カモミラETの基本情報・配合目的・安全性

カモミラET

医薬部外品表示名 カモミラET
配合目的 美白

カモミラETは、花王の申請によって1998年に医薬部外品の美白有効成分として厚生省(現 厚生労働省)に承認された成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

キク科植物ジャーマンカモミール(学名:Matricaria recutita, syn. Matricaria chamomilla 和名:カミツレ)の花からスクワランで抽出して得られる抽出物植物エキスです(∗1)[1][2a]

∗1 「syn」は同義語を意味する「synonym(シノニム)」の略称です。

1.2. 分布と歴史

ジャーマンカモミール(German chamomile)は、ヨーロッパを原産とし、紀元前1世紀頃にはハーブ療法として一定の評価を得ていたことから中世には消化器系の不調や膨満感をの緩和や睡眠を促す効果が記され、乳児から大人まで幅広い年齢層で不安感、筋肉の痙攣、皮膚のトラブル、消化器系の不調を緩和・改善するハーブとして評価されてきた歴史があり、ヨーロッパの代表的なメディカルハーブとして広く認知されています[3a]

また、花はリンゴ様のフルーティーでふくよかな芳香をもち、その香りが鎮静・リラックス効果をもたらすことから現在では世界各国でハーブティーとして愛飲されています[4]

ヨーロッパ、北アフリカ、アジアに広く自生していますが、商用栽培としては東ヨーロッパ(とくにスロバキア、チェコ、ハンガリー)を中心にアルゼンチン、エジプトなどで栽培されています[3b][5]

2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的

医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • エンドセリン-1伝達阻害による美白作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品などに使用されています。

以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. エンドセリン-1伝達阻害による美白作用

エンドセリン-1伝達阻害による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびエンドセリン-1について解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[6a][7][8a]

エンドセリン-1は、メラノサイト活性化因子(情報伝達物質)の一種であり、紫外線照射によって角化細胞で増加し、メラノサイトの増殖やチロシナーゼの合成を促進することが明らかにされています[9]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[6b][8b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[6c][8c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[6d]

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[6e]

このような背景から、エンドセリン-1の伝達を阻害することは、色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

1997年に花王によって報告されたエンドセリン-1に対するカモミラETの影響検証によると、

– in vitro : エンドセリン-1阻害作用 –

培養ヒトメラノサイトに各濃度のカモミラET溶液を添加した後に10nM濃度ET-1溶液を添加し、DNA合成量を測定するために16時間培養後の³Hチミジン3H-thymidine)取り込み量を測定したところ、以下のグラフのように、

カモミラETのエンドセリン-1阻害作用

カモミラETは、濃度依存的にET-1の伝達阻害作用を示した。

このような検証結果が明らかにされており[10]、カモミラETにエンドセリン-1伝達阻害作用が認められています。

次に、1999年に花王によって報告された紫外線照射による皮膚色素沈着に対するカモミラETの影響検証によると、

– ヒト使用試験 –

健常な皮膚を有する22名の男性被検者の上腕内側に2MED(最小紅斑線量)のUVAおよびUVBを含む人工紫外線を照射し、1箇所に0.5%カモミラET配合クリームを、もう1ヶ所に未配合クリームをそれぞれ二重盲検法に基づいて1日2回(朝夕)20日間にわたって塗布してもらった。

試験開始日から7日おきに21日目まで紫外線照射によって誘導された各試験部位の色素沈着の黒化度を「++:高度」「+:中程度」「±:軽度」「-:なし」の4段階で判定したところ、以下の表のように、

試料 判定日 皮膚の色素沈着に対する評価
++ + ±
カモミラET
配合クリーム
7日 13 9 0 0
14日 7 9 6 0
21日 1 13 8 0
クリームのみ
(対照)
7日 16 6 0 0
14日 8 13 1 0
21日 1 15 6 0

0.5%カモミラET配合クリームは、未配合クリームと比較して皮膚の色素沈着に対して黒化度が低い傾向を示した。

このような検証結果が明らかにされており[2b]、カモミラETに紫外線照射による色素沈着抑制作用が認められています。

3. 安全性評価

カモミラETの現時点での安全性は、

  • 1998年に医薬部外品有効成分に承認
  • 20年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

花王の臨床データ[2c]によると、

  • [ヒト試験] 22名の被検者に2MED(最小紅斑線量)のUVAおよびUVBを含む人工紫外線を照射し、1箇所に0.5%カモミラET配合クリームを、他方に未配合プラセボクリームを二重盲検法に基づいて1日2回(朝夕)20日間にわたって塗布したところ、試験期間においていずれの被検者においても皮膚反応はみられず、この試験製剤の安全性は高いことが確認された

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

また、医薬部外品有効成分に承認されており、20年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともカモミラETの安全性を裏付けていると考えられます。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 米谷 融(2007)「カモミラET」最新/注目の化粧品原料データブック,147-149.
  2. abc市橋 正光, 他(1999)「カミツレエキスの紫外線誘導色素沈着に対する抑制効果」皮膚(41)(4),475-480. DOI:10.11340/skinresearch1959.41.475.
  3. abレベッカ ジョンソン, 他(2014)「ジャーマンカモミール」メディカルハーブ事典,145-147.
  4. 長島 司(2010)「ジャーマンカモミール」ハーブティー その癒しのサイエンス,42-43.
  5. 北野 佐久子(2005)「カモミール」基本 ハーブの事典,25-28.
  6. abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  7. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  8. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  9. G. Imokawa, et al(1992)「Endothelins secreted from human keratinocytes are intrinsic mitogens for human melanocytes」Journal of biological chemistry(267)(34),24675-24680. PMID:1280264.
  10. G. Imokawa, et al(1997)「The Role of Endothelin‐1 in Epidermal Hyperpigmentation and Signaling Mechanisms of Mitogenesis and Melanogenesis」Pigment Cell Res(10)(4),218-228. DOI:10.1111/j.1600-0749.1997.tb00488.x.

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