トラネキサム酸セチル塩酸塩の基本情報・配合目的・安全性

トラネキサム酸セチル塩酸塩

医薬部外品表示名 トラネキサム酸セチル塩酸塩
愛称 TXC
配合目的 美白

トラネキサム酸セチル塩酸塩は、シャネルの申請によって2009年に医薬部外品の美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるトラネキサム酸のカルボキシ基(-COOH)セタノールのヒドロキシ基(-OH)を脱水縮合(∗1)したトラネキサム酸エステルの塩酸塩(トラネキサム酸誘導体)です[1a]

∗1 脱水縮合とは、分子と分子から水(H2O)が離脱することにより分子と分子が結合する反応のことをいいます。トラネキサム酸とセタノールのエステルにおいては、トラネキサム酸のカルボキシ基(-COOH)の「OH」とセタノールのヒドロキシ基(-OH)の「H」が分離し、これらが結合して水分子(H2O)として離脱する一方で、残ったカルボキシル基の「CO」とヒドロキシ基の「O」が結合してエステル結合(-COO-)が形成されます。

トラネキサム酸セチル塩酸塩

1.2. 物性

トラネキサム酸はプラスミン生成抑制による美白作用を有していることから、2002年に医薬部外品の美白・肌荒れ防止有効成分として厚生労働省に承認された成分であり、水溶性であることから処方しやすい化合物である一方で、親水性であることにより角層からの経皮吸収性が低く、単独では表皮へ送達しにくいことが知られています。

一方で、トラネキサム酸セチル塩酸塩はトラネキサム酸に油性のアルキル基を結合することにより、経皮吸収性を高めることを目的に開発されたトラネキサム酸誘導体です[1b]

1.3. 皮膚浸透性

トラネキサム酸セチル塩酸塩はアルキル基をもつエステルであり、その構造により表皮最下層まで浸透し、皮膚に存在する加水分解酵素の一種であるエステラーゼの働きにより12時間にわたり徐々にトラネキサム酸へと変化・放出されて効果を発揮すると推察されています[2][3a]

2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的

医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • プロスタグランジンE2産生抑制による美白作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品などに使用されています。

以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. プロスタグランジンE2産生抑制による美白作用

プロスタグランジンE2産生抑制による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびプロスタグランジンE2について解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[4a][5][6a]

プロスタグランジンE2は、メラノサイト活性化因子(情報伝達物質)の一種であり、紫外線照射によって角化細胞で増加しメラノサイトのデンドライト形成やメラニン生成を促進することが明らかにされています[7]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[4b][6b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[4c][6c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[4d]

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[4e]

このような背景から、プロスタグランジンE2の過剰な生成を抑制することは、色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2008年にシャネルによって報告された紫外線照射による皮膚色素沈着に対するトラネキサム酸セチル塩酸塩(TXC)の影響検証によると、

– in vitro : メラノサイト活性化因子産生抑制作用 –

紫外線(UVB)照射によりヒト正常ケラチノサイトから産生されるメラノサイト活性化因子の産生抑制試験において、TXCはUVB照射ケラチノサイト培養上清によるメラノサイト増殖を抑制することが確認されたことから、TXCはメラノサイト活性化因子産生抑制作用を有することが示唆された。

また、紫外線によりヒト正常ケラチノサイトから産生されるプロスタグランジンE2の産生抑制試験において、TXCがプロスタグランジンE2を抑制したことから、TXCはプロスタグランジンE2の産生抑制によりメラニン生成を抑制すると推察された。

– ヒト使用試験 –

健康な27名の被検者の左上腕内側4箇所に擬似太陽光照射用ソーラーシミュレーター(290-400nm)を用いて1.4MEDに相当する紫外線量を照射し、各紫外線照射部位にTXC、陽性対照としメラニン生成抑制作用による美白有効成分であるアスコルビルリン酸Na、対照として基剤のみを紫外線照射直後から1日2回3週間にわたって連用した。

経時的に分光測色計を用いて皮膚色の明度差(L*値)を求めたところ、照射1週間後で基剤塗布箇所と比較してTXC配合製剤および陽性対照塗布箇所の皮膚明度が有意に減少し、色素沈着の抑制作用が確認された。

このような検証結果が明らかにされており[3b]、トラネキサム酸セチル塩酸塩にプロスタグランジンE2産生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。

3. 安全性評価

トラネキサム酸セチル塩酸塩の現時点での安全性は、

  • 2009年に医薬部外品有効成分に承認
  • 2011年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
  • 光毒性(光刺激性):ほとんどなし
  • 光感作性:ほとんどなし

このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

シャネルの安全性データ[3c]によると、

  • [ヒト試験] 5名の被検者の顔半分にトラネキサム酸セチル塩酸塩配合クリームを残りの半分にクリームのみを1日2回1週間連用し、皮膚状態の変化を皮膚科専門医によって評価してもらったところ、いずれの被検者においても皮膚状態の変化は観察されなかった
  • [ヒト試験] 42名の被検者にトラネキサム酸セチル塩酸塩配合製剤を24時間閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれの被検者においても皮膚刺激はみられず、この試験製剤は皮膚刺激剤ではなかった

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

3.2. 眼刺激性

シャネルの安全性データ[3d]によると、

  • [動物試験] ウサギの片眼にトラネキサム酸セチル塩酸塩を含むヒドロキシエチルセルロース溶液を点眼し、Draize法に基づいて点眼後に眼刺激スコア0-110のスケールで眼刺激性を評価したところ、最大眼刺激スコアは6.7であり、この試験物質はわずかな眼刺激剤であった

このように記載されており、試験データをみるかぎり被検者刺激-わずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

3.3. 光毒性(光刺激性)および光感作性

トラネキサム酸セチル塩酸塩は紫外線の吸収能がないことから、光化学反応による活性はないと判断されているため、光毒性および光感作性試験は実施されていません[3e]

4. 参考文献

  1. ab宮本 雅義, 他(2016)「両親媒性トラネキサム酸誘導体を用いた両連続αゲルの形成とその化粧品への応用」オレオサイエンス(16)(7),337-344. DOI:10.5650/oleoscience.16.337.
  2. シャネル株式会社(2011)「メラニンに有効な美白成分「TXC」を開発」Fragrance Journal(39)(1),78.
  3. abcde医薬品医療機器総合機構(2008)「クリームTX」審査報告書.
  4. abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  5. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  6. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  7. Y. Tomita, et al(1992)「Melanocyte-Stimulating Properties of Arachidonic Acid Metabolites: Possible Role in Postinflammatory Pigmentation」Pigment Cell Research(5)(5),357-361. DOI:10.1111/j.1600-0749.1992.tb00562.x.

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