アデノシンリン酸2Naの基本情報・配合目的・安全性

アデノシンリン酸2Na

化粧品表示名 アデノシンリン酸2Na
医薬部外品表示名 アデノシン一リン酸二ナトリウム、アデノシン一リン酸二ナトリウムOT
部外品表示簡略名 アデノシン1リン酸2Na
愛称 エナジーシグナルAMP
INCI名 Disodium Adenosine Phosphate
配合目的 美白 など

医薬部外品表示名「アデノシン一リン酸二ナトリウムOT」は、大塚製薬の申請によって2004年に医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された、一般に「エナジーシグナルAMP」とよばれる成分です。

愛称として用いられる「エナジーシグナルAMP」の「AMP」は化学名である「アデノシン一リン酸(Adenosine monophosphate)」の略称です。

1. 基本情報

1.1. 定義

以下の化学式で表されるアデノシンリン酸の二ナトリウム塩です[1]

アデノシンリン酸2Na

2. 化粧品および医薬部外品としての配合目的

化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)に配合される場合は、

  • 表皮ターンオーバー促進による美白作用
  • 配合目的についての補足

主にこれらの目的で、スキンケア製品に使用されています。

以下は、化粧品および医薬部外品(薬用化粧品)として配合される目的に対する根拠です。

2.1. 表皮ターンオーバー促進による美白作用

表皮ターンオーバー促進による美白作用に関しては、まず前提知識としてメラニン色素合成-排出のメカニズム、ターンオーバーのメカニズムおよび皮膚におけるアデノシン一リン酸(Adenosine monophosphate:AMP)の役割について解説します。

以下のメラニン生合成のメカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思うのですが、

メラニン生合成のメカニズム図

皮膚が紫外線に曝露されると、細胞や組織内では様々な活性酸素が発生するとともに、様々なメラノサイト活性化因子(情報伝達物質)がケラチノサイトから分泌され、これらが直接またはメラノサイト側で発現するメラノサイト活性化因子受容体を介して、メラノサイトの増殖やメラノサイトでのメラニン生合成を促進させることが知られています[2a][3][4a]

また、メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われ、生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに酸化酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます[2b][4b]

ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はチロシナーゼ関連タンパク質2(tyrosinaserelated protein-2:TRP-2)やチロシナーゼ関連タンパク質1(tyrosinaserelated protein-1:TRP-1)の働きかけにより茶褐色-黒色のユウメラニン(eumelanin)へと変換(酸化・重合)されることが明らかにされています[2c][4c]

そして、毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して周辺の表皮細胞に送り込まれ、ターンオーバー(表皮の新陳代謝)とともに皮膚表面に押し上げられた後に、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します[2d]

次に、ターンオーバーについては、以下のターンオーバー仕組み図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

表皮細胞の新陳代謝(ターンオーバー)のメカニズム

ターンオーバーとは、血液やリンパなどから栄養素や調節因子などの制御を受けながら、表皮最下層である基底層で生成された角化細胞(表皮細胞:ケラチノサイト)がその次につくられた、より新しい角化細胞によって皮膚表面に向かって押し上げられるとともに分化していき、最後はケラチンから成る角質細胞となり、角質層にとどまった後に角片として剥がれ落ちる表皮の新陳代謝のことをいい、メラニン色素も表皮細胞に取り込まれて同様の経緯をたどります[5]

ターンオーバーにおいて細胞が正常に分裂・増殖し皮膚の機能性および恒常性を維持するためには、少なくともエネルギー伝達物質であるATP(adenosine tri-phosphate:アデノシン三リン酸)の供給が必要不可欠であることが知られています[6][7]

生体においてATPは、以下の細胞のATP産生メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

細胞のATP産生メカニズム

細胞内に入った単糖の一種であるグルコースが分解され、「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達」とよばれる分解過程でそれぞれ産生されることが知られていますが[8a]、表皮細胞においては主に解糖系によって産生されるATPが供給されると考えられています[9]

表皮細胞に供給されるATPを産生する解糖系のATP産生メカニズムについては、以下の解糖系メカニズム図をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

細胞内でATPを産生する解糖系のメカニズム

細胞内に入ったグルコースは、最初はATP産生準備段階として2分子のATPを消費しながら分解され、その後ATP産生段階として4分子のATPを産生し、最後はピルビン酸としてミトコンドリアのクエン酸回路(TCAサイクル)に進みます[8b][10]

この解糖系はATPの生産量によって全体の反応を促進・抑制する調節機構が備わっており、調節機構においてはとくにホスホフルクトキナーゼとピルビン酸キナーゼが重要な律速酵素と考えられており、ATPの生産量に応じてATPがこれらの酵素の活性低下を、AMP(Adenosine monophosphate:アデノシン一リン酸)がこれらの酵素の活性を上げる役割をそれぞれ担っています[11]

正常な皮膚においてはメラニンの生成量と排泄量のバランスが保持され、皮膚色の変化が生じにくい一方で、加齢にともない基底細胞内のATP量が減少することによりエネルギー代謝量が低下していくと、基底細胞の分裂が低下し[12][13]、その結果として表皮ターンオーバーの遅延が起こり[14]、メラニン色素沈着量にも変化が生じ、メラニンが表皮に局在してくると、いわゆる”しみ”といわれる症状を呈してきます。

このような背景から、表皮細胞内のAMP濃度を上昇させることにより生理的な範囲で細胞のエネルギー代謝を促進させ、その結果として細胞内ATP濃度を上昇させて遅延しているターンオーバーを促進(メラニン色素を排泄)することは、色素沈着の抑制において重要なアプローチのひとつであると考えられています。

2008年に大塚製薬リジュブネイト事業部大津スキンケア研究所によって報告されたアデノシンリン酸2Na(エナジーシグナルAMP)の表皮角化細胞内ATP量、表皮基底細胞のDNA合成への影響検証、ヒト表皮表皮ターンオーバーへの影響検証および紫外線によるヒト皮膚色素沈着に対する有用性検証によると、

– ex vivo:表皮角化細胞内ATP産生作用 –

17-65歳の培養成人女性乳房表皮角化細胞を用いてルシフェラーゼ活性を指標に細胞内ATP量を測定したところ、細胞内ATP量は加齢に伴い減少した。

65歳の細胞にアデノシンリン酸2Naを添加すると、ATP量がアデノシンリン酸2Naを添加しない20歳前後の細胞内ATP量とほぼ同等まで増加したことから、加齢に伴い減少した細胞内ATP量がアデノシンリン酸2Naの添加によって回復したものと考えた。

– in vivo:表皮基底細胞のDNA合成作用 –

ヘアレスラット背部にアデノシンリン酸2Naを4日間塗布した後、BrdUを腹腔内投与し、皮膚組織切片を染色してラベリングインデックス((標識された細胞数/表皮基底細胞数)×100)を算出し、DNA合成量の指標として基剤のみと比較したところ、以下のグラフのように、

ラット表皮基底細胞のDNA合成に対するアデノシンリン酸2Naの影響

アデノシンリン酸2Naは、基剤と比較して有意にDNA合成期細胞数が増加したことから、表皮基底細胞の細胞周期が促進されたことを確認した。

– ヒト使用試験:表皮ターンオーバー促進作用 –

健常な皮膚を有する成人女性15名(40-57歳)の半顔にアデノシンリン酸2Na配合乳液を、残りの半顔にその基剤のみをそれぞれ12週間塗布し、角層ターンオーバー速度と角層細胞面積が相関することから、左右頬部の角層細胞面積を比較したところ、以下のグラフのように、

ヒト角層細胞面積に対するアデノシンリン酸2Naの影響

アデノシンリン酸2Na配合乳液を塗布した皮膚では、角層細胞面積は有意に大きくなり(p<0.01)、アデノシンリン酸2Naは表皮ターンオーバーを促進することを確認した。

– ヒト使用試験:紫外線色素沈着抑制作用 –

健常な皮膚を有する成人男性12名の左右上腕に人工紫外線を隔日で6回照射し、10日間放置して色素沈着が安定した後、3%アデノシンリン酸2Na配合製剤を28日間連用し、7日おきに皮膚明度(L*値)を測定したところ、以下のグラフのように、

ヒト紫外線色素沈着に対するアデノシンリン酸2Naの影響

3%アデノシンリン酸2Na配合製剤の塗布は、28日後において有意に皮膚明度を回復し(p<0.01)、色素沈着の消退を促進した。

このような検証結果が明らかにされており[15a]、アデノシンリン酸2Naに表皮ターンオーバー促進による色素沈着抑制作用が認められています。

2.2. 配合目的についての補足

アデノシンリン酸2Naは、医薬部外品表示名「アデノシン一リン酸二ナトリウムOT(エナジーシグナルAMP)」が”メラニンの蓄積をおさえ、しみ・そばかすを防ぐ”という新規の効能効果を取得して2004年に美白有効成分として承認されたことから、ここでは便宜的に「美白成分」に分類していますが、本質的な効能効果はターンオーバーの促進・改善であるため、「細胞賦活成分」に該当すると考えられます。

3. 安全性評価

アデノシンリン酸2Naの現時点での安全性は、

  • 2004年に医薬部外品有効成分に承認
  • 2005年からの使用実績
  • 皮膚刺激性:ほとんどなし(データなし)
  • 眼刺激性:詳細不明
  • 皮膚感作性(アレルギー性):ほとんどなし(データなし)

このような結果となっており、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。

以下は、この結論にいたった根拠です。

3.1. 皮膚刺激性および皮膚感作性(アレルギー性)

医薬部外品有効成分に承認されており、2005年からの使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がみあたらないため、化粧品および医薬部外品配合量および通常使用下において、一般に皮膚刺激および皮膚感作性(アレルギー性)はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

3.2. 眼刺激性

試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細不明です。

3.3. 安全性についての補足

アデノシンリン酸2Naは表皮ターンオーバー促進作用が認められていますが、この作用は表皮ターンオーバーを必要以上に促進し、表皮細胞の異常な分化や増殖をともなうものではないことが確認されています[15b]

4. 参考文献

  1. 日本化粧品工業連合会(2013)「アデノシンリン酸2Na」日本化粧品成分表示名称事典 第3版,142.
  2. abcd朝田 康夫(2002)「メラニンができるメカニズム」美容皮膚科学事典,170-175.
  3. 日光ケミカルズ株式会社(2016)「美白剤」パーソナルケアハンドブックⅠ,534-550.
  4. abc田中 浩(2019)「美白製品とその作用」日本香粧品学会誌(43)(1),39-43. DOI:10.11469/koshohin.43.39.
  5. 朝田 康夫(2002)「表皮を構成する細胞は」美容皮膚科学事典,18.
  6. M. Kondo, et al(2000)「The Rate of Cell Growth Is Regulated by Purine Biosynthesis via ATP Production and G1 to S Phase Transition」The Journal of Biochemistry(128)(1),57-64. DOI:10.1093/oxfordjournals.jbchem.a022730.
  7. F. Grummt, et al(1977)「Regulation of ATP Pools, rRNA and DNA Synthesis in 3T3 Cells in Response to Serum or Hypoxanthine」European Journal of Biochemistry(76)(1),7-12. DOI:10.1111/j.1432-1033.1977.tb11564.x.
  8. ab二井 將光(2017)「植物から動物へ。糖を変換してATPエネルギー生産」生命を支えるATPエネルギー メカニズムから医療への応用まで,31-68.
  9. 大城戸 宗男(1978)「角化の生物学;脂質の代謝(2)」皮膚科の臨床(20)(4),265-269.
  10. 多賀谷 光男(2013)「解糖とピルビン酸化」イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書29版,194-203.
  11. 戸谷 吉博(2009)「細胞のエネルギー代謝 : 解糖系,クエン酸回路,電子伝達系」化学と教育(57)(9),434-437. DOI:10.20665/kakyoshi.57.9_434.
  12. M. Engelke, et al(1997)「Effects of xerosis and ageing on epidermal proliferation and differentiation」British Journal of Dermatology(137)(2),219-225. DOI:10.1046/j.1365-2133.1997.18091892.x.
  13. S. Shinohara, et al(2004)「Skin-lightening effects based on accelerated epidermal turnover」Abstract book of The 8th China-Japan Joint Meeting of Dermatology,131-132.
  14. G.L. Grove & A.M. Kligman(1983)「Age-associated Changes in Human Epidermal Cell Renewal」Journal of Gerontology(38)(2),137-142. DOI:10.1093/geronj/38.2.137.
  15. ab吉野 昇・五十嵐 幸代(2008)「細胞内ATP濃度調節に着目した新しい美白製品の開発」ファルマシア(44)(5),412-416. DOI:10.14894/faruawpsj.44.5_412.

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