キャンデリラロウの基本情報・配合目的・安全性

キャンデリラロウ

化粧品表示名 キャンデリラロウ
医薬部外品表示名 キャンデリラロウ
慣用名 キャンデリラワックス
INCI名 Euphorbia Cerifera (Candelilla) Wax
配合目的 安定化(未分類)光沢 など

1. 基本情報

1.1. 定義

トウダイグサ科植物キャンデリラ(学名:Euphorbia antisyphilitica, syn. Euphorbia ceriferaあるいはPedilanthus pavonis 英名:Candelilla)の茎から得たロウです(∗1)[1][2]

∗1 「syn」は同義語を意味する「synonym(シノニム)」の略称です。

1.2. 物性・性状

キャンデリラロウの物性・性状は(∗2)(∗3)

∗2 融点とは固体が液体になりはじめる温度のことです。比重とは固体や液体においては密度を意味し、標準密度1より大きければ水に沈み(水より重い)、1より小さければ水に浮くことを意味します。

∗3 屈折とは光の速度が変化して進行方向が変わる現象のことで、屈折率は「空気中の光の伝播速度/物質中の光の伝播速度」で表されます。光の伝播速度は物質により異なり、また同一の物質でも波長により異なるため屈折率も異なりますが、化粧品において重要なのは空気の屈折率を1とした場合の屈折率差が高い界面ほど反射率が大きいということであり、平滑性をもつ表面であれば光沢が高く、ツヤがでます(屈折率の例としては1.33、エタノールは1.36、パラフィンは1.48)。

状態 融点(℃) 比重(d 15/4) 屈折率(n 71/D)
ロウ状固体 66-72 0.9820-0.9856 1.4550-1.4611

このように報告されています[3a][4]

1.3. 組成

キャンデリラロウの組成は、一例として、

成分 含有比(%)
エステル 24-30
遊離脂肪酸 10-20
遊離アルコール 10-15
炭化水素 40-50
その他(樹脂、ラクトンなど) 15-18

このような種類と比率で構成されていることが報告されており[5a]、また各成分の炭素数の分布は、一例として、

炭素数 炭化水素(%) エステル(%) 遊離
脂肪酸(%)
遊離
アルコール(%)
脂肪酸 アルコール
16 2
18 1
20 12
22 4 5
24 1
26 1 3
28 7 9 9
29 6
30 2 32 65 48 77
31 80
32 1 33 15 43 20
33 11
34 7 3 3

このような種類と比率で構成されていることが報告されています[3b]

炭素数31(C31H64の炭化水素であるヘントリアコンタン(hentriacontane)を主体とする炭化水素が全体の40-50%を占め、そのほか炭素数20-32(C20,C30,C32の脂肪酸と炭素数28-32(C28,C30,C32のアルコールが40-50%、樹脂などが10-15%の比率で含まれており、奇数炭素数の炭化水素の多さが他の天然ロウにみられない特徴となっています[5b]

1.4. 分布と歴史

キャンデリラは、メキシコ北部およびアメリカ南部の海抜1,000-2,000mの高原に自生しており、これらの地方では温度差が激しく、夏は45℃に、冬には-20℃にもなり、そのうえ雨も少ない乾燥地帯で、この過酷な環境から自らを保護するためにワックスを分泌しています[3c]

人工的な栽培など人の手が加わったものは、ワックス分の分泌が非常に少なくなることから、現在においても自然繁殖に頼るのみとなっており、主にメキシコで原料化されています[6]

1.5. 化粧品以外の主な用途

キャンデリラロウの化粧品以外の主な用途としては、

分野 用途
食品 チューインガムに柔軟性のある食感を付与する目的でガムベースに用いられるほか、硬い光沢があり耐水性の皮膜を形成するため、ガム、キャンディ、錠菓などの菓子類、果実などの皮膜剤としても用いられています[7]

これらの用途が報告されています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • 耐温性向上による安定化
  • 光沢付与

主にこれらの目的で、スティック系メイクアップ製品、ペンシル系メイクアップ製品、その他のメイクアップ製品、化粧下地製品、ボディ&ハンドケア製品、スキンケア製品、ヘアスタイリング製品などに汎用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 耐温性向上による安定化

耐温性向上による安定化に関しては、キャンデリラロウは融点が66-72と高く、油脂やロウ類と混合することでその融点を高めるため、製品の融点を上昇させて耐温度性を向上させる(経時の硬度低下防止)目的で主にスティック系製品、ペンシル系製品などに汎用されています[5c][8a]

2.2. 光沢付与

光沢付与に関しては、キャンデリラロウは高い光沢をもつことから、光沢やツヤを付与する目的で主に口紅、リップグロスなどポイントメイクアップ製品に使用されています[5d][8b]

3. 混合原料としての配合目的

キャンデリラロウは混合原料が開発されており、キャンデリラロウと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 Cocopure SP503
構成成分 ココグリセリル、キャンデリラロウコメヌカロウ
特徴 植物由来混合エモリエント剤
原料名 EMACOL CD-9635
構成成分 PEG-40水添ヒマシ油キャンデリラロウ
特徴 キャンデリラロウのO/W型エマルション
原料名 センカEMワックスCL-150
構成成分 キャンデリラロウPEG-20水添ヒマシ油ラウレス-23フェノキシエタノール
特徴 キャンデリラロウのO/W型エマルション
原料名 ECOBEADS
構成成分 ステアリン酸ステアリル、キャンデリラロウホホバエステル
特徴 硬くなめらかな100%天然由来の混合スクラブ剤

4. 配合製品数および配合量範囲

実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の1984年および2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

キャンデリラロウの配合製品数と配合量の調査結果(1984年および2002-2003年)

5. 安全性評価

キャンデリラロウの現時点での安全性は、

  • 食品添加物の既存添加物リストに収載
  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a]によると、

  • [ヒト試験] 20名の被検者に25%キャンデリラロウを含むキャスターオイルを単一パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激の兆候はなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1975)
  • [ヒト試験] 108名の被検者に3.5%キャンデリラロウを含むクリームを対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験製剤は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(Hill Top Research Labs,1976)
  • [ヒト試験] 200名の被検者に10.98%キャンデリラロウを含むリップスティック製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、この試験製剤は皮膚刺激および皮膚感作を誘発しなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
  • [ヒト試験] 12名の被検者に12%キャンデリラロウを含むリップスティック製剤2種類を対象に皮膚累積刺激性試験を実施し、皮膚累積刺激スコアを0-756のスケールで評価したところ、皮膚累積刺激スコアはそれぞれ31および2であった。この2つの試験物質は本質的に非刺激剤であった(Hill Top Research Labs,1978)

このように記載されており、試験データをみるかぎりほとんど共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

5.2. 眼刺激性

Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、

  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に75%キャンデリラロウを含むコーン油0.1mLを点眼し、点眼から7日後まで眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1977)
  • [動物試験] 6匹のウサギの片眼に10.98%キャンデリラロウを含む製剤0.1gを点眼し、点眼24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、この試験物質は眼刺激を誘発しなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)

このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「キャンデリラロウ」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,340.
  2. 田村 健夫・廣田 博(2001)「ロウ類」香粧品科学 理論と実際 第4版,100-107.
  3. ab大石 孔(1983)「植物系ワックス」ワックスの性質と応用,14-31.
  4. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「ロウ類」パーソナルケアハンドブックⅠ,20-24.
  5. abcd小林 進(2007)「天然ロウの現状と化粧品原料としての新たな展開」Fragrance Journal臨時増刊(20),47-54.
  6. 齋木 武彦(1999)「植物性ワックス」Fragrance Journal臨時増刊(16),64-69.
  7. 樋口 彰, 他(2019)「カンデリラロウ」食品添加物事典 新訂第二版,89.
  8. ab広田 博(1970)「ロウ類」化粧品のための油脂・界面活性剤,15-26.
  9. abR.L. Elder(1984)「Final Report on the Safety Assessment of Candelilla Wax, Carnauba Wax, Japan Wax, and Beeswax」Journal of the American College of Toxicology(3)(3),1-41. DOI:10.3109/10915818409010515.

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