イソステアリルアスコルビルリン酸2Naの基本情報・配合目的・安全性

イソステアリルアスコルビルリン酸2Na

化粧品表示名 イソステアリルアスコルビルリン酸2Na
慣用名 APIS
INCI名 Disodium Isostearyl Ascorbyl Phosphate
配合目的 美白 など

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるアスコルビン酸の2位のヒドロキシ基(-OH)をリン酸エステル化し、リン酸エステル部分のヒドロキシ基(-OH)にイソステアリル基(iso-C18H37を結合したエステルのジナトリウム塩ビタミンC誘導体です[1][2a]

イソステアリルアスコルビルリン酸2Na

1.2. ビタミンC誘導体としての特徴

アスコルビン酸(ビタミンC)は、皮膚において抗酸化作用、メラニンの産生抑制、コラーゲンやムコ多糖類の合成など優れた機能を有していますが、一方で水溶液では熱および光に不安定であることから、化粧品においては多くの場合、安定化したビタミンC誘導体の形で用いられることが知られています[3][4]

イソステアリルアスコルビルリン酸2Naは、親水性のアスコルビン酸に疑似リン脂質構造を成すイソステアリルリン酸エステルを付加することにより、親油性を兼ね備えた両親媒性(∗1)のビタミンC誘導体であり、熱や自動酸化に対する安定性や溶液中での保存性の高さを特徴としています[2b]

∗1 両親媒性とは、親水性と親油性の両方を有している性質のことです。

また、皮膚においては細胞膜に存在するホスファターゼによってアスコルビン酸に変換され、アスコルビン酸として効果を発揮するといった特徴に加えて、真皮まで到達する皮膚浸透性の高さを特徴としていることから[5]、「安定型・高浸透型ビタミンC誘導体」に分類しています。

2. 化粧品としての配合目的

化粧品に配合される場合は、

  • チロシナーゼ活性阻害による美白作用

主にこれらの目的で、スキンケア製品、洗顔料、クレンジング製品などに使用されています。

以下は、化粧品として配合される目的に対する根拠です。

2.1. チロシナーゼ活性阻害による美白作用

チロシナーゼ活性阻害による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[6a][7][8a]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[6b][8b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[6c][8c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[6d]

正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[6e]

このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2008年に東洋ビューティによって報告されたイソステアリルアスコルビルリン酸2Na(APIS)のメラニンに対する影響検証によると、

– in vitro : チロシナーゼ活性阻害作用 –

96ウェルプレートの培地でヒト表皮メラノサイトを培養後に各濃度のAPS(∗2)およびAPISを添加し処理後に各ウェルにドーパを加え、37℃で3時間培養した後、475nmで吸光度を測定し、チロシナーゼ活性量を算出したところ、以下のグラフのように、

∗2 APSはアスコルビルリン酸Naの慣用名です。

イソステアリルアスコルビルリン酸2Naのチロシナーゼ活性阻害作用

APISは、50-150mMの濃度で添加することによって濃度依存的なチロシナーゼ活性の抑制作用を示した。

– in vitro : メラニン生成抑制作用 –

培養ヒト皮膚モデルの表面に濃度0.5および1%のAPSおよびAPIS溶液を塗布し、3週間培養した後にメラニン量を測定したところ、以下のグラフのように、

イソステアリルアスコルビルリン酸2Naのメラニン合成抑制作用

APIS溶液の塗布は、濃度0.5および1%で未塗布と比較して大幅にメラニンの生成を抑制したことが確認された。

このような検証結果が明らかにされており[9]、イソステアリルアスコルビルリン酸2Naにチロシナーゼ活性阻害によるメラニン合成抑制作用が認められています。

次に、2008年に東洋ビューティおよびスガイ化学工業によって報告されたイソステアリルアスコルビルリン酸2Na(APIS)のヒト皮膚色素沈着に対する有用性検証によると、

– ヒト使用試験:色素沈着改善作用 –

しみ、そばかすなどの悩みをもつ80名の被検者を20名1グループとし、各グループに0.05,0.5および5.0%APIS配合製剤および比較対照として2%AA-2G(∗1)配合製剤のいずれかを1日2回3ヶ月にわたって塗布してもらった。

∗3 AA-2Gはアスコルビルグルコシドの慣用名です。

3ヶ月後に「著効:色素沈着がほとんど目立たなくなった」「有効:薄くなった」「やや有効:やや薄くなった」「無効:変化なし」の4段階の判定基準により自己判定してもらい、判定結果を「◎:著効、有効の割合が80%以上」「○:著効、有効の割合が60%以上80%未満」「△:著効、有効の割合が40%以上60%未満」「☓:著効、有効の割合が40%未満」の基準で評価したところ、以下の表のように、

試料 濃度(%) 人数 色素沈着改善効果
APIS 0.05 20
0.5 20
5.0 20
AA-2G 2.0 20

濃度0.05%、0.5%、5.0%のAPIS配合製剤を塗布したグループは、それぞれ40%以上、60%以上、80%以上の被検者が有効以上を実感しており、ヒト皮膚色素沈着の改善に有効であることが確認された。

このような検証結果が明らかにされており[2c]、イソステアリルアスコルビルリン酸2Naに色素沈着抑制作用が認められています。

3. 安全性評価

イソステアリルアスコルビルリン酸2Naの現時点での安全性は、

  • 2007年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

2007年からの使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「イソステアリルアスコルビルリン酸2Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,177.
  2. abc東洋ビューティ株式会社・スガイ化学工業株式会社(2008)「アスコルビン酸誘導体および美白化粧料」再表2005-092905.
  3. 石神 昭人(2011)「美容とビタミンC」ビタミンCの事典,189-203.
  4. 田村 健夫・廣田 博(2001)「ビタミン類」香粧品科学 理論と実際 第4版,242-245.
  5. H. Shibayama, et al(2008)「Permeation and metabolism of a novel ascorbic acid derivative, disodium isostearyl 2-O-L-ascorbyl phosphate, in human living skin equivalent models」Skin pharmacology and Physiology(21)(4),235-243. DOI:10.1159/000139128.
  6. abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  7. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  8. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  9. S. Matsuda, et al(2008)「Inhibitory Effects of a Novel Ascorbic Derivative, Disodium Isostearyl 2-O-L-Ascorbyl Phosphate on Melanogenesis」Chemical & Pharmaceutical Bulletin(56)(3),292-297. DOI:10.1248/cpb.56.292.

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