安息香酸アルキル(C12-15)の基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 安息香酸アルキル(C12-15) |
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医薬部外品表示名 | 安息香酸アルキル(C12~C15)、高級アルコール(C12-C15)安息香酸エステル |
部外品表示簡略名 | 安息香酸アルキル(C12~15) |
INCI名 | C12-15 Alkyl Benzoate |
配合目的 | 溶剤、基剤、光沢 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
芳香族カルボン酸(∗1)とアルコールとのエステルの一種であり、以下の化学式で表される安息香酸のカルボキシ基(-COOH)に炭素数12-15の脂肪族アルコールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗2)したエステルです[1][2a]。
∗1 カルボン酸(carboxylic acid)とは、少なくとも1個のカルボキシ基(−COOH)を有する有機酸であり、分子中に芳香環であるベンゼン環をもちベンゼン環にカルボキシ基(−COOH)が直接結合した有機化合物を芳香族カルボン酸といいます。ベンゼン環を含む化合物はよい香りをもつものが多かったことから芳香族の名で呼ばれるようになりましたが、必ずしも芳香性を有しているわけではありません。
∗2 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。脂肪酸とアルコールのエステルにおいては、脂肪酸(R-COOH)のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とアルコール(R-OH)のヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシ基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。
2. 化粧品としての配合目的
- 溶剤
- 油性基剤
- 光沢付与
主にこれらの目的で、日焼け止め製品、化粧下地製品、リップ系メイクアップ製品、その他のメイクアップ製品、ボディケア製品、アウトバストリートメント製品、スキンケア製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 溶剤
溶剤に関しては、安息香酸アルキル(C12-15)は油溶性の紫外線吸収剤の溶解性に優れることから、主に日焼け止め製品、化粧下地製品などに汎用されています[3a][4]。
2.2. 油性基剤
油性基剤に関しては、安息香酸アルキル(C12-15)は油性感が少なく、顔料の分散性に優れ、皮膚に対して非常に軽い使用感をもつことから[3b][5a]、主にスキンケア製品、日焼け止め製品、メイクアップ製品、ヘアケア製品などに汎用されています。
2.3. 光沢付与
光沢付与に関しては、安息香酸アルキル(C12-15)は屈折率が高く、光沢を付与する目的で主にリップ系メイクアップ製品、ヘアケア製品などに使用されています[5b]。
3. 混合原料としての配合目的
安息香酸アルキル(C12-15)は混合原料が開発されており、安息香酸アルキル(C12-15)と以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | EMACOL OT-100 |
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構成成分 | セタノール、プロパンジオール、ステアルトリモニウムクロリド、安息香酸アルキル(C12-15)、ジアルキル(C12-18)ジモニウムクロリド |
特徴 | 柔らかさ、滑らかさ、浸透感に優れるアウトバストリートメント用基剤 |
4. 配合製品数および配合量範囲
安息香酸アルキル(C12~C15)は、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。
種類 | 配合量 |
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薬用石けん・シャンプー・リンス等、除毛剤 | 20 |
育毛剤 | 20 |
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 | 20 |
薬用口唇類 | 10 |
薬用歯みがき類 | 10 |
浴用剤 | 配合不可 |
染毛剤 | 配合不可 |
パーマネント・ウェーブ用剤 | 配合不可 |
化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2010年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗3)。
∗3 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 20年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2b]によると、
- [ヒト試験] 21名の被検者に3%,10%,30%および100%安息香酸アルキル(C12-15)を含む野菜油を48時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、48および72時間で皮膚刺激の兆候は観察されなかった(Consumer Product Testing Co,2003)
- [ヒト試験] 101名の被検者に100%安息香酸アルキル(C12-15)を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、目にみえる皮膚反応は観察されなかった(Harrison Research Laboratories Inc,2010)
- [ヒト試験] 48名の被検者に20%安息香酸アルキル(C12-15)を含むコーン油を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、皮膚刺激および皮膚感作の兆候はなかった(T. Agner et al,1987)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[2c]によると、
- [動物試験] ウサギの片眼に1.8-2.4%安息香酸アルキル(C12-15)0.1mLを点眼し、点眼24時間後に眼をすすぎ、7日目まで眼刺激性を評価したところ、この試験物質はこの試験条件下で眼刺激を示さなかった(Consumer Product Testing Co,1978)
- [in vitro試験] 正常ヒト表皮角化細胞によって再構築された3次元培養角膜モデル(EpiOcular)を用いて、モデル角膜表面に2%および20%安息香酸アルキル(C12-15)を含むコーン油10μLを処理し、眼粘膜刺激性を評価したところ、この試験物質は非刺激剤に分類された(Consumer Product Testing Co,1998)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して眼刺激なしと報告されているため、一般に眼刺激性はほとんどないと考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「安息香酸アルキル(C12-15)」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,170.
- ⌃abcL.C. Becker(2012)「Safety Assessment of Alkyl Benzoates as Used in Cosmetics」International Journal of Toxicology(31)(6_suppl),342S-372S. DOI:10.1177/1091581812467379.
- ⌃abEvonik Industries AG(2008)「TEGOSOFT TN / TEGOSOFT TN 2」Technical Data Sheet.
- ⌃BASF Personal Care and Nutrition GmbH(2018)「CETIOL AB」BASF Emollients.
- ⌃abCroda Europe Ltd.(2010)「Emollient Esters」Personal Care Product Guide,29-32.