4-メトキシサリチル酸カリウム塩の基本情報・配合目的・安全性

4-メトキシサリチル酸カリウム塩

医薬部外品表示名 4-メトキシサリチル酸カリウム塩
愛称 4MSK
配合目的 美白

4-メトキシサリチル酸カリウム塩は、資生堂の申請によって2003年に医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された、一般に「4MSK(4-methoxysalicylic-acid-potassium-salt)」とよばれる成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるサリチル酸誘導体です[1a]

4-メトキシサリチル酸カリウム塩

2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的

医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • チロシナーゼ活性阻害による美白作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品などに使用されています。

以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. チロシナーゼ活性阻害による美白作用

チロシナーゼ活性阻害による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[2a][3][4a]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[2b][4b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[2c][4c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[2d]

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[2e]

このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2008年に資生堂スキンケア研究開発センターによって報告された4-メトキシサリチル酸カリウム塩(4MSK)のメラニン産生抑制への影響検証によると、

– in vitro : メラニン生成抑制作用 –

4MSKはチロシナーゼ活性阻害による美白作用が認められているが、4MSKのメラニン生成に対する直接的な作用を検討するために、B16メラノーマ細胞を4MSK存在下で3日間培養した場合の一定細胞あたりのメラニン量を測定したところ、以下のグラフのように、

B16メラノーマ細胞に対する4-メトキシサリチル酸カリウム塩(4MSK)のメラニン生成抑制作用

4MSKは、濃度依存的なメラニン生成抑制作用を示した。

このような検証結果が明らかにされており[5]、4-メトキシサリチル酸カリウム塩にチロシナーゼ活性阻害作用が認められています。

次に、2010年に資生堂リサーチセンターによって報告された4-メトキシサリチル酸カリウム塩(4MSK)の紫外線色素沈着に対する有効性検証によると、

– ヒト使用試験:色素沈着抑制作用 –

39名の被検者に4MSK配合クリームと比較対照として同メカニズムの医薬部外品美白有効成分であるアルブチン配合クリームをそれぞれ塗布し、試料塗布前後の皮膚明度(L値)(∗1)の低下を指標とし、1週間後の黒化度を比較したところ、以下のグラフのように、

∗1 L値とは見た目の色の濃さや色相を表す単位であり、数値が高いほど明るいことを示しますが、ここではL値を指標に黒化度として数値化されており、黒化度が高いほど色が濃い(暗い)ことを示しています。

4-メトキシサリチル酸カリウム塩(4MSK)配合クリームの紫外線色素沈着抑制効果

4MSK配合クリーム配合クリームの塗布は、アルブチン配合クリームと比較して高い黒化の抑制作用を示した。

このような検証結果が明らかにされており[1b]、4-メトキシサリチル酸カリウム塩に紫外線色素沈着抑制作用が認められています。

3. 安全性評価

4-メトキシサリチル酸カリウム塩の現時点での安全性は、

  • 2003年に医薬部外品有効成分に承認
  • 15年以上の使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品有効成分に承認されており、15年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. ab藤原 留美子(2010)「美白有効成分トラネキサム酸および4MSKの開発事例」医薬部外品有効成分承認取得のための対策と課題,60-70.
  2. abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  3. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  4. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  5. 藤原 留美子, 他(2008)「4-メトキシサリチル酸カリウム塩の作用と新たな美白アプローチの可能性」Fragrance Journal(36)(9),37-41.

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