學雜誌(64)(3),181-185.
  8. 岡部 敏弘, 他(1993)「木材抽出成分の薬理効果」木材保存(19)(2),66-76.
  9. 森田 泰弘, 他(1998)「ヒノキチオール錯体の抗菌性及び光安定性」天然有機化合物討論会講演要旨集(40),529-533.
  10. 大阪市立科学館(-)「照度と明るさの目安」, <http://photon.sci-museum.kita.osaka.jp/publish/text/koyomi/66.html> 2019年5月15日アクセス.
  11. 加賀美 潔(1985)「アトピー性皮膚炎と細菌叢」皮膚科Mook(1),103-108.
  12. 向井 秀樹, 他(1990)「成人型アトピー性皮膚炎の細菌ワクチン注射による治療(Ⅱ)―作用機序―」日本皮膚科学会雑誌(100)(4),495-502.
  13. A Ogata, et al(1999)「Teratogenicity of thujaplicin in ICR mice.」Food and Chemical Toxicology(37)(11),1097-1104.
  14. 小澤 麻紀, 他(2002)「アトピー性皮膚炎に対するヒノキチオール配合保湿クリームの使用経験」皮膚の科学(1)(6),418-423.

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