リン酸アスコルビルMgの基本情報・配合目的・安全性

リン酸アスコルビルMg

化粧品表示名 リン酸アスコルビルMg
医薬部外品表示名 リン酸L-アスコルビルマグネシウム
慣用名 APM
INCI名 Magnesium Ascorbyl Phosphate
配合目的 美白 など

リン酸L-アスコルビルマグネシウムは、武田薬品工業の申請によって1983年に医薬部外品美白有効成分として厚生省(現 厚生労働省)に承認された成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるアスコルビン酸の2位のヒドロキシ基(-OH)をリン酸エステル化しMg塩にしたアスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩ビタミンC誘導体です[1]

リン酸アスコルビルMg

1.2. 物性・性状

リン酸アスコルビルMgの物性・性状は、

状態 溶解性
粉末または顆粒 水に可溶、有機溶媒に不溶

このように報告されています[2a]

1.3. ビタミンC誘導体としての特徴

アスコルビン酸(ビタミンC)は、皮膚において抗酸化作用、メラニンの産生抑制、コラーゲンやムコ多糖類の合成など優れた機能を有していますが、一方で水溶液では熱および光に不安定であることから、化粧品においては多くの場合、安定化したビタミンC誘導体の形で用いられることが知られています[3][4]

リン酸アスコルビルMgは、アスコルビン酸の2位のヒドロキシ基(-OH)をリン酸エステル化したMg塩であり、水溶性かつ弱アルカリ(pH7.0-8.5)領域での安定性に優れることから[2b][5a]、「安定型ビタミンC誘導体」とよばれています。

アスコルビン酸リン酸塩としてはリン酸アスコルビルMgも広く使用されており、これらは特徴としては同じですが、厳密には以下の表のように、

アスコルビルリン酸塩 安定性 水溶性
リン酸アスコルビルMg
アスコルビルリン酸Na

このような違いがあり、処方において使い分けられています[6]

皮膚においては、細胞膜に存在するホスファターゼによりアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として効果を発揮することが報告されています[7a]

2. 化粧品および医薬部外品としての配合目的

化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • チロシナーゼ活性阻害による美白作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、マスク製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、洗顔料、クレンジング製品、ボディケア製品、ハンドケア製品などに汎用されています。

以下は、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. チロシナーゼ活性阻害による美白作用

チロシナーゼ活性阻害による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[8a][2c][9a]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[8b][9b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[8c][9c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[8d]

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[8e]

このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

1993年に日光ケミカルズ、ニッコールテクニカルセンター、北里研究所および北里大学医学部によって報告されたリン酸アスコルビルMg(APM)のメラニンに対する影響検証によると、

– in vitro : チロシナーゼ活性阻害作用 –

10μLの100mCi/mmol 14チロシン、精製チロシナーゼ10μL、5mMドーパ溶液10μL、APM水溶液20μLおよびpH7.2トリスリン酸緩衝液50μLを37℃で16時間反応させ、各濃度におけるAPMのチロシナーゼ活性阻害率を算出したところ、以下のグラフのように、

リン酸アスコルビルMgのチロシナーゼ活性阻害作用

APMは濃度に依存して精製チロシナーゼ活性を抑制し、濃度0.001%で33%、濃度0.01%で87%抑制した。

– in vitro : メラニン生成抑制作用 –

マウス由来B16メラノーマ細胞抽出液50μL、10μLの100mCi/mmol 14チロシンおよびAPM水溶液20μLを反応させ、処理後に生成した14Cメラニンを測定したところ、以下のグラフのように、

B16メラノーマ細胞におけるリン酸アスコルビルMgのメラニン生成への影響

APMは、濃度0.01%以上でB16メラノーマ細胞抽出液のメラニン生成を有意に抑制した。

このような検証結果が明らかにされており[5b]、リン酸アスコルビルMgにチロシナーゼ活性阻害によるメラニン生成抑制作用が認められています。

次に、2001年に近畿大学医学部皮膚科学教室によって報告されたリン酸アスコルビルMg(APM)の紫外線照射による色素沈着に対する有用性検証によると、

– ヒト使用試験:色素沈着抑制作用 –

健常な皮膚を有する12名の被検者の左上腕3箇所に最小紅斑線量のUVライトを照射した後、1箇所は3%APM配合ローションを、もう1箇所は基剤のみを1日3回6週間にわたって適用し、残りの1箇所は何も適用しなかった。

6週間の適用後に皮膚明度(L*値)を測定し、3名の調査員によって「著効:非適用部位と比較してかなり黒化が薄い」「有効:非適用部位と比較して中程度またはわずかに黒化が薄い」「変化なし:非適用部位と比較して違いがない」の3段階で評価してもらったところ、以下の表のように、

試料 著効 有効 不変
3%APM配合ローション 4 6 2

3%APM配合ローションは、12名の被検者のうち10名の色素沈着に対して有効以上であった。

このような検証結果が明らかにされており[10]、リン酸アスコルビルMgに色素沈着抑制作用が認められています。

リン酸アスコルビルMgのメラニン抑制メカニズムはチロシナーゼ活性阻害ですが、これはドーパキノンをドーパに還元することによりチロシナーゼのドーパオキシダーゼ活性を抑制することによるものであるため[7b]、メラニン還元による美白作用ともいえます。

3. 混合原料としての配合目的

リン酸アスコルビルMgは混合原料が開発されており、リン酸アスコルビルMgと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。

原料名 NIKKOL アクアソーム EC-5
構成成分 水添レシチンBG酢酸トコフェロールPEG-100水添ヒマシ油リン酸アスコルビルMg、ジヒドロコレス-20、トリエチルヘキサノインコレステロール
特徴 ビタミンC、Eの皮膚への浸透を促進し効果を高める、ビタミンC、E含有リポソーム
原料名 NIKKOL アクアソーム EC-30
構成成分 水添レシチンBG酢酸トコフェロールPEG-100水添ヒマシ油リン酸アスコルビルMg、ジヒドロコレス-20、トリエチルヘキサノインクエン酸クエン酸Naコレステロール
特徴 ビタミンC、Eの皮膚への浸透を促進し効果を高める、ビタミンC、E含有リポソーム
原料名 RonaCare VTA
構成成分 エタノールレシチン、ルチニル二硫酸2Na、ヒドロキシプロリンソルビトールリン酸アスコルビルMgトコフェロールパルミチン酸アスコルビルステアリン酸グリセリルオレイン酸グリセリルクエン酸
特徴 ビタミンCとアミノ酸の皮膚への浸透を促進し効果を高める、リン酸アスコルビルMgとヒドロキシプロリン含有リポソーム
原料名 WHITESPHERE Premium
構成成分 パルミチン酸スクロースBGアーモンド油、リノール酸グリセリル、カンゾウ根エキスリン酸アスコルビルMg、ワカメエキス、フェノキシエタノール
特徴 チロシナーゼおよびCOX-2活性による美白作用を発揮する混合原料
原料名 WHITESPHERE Premium XP
構成成分 パルミチン酸スクロースBGアーモンド油、リノール酸グリセリル、カンゾウ根エキスリン酸アスコルビルMg、ワカメエキス、ベンジルアルコールソルビン酸K
特徴 チロシナーゼおよびCOX-2活性による美白作用を発揮する混合原料
原料名 MELFADE PF
構成成分 ウワウルシ葉エキスリン酸アスコルビルMgグリセリン安息香酸Naピロ亜硫酸Naフェノキシエタノール
特徴 チロシナーゼ活性阻害をはじめとする総合的な美白作用を発揮する混合原料

4. 配合製品数および配合量範囲

リン酸L-アスコルビルマグネシウムは、医薬部外品(薬用化粧品)への配合において配合上限があり、配合範囲は以下になります。

種類 配合量
薬用石けんシャンプーリンス等除毛剤 2.0
育毛剤 2.0
その他の薬用化粧品、腋臭防止剤、忌避剤 2.0
薬用口唇類 配合不可
薬用歯みがき類 配合不可
浴用剤 配合不可
染毛剤 2.0
パーマネント・ウェーブ用剤 2.0

化粧品に対する実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2000-2001年の調査結果になりますが、以下のように報告されています。

リン酸アスコルビルMgの配合製品数と配合量の調査結果(2000-2001年)

5. 安全性評価

リン酸アスコルビルMgの現時点での安全性は、

  • 外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載
  • 1983年に医薬部外品有効成分に承認
  • 40年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:ほとんどなし-軽度
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

European Chemicals Agencyの安全性データ[11a]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギにリン酸アスコルビルMg500mgを4時間半閉塞パッチ適用し、パッチ除去後に皮膚刺激性を評価したところ、いずれのウサギにおいても皮膚刺激反応はみられず、この試験物質はこの試験条件下において皮膚刺激剤ではなかった(1998)
  • [動物試験] モルモットを用いて25%リン酸アスコルビルMg水溶液を対象にMaximization皮膚感作性試験を実施したところ、この試験物質は皮膚感作剤ではなかった

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

また、医薬部外品有効成分に承認されており、40年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともリン酸アスコルビルMgの安全性を裏付けていると考えられます。

5.2. 眼刺激性

European Chemicals Agencyの安全性データ[11b]によると、

  • [動物試験] 3匹のウサギにリン酸アスコルビルMg100mgを適用し、適用後に眼刺激性を評価したところ、3匹に軽度の結膜刺激とケモーシスがみられたが、これらは72時間以内にすべて消失した(1998)

このように記載されており、試験データをみるかぎり軽度の眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-軽度の眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。

6. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「リン酸アスコルビルMg」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,1086.
  2. abc日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  3. 石神 昭人(2011)「美容とビタミンC」ビタミンCの事典,189-203.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「ビタミン類」香粧品科学 理論と実際 第4版,242-245.
  5. ab田川 正人, 他(1993)「メラニン産生に及ぼすリン酸L-アスコルビルマグネシウムの抑制効果」日本化粧品技術者会誌(27)(3),409-414. DOI:10.5107/sccj.27.409.
  6. 昭和電工株式会社(-)「APM APS」製品カタログ.
  7. ab伊東 忍, 他(2014)「美白ケア」プロビタミンC – 分子デザインされたビタミンCの知られざる働き,57-73.
  8. abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  9. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  10. 川田 暁, 他(2001)「Concentre Anti-Tache Nuitのソーラーシュミレーター光による遅延型色素沈着に対する美白効果の検討」皮膚(43)(1),5-9. DOI:10.11340/skinresearch1959.43.5.
  11. abEuropean Chemicals Agency(2020)「trimagnesium(2+) bis((2R)-2-[(1S)-1,2-dihydroxyethyl]-5-oxo-4-(phosphonooxy)-2,5-dihydrofuran-3-olate)」, 2022年5月21日アクセス.

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