酢酸エチルの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 酢酸エチル |
---|---|
INCI名 | Ethyl Acetate |
配合目的 | 溶剤 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、酢酸とエタノールが脱水縮合(∗1)した果実様香気をもつ揮発性のエステルです[1a][2a]。
∗1 脱水縮合とは、2個の分子がそれぞれ水素原子(H)とヒドロキシ基(-OH)を失って水分子(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合(縮合)し、新たな化合物をつくる反応のことをいいます。
1.2. 物性
酢酸エチルの物性は、
融点(℃) | 沸点(℃) | 比重(d 20/4) | 屈折率(n 20/D) |
---|---|---|---|
-83.6 | 77.11 | 0.9006 | 1.3724 |
このように報告されています[2b]。
1.3. 分布
酢酸エチルは、自然界においてパイナップル、イチゴなど果物の揮発性香気成分として存在しています[3a]。
1.4. 化粧品以外の主な用途
酢酸エチルの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
---|---|
塗料 | 主にニトロセルロース、ワニス、ラッカーの溶剤に用いられています[4]。 |
食品 | パイナップル、イチゴ、バナナなどの果実フレーバー(香料)として食品に用いられるほか、酢酸ビニルなどの溶剤などに用いられています[3b][5a]。 |
医薬品 | 溶剤、溶解目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[6]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 溶剤
主にこれらの目的で、ネイル製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 溶剤
溶剤に関しては、酢酸エチルはエタノール、アセトン、エーテルなどほとんどの有機溶媒と自由に混合するため、油類、油脂、樹脂などの溶剤として用いられています[5b]。
化粧品においては、ネイル製品の皮膜を形成するニトロセルロースや樹脂などを溶かす低沸点の溶剤としてネイルエナメルの流動性を高めたり、乾きを早くするために他の溶剤と併用してマニキュア、トップコート、ベースコート、除光液などネイル製品に汎用されています[1b][7][8]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2006年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-中程度
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9a]によると、
- [ヒト試験] 25名の被検者に97%酢酸エチルを含む製品を対象にMaximization皮膚感作性試験を閉塞パッチにて実施したところ、この製品は皮膚感作剤ではなかった(Ivy Research Laboratories Inc,1983)
- [ヒト試験] 218名の被検者に10%酢酸エチルを含むネイルポリッシュを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、3名の被検者に陽性反応がみられたが、これらは臨床的に重要な皮膚反応ではなく、実質的にこの試験物質は皮膚刺激剤および皮膚感作剤ではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
- [ヒト試験] 10名の被検者に97%酢酸エチルを含む製品を対象に21日間累積刺激性試験を実施したところ、この試験物質は累積刺激を示さなかった(Hill Top Research Inc,1984)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されていることから、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9b]によると、
- [動物試験] ウサギの片眼に16.5%酢酸エチルを含むネイルポリッシュリムーバー0.1mLを点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、1時間でわずかな角膜混濁と重度の結膜炎が観察され、3日目には中程度の角膜混濁と重度の虹彩炎が観察された。8日目にはわずかな角膜混濁と中程度の結膜炎および角膜の血管新生が観察された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1987)
- [動物試験] 9匹のウサギの片眼に10%酢酸エチルを含むネイルポリッシュ製剤0.1mLを点眼し、3匹の眼は4秒間すすぎ、他の3匹は2秒間すすぎ、残りの3匹は眼をすすがず、Draize法に基づいて点眼後に眼刺激性を評価したところ、非洗眼群は72時間および6日後で発赤とケモーシスの存在が認められたが、それらの反応は9日目には消失した。4秒洗眼群のうち2匹は72時間および6日後でわずかな発赤が認められたがこの反応は7日目には消失した。2秒洗眼群はいずれの眼刺激反応は認められなかった。このネイルポリッシュ製剤は軽度の眼刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり軽度-中程度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-中程度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[9c]によると、
- [ヒト試験] 30名の被検者に試験前に最小紅斑線量(MED)を照射した後、6.5%酢酸エチルを含むネイルカラーを24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に各被検者の最小紅斑線量を3回照射し、照射48時間後に皮膚反応を評価するという工程を6回繰り返した。次に10日間の休息期間を設けた後にチャレンジパッチを24時間適用し、パッチ除去後に試験部位を3分間照射し、照射15分後および24,48および72時間後に皮膚反応を評価したところ、この試験物質は光刺激および光感作を誘発しなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1980)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されているため、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃ab日本化粧品工業連合会(2013)「酢酸エチル」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,430.
- ⌃ab大木 道則, 他(1989)「酢酸エチル」化学大辞典,843-844.
- ⌃ab樋口 彰, 他(2019)「酢酸エチル」食品添加物事典 新訂第二版,146.
- ⌃有機合成化学協会(1985)「酢酸エチル」有機化合物辞典,331.
- ⌃ab浅原 照三, 他(1976)「酢酸エチル」溶剤ハンドブック,568-572.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「酢酸エチル」医薬品添加物事典2021,248-249.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(1977)「溶剤」ハンドブック – 化粧品・製剤原料 – 改訂版,799-802.
- ⌃宇山 侊男, 他(2020)「酢酸エチル」化粧品成分ガイド 第7版,230.
- ⌃abcN.J. Toy(1989)「Final Report on the Safety Assessment of Ethyl Acetate and Butyl Acetate」Journal of the American College of Toxicology(8)(4),681-705. DOI:10.3109/10915818909010527.