5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオールの基本情報・配合目的・安全性

5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオール

医薬部外品表示名 5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオール
愛称 マグノリグナン
配合目的 美白

5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオールは、カネボウの申請によって2005年に医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された、一般に「マグノリグナン(magnolignan)」とよばれる成分です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるp-プロピルフェノールの二量体(∗1)です[1]

∗1 二量体とは、2つの同種の分子または単量体がまとまった物質のことをいいます。

5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオール

2. 医薬部外品(薬用化粧品)としての配合目的

医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • チロシナーゼ成熟抑制による美白作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品などに使用されています。

以下は、医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. チロシナーゼ成熟抑制による美白作用

チロシナーゼ成熟抑制による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズム、チロシナーゼおよびその成熟度によるメラニン色素生合成への影響について解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[2a][3][4a]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに、成熟したチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[2b][4b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[2c][4c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[2d]

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[2e]

一方で、チロシンに働きかけるチロシナーゼが未成熟なままである場合は、正しくメラノソームへ移行されずメラノソームに留まり、やがて分解されてしまうため、結果としてメラニン生成に関与するチロシナーゼ量を減少させることが複数報告されています[5][6][7]

このような背景から、チロシナーゼの成熟を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2006年にカネボウ化粧品基盤技術研究所によって報告された5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオール(マグノリグナン)のメラニン産生抑制への影響検証および紫外線照射による色素沈着に対する有用性検証によると、

– in vitro : チロシナーゼ活性阻害作用 –

B16メラノーマ細胞チロシナーゼおよびマッシュルームチロシナーゼに対してマグノリグナンを添加し、また比較対照として代表的なチロシナーゼ活性阻害剤(美白成分)であるコウジ酸、アルブチンをそれぞれ添加し、チロシナーゼ活性阻害に対するIC50(∗2)をそれぞれ求めたところ、以下の表のように、

∗2 IC50値とは、50%を阻害するのに必要な濃度のことであり、数値(濃度)が低いほど作用が強いことを意味します。

美白成分 メラニン生合成 チロシナーゼ活性
IC50(μg/mL)
B16メラノーマ細胞 マッシュルームチロシナーゼ
マグノリグナン 4.0 >330
コウジ酸 20 35
アルブチン 120 4.1

マグノリグナンは、330μg/mLまで添加してもマッシュルームチロシナーゼ活性を阻害しなかったが、マウス由来メラノーマ細胞を用いたメラニン生合成試験においてはアルブチンやコウジ酸よりも高い効果を示した。

– in vitro : チロシナーゼタンパク質量評価試験 –

マグノリグナンがチロシナーゼタンパク質量に与える影響をウエスタンブロッティングにより調べたところ、マグノリグナンの添加濃度に依存してチロシナーゼタンパク質量は減少を示した。

ただし、チロシナーゼmRNA量には影響はみられなかった。

このことから、マグノリグナンのメラニン生成抑制作用のメカニズムは転写後の過程でチロシナーゼタンパク質量を減少させることに起因するものと考えられた。

– ヒト使用試験:色素沈着抑制作用 –

健常な皮膚を有する43名の被検者の上腕内側の片方にマグノリグナン配合製剤を、他方にマグノリグナン未配合製剤をそれぞれ二重盲検法にて3週間連用し、各週の皮膚明度(L値)(∗3)を分光測色計にて測定したところ、以下のグラフのように、

∗3 L値は見た目の色の濃さや色相を表す単位であり、数値が高いほど明るいことを示します。

紫外線色素沈着に対するマグノリグナン配合製剤の影響

マグノリグナン配合製剤の連用は、未配合製剤の連用と比較して3週目のL値が有意に高値を示した。

この結果から、マグノリグナン配合製剤は紫外線照射により生成される色素沈着に対する抑制効果が明らかとなった。

– ヒト使用試験:色素沈着改善作用 –

しみ、そばかすに悩みをもつ300名にマグノリグナン配合製剤を1ヶ月間連用し、連用後に有効性を評価してもらったところ、243名(81%)が「肌状態に改善効果があった」と回答した。

このような検証結果が明らかにされており[8a]、5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオール(マグノリグナン)にチロシナーゼ成熟阻害による色素沈着抑制作用が認められています。

3. 安全性評価

5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオールの現時点での安全性は、

  • 2005年に医薬部外品有効成分に承認
  • 2006年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし

このような結果となっており、医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

カネボウの臨床データ[8b]によると、

  • [ヒト試験] しみ、そばかすなど色素沈着に悩む37名の被検者にマグノリグナン配合製剤を6ヶ月間連用してもらったところ、いずれの被検者においても試用期間を通じて問題となるような皮膚症状は認められなかった

このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。

また、2006年からの使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないことも5,5′-ジプロピル-ビフェニル-2,2′-ジオールの安全性を裏付けていると考えられます。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 佐々木 稔(2010)「植物由来成分からの美白有効成分の開発と問題点」医薬部外品有効成分承認取得のための対策と課題,91-98.
  2. abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  3. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  4. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  5. N. Branza-Nichita, et al(1999)「Tyrosinase folding and copper loading in vivo: a crucial role for calnexin and alpha-glucosidase Ⅱ」Biochemical and Biophysical Research Communications(261)(3),720-725. DOI:10.1006/bbrc.1999.1030.
  6. K. Jimbow, et al(2000)「Assembly, target-signaling and intracellular transport of tyrosinase gene family proteins in the initial stage of melanosome biogenesis」Pigment Cell & Melanoma Research(13)(4),222-229. DOI:10.1034/j.1600-0749.2000.130403.x.
  7. K. Toyofuku, et al(2001)「The molecular basis of oculocutaneous albinism type 1 (OCA1): sorting failure and degradation of mutant tyrosinases results in a lack of pigmentation」Biochem Journal(355)(Pt2),259–269. DOI:10.1042/0264-6021:3550259.
  8. ab横田 朋宏・佐々木 稔(2006)「マグノリグナンのチロシナーゼ成熟阻害作用とその美白効果」Fragrance Journal(34)(2),80-83.

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