ヒドロキシプロピルシクロデキストリンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | ヒドロキシプロピルシクロデキストリン |
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医薬部外品表示名 | ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン |
INCI名 | Hydroxypropyl Cyclodextrin |
配合目的 | 安定化(未分類)、可溶化、効果持続 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
シクロデキストリンのヒドロキシプロピルエーテルであり、以下の化学式で表されるシクロデキストリンのグルコース骨格の2,3,6位のヒドロキシ基(-OH)がランダムでヒドロキシプロピル基(-CH2CHOHCH3)に置換されたシクロデキストリン誘導体です[1][2a]。
現時点で化粧品原料として使用できるのは6個のグルコースが結合したα-シクロデキストリンと7個のグルコースが結合したβ-シクロデキストリンですが、実際には主にβ-シクロデキストリンが用いられます。
1.2. 性質
シクロデキストリンは、以下の図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、
環状分子内に空洞をもつ立体構造であり、ヒドロキシ基(-OH)は上縁部と下縁部で円形に並び、外側が親水性、内側(空洞部)が疎水性を示すきわめて特異な物質であることが知られています[3a]。
化粧品に使用されるシクロデキストリンは、6-8個のグルコースが環状に結合したものであり、グルコース分子の数によってそれぞれ、
シクロデキストリンの種類 | グルコースの数 | 空洞の内径(Å) | 水への溶解性 |
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α-シクロデキストリン | 6 | 5-6 | 可溶 |
β-シクロデキストリン | 7 | 7-8 | 難溶 |
γ-シクロデキストリン | 8 | 9-10 | 可溶 |
α-,β-,γ-シクロデキストリンとよばれており、グルコースの結合数が増えるほど分子量および空洞の内径が大きくなります[3b]。
β-シクロデキストリンは水に対する溶解性が低くエタノールにもほとんど溶解しませんが、ヒドロキシ基(-OH)をヒドロキシプロピル基(-CH2CHOHCH3)に置換することで水やエタノールに溶けやすくしたものがヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンです。
2. 化粧品としての配合目的
- 包接による安定化
- 可溶化
- 徐放による効果持続性の付与
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、メイクアップ製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディソープ製品、シート&マスク製品、シャンプー製品、コンディショナー製品、トリートメント製品、アウトバストリートメント製品、フレグランス製品、デオドラント製品、ヘアスタイリング製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 包接による安定化
包接による安定化に関しては、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンは包接機能を有しており、光、紫外線、熱に不安定な物質や酸化、加水分解されやすい物質を包接することでこれら不安定な物質を安定化することから、不安定な成分の安定化目的で様々な製品に使用されています[2b][4a][5a]。
シクロデキストリンと併用される主な不安定物質としては、ビタミン・ビタミン様物質、抗酸化物質、ペプチド、疎水性植物エキス、香料、色素、アルカロイド、不飽和脂肪酸を含む植物油などがあります。
2.2. 可溶化
可溶化に関しては、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンは水に可溶であり、難水溶性物質を包接した包接複合体として難水溶性物質の水への溶解量を増加させることから、難水溶性物質の可溶化目的で使用されています[2c]。
2.3. 徐放による効果持続性の付与
徐放による効果持続性の付与に関しては、ヒドロキシプロピルシクロデキストリンは包接機能を有しており、この包接は水分子を介在させることによって解離が起こることから、活性成分を徐々に放出しながら効果を持続できることが知られており、主に揮発性の強い香気成分の効果を長期にわたって持続させる目的で使用されています[2d][4b][5b]。
3. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2013-2015年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗1)。
∗1 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
4. 安全性評価
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
- 眼刺激性:詳細不明
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。
なお、日本の薬局方には収載されていませんが、アメリカ薬局方、ヨーロッパ薬局方、中国薬局方には収載されています。
4.2. 眼刺激性
試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「ヒドロキシプロピルシクロデキストリン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,810.
- ⌃abcd和田 幸樹(2011)「シクロデキストリン誘導体の特性及び利用:ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを中心に」応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌(1)(4),322-326. DOI:10.5458/bag.1.4_322.
- ⌃ab平井 英史(1990)「シクロデキストリンの化学」化学と教育(38)(2),158-162. DOI:10.20665/kakyoshi.38.2_158.
- ⌃ab寺尾 啓二(2012)「シクロデキストリンの食品・化粧品への応用」化学と教育(60)(1),18-21. DOI:10.20665/kakyoshi.60.1_18.
- ⌃ab鴨井 一文(2013)「化粧品分野への応用」シクロデキストリンの応用技術,93-102.