アスコルビルグルコシドの基本情報・配合目的・安全性
化粧品表示名 | アスコルビルグルコシド |
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医薬部外品表示名 | L-アスコルビン酸 2-グルコシド |
愛称 | AA-2G |
INCI名 | Ascorbyl Glucoside |
配合目的 | 美白 など |
L-アスコルビン酸 2-グルコシドは、資生堂と加美乃素本舗の申請によって1994年に医薬部外品美白有効成分として厚生省(現 厚生労働省)に承認された成分です。
愛称として用いられる「AA-2G」は化学名である「Ascorbic Acid 2-Glucoside」の略称です。
1. 基本情報
1.1. 定義
以下の化学式で表されるアスコルビン酸の2位のヒドロキシ基(-OH)をグルコースでα置換したアスコルビン酸の糖誘導体です(ビタミンC誘導体)です[1][2a]。
1.2. 物性・性状
アスコルビルグルコシドの物性・性状は、
状態 | 溶解性 |
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結晶性粉末 | 水に可溶 |
このように報告されています[3]。
1.3. ビタミンC誘導体としての特徴
アスコルビン酸(ビタミンC)は、皮膚において抗酸化作用、メラニンの産生抑制、コラーゲンやムコ多糖類の合成など優れた機能を有していますが、一方で水溶液では熱および光に不安定であることから、化粧品においては多くの場合、安定化したビタミンC誘導体の形で用いられることが知られています[4][5]。
アスコルビルグルコシドは、アスコルビン酸の2位のヒドロキシ基(-OH)をグルコースでα置換した配糖体であり、水溶性かつ熱や自動酸化に対して極めて安定性が高く、皮膚においてはα-グルコシターゼによってアスコルビン酸とグルコースに分解され、アスコルビン酸として効果を発揮することが報告されています[2b]。
皮膚はα-グルコシターゼの量がかなり少ないため、アスコルビン酸への分解速度が遅くなりますが、この特徴は言い換えるとゆっくりと長時間にわたってアスコルビン酸に変換し続けるということであり[6a]、これらの特徴からアスコルビルグルコシドは「安定型・持続型ビタミンC誘導体」とよばれています。
1997年に資生堂リサーチセンターによって報告されたアスコルビルグルコシド(AA-2G)の経皮吸収性と体内でのビタミンCへの代謝検証によると、
– ヒト使用試験:アスコルビン酸動態評価 –
2%AA-2Gおよび3%AA-2P(∗1)配合クリームをヒトの下肢に閉塞塗布し、経時的に排尿してもらい、尿中のビタミンC量を測定したところ、以下のグラフのように、
∗1 AA-2Pとは、アスコルビルリン酸塩のことであり、代表的なアスコルビルリン酸塩としてはリン酸アスコルビルMgやアスコルビルリン酸Naがあります。
AA-2Pを塗布した場合の尿中ビタミンC量は、塗布期間初期に極大に達し、その後減少傾向を示したのに対して、AA-2Gを塗布した場合はの尿中ビタミンC量は、塗布開始14時間後に極大となり、その後もビタミンC排泄の継続傾向を示した。
このような検証結果が明らかにされており[7]、アスコルビルグルコシドのアスコルビン酸への変換持続性が確認されています。
1.4. 化粧品以外の主な用途
アスコルビルグルコシドの化粧品以外の主な用途としては、
分野 | 用途 |
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食品 | 他のL-アスコルビン酸類とは異なり、酸化防止剤としての働きはなく、ビタミンCの強化剤として用いられています[8]。 |
これらの用途が報告されています。
2. 化粧品および医薬部外品としての配合目的
- チロシナーゼ活性阻害による美白作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、マスク製品、日焼け止め製品、化粧下地製品、ボディケア製品、ハンドケア製品、洗顔料、洗顔石鹸、クレンジング製品、ファンデーション製品、コンシーラー製品、ボディソープ製品、トリートメント製品など様々な製品に汎用されています。
以下は、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。
2.1. チロシナーゼ活性阻害による美白作用
チロシナーゼ活性阻害による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素生合成のメカニズムおよびチロシナーゼについて解説します。
以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、
皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[9a][10][11a]。
また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[9b][11b]。
ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[9c][11c]。
そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[9d]。
正常な皮膚においてはメラニンの排泄と生成のバランスが保持される一方で、紫外線の曝露、加齢、ホルモンバランスの乱れ、皮膚の炎症などによりメラニン色素の生成と排泄の代謝サイクルが崩れると、その結果としてメラニン色素が過剰に表皮内に蓄積されてしまい、色素沈着が起こることが知られています[9e]。
このような背景から、チロシナーゼの活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。
1997年に岡山大学薬学部および加美乃素本舗開発研究部によって報告されたアスコルビルグルコシド(AA-2G)のメラニンに対する影響検証および紫外線照射による色素沈着に対する有用性検証によると、
– in vitro : メラニン生成抑制作用 –
B16メラノーマ細胞に細胞増殖に影響しない0.1-2.5mM濃度範囲でAA-2Gあるいはアスコルビン酸で12時間培養し、0.5mMテオフィリンを添加し、48時間後に細胞内メラニンを定量したところ、以下のグラフのように、
AA-2Gはアスコルビン酸と同様にメラニン合成を抑制することが確認された。
– ヒト使用試験:色素沈着抑制作用 –
15名の被検者の右上腕内側部2箇所に2%AA-2G配合クリームとAA-2G未配合クリームを二重盲検法に基づいてそれぞれ1日3回6日間にわたって塗布し、紫外線は1日1回最小紅斑線量のUVAおよびUVBを同時に合計3回照射した。
紫外線照射から9日目に皮膚黒化度を「有効」「やや有効」「無効」「やや悪化」「悪化」の5段階で未配合クリームと比較したところ、以下の表のように、
試料 | 有効 | やや有効 | 無効 | やや悪化 | 悪化 |
---|---|---|---|---|---|
2%AA-2G | 9 | 2 | 1 | 2 | 1 |
2%AA-2G配合クリームの塗布は、15名のうち11名の色素沈着に対して予防効果を示した。
このような検証結果が明らかにされており[12]、アスコルビルグルコシドにメラニン生成抑制による色素沈着抑制作用が認められています。
アスコルビルグルコシドは皮膚内でアスコルビン酸として機能することから、メラニン抑制メカニズムはチロシナーゼ活性阻害となりますが、これはドーパキノンをドーパに還元することによりチロシナーゼのドーパオキシダーゼ活性を抑制することによるものであるため[6b]、メラニン還元による美白作用ともいえます。
3. 混合原料としての配合目的
アスコルビルグルコシドは混合原料が開発されており、アスコルビルグルコシドと以下の成分が併用されている場合は、混合原料として配合されている可能性が考えられます。
原料名 | AA-2G溶液(クレアージュ) |
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構成成分 | 水、BG、アスコルビルグルコシド、水酸化K、クエン酸Na、プルーン分解物、クエン酸 |
特徴 | アスコルビン酸2グルコシドとプルーン分解物を組み合わせた多角的な美白作用を発揮する複合原料 |
原料名 | AA-2G溶液(藍) |
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構成成分 | 水、BG、アスコルビルグルコシド、水酸化K、クエン酸Na、クエン酸、アイ葉/茎エキス |
特徴 | アスコルビン酸2グルコシドとアイ葉/茎エキスを組み合わせた多角的な美白作用を発揮する複合原料 |
4. 配合製品数および配合量範囲
実際の配合製品数および配合量に関しては、海外の2018-2020年の調査結果になりますが、以下のように報告されています(∗2)。
∗2 以下表におけるリーブオン製品は、付けっ放し製品(スキンケア製品やメイクアップ製品など)を指し、またリンスオフ製品は、洗い流し製品(シャンプー、ヘアコンディショナー、ボディソープ、洗顔料、クレンジングなど)を指します。
5. 安全性評価
- 食品添加物の指定添加物リストに収載
- 1994年に医薬部外品有効成分に承認
- 1996年からの使用実績
- 皮膚刺激性:ほとんどなし
- 眼刺激性:ほとんどなし-わずか
- 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし
このような結果となっており、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
以下は、この結論にいたった根拠です。
5.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13a]によると、
- [ヒト試験] 103名の被検者に0.01%アスコルビルグルコシドを含むリンスオフ製品の2%水溶液(アスコルビルグルコシドの濃度は0.002%)を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を閉塞パッチにて実施したところ、いずれの被検者においても皮膚感作はみられず、この試験製剤は皮膚感作剤ではなかった(Anonymous,2019)
- [ヒト試験] 113名の被検者に2%アスコルビルグルコシドを含むスキンケア製剤を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、誘導期間において2名の被検者に軽度の皮膚反応がみられ、チャレンジ期間において1名の被検者に軽度の皮膚反応がみられたが、この試験製剤は皮膚感作剤ではないと結論づけられた(Anonymous,2019)
- [ヒト試験] 51名の被検者に10%アスコルビルグルコシド溶液を対象にHRIPT(皮膚刺激性&皮膚感作性試験)を実施したところ、試験期間を通じていずれの被検者においても有害な皮膚反応はみられず、この試験製剤は皮膚感作剤ではないと結論づけられた(Bioscreen Testing Services Inc,2010)
- [動物試験] 3匹のウサギにアスコルビルグルコシド0.5gを含む水溶液を4時間半閉塞パッチ適用し、OECD404テストガイドラインに基づいて適用後に皮膚刺激性を評価したところ、この試験製剤はこの試験条件下において皮膚刺激剤ではなかった(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme,2003)
このように記載されており、試験データをみるかぎり皮膚刺激および皮膚感作なしと報告されているため、一般に皮膚刺激性および皮膚感作性はほとんどないと考えられます。
また、医薬部外品有効成分に承認されており、1996年からの使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がないこともアスコルビルグルコシドの安全性を裏付けていると考えられます。
5.2. 眼刺激性
Cosmetic Ingredient Reviewの安全性データ[13b]によると、
- [動物試験] 3匹のウサギにアスコルビルグルコシドを適用し、OECD405テストガイドラインに基づいて適用72時間後まで眼刺激性を評価したところ、この試験物質はわずかな眼刺激剤であった(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme,2003)
このように記載されており、試験データをみるかぎりわずかな眼刺激が報告されているため、一般に眼刺激性は非刺激-わずかな眼刺激を引き起こす可能性があると考えられます。
6. 参考文献
- ⌃日本化粧品工業連合会(2013)「アスコルビルグルコシド」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,126.
- ⌃ab山本 格(1991)「強いビタミンCをつくる」化学と生物(29)(11),726-733. DOI:10.1271/kagakutoseibutsu1962.29.726.
- ⌃National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme(2003)「2-O-α-D-glucopyranosyl-L-ascorbic acid」STD/1056.
- ⌃石神 昭人(2011)「美容とビタミンC」ビタミンCの事典,189-203.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「ビタミン類」香粧品科学 理論と実際 第4版,242-245.
- ⌃ab伊東 忍, 他(2014)「美白ケア」プロビタミンC – 分子デザインされたビタミンCの知られざる働き,57-73.
- ⌃坂本 哲夫(1997)「ビタミンCの安定化技術とビタミンC作用の持続性について」Fragrance Journal(25)(3),62-70.
- ⌃樋口 彰, 他(2019)「L-アスコルビン酸2-グルコシド」食品添加物事典 新訂第二版,9.
- ⌃abcde朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
- ⌃abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
- ⌃宮井 恵里子, 他(1997)「ビタミンCの色素沈着抑制作用」Fragrance Journal(25)(3),55-61.
- ⌃abW. Johnson Jr(2020)「Safety Assessment of Ascorbyl Glucoside and Sodium Ascorbyl Glucoside as Used in Cosmetics(∗3)」, 2022年5月23日アクセス.
∗3 PCPCのアカウントをもっていない場合はCIRをクリックし、表示されたページ中のアルファベットをどれかひとつクリックすれば、あとはアカウントなしでも上記レポートをクリックしてダウンロードが可能になります。