
慣用名 |
アミノ酸 |
配合目的 |
保湿、ヘアコンディショニング、毛髪修復 など |
1. 基本情報
1.1. 定義
アミノ酸(amino acid)とは、以下の化学構造をみてもらうとわかりやすいと思いますが、

アミノ基(-NH2)とカルボキシ基(-COOH)の両方の官能基をもつ有機化合物のことをいいます(∗1)[1]。
∗1 プロリンなど一部のアミノ酸はアミノ基をもたず、代わりにアミノ基に類似したイミノ基をもつイミノ酸ですが、便宜上イミノ酸も含めてアミノ酸と呼ばれています。
分子内に塩基性のアミノ基(-NH2)と酸性のカルボキシ基(-COOH)が存在するため、両性電解質の性質を示すことから、双性イオン化合物(∗2)とも呼ばれます。
∗2 双性イオン化合物とは、両性イオン化合物ともいい、一つの分子内にプラス電荷とマイナス電荷の両方を持ち、全体としては中性イオンを示す化合物を指します。全体として中性イオンを示すとは、酸性溶液中では塩基としての性質を、塩基性溶液中では酸としての性質を示すということです。
1.2. アミノ酸の分類とタンパク質を構成するアミノ酸の種類
アミノ酸は、カルボキシ基に対するアミノ基の相対位置によってα,β,γ,δ-アミノ酸に分類されますが、生体タンパク質を構成するものはα-アミノ酸であり、皮膚、毛髪、爪などの構造を解説する文脈でアミノ酸と記載する場合をはじめ、化粧品成分、栄養剤などの文脈で用いるアミノ酸は一般に立体構造としてはL体のα-アミノ酸を指します(∗3)。
∗3 近年、皮膚に対するD体アミノ酸の効能が研究されてきていますが、一般に「アミノ酸」というとL体を指し、D体を指す場合は「D-アミノ酸」などL体ではなくD体であることが強調されます。
また、アミノ酸は分子中に存在するアミノ基とカルボキシ基の割合によって、以下の表のように、
アミノ酸の分類 |
カルボキシ基数 (-COOH) |
アミノ基数 (-NH2) |
中性アミノ酸 |
1 |
1 |
酸性アミノ酸 |
2 |
1 |
塩基性アミノ酸 |
1 |
2 |
中性、酸性、塩基性を示し[2]、タンパク質を構成するアミノ酸においては、
分類 |
分類 |
アミノ酸名 |
分子量 |
水に対する溶解性 |
中性 アミノ酸 |
脂肪族アミノ酸 |
グリシン |
75.07 |
易溶 |
アラニン |
89.09 |
溶ける |
バリン |
117.15 |
やや易溶 |
ロイシン |
131.18 |
やや難溶 |
イソロイシン |
131.18 |
やや難溶 |
オキシアミノ酸 |
セリン |
105.09 |
易溶 |
トレオニン |
119.12 |
やや易溶 |
含硫アミノ酸 |
システイン |
121.16 |
昜溶 |
シスチン |
240.30 |
微溶 |
メチオニン |
149.21 |
やや難溶 |
芳香族アミノ酸 |
フェニルアラニン |
165.19 |
難溶 |
チロシン |
181.19 |
極めて難溶 |
トリプトファン |
204.23 |
難溶 |
イミノ酸 |
プロリン |
115.13 |
極めて昜溶 |
酢酸アミノ酸アミド |
アスパラギン |
133.10 |
やや難溶 |
グルタミン |
146.15 |
やや易溶 |
酸性アミノ酸 |
アスパラギン酸 |
133.10 |
難溶 |
グルタミン酸 |
147.13 |
難溶 |
塩基性アミノ酸 |
アルギニン |
174.20 |
可溶 |
ヒスチジン |
155.16 |
やや可溶 |
リシン |
146.19 |
可溶 |
このように分類されています[3]。
1.3. [皮膚] アミノ酸の役割とアミノ酸組成
直接外界に接する皮膚最外層である角質層は、以下の図のように、

水分を保持する働きもつ天然保湿因子を含む角質と角質の間を細胞間脂質で満たした、レンガとモルタルの関係と同様の構造になっており、この構造が保持されることによって外界からの物理的あるいは化学的影響から身体を守り、かつ体内の水分が体外へ過剰に蒸散していくのを防ぐとともに一定の水分を保持する役割を担っています[4][5]。
角質層において水分を保持する働きをもつ物質は、天然保湿因子(NMF:natural Moisturizing Factor)とよばれる低分子の水溶性物質であり、天然保湿因子は以下の表のように、
成分 |
含量(%) |
アミノ酸 |
40.0 |
ピロリドンカルボン酸(PCA) |
12.0 |
乳酸 |
12.0 |
尿素 |
7.0 |
アンモニア、尿酸、グルコサミン、クレアチン |
1.5 |
ナトリウム(Na⁺) |
5.0 |
カリウム(K⁺) |
4.0 |
カルシウム(Ca²⁺) |
1.5 |
マグネシウム(Mg²⁺) |
1.5 |
リン酸(PO₄³⁻) |
0.5 |
塩化物(Cl⁻) |
6.0 |
クエン酸、ギ酸 |
0.5 |
糖、有機酸、ペプチド、未確認物質 |
8.5 |
アミノ酸、有機酸、塩などの集合体として存在しています[6]。
この天然保湿因子において約40%を占めるアミノ酸組成は、以下の表のように、
16種類のアミノ酸で構成されており[7]、これらアミノ酸の大部分は、以下の図のように、

表皮顆粒層に存在しているケラトヒアリン(∗4)が角質細胞に変化していく過程でフィラグリンと呼ばれるタンパク質となり、このフィラグリンがブレオマイシン水解酵素(bleomycin hydrorase)によって完全分解されることで産生されることが報告されています[8][9]。
∗4 ケラトヒアリンの主要な構成成分は、分子量300-1,000kDaの巨大な不溶性タンパク質であるプロフィラグリンであり、プロフィラグリンは終末角化の際にフィラグリンに分解されます。
さらに、角質層では以下の表のように、
アミノ酸の一部が代謝され、より保湿性の高い代謝産生物が生成されることが知られています(∗5)[10a][11][12][13][14][15]。
∗5 グルタミンの代謝物であるPCAそのものは保湿性に乏しく、皮膚上ではPCAのナトリウム塩であるPCA-Naとなってはじめて保湿性を発揮することが明らかにされています[10b]。
1.4. [毛髪] アミノ酸の役割とアミノ酸組成
ヒト毛髪は、硫黄(元素記号:S)を含む(∗6)、アミノ酸の結合によってできた繊維状タンパク質である硬ケラチン(ハードケラチン)で構成されており[16]、そのアミノ酸組成(∗7)は以下の表のように、
∗6 硫黄原子は、主にアミノ酸の一種であるシスチン残基中にジスルフィド結合として存在し、タンパク分子間あるいは分子内に架橋を形成しています。
∗7 このアミノ酸組成は硬ケラチン(毛髪)を構成するアミノ酸組成であり、皮膚における天然保湿因子といった遊離アミノ酸とは異なります。
18種類のアミノ酸で構成されています[17]。
毛髪におけるアミノ酸としては、硬ケラチンを構成するアミノ酸だけでなく、親水性物質として遊離アミノ酸の存在も報告されていますが[18]、現時点で遊離アミノ酸の組成に関する情報はみつけられていないため、みつけしだい追補します。
2. 化粧品としての配合目的
化粧品に配合される場合は、
- [皮膚] 水分量増加による保湿作用
- [毛髪] ヘアコンディショニング作用
- [毛髪] 毛髪修復作用
主にこれらの目的で、スキンケア製品、ボディ&ハンドケア製品、シート&マスク製品、ボディソープ製品、クレンジング製品、洗顔料、シャンプー製品、ヘアトリートメント製品、アウトバストリートメント製品、ヘアケア製品など様々な製品に汎用されています。
アミノ酸は創生イオン化合物であり、一般的に電荷を有した物質は角質層の水和(∗8)などが大きな要因となり経皮吸収されにくく[19]、その透過率は電荷を持たない物質と比較して1/1000といわれています[20]。
∗8 水和(hydration)とは、ある化学種へ水分子が付加する現象であり、イオン性化合物や水素結合性化合物が水に溶解し、静電相互作用や水素結合することによって起こります。
ただし、数時間ではほとんど経皮吸収しないものの、8時間以降に経皮吸収量が増大していく試験データがあり[21a]、保湿即効性はほとんどありませんが、保湿持続性は高いと考えられます(∗9)。
∗9 アミノ酸の種類によって経皮吸収挙動が異なるため、詳細は各アミノ酸記事を参考にしてください。
また、このアミノ酸の経皮吸収挙動は、角質層が健常である場合のものであり、皮膚炎などを有している場合やバリア機能が低下している場合はアミノ酸の経皮吸収時間は大幅に短縮されることが明らかになっています[21b]。
ヒト皮膚および毛髪においてアミノ酸は保湿因子の一種であることから、天然保湿因子を模した混合原料が開発されており、一般に天然保湿因子モデルとして複数のアミノ酸が配合された混合原料が用いられています。
毛髪については、アミノ酸の天然保湿因子(NMF)組成を模した混合原料が用いられているほか、ヒスチジンおよびアルギニンに毛髪修復作用が報告されています[22]。
3. 安全性評価
アミノ酸の皮膚刺激性、皮膚感作性(アレルギー性)、眼刺激性などは化粧品配合量および通常使用下において、一般に安全性に問題のない成分であると考えられます。
詳細は各アミノ酸の総合レポートページを参照してください。
4. 参考文献
- ⌃大木 道則, 他(1989)「アミノ酸」化学大辞典,75-76.
- ⌃日光ケミカルズ株式会社(2016)「アミノ酸」パーソナルケアハンドブックⅠ,392-404.
- ⌃大木 道則, 他(1989)化学大辞典.
- ⌃朝田 康夫(2002)「保湿能力と水分喪失の関係は」美容皮膚科学事典,103-104.
- ⌃田村 健夫・廣田 博(2001)「表皮」香粧品科学 理論と実際 第4版,30-33.
- ⌃武村 俊之(1992)「保湿製剤の効用:角層の保湿機構」ファルマシア(28)(1),61-65. DOI:10.14894/faruawpsj.28.1_61.
- ⌃I. Horii, et al(1983)「Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum」Current Problems in Dermatology(11),301-315. DOI:10.1159/000408684.
- ⌃M. Watanabe, et al(1991)「Functional analyses of the superficial stratum corneum in atopic xerosis」Archives of Dermatology(127)(11),1689-1692. DOI:10.1001/archderm.1991.01680100089010.
- ⌃T. Tezuka, et al(1994)「Terminal differentiation of facial epidermis of the aged: immunohistochemical studies」Dermatology(188)(1),21-24. DOI:10.1159/000247079.
- ⌃abK. Laden & R. Spitzer(1967)「Identification of a Natural Moisturizing Agent in Skin」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(18)(6),351-360.
- ⌃J.G. Barrett & I.R. Scott(1983)「Pyrrolidone Carboxylic Acid Synthesis in Guinea Pig Epidermis」Journal of Investigative Dermatology(81)(2),122-124. DOI:10.1111/1523-1747.ep12542975.
- ⌃H.P. Badent & M.A. pathak(1967)「The Metabolism and Function of Urocanic Acid in Skin」Journal of Investigative Dermatology(48)(1),11-17. DOI:10.1038/jid.1967.3.
- ⌃I.R. Scott(1981)「Factors controlling the expressed activity of histidine ammonia-lyase in the epidermis and the resulting accumulation of urocanic acid」Biochemical Journal(194)(3),829-838. DOI:10.1042/bj1940829.
- ⌃A.F. Redmond & S. Rothberg(1978)「Arginase activity and other cellular events associated with epidermal hyperplasia」Journal of Cellular Physiology(94)(1),99-104. DOI:10.1002/jcp.1040940113.
- ⌃J. Koyama, et al(1984)「Free Amino Acids of Stratum Corneum as a Biochemical Marker to Evaluate Dry Skin」Journal of the Society of Cosmetic Chemists(35)(4),183-195.
- ⌃新井 幸三(2003)「羊毛および毛髪ケラチンの構造と物理化学的性質」最新の毛髪科学,59-72.
- ⌃内藤 幸雄・本間 意富(1985)「毛髪の科学」繊維学会誌(41)(4),120-126. DOI:10.2115/fiber.41.4_P120.
- ⌃根本 利之, 他(1976)「毛髪の損傷に関する研究」日本化粧品技術者会会誌(10)(1-2),10-21. DOI:10.5107/sccj1976.10.10.
- ⌃M. Sznitowska, et al(1993)「In vitro permeation of human skin by multipolar ions」International Journal of Pharmaceutics(99)(1),43-49. DOI:10.1016/0378-5173(93)90321-6.
- ⌃J. Swarbrick, et al(1984)「Drug Permeation Through Human Skin Ⅱ: Permeability of Ionizable Compounds」Journal of Pharmaceutical Sciences(73)(10),1352–1355. DOI:10.1002/jps.2600731006.
- ⌃ab川崎 由明, 他(1996)「In vitroによるアミノ酸のヒト皮膚での経皮吸収挙動の解析」日本化粧品技術者会誌(30)(1),55-61. DOI:10.5107/sccj.30.55.
- ⌃森部 利江, 他(2016)「塩基性アミノ酸による毛髪内部補修技術の開発」日本化粧品技術者会誌(50)(2),98-103. DOI:10.5107/sccj.50.98.
5. 化粧品配合アミノ酸一覧
化粧品におけるアミノ酸の中には、安定性および親水性を高める目的でナトリウム塩化(Na化)や塩酸塩化(HCl化)したものが用いられることがありますが、塩化した場合の塗布による効能効果は通常のアミノ酸と同様であると考えられることから、アミノ酸のナトリウム塩および塩酸塩も記載しています。
- 数字 A-Z ア-ンの順番に並べてあります。
- 知りたいアミノ酸がある場合は「目的の行(ア行カ行など)」をクリックすると便利です。
医薬部外品表示名 |
L-アルギニン |
配合目的 |
角層水分量増加による保湿、塩基性によるpH調整、ケン化または中和反応によるセッケン合成、パサつき抑制による毛髪修復 など |
化学式 |
 |
レポート |
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化粧品表示名 |
アルギニン |
配合目的 |
角層水分量増加による保湿、塩基性によるpH調整、ケン化または中和反応によるセッケン合成、パサつき抑制による毛髪修復 など |
化学式 |
 |
レポート |
→ 基本情報・配合目的・安全性ページ |