炭酸プロピレンの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | 炭酸プロピレン |
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医薬部外品表示名 | 炭酸プロピレン |
INCI名 | Propylene Carbonate |
配合目的 | 溶剤 |
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表される、二価アルコール(∗1)であるPG(プロピレングリコール)と炭酸(∗2)が結合した環状エステルです[1][2a]。
∗1 一価アルコールとは一分子中に1個のヒドロキシ基(-OH)をもつアルコールのことです。多価アルコールとは一分子中に2個以上のヒドロキシ基(-OH)をもつアルコールのことであり、ヒドロキシ基がn個結合したものはn価アルコールともよばれます。プロピレングリコール(propylene glycol:PG)は2個のヒドロキシ基(-OH)をもつ二価アルコールです。
∗2 炭酸は炭素のオキソ酸であり、水に二酸化炭素を溶解することで生じます。
1.2. 物性
炭酸プロピレンの物性は、
融点(℃) | 沸点(℃) | 比重(d 25/4) | 屈折率(n 20/D) |
---|---|---|---|
-49.2 | 90 | 1.2065 | 1.4209 |
このように報告されています[2b]。
1.3. 化粧品以外の主な用途
炭酸プロピレンの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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電気化学 | 高い誘電率をもつため、電解質可溶化剤として他の炭酸エステルと併用してリチウムイオン電池の電解液に用いられています[2c][3]。 |
医薬品 | 可溶・可溶化、基剤、溶剤、溶解補助目的の医薬品添加剤として外用剤に用いられています[4]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品としての配合目的
- 溶剤
主にこれらの目的で、メイクアップ製品、ネイル製品、ヘアマニキュアリムーバーなどに汎用されています。
以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。
2.1. 溶剤
溶剤に関しては、炭酸プロピレンは非プロトン性の極性溶媒(∗3)であり、粘土ゲル化剤であるジステアルジモニウムヘクトライト、ステアラルコニウムヘクトライト、ステアラルコニウムベントナイトなど有機変性粘土鉱物の溶媒として、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、リップカラー、ファンデーション、チーク、コンシーラーなどメイクアップ製品に汎用されています[5][6]。
∗3 高極性溶媒とは、比較的水に溶けやすい(親水性)の溶液であり、一般に誘電率が高いほど極性が高くなります。プロトンとは水素の陽イオン「H⁺」のことであり、プロトン性溶媒とはプロトン(水素イオン)供与性を持つ溶媒であり、この性質から一般的に溶媒分子間で水素結合を形成しています。一方で非プロトン性溶媒とはプロトン(水素イオン)供与性が著しく低い溶媒のことをいい、プロトン性極性溶媒がイオンを安定化する効果があるのに対して、非プロトン性溶媒は陽イオンのみを安定化するものが多く、陰イオンの反応性を高める傾向があります。
また、誘電率の高い極性溶媒であることから、皮膚および頭皮に付着したヘアマニキュア成分(酸性染料)を溶出する目的でヘアマニキュアリムーバー(ヘアカラー専用リムーバー)に使用されています[7]。
3. 配合製品数および配合量範囲
配合製品数および配合量に関しては、海外の2002-2003年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。
4. 安全性評価
- 薬添規2018規格の基準を満たした成分が収載される医薬品添加物規格2018に収載
- 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
- 40年以上の使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし-軽度
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
- 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
- 光感作性:ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
4.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8a]によると、
- [ヒト試験] 50名の被検者に10%炭酸プロピレン水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験条件下においてこの試験物質は皮膚刺激剤、皮膚疲労剤および皮膚感作剤ではなかった(Food and Drug Research Laboratories,1972)
- [ヒト試験] 50名の被検者に5%炭酸プロピレン水溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、この試験条件下においてこの試験物質は皮膚刺激剤、皮膚疲労剤および皮膚感作剤ではなかった(Food and Drug Research Laboratories,1972)
- [ヒト試験] 210名の被検者に2%炭酸プロピレンを含むクリームブラッシュを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において2名の被検者に中程度の紅斑および丘疹がみられたが、この反応は非特異的(この試験物質に特徴的にみられる症状とは限らない)であるとみなされ、また試験期間を通じて他に有害な皮膚反応はみられず、この試験条件下においてこの試験物質は強い皮膚刺激剤および接触感作剤ではないと結論付けられた(Leo Winter Associates,1979)
- [ヒト試験] 51名の被検者の無傷または擦過した皮膚に2%炭酸プロピレンを含むアンチパースピラントを対象にHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を実施したところ、誘導期間において無傷な皮膚および擦過した皮膚各4名の被検者に紅斑がみられたが、試験期間を通じて他に有害な皮膚反応はみられず、この試験条件下においてこの試験物質は強い皮膚刺激剤および接触感作剤ではないと結論付けられた(Hill Top Research,1977)
このように記載されており、試験データをみるかぎり共通して皮膚感作なしと報告されており、また皮膚刺激は非刺激-軽度の紅斑が報告されていることから、一般に皮膚感作性はほとんどなく、皮膚刺激性は非刺激-軽度の皮膚刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギ2群の片眼にそれぞれ10.5%および17.5%炭酸プロピレン製剤を14日間連続で点眼し、点眼後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギも眼刺激は認められなかった(M. Kuramoto et al,1972)
- [動物試験] 6匹のウサギ5群の片眼に3%炭酸プロピレンを含む有機変性粘土鉱物ゲル0.1mLを点眼し、眼はすすがず、点眼1時間後および1,2,3,4および7日後に眼刺激性を0-110のスケールで評価したところ、眼刺激スコアは8.5-17.17の範囲であり、この試験物質はわずかな眼刺激剤に分類された(Journal Officiel de la Republique Francaise,1971;1973;J.H. Kay et al,1962;J.P. Guillot et al,1980;1982)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に2%炭酸プロピレンを含むブラッシュクリーム0.1mLを点眼し、眼はすすがず、点眼1時間後および1,2,3,4および7日後に眼刺激性を0-110のスケールで評価したところ、1時間後でわずかな結膜刺激が観察されたが、この刺激は24時間以内に消失し、他の目刺激の兆候はなく、この試験物質はわずかな眼刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1978)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.54%炭酸プロピレンを含むリップスリッカー0.1mLを点眼し、眼はすすがず、点眼1時間後および1,2,3,4および7日後に眼刺激性を0-110のスケールで評価したところ、いずれのウサギも眼刺激は観察されず、この試験物質は非刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1979)
- [動物試験] 6匹のウサギの片眼に0.51%炭酸プロピレンを含むリップグロス0.1gを点眼し、3匹は眼ずすすぎ、残りの3匹は眼をすすがず、点眼24,48および72時間後に眼刺激性を評価したところ、いずれのウサギも眼刺激は観察されず、この試験物質は非刺激剤に分類された(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,1982)
このように記載されており、試験データをみるかぎり非刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
4.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[8c]によると、
- [ヒト試験] 304名の被検者に1.51%-1.98%炭酸プロピレンを含む目元化粧品を対象に光感作性試験をともなうHRIPT(皮膚刺激性&感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者も光感作反応を示さず、この試験条件下においてこの製品は光アレルゲンではなかった(Cosmetic Toiletry and Fragrance Association,-)
- [ヒト試験] 10名の被検者に20%炭酸プロピレンを含むアンダーアームスティックを24時間半閉塞パッチ適用し、パッチ除去後にUVライト(320-400nm)を照射したところ、いずれの被検者も光刺激の兆候はみられなかった(TKL Research Inc,1983)
このように記載されており、試験データをみるかぎり光刺激および光感作なしと報告されていることから、一般に光毒性(光刺激性)および光感作性はほとんどないと考えられます。
5. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「炭酸プロピレン」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,639-640.
- ⌃abc有機合成化学協会(1985)「プロピレンカルボナート」有機化合物辞典,881-882.
- ⌃吉野 彰(2018)「モバイル機器を支える電池」化学と教育(66)(6),296-299. DOI:10.20665/kakyoshi.66.6_296.
- ⌃日本医薬品添加剤協会(2021)「炭酸プロピレン」医薬品添加物事典2021,379-380.
- ⌃Elementis(-)「BENTONE GEL Series」Technical Data Sheet.
- ⌃IOI Oleo(-)「MIGLYOL Gel Series」Technical Data Sheet.
- ⌃鎌田 勉, 他(2003)「溶媒特性を利用したヘアマニュキュア用新規リムーバーの開発」日本化粧品技術者会誌(37)(3),213-217. DOI:10.5107/sccj.37.3_213.
- ⌃abcK.H. Beyer Jr, et al(1987)「Final Report on the Safety Assessment of Propylene Carbonate」Journal of the American College of Toxicology(6)(1),23-51. DOI:10.3109/10915818709095488.